コラム 北九州市の環境国際協力 中島 龍則 北九州市環境局環境国際戦略課  北九州市は、明治34年の官営八幡製鐵所の操業開始以降、四大工業地帯の一つとして我が国の経済成長に大きく貢献してきました。しかしながらその一方で、昭和30年代半ば以降の急激な経済発展の過程で、大気汚染や水質汚濁などの公害をもたらすことにもなりました。  このような深刻な状況の中、行政において公害防止に関する各種施策を実施するとともに、市民・事業者・行政など関係者が一体となって精力的かつ総合的な取組を進めたことにより、昭和50年代後半には公害が劇的に改善されることになったのです。  昭和60年代からは、産業公害を克服する過程で培われた環境保全技術等を、環境悪化に苦しんでいる開発途上国に役立ててもらおうと、他の自治体に先駆けて、環境国際協力に力を入れてまいりました。 ■大連環境モデル地区整備計画  平成8年には、友好都市である中国・大連市との環境協力において、北九州市はODA(政府開発援助)を活用し環境改善のマスタープランを策定することを提案。これを受けた中国政府は日本政府に対しODAによる開発調査を申請し、採択されました。この開発調査は、自治体レベルの環境協力がODA案件に発展した初めてのケースとして大いに注目されました。  本調査では、環境行政、環境モニタリング、下水処理、工場の低公害型生産技術などの分野において調査が進められました。この調査に派遣された専門家は、平成12年1月までに延べ67名にも上ります。 ■生ごみコンポスト普及事業  平成14年には、インドネシア・スラバヤ市において、国際協力銀行の支援のもと廃棄物に関する調査を実施。廃棄物全体の5割を占める有機ごみにスポットを当て、平成16年から市民参加型の「生ごみのコンポスト化協力事業」に取り組みました。この事業によって、スラバヤ市の廃棄物量が32%削減されるなど、市民の環境意識が大いに向上し、以来、スラバヤ市とは着実に友好関係を構築。平成24年11月には、「環境姉妹都市提携に関する覚書」の締結に至っています。 ■プノンペンの奇跡  平成5年前後、カンボジア・プノンペンは、20年以上に及ぶ内戦により水道をはじめとする都市インフラは荒廃し、水道普及率は25%程度で、水道水の水質も劣悪なものでした。その状況を改善するため、JICAや厚生労働省(当時、厚生省)の推薦を受けて、北九州市は平成11年からカンボジアへ職員を派遣し、水質改善と人材育成に取り組んできました。  内戦終結直後の平成5年には、プノンペンの無収水量率(漏水+盗水)は72%。つまり、浄水場で作った水の約7割が給水の途中で失われていたのです。  当時、多くの市民が水汲み労働を強いられていた状況から、北九州市とプノンペン水道公社は、水質改善よりも水道の普及を優先課題と考え、配水管からの漏水や違法な使用による盗水への対策を行うことになりました。  この対策の中で採用されたのが、北九州市で実績のある「配水ブロックシステム」でした。このシステムにより、配水管網を複数のブロックに分割し、ブロックごとにメータを設置して水圧や流量データを遠隔監視することで、漏水や盗水へ迅速な対応が可能になりました。  この結果、漏水や盗水で消えていた水が市民へ届くようになると、プノンペン水道公社の料金収入が増加、財政状況が改善しました。そこで、次の段階として、水道水の水質改善に向けた技術協力が進められるようになりました。このような技術協力の結果、平成17年5月には水道水の「飲用可能宣言」が出され、かつて70%を超えていた無収水量率は8%と大幅に低下しました。この水環境の劇的な改善は「プノンペンの奇跡」として、世界の水道関係者の間で語り継がれています。 ■環境国際協力の成果と今後  これまで北九州市は多くのアジア諸都市に対して、様々な環境国際協力を行ってきました。  大連市、スラバヤ市、プノンペン市の例は、これまでの取り組みのほんの一部であり、アジア地域を中心とした幅広い活動は、北九州市の国際的な評価の向上、地場企業の環境国際ビジネスの展開などに繋がっています。  今後も、北九州市はアジア地域を中心に環境国際協力を継続し、これまでの成果の更なる横展開を進めることで、各地の環境改善に貢献していきたいと考えています。