《10》座談会/連携企業から見たY-PORT事業 阿部 博 株式会社マクニカスマートインフラ事業推進室主席 小西 武史(オンライン参加) 株式会社グーン専務取締役 高橋 元 JFEエンジニアリング株式会社海外管理部部長拠点開発営業支援グループマネージャー 保延 勇太 一般社団法人YOKOHAMA URBANSOLUTION ALLIANCE事務局長 山口 泰広 カーボンフリーコンサルティング株式会社事業管理本部本部長 米田 善治 株式会社オオスミ海外事業方面統括執行役員 ■Y-PORT事業の立上げと各社の関わり 【保延】本日の進行役を務めさせていただきますYUSAの保延です。  今回の調査季報は2021年の発刊ということなので、Y-PORT事業が2011年にスタートして、ちょうど10年という節目の年の発刊になるそうです。  Y-PORT事業には各社それぞれ関わりがあり、そして、YUSAという組織があって、今後どう臨んでいくかということについてのお考えを、YUSAの会員企業である皆さんに伺っていきたいと思います。まずは、Y-PORT事業のスタートからどのように各社が横浜市と関わってこられたのかお聞きしたいと思います。  最初は、2012年にグーンさんがJICAの案件化調査(※1)に関わられ、そこにコンサルタントとしてカーボンフリーコンサルティング(以下「CFC」)さんも関わっていらっしゃったと思いますが、そのあたりについて、グーンの小西さんとCFCの山口さんに伺いたいと思います。まず、小西さんお願いします。 【小西】グーンの小西です。私が関わりを持ったのは、2012年1月頃、JICAの案件化調査で初めてセブを訪問したのが最初でした。当時、弊社は国際的な調査の経験が全くなかったのですが、持続可能な都市開発に関する覚書で、横浜市が都市開発の課題に対するノウハウをセブに提供していきましょう、ということになったと記憶しています。廃棄物も持続可能な都市開発課題の一つということで、Y-PORT事業でセブに2012年に来させてもらったことが最初の入り口だったと思います。山口さん、補足をお願いします。 【山口】CFCの山口です。今お話のあったセブの案件化調査は、JICAの中小企業の海外展開支援事業の一つのスキームだったのですが、JICAとしても当時開始して間もない第1期に近いような案件だったと思います。CFCとしても初の試みでした。その前まではほぼ国内の事業に徹していて、弊社は環境コンサルティング企業として、環境絡みの事業のお手伝いをさせていただいていましたが、いわゆる開発コンサルティングと呼ばれる業務エリアにおいて、日本企業が途上国への事業進出をするにあたっての様々な支援をするということについては、我々も初の試みだったんですね。  この事業の現地カウンターパートはセブ市だったので、横浜市とセブ市の関係が非常に重要なのですが、両者の関係はY-PORT事業の当初から非常に深いものがあったので、我々としてもグーンとしても初めての中で横浜市にいろいろとサポートしていただいた記憶が鮮明にあります。 【保延】初めての海外の案件で、横浜市とセブ市との関係が非常に力強いサポートになったということですね。  2013年にはオオスミさんがJICAの案件化調査に行かれていますね。 【米田】オオスミの米田です。私どもも案件化調査ということで、2013年、ベトナムのダナン市と横浜市との関係をベースにして案件に応募させていただき採用になりました。横浜市からのアドバイスをベースに、省エネにスポットを当てて進めさせていただきました。  オオスミは、会社の規模も小さく、海外での経験は全くなかったということもあって、横浜市からダナン市の要求を吸い上げていただき、そこで私どもの技術を提供させていただくという形で案件化調査に入りました。 【保延】既に海外での事業をされていたJFEエンジニアリング(以下「JFE」)さんも、横浜市との関係の中でベトナムのハノイで下水処理場の受注をされていますが、どういった経緯だったのでしょうか。 【高橋】JFEの高橋です。2011年に、横浜市と国際技術協力に関する包括連携協定を結びました。JFEは各種インフラの建設を国内外で実施していますが、横浜市と連携協定を結ぶことによって、より複雑化していく海外都市のニーズに対して、横浜市のアイディアと私どもの技術力を組み合わせることで海外事業展開の拡大加速化ができるのではないかという思いがありました。  おかげ様で2018年にハノイ市最大規模のエンサ下水処理場建設工事を受注しました。この案件への取組にあたっては、JFEとして、当社の下水処理に関する様々な技術力や実績は当然PRしましたが、一方ではY-PORTや横浜水ビジネス協議会の参画企業として、横浜市と一緒にJICAの草の根技術協力事業などで知恵を出し合いながらPRをしたことも私どもが受注に至ったベースだったと思います。もちろん、ODA案件なので最後は入札ですが、横浜市と一緒にPRしてきたことは、特にハノイ市役所にとって日本の技術、横浜市の知見などが採用するに値するという理解を得られたのではないかと思っています。 【保延】3社とも、調査だけではなく現地で事業もされていますが、そのきっかけが横浜市との関係にあったというのは、日本国内でもそれほどない事例なのではないかと思います。 ■YUSAの立上げ 【保延】海外での事業が複雑化する中、Y-PORT事業もこの10年で形を変えながら進んでいて、YUSAそのものが、変革するY-PORTの流れに沿って立ち上がりました。今まで皆さんに伺ったお話は、海外の自治体をお客様にした仕事だったと思いますが、今は現地の民間企業が自治体に代わって事業をする事例が増えて、それに向き合うためにYUSAのような組織が立ち上がってきたと私は理解しています。  マクニカさんは、ほかの4社と違って、YUSAの立上げ前後から横浜市、Y-PORTとの関わりが始まったわけですが、ここに対する期待はどういうものだったのでしょうか。 【阿部】マクニカの阿部です。私どもは、インフラとはちょっと離れた、半導体やネットワークなどIT系の商社機能の会社が母体ですので、正直、全く存じ上げませんでした。私どもが新規事業として新しくスマートエネルギーのドメインで事業を立ち上げようと開始したのが2017年からですが、畑が全く違いますので、この案件で機能させるのは難しいところがありました。一方で、事業化を検討する中で、アジアはスマートインフラの投資規模が世界最大で、非常に活性化しているという認識があったものですから、ここにどう絡んでいくかということで、横浜市国際局に相談したところ、YUSAという組織が立ち上がるという話を聞き、参加させていただいたという経緯です。  実際、全く素人だったので、勉強させていただくと同時に、横浜市が都市間連携をしている諸都市と様々な調査事業をする中に参加させていただき、海外インフラ案件を進める手法や、プレイヤーの皆さんと接点を持たせていただきました。  YUSAの役割という意味では、スマートなインフラをどうつくるのかということでは、一緒に勉強させていただくとともに、一緒に仕事させていただく団体として、今後の展開も含めて非常に期待しています。 【保延】YUSAが2017年に立ち上がって今年で4年目になりました。皆さんには立上げに非常に深く関わっていただきましたが、実際どういうことを目指してYUSAを立ち上げたのかお話しいただければと思います。山口さん、いかがでしょうか。 【山口】二つの側面があると思います。一つはやはり横の連携ですね。様々な企業が集まってYUSAという組織として活動していく中で、特に我々の場合コンサルティング会社ですので、弊社自身が海外に進出するというよりは、海外に進出していくお客様をお手伝いすることが商売ですので、いかに多くの会社と関係がつくれるかということが自社的な観点から非常に重要です。横のつながりが強化されて広がっていくことがメリットの一つであると思います。  もう一つの側面は横浜市との関係で、「パッケージソリューションの輸出」ということが当初からY-PORT事業のキーワードだったと思いますが、横浜市と複数の企業との連携によるパッケージ化といった形でコンサルティングの領域の幅を広げる、そういった側面も期待できました。 ■この10年の事業環境の変化 【保延】海外の市場が複雑化してきていて、日本側も体制を変えないといけない。横の連携や、業界を超えたつながり、面的開発などを意識しなければいけないということが皆さんの話の中から見えてきたと思います。皆さんの肌感覚として、この10年どういった変化をお感じでしょうか。小西さん、いかがですか。 【小西】例えば停電したときに非常用の発電機が必要で、手軽に供給できるような仕組みや会社がないかという話や、洪水・台風関係が弱く、いまだに大雨が降るとあちこちが冠水するので、雨水溝だけでもスピード感を持って強靭にしないといけない、そういった技術を持った会社はないかなど、廃棄物の仕事をしながら様々なニーズが出ています。特に廃棄物の場合は、ジェネラルサービスといって、いわゆる道路清掃や街頭のメンテナンスをする部署が担っている場合があるので、その意味では廃棄物だけやっていればよいということではなくなっているというのは確かにあります。横の連携を上手く利用したパッケージでのソリューションの提供が非常に求められていると思います。 【保延】高橋さんはどうですか。 【高橋】少し大きなところから話をさせていただくとすれば、この10年、日本だけではなくグローバルな世界の中で、幾つかキーワードが出てきていると思います。例えばパリ協定から始まる、低炭素・脱炭素へ向けての動き、SDGs、ESG投資(※2)など、日本企業も当然巻き込まれていきますし、各国の企業も意識して動かなければいけないテーマが一気に出てきています。  直近足元では、ポストコロナでどのように動いていくかということがあります。お客様のニーズも多様になっていて、どういったソリューションを求めるかというところも様々なアイディアをお持ちである。そういう中で、YUSAというプラットフォームを使って、JFEだけでは提供できない様々な技術、ソリューションを組み合わせることは非常に有効だと改めて思っています。 【保延】マクニカさんも低炭素や脱炭素の関心が高いと思いますが、最近どうでしょうか。 【阿部】国内外を問わず、大きな変動が起こっていると思います。実際に今Y-PORTで、ダナン市の事業をやらせてもらっていますが、2年ぐらい前に打合せをした際には、炭素うんぬんというお話に関してはあまり積極的ではありませんでした。ただ、今年発表されたベトナム国のスマート化事業、スマート化計画の中で明らかに変更が入っていて、「カーボンを大きく減らします、発電は再エネでやります、石炭火力もやめていきます」ということを明確に謳うようになっています。正に過渡期になっているのかなというところで、エネルギーに関しても、焚き方もつくり方もそうですが、使い方自体も従来の手法とは全く違う。ルールも大きく変わったと思っています。 【保延】米田さんはどうでしょうか。 【米田】その国のニーズは国の事情によって違ってくるとは思いますが、私どもが今進めているベトナムでは、パリ協定以来の脱炭素はもちろんありますし、ベトナムにおける一民間企業を見ますと、人件費の高騰がありますね。また、ベトナムは電力不足なので、行政は民間企業に対して省エネを義務化しており、ベトナムの会社は省エネルギー、再生可能エネルギーの使用は待ったなしの状況になってきています。これは行政からの指導という面と、自社事業の収益アップという面とで、やらざるを得ないような状況になってきたということです。  先ほど横浜市、YUSAのメンバーのパッケージ化というお話がありましたが、メニューは多ければ多いほど良いですから、非常に大きなメリットになるだろうと思います。  ベトナムの企業側から見たら、「良い物だから高い」という時代は過ぎ去って、現地では日本製もあれば台湾製、韓国製、中国製もあるといった競争にさらされています。できれば品質の良い日本製をリーズナブルな価格で入れたいというお客様のニーズはどんどん高まってきています。価格的な面の競争力をこれから付けていかなければいけないので、YUSAのメンバーのパッケージ化は重要ですが、時にはそれ以外の現地で活躍しているメーカーなどの商品も扱っていくことで、お客様にとって適切な最良のシステムを納めていきたいと思っています。 ■公民連携の在り方 【保延】これまで公民で連携してY-PORT事業が進められてきましたが、この先どのような公民連携の形が望ましいか、皆さんにお伺いできればと思います。山口さん、いかがでしょうか。 【山口】この10 年でいろいろと変わってきている中で、変わらないものもあります。  民間のビジネスはどうしてもより短期的な視点で、より利益を求める。資本主義社会で動いている以上、そういったところはなかなか変わらないと思います。それに対して公は、より中長期的にパブリックサービスとしての観点から純粋な利益追及とは異なる視点なので、ここもあまり変わらないと思うんですね。  それぞれ相反する側面を持つのですが、相手側のニーズ、特に途上国側からのニーズが複雑化している中、正にその両方の側面が求められているのではないかと思います。民間のビジネスとしてのスピード感や利益と、中長期で見たときに、ある途上国のある地域にとって50年後を見据えて本当に良いことなのかという両方の側面が。そういった意味で、横浜市と民間セクターとの連携では、それぞれの視点の長所を生かした、それを打ち出したようなパッケージソリューションを連携しながらつくっていけるとよいと思います。特に激化している途上国のマーケットでいうと、「日本のものはクオリティが高い」だけでは、なかなか勝負できない。当然価格の問題もありますが、単体の商品、単体のサービスでは勝負するのが難しいという中で、公民両方の長所を併せ持ったパッケージという観点からソリューションを提供できれば、まだまだ日本は諸外国とも勝負できると思っていますので、引き続きそのような付加価値を生み出せる公民連携の形を模索していけるとよいと思います。 【保延】高橋さんはいかがでしょうか。 【高橋】民間企業なのでまずは収益を上げていくことは当然で、一番の目的であることは事実です。  一方で、JFEが数多く手掛けている、いわゆる社会インフラ、例えば、ごみ処理や上下水処理など公共サービスに直結しているインフラについては、なかなか短期の収益性だけを追求するのがよいかという点は少し議論があるところだと思っています。  例えば日本では、いわゆる静脈系の産業であるごみ処理や環境保全の分野は、横浜市の場合横浜市が公共事業という形で、横浜市民の税金を使って適正処理をしていく。それできれいな横浜市をつくることが基本になっていて、その下で適切な技術を私ども民間企業が提供させていただき、商売をするといったスキームがあるわけですが、そういった考え方が東南アジアをはじめとする諸外国にはまだ受け入れられていないところがあります。  ごみ処理ですと、「ごみをあなたにあげれば、それを使って何でもできるのだから、あなたは儲かるでしょう」ということで、ごみ処理施設ができてしまうケースが非常に多い。ごみ処理は半永続的にやっていかなければいけないですが、例えば10年後20年後も施設が持続可能なのかどうかということは、利益を追求する一民間企業ではなかなか追いかけ切れない場合もあります。そういうことを相手国の自治体等に対して説得力をもってお話ししていく場合、様々なノウハウをお持ちなのは公共側にあると思うので、長期目線、住民目線で適切な公共サービスを整備していくという視点をまずPRしていく。その中で、私どもが民間企業としてソリューションを提供していく。社会が変様していくと、当然相手国のニーズも変わってくると思うので、YUSAやY-PORTで公民が連携しながら知恵を出し合って進めていくことは非常に価値があると思います。 【保延】小西さんは、今現在いらっしゃるセブ市やマンダウエ市とかなり中に入り込んで議論をされていると理解していますが、現地の自治体当局の方に日本のやり方を理解していただく難しさは、どういったところにあるでしょうか。 【小西】高橋さんがおっしゃったことは正にそのとおりで、日々の仕事の中で痛感していることです。マンダウエ市と取引を始めて2年強になりますが、廃棄物処理、リサイクルの分野でいうと、自治体が埋め立てからリサイクルまでやるべき話ですが、それをあえて弊社の場合は民間企業として入り込んでやってみせていくしかない、ということで、民間企業としてリスクを背負ってスタートしました。私どものサービスの提供の仕方を間違えると、民間企業が利益を上げられるのだから、廃棄物処理を委託さえすれば大丈夫、と誤解されてしまう。本当はマンダウエ市自身が施設をつくって、埋め立てからリサイクルまでやらないといけないはずなんですね。  ただ明るい材料としては、新型コロナウイルスで陽性になった方を受け入れる隔離センターという施設があるのですが、そこから出てくるマスクやフェースシールドなどを地域で処理しなければいけないという意識を持っておられるようで、マンダウエ市として滅菌装置の購入のための予算を確保しようと、必要な投資は同市としても行っていく流れが出てきました。  海外で事業を展開しようとする日本企業側も、そういったことを意識して誘導していく必要がありますし、横浜市の役割は、ますますこれから大きくなっていくと思います。 【保延】日本側でうまくいっている行政のシステムや考え方を輸出していくことはすごく重要だと思います。一方でそれをどう相手に伝えるかというところでは、まだまだ足りない部分があるのではないかと感じています。阿部さんはいかがでしょうか。 【阿部】マーケットは今、サーキュラーエコノミー(※3)という流れを取り入れるということが、国内外問わず出てきています。エネルギーで言えば、今までは大きい電力会社が発電をして、それを自分たちの線で送って、一般ユーザーがそれを黙って買うというのが流れでした。ここから、「自分で電気は焚きましょう。自分のドメインの中、エリアの中で焚いて、自分で使いましょう」というようにエネルギーの地産地消のモデル、足りないところは外から再生可能エネルギーを持ってこなければいけない、そういう流れになっていますが、燃料を使わないという、エネルギーの中でいうと大転換が起こっています。要は、必ず循環させる仕掛けをつくっていく流れになると思いますが、こういう大きい流れをつくるときには官が必ず主体的に仕組みづくり、体系づくりをやらないといけない。サーキュラーエコノミーに移行していこうという中では、官がデザインをして実際に動かす仕組みをつくり、それを実現するための技術を我々がビジネスとして提供していくのですが、これが別々の動きだと成立し難いところがあります。  サーキュラーエコノミーの体制をどうするかは国によって違うと思いますが、そのモデリングを共有するのはガバメント同士でないとなかなかできないと思いますので、全体デザインの部分は横浜市につくっていただき、その仕掛けの中に我々がジョイントするスキームをしっかり持って事業化すると、より効果が出てくると考えます。 ■今後のY-PORT事業への期待 【保延】最後に、横浜市やY-PORT事業に対して企業の側からどんなことを求めるか、どんな姿であってほしいかについてお話しいただきたいと思います。米田さん、いかがでしょうか。 【米田】私どもが民間レベルで、現地で省エネ活動を継続させていくという意味で、やはり重要なのは「人」です。日本で成功した良いシステムを海外で受け入れてもらうには、それなりのベースを持ったローカルの人間がいないとなかなか進んでいかないし、続いていかないということがあると思います。ですから、私どもも現地に会社をつくって、ローカルスタッフを育てることを今、最重要事項としてやっています。日本の実績のある良い技術をベトナムのコストで提供する体制をつくれば、現地で普及するし、技術も広まっていくと思います。 ただ、オオスミだけで動いても、なかなか良い人材を見つけることができないので、ある程度の技術力を大学で身に着けて、日本語ができる人が集まる人材バンク的なものがダナン市にあれば有り難いといつも感じています。 【保延】確かに人材は、日本側も考えなければいけない、非常に重要なところです。山口さんはどうですか。 【山口】自分の中でも相反する二つの希望をあえて言ってみようと思います。  横浜市が行う事業や取組の中で、どうしても最終的には、特に民間の我々プライベートセクターとの連携の話でいくと、「市内企業への裨益」が常にキーワードとして出てくると思うんですね。ですので、市内の個々の企業のニーズというもの、本当の意味での市内企業の裨益がどこかにあるかということを引き続きよくヒアリングしていただいて、それに合わせた事業を計画していただく。正に今日、キーワードとして出てきた「複雑化」や、コロナも含めた「時代の移り変わり」がますます激しくなってきて、特に外国のマーケットでは競争が激化してくるので、タイムリーに民間セクター、各民間企業が何を求めているのかをしっかりとヒアリングする中からあるべき姿が見えてくると思います。それを踏まえて、市としてどういった公民連携ができるのかということを引き続き検討して実行していただきたいということが一つ。  二つ目は、それとは相反するかもしれませんが、逆にそこまで市内企業への裨益というものを至上命題にしないで、横浜というブランド、物理的なまちづくりもそうですし、ソフト面でのまちづくりも含めてですが、これ自体を世界に広めていく。まとめて「横浜ブランド」といいますが、この「横浜ブランド」を世界に輸出していく。そのこと自体が横浜市にとって価値があり追及するべきという考えのもとで動いていただくことだと思います。短期的、直接的には市内企業への裨益がなかなか見えなかったとしても、「横浜ブランド」自体が世界に発信されて、魅力的に思われるような事業であれば、それはものすごく価値があるものだとして進めていくということ。  この両方がバランスよく取り組めると、これからの時代に非常に有効なのではないかと思います。 【保延】私も、横浜という街のブランドをどう広めるか、すごく重要なテーマだと感じています。  横浜市は、国も関わる大きなプロジェクトとしてモデルになるようなものをたくさん持っているのに、それを良いモデルとして売り込まないのはもったいないことだなと思いますよね。Y-PORTとして、「ブランディング」というところに力を入れていくことが今の時代に求められるのではないかと感じます。高橋さんはいかがでしょうか。 【高橋】二つあると思っています。  一つは今、「ブランディング」という言葉が出てきたので、その流れで申し上げれば、例えば災害、あるいは新型コロナウイルスで、出張しなくてもオンラインで世界各国の人々とお話ができる、仕事ができる状況が明らかになっています。また、過疎化、少子高齢化で人口が減っていくのは、日本だけでなく、ほかの国でも短期間で起きてくることですが、いかに自分の街に、横浜市に住まわせるか、そしてビジネスを招いていくかという都市間の競争は、今後激しくなってくると思います。こういう時代ですから、どこに住んでも仕事ができる。そうしたら、なるべく災害が少ないところに住みたいとか、いろんな機能やサービスが整っているところに住みたいという思いは強くなってくると思いますが、横浜市がそういった人を、企業を惹き付けるということが必要になってくると思います。横浜市としての魅力がある、あるいは、横浜市で活動している民間企業も非常に魅力がある、更に言うと、市民の人々が非常に魅力ある活動をしているというところに訴えかけていく。「ブランディング」は今後一層、重要なキーワードになってくると思います。  もう一つは、これまで私はG to G(※4)の連携を少し強調してお話ししたと思いますが、民間企業同士の連携が今後ますます重要になってくると思います。例えば、新型コロナウイルスの中で、デジタル系について日本企業は遅れているということが顕在化しました。それを日本の企業自身でキャッチアップしていくのがよいのか、それとも、例えばベトナムやインドネシアなど、既に日本よりも進んでいるデジタル系の企業と協業するのがよいのかを真剣に考えていく必要があると思います。むしろ、後者のほうが話は早いと思うんですね。民間企業同士のコラボレーションは私たちもいろいろな情報を集めていますが、なかなかたどり着きにくいこともあります。そういう状況では、例えば「横浜ブランド」を私どもも使わせていただく。「横浜の企業だから、非常に魅力的なんだよ」というPRもさせていただく。一方、横浜市と相手国の自治体との協議の中で「こういう有力な民間事業があるよ」というものを御紹介いただく。こういったGto Gの動きから、民間から民間へのコラボレーションができる、そういったプラットフォームになっていければよいと思います。 【保延】阿部さんはどうですか。 【阿部】お話が出たとおり、横浜市に若い人、私は海外の人でも同様だと思いますが、やはり住んでもらいたい、住んでもらえる街にしなければいけない、というのが一番大きなテーマだと思うんですね。そのためには新しい「魅力」をつくらないといけない。  今、ゼロカーボン横浜という宣言をされていますが、それをどう具現化するのか、ロードマップ的に見せられるような仕掛けを横浜市としても準備してもらいたいと思います。そういったものをちゃんと発信して、魅力を高めるアクションをしていく必要があると思います。ゼロカーボンに関して言うと、パリ協定で「2050年までにカーボンをゼロにする」という非常に大きなテーマを出してくれたので、それに対して「あと5年、10年の中でこういうことをやります」ということを出すことによって、多くの人に住んでもらう、仕事をしてもらう状況をつくるためのメッセージになると思います。そういうものをブランドとしてつくっていただき、それを我々が海外に持っていって話をするというスキームになると、魅力を伝えられるところがあると思います。分かりやすく言うと「横浜のまねをしてね」と言えるものを我々もつくってお出しすることが望まれると思うので、そのベースになるものを「魅力」という形でつくってもらえるとよいと思います。 【保延】「横浜のよさとは何か」ということを、何となく人が評価してくれるからよしとしていたのを、もう少し積極的に「ここがいい!」とアピールしていかないといけないですよね。見せ方というところも大きいと思います。横浜市は、地の力はあると思うので、その辺りがうまくできると後押しになるのではないかと思います。 【米田】ダナン市と横浜市で都市開発フォーラムを定期的に開催していますが、高橋さんが先ほどおっしゃったように、G to G的な側面があります。横浜市はYUSAのメンバーがいますので、民間企業も参加するのですが、ダナン側は、民間企業が参加するということが少ないと思います。向こうの民間企業がどんどん参加して、我々と直接交流する場を作ることがこれからは大切なのではないかという感じがします。 【保延】小西さんはいかがですか。 【小西】せっかく技術力のある会社が集まっているので、「こういう技術がありますよ」という情報をY-PORTあるいは、YUSAで関わりを持った海外の機関や自治体向けに、ある一定の頻度で送ってみる、それで反応を確かめてみるというのもあるのかなという気がしています。あまり知られていないけれど良い技術がここにあったじゃないかという例が多いような気がしていて、タイムリーな技術をタイムリーに提供できる可能性があると思うので、何らかの形で定期的に具体的な商品やサービスのPRをするのもよいのではないでしょうか。そうすれば営業活動にもなると思います。 【保延】YUSAが立ち上がって丸3年、今4年目ですが、このように皆さんとお話しできるようになったのは、この3年間の成果として非常に大きいと思っています。 一方で、そろそろ次の手を打つ必要があるのではないかとも思います。企業の皆さんにとっても横浜市にとっても、もっと良い形が作れるのではないか。そして、相手国のお客様にあたる方々にも良いものを届けられるのではないかと今日感じたところです。今日は皆さん、本当にありがとうございました。 *座談会は、2020年9月15日に実施しました。 参加団体の概要 潟}クニカ IT技術商社として世界24ヵ国84拠点で活動。半導体商社として半導体提供とネットワーク機器・サービスの提供が現在の主体事業。AI、スマートインフラ、スマートモビリティ、スマートFA等々で事業展開。 潟Oーン 廃木材や廃プラスチックから化石燃料の代替となるチップやフラフ燃料を製造し製紙会社、発電会社等に販売する廃棄物処理リサイクル会社。廃棄物リサイクルのコンサルティングや海外事業、調査も行う。 JFEエンジニアリング梶@日本鋼管鰍ニ川崎製鉄鰍フ経営統合により発足したJFEグループの総合エンジニアリング会社。エネルギー・環境分野や社会インフラ分野などにおいて、人々の生活と産業を支えるエンジニアリング事業を展開。 YUSA(一般社団法人YOKOHAMA URBAN SOLUTION ALLIANCE) 横浜市が打ち出したY-PORTセンターの機能強化の動きに呼応し、海外インフラビジネスの機会の拡大と、新興国の都市課題解決に貢献するため、市内中小企業が中心となって設立。 カーボンフリーコンサルティング梶@環境専門のコンサルティング会社として2007年の誕生以来、横浜市に本社を置き、現在ではカーボンオフセットにおいて国内最大級の実績を持つ。また、中小企業の海外展開支援事業や植林事業も行っている。 潟Iオスミ 横浜市在住の環境に関する計量証明事業者。海外市場ではベトナムダナン市に法人を設立し省エネルギー診断・対策事業を進めている。 ※1 案件化調査 途上国の課題解決に貢献し得る技術・製品・ノウハウ等を活用したビジネスアイデアやODA事業に活用する可能性を検討し、ビジネスモデルの策定を支援するもの ※2 ESG投資 従来の財務情報だけでなく、環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance) 要素も考慮した投資のこと ※3 サーキュラーエコノミー 廃棄されていた製品や原材料などを新たな資源と捉え、廃棄物を出すことなく資源を循環させる経済の仕組みのこと ※4 G to G 「Government to Government」の略。政府間や自治体間で行われるやり取り