《11》アカデミックコンソーシアムを通じた横浜市との連携 執筆 太田 塁 横浜市立大学国際商学部教授・グローバル都市協力研究センター長  横浜市立大学(YCU)は、YCUミッション「国際都市横浜と共に歩み、教育・研究・医療分野をリードする役割を果たすことをその使命とし、社会の発展に寄与する市民の誇りとなる大学を目指す」のもと、本学が有する知的資源を、学生・市民・社会に対して積極的に還元して参りました。その中で本稿では、横浜市の国際協力事業との連携に焦点を当て、特に横浜市大が事務局を務めるアカデミックコンソーシアムの活動をご紹介します。 1 アカデミックコンソーシアム(IACSC)について  アカデミックコンソーシアム(IACSC: International Academic Consortium for Sustainable Cities)は、都市問題の解決を学術的な立場からサポートするために、2009年CITYNET(アジア太平洋都市間協力ネットワーク、横浜市は名誉会長)横浜大会への参画を契機に創設されました。主にアジアの都市と都市にある大学、ならびに世界銀行やJICAをはじめとした国際機関等と協働し、都市の抱える課題「環境」「まちづくり」「公衆衛生」などの解決に向け、取り組んでいます。  IACSCでは2010年より毎年、参加大学が持ち回りで総会・国際シンポジウムを開催し、研究者や学生の交流を進めています。IACSCの特徴の一つは、都市の問題を大学だけでなく国際機関や自治体と連携して取り組む点にあります(※1)。特に横浜市は1960年代からの「六大事業」に代表される都市デザインや「公害対策よこはま方式」といわれた公害防止協定の締結等、都市の問題を他に先駆けて取り組んできました。そこで、IACSCにおいても、みなとみらい以降の新しい横浜のまちづくりを含む多くの知見を、市のエキスパートからお話し頂いています(※2)。横浜市がこれまで経験してきた都市開発やまちづくりのノウハウ、都市課題克服の過程は、特に経済成長が著しい東南アジア諸国にとって大変貴重な知見であり、その共有は多大な国際貢献・国際協力と呼べるでしょう。 2 SUDPと次世代教育  IACSCの活動を推進し、大学や都市間連携の強化、国際社会で指導的役割を果たせる「グローバル人材育成」を目的として、横浜市大はグローバル都市協力研究センター(GCI: Global Cooperation Institute for Sustainable Cities)を2011年に設立しました。ここではGCIの活動の一つである、IACSCの「持続可能な都市づくり共通教育プログラム(SUDP:Sustainable Urban Development Program)」をご紹介しましょう。SUDPにおいても、横浜市の取り組みは生きた教材として活用されています。  SUDPの実施は、IACSCと世界銀行との協力協定に基づく取り組みが発端となっています。都市化は、世界のあらゆる地域における経済成長とイノベーションの原動力である一方、気候変動や汚染、過密化、スラムの急拡大等を引き起こすとの認識のもと、世界銀行は環境的(エコロジー)にも経済的(エコノミー)にもより持続可能な都市を計画・開発し、建設・管理する「Eco2 Citiesイニシアティブ」を提唱しました。2010年には「Eco2 Cities第1回国際会議」が横浜市で開催され、IACSCと世界銀行の連携協力に関する協定が取り交わされました。  このEco2 Citiesの概念を軸に、近年のSDGs(持続可能な開発目標:Sustainable Development Goals)に対応した都市計画の在り方や、高齢者社会対応、居住者の高い生活の質の追求という公衆衛生的観点を加え、あるべき未来都市像を学習・研究するプログラムがSUDPです。このプログラムは横浜市大だけでなく、IACSCメンバー大学の学生も参加し、英語で講義や討論が行われます。各国が抱える問題を共に理解し合い、解決策を考えることは、国際社会で指導的役割を果たせるグローバル人材への一歩となるでしょう。 3 JICA「草の根技術協力事業」での連携  IACSCの主テーマである都市問題の解決は、これまで蓄積してきたノウハウの移転という形で現実のものとすることもできます。IACSCの活動を推進する横浜市大のGCIは、横浜市と連携して、JICAの「草の根技術協力事業」に携わってきました。SUDPのような教育を通じた国際協力が長期的視点に立つものならば、ノウハウの移転はより短期的に効果を得られるものと言えるでしょう。  GCIが参画した草の根技術協力事業に「マレーシア・セベランプライ市の歴史・自然を活かしたプロジェクト〜「横浜の都市デザイン」新興国へのノウハウ移転〜」があります。セベランプライ市ブキマタジャン地区旧市街地の都市デザインの策定、および、街並み環境整備に向けた付属設備等の政策支援が主な実施内容で、2015年12月から2018年12月まで行われました。実施主体には、横浜市やGCIだけでなく、IACSC参加大学であるマレーシア科学大学、そして1980年代に横浜市とセベランプライ市と同じペナン州にあるペナン市と行った技術職員交流に参加した現地メンバーから構成される「横浜セベランプライまちづくり友好委員会」が名前を連ねました。多くの困難に直面しながらも、様々な主体と取り組むことで成果を生む、横浜の都市デザイン手法がその効果を発揮しました。詳細は桂氏(都市デザイン室)の記事(参考文献)をご参照ください。  また、別の草の根技術協力事業「フィリピン共和国、イロイロ市コミュニティ防災推進事業フェーズ2」においては、横浜市とCITYNET横浜プロジェクトオフィスと連携し、地域防災・災害公衆衛生・まちづくり・障がい者支援分野における人材育成を行いました。この活動を発端とし、本学医学部看護学科の教員を中心とするGCI公衆衛生ユニットは、IACSC参加大学であるフィリピン大学マニラ校とJSTさくらサイエンスプランを通じて、「高齢化社会と看護」や「日本・フィリピンにおける母子保健と看護の役割」といったテーマのもと、現在でも国際交流活動を行っています。 4 Y-PORT事業とのさらなる連携に向けて  横浜市が廃棄物削減といった都市の課題を解決した手法として、民間セクターと市民社会のステークホルダーを参加させることはすでにご紹介しましたが、この民間セクターとの協働は、「横浜の資源・技術を活用した公民連携による国際技術協力(Y-PORT事業)」として取り組まれています。IACSCの協力機関の一つであるアジア開発銀行(ADB)が2017年に第50回ADB年次総会を横浜で開催した際、横浜市はアジアの都市課題の解決に向けて、市の経験や市内企業の技術力を活用し、更なる連携強化を図ることをADBと確認しておりますが、この年次総会の「次世代育成セミナー:貧困削減とインクルーシブな経済成長に向けて〜横浜の若者による分析と実践的ビジネス教育プログラムの試み〜」に横浜市大が参加したことをきっかけに、Y-PORT事業を通じた連携も深めています。  代表的な連携は、アジア・スマートシティ会議での市大生のフィールドワーク調査報告です。主に経営学を学ぶ学生が、問題を抱えるアジアの都市に赴いて現状を理解し、また、市内企業への聞き取り調査を通じて、都市問題への解決策を提示するものですが、2017年の参加以来、その提案は横浜市の関係者からも大変高い評価をいただいております。IACSCは「環境」「まちづくり」「公衆衛生」の視点から主に活動して参りましたが、新たに「公民連携」の視点を加えることで、これまでと違った解決方法を提示できるのではと期待しています。  都市の課題を解決する方法として、市民社会のステークホルダーを参加させる重要性は横浜市がこれまで経験し、体得した知恵です。それをY-PORT事業で実践するためには、多様な関係者との対話をさらに創出し、情報を収集するハブ機能を強化することが大切でしょう。近年日本にはアジアからの留学生が増え、彼らの日本での就職を促進するため、文部科学省委託事業「ヨコハマ・カナガワ留学生就職促進プログラム」が横浜国立大学と横浜市大を中心に実施されています。日本人の視点だけでなく、留学生の視点を活かすことは、「真の」ステークホルダーの参加に繋がり、都市の問題を解決する新たな国際協力の形を提示すると考えています。 ※1 IACSCの主な参加大学と協力機関 タマサート大学(タイ)、マレーシア科学大学、フィリピン大学、ベトナム国家大学、ハサヌディン大学(インドネシア)、仁川大学校(韓国)、アジア開発銀行、独立行政法人国際協力機構(JICA)、CITYNET、世界銀行、公益財団法人地球環境戦略研究機関(IGES)、横浜市(2020年10月現在) ※2 講演者 2011年・信時正人氏、2012年・近藤隆氏、2013年・橋本徹氏、2015年・関山誠氏、2016年・小菅貴仁氏 参考文献 桂有生(2019):「横浜の都市デザイン・マレーシアへの技術移転の記録」、『調査季報』、Vol.184 安藤保(2002):「横浜市環境保全協定とその考え方」、『紙パ技協誌』、第56巻10号 横浜市(2020):生活環境保全推進ガイドライン シティネット横浜プロジェクトオフィス(2017):フィリピン共和国イロイロ市コミュニティ防災推進事業(フェーズ2)・最終報告書