《6》座談会/国際協力に携わる職員から見た成果と課題 Aインフラビジネス 中村 恭揚(進行) 国際局国際協力課国際技術協力担当課長 冨岡 典夫 経済局国際ビジネス課長  赤坂 真司 環境創造局下水道事業マネジメント課担当課長  山下 朋美 水道局国際事業課長 神澤 育生 横浜ウォーター株式会社 上下水道部担当部長(水道局担当課長) ■これまでの各局におけるインフラビジネス支援の取組 【中村】今日の座談会では本市のインフラビジネス支援として過去10年間を振り返り、これまでの成果と課題、今後の方向性について伺っていきたいと思います。   2010年に横浜ウォーター梶i※1)が設立されて、2011年にY-PORT事業がスタートしました。そして、横浜水ビジネス協議会が立ち上がり、概ね10年が経過しました。   10年前には、既にアジアを中心に新興国の急激な都市化に伴って様々な環境課題が顕在化しており、上下水や廃棄物など、日本の地方自治体がノウハウを持つ分野に対して、協力要請が高まっていました。同時に、民間企業にとっても海外インフラビジネスという大きな市場への期待がありました。   本市としては、本市の総合力、海外自治体とのネットワークをしっかりと使いながら、また、国とも連携しながらインフラビジネス支援を進めてきた、そんな10年だったように思います。   そこでまずは、各局によるインフラビジネス支援がどのように取り組まれてきたかについて伺いたいと思います。水道局の山下さんからお願いします。 【山下】お話があったように、10年ほど前から、国を挙げて海外に日本の優れたインフラ技術を展開していこうという気運が高まり、中でも水道は世界的に見て高い技術力を有するということで、重点分野の一つになっていると認識しています。   世界の水ビジネス市場が今後100兆円と言われている中で、そこに飛び込んでいこうと勢いよく立ち上がったわけですが、日本全体の実情として、日本企業は未だに苦戦していると感じています。具体的にいうと、上水分野で海外市場規模に占める日本企業の占有率が2018年時点で0.02パーセント、それほど圧倒的に全然足りていない、進出できているとは言い難い状況です。   一方で、日本は今後、人口減少に伴って水需要が減っていくなど、水関連の企業にとって国内市場の見通しは厳しいです。やはり日本企業の海外進出が必要との認識の下、国としても10年の節目を迎え、新たな時代に即した戦略を打ち出すための会議を立ち上げたところです。   水道局は、水ビジネス展開として横浜ウォーターを設立し、さらに環境創造局と連携して横浜水ビジネス協議会を立ち上げました。当初は、私たちの高い技術力と50年近くの国際協力の実績、培ってきた海外事業体とのパイプを生かしてビジネスを展開しようと見込んでいましたが、実際のビジネスにつなげることはなかなか難しいと感じています。   水道の特性としては、単に良いものであれば受け入れられるかというと必ずしもそうではなく、高度な技術が実は相手国の状況に合っていなかったり、そこまで高い水質を求められなかったりします。住民や事業体の経済力に応じて、水道に求めるレベルが違ってくるということも、10年を通して感じています。当初は、高い技術力を中心にPRしていましたが、大事なことは、いかに相手のニーズや状況に応じた提案ができるかというところだと思いますので、ビジネスマッチング機会の提供を工夫して、相手国のニーズをあらかじめ深く聞き取り、どういう提案ができるかを企業と戦略を練って相手国と交渉するといったスタンスに変えてきています。   企業のニーズや状況もこの10年で変化をしてきていると考え、来年水ビジネス協議会が10周年を迎えるにあたって、全会員企業にアンケートを行いました。結果を見ると、今までの支援も非常に有り難い、ということなのですが、自治体ならではの情報に興味を持たれているということを再認識しました。日頃私たちがベトナムなどの海外とどういう対話をしているのかが聞きたいなど、我々が有用だと思っていなかったものに興味を感じてくださっていることが分かりました。今はコロナ禍で、オンラインでの情報共有の機会が増えていますので、我々が内部で持っている情報などを積極的に発信していきたいと考えています。 【中村】企業からすると、行政の中をなかなか見ることができないので、メリットがあるのですね。   続いて、横浜ウォーターの取組について、神澤さんよろしくお願いします。 【神澤】横浜ウォーターは、横浜市が長年培ってきた上下水道に関するノウハウを、国内外の上下水道事業体の支援に活かす目的で2010年に設立されました。当初は、社員が3名という体制だったのですが、国内外の事業を展開していく中で、今はアルバイトを含め100名を超えるまでに大きくなっています。水道局や環境創造局との連携により、ここまでに至っていると考えています。   海外案件も2010年からのフィリピンを最初に、2020年3月時点で、24か国で80のプロジェクトをやらせていただくところまで来ました。中には、横浜水ビジネス協議会と連携したケースもあり、43件の案件で、延べ56社の方々と一緒に仕事をさせていただいています。   パキスタンの案件では、市内の中小企業の建設業者の方々に現場まで来ていただいて、地元の技術者を前に実際の作業をやって見せるというようなこともできました。先方から非常に尊敬されて「神様のようです」と言われたそうです。その方は海外での仕事が初めてだったのですが、「技術」という共通言語でここまで伝わるものかと実感され、非常に感慨深いものになったとおっしゃっていたと聞きました。このように非常に良い形で海外案件に取り組ませていただいています。   最初は横浜市からの職員派遣やOBが中心になって事業をやってきたのですが、長い年月の中で海外で活躍できるプロパー社員も採用していくことにより、社として人材が育つようになってきましたので、形としては整ってきたと感じています。   現状は、新型コロナウイルスで昨年3月頃から全く渡航ができず、今年度に限っては海外の事業の収入が厳しい状態です。これは、今は課題ではあるのですが、ここで得たものは今後、我々にとって良い教訓になっていくと思っています。例えばオンラインでアフリカと研修をするといった事業を今年度はJICA(国際協力機構)と契約して実施することになっていて、新たなやり方が見えてきました。 【中村】横浜ウォーターが強みとしている、事業運営や維持管理もしっかりと見ることができるコンサルティングサービスが海外ニーズにマッチしているということが、社員数の増加から感じられますね。   続いて赤坂さんから環境創造局の下水道分野での取組についてお願いします。 【赤坂】水道局とともに水ビジネス協議会を立ち上げて、令和3年度で10周年になります。水ビジネス協議会の目的は、海外水ビジネス展開に関しての公民連携による上下水道分野の情報の収集や共有、プロモーション活動です。当時は、国のインフラ輸出という気運もあって、水ビジネス協議会を立ち上げましたが、企業が海外に打って出るということに苦戦しているのが現状だろうと思います。   2年ほど前から水道局とともに企業の方々と面談などをする中で、10年近くが経過した今、企業も海外進出に苦戦していることや行政に望む協力なども変化してきていると思いました。水ビジネス協議会会員企業との意思疎通は、ヒアリングやアンケートなどにより設立当初よりは深まっていると感じます。本音の部分を聞きつつ、我々が考えるビジネス展開の方向性などを伝えることができていると思っています。   また、当局は水・環境ソリューションハブといって、北部下水道センター内に国際展開戦略拠点を整備し、海外からの視察・研修を受け入れて、下水道事業の技術や市内企業等の技術紹介、横浜市の下水道の歴史やノウハウなどを発信しています。2016年3月から運用開始していますが、毎年300人を超える海外の方々が訪れ、水ビジネス協議会会員企業の方々にも海外のお客様の視察先として、この施設を活用いただいています。   インフラビジネス支援に関する下水道部署の当初の取組は、JICAが様々な新興国で開催するセミナーに職員を派遣し海外のニーズや現状を調べることだったそうです。その調査から、ベトナムのハノイ市やフィリピンのセブ都市圏では急速な都市化による水環境問題が生じていることに加え、日本の技術を活用したインフラ整備への現地側の期待が高いことが分かり、JICAや国際局等とも連携しながら技術協力へとつなげてきました。現在は、こうした具体の取組を通じてビジネスマッチングの創出やインフラ整備につなげる展開を進めています。 【中村】続いて、国際局のY-PORT事業について紹介したいと思います。Y-PORT事業は現在国際局で進めていますが、当初は共創推進事業本部、そして政策局の共創推進室で、公民連携事業のひとつとして市内企業と国際技術協力ができないか、という目的で始まりました。元々は「企業支援」というよりは「公民連携」ということで始まっており、今でもその心持ちは崩さずに取り組んでいます。   10年が経って、行政が担うべき役割が見えてきました。例えば、Y-PORT事業の当初期は、海外で大きな市場になっているPPP(パブリック・プライベート・パートナーシップ)事業において、下水処理場や廃棄物処理場の運営・維持管理といった横浜市内では主に行政が担っていて企業が持ってないノウハウを庁内の各局から提供するということを考えて取り組んだのですが、なかなかうまくいきませんでした。そこで、海外都市やJICAとの協議を重ね、長期計画に沿ってしっかりと調和したまちづくりをしてきたという横浜のよさを強みとして海外に打って出る、そのうえで企業の技術を組み合わせることでインフラビジネスにつなげていく、そのような事業の方向性を打ち立てて本格的に動き始めました。Y-PORT事業は、このような進め方に賛同してくれたフィリピンのセブや、ベトナムのダナンなど4都市と都市づくりに関する技術協力の覚書を交わし、JICAにも支援をいただきながら、現地の長期開発マスタープランなどの策定段階から市内企業にも参加機会を提供して進めてきました。   横浜市の予算だけで海外事業を進めていくことは難しいので、JICAやJBIC(国際協力銀行)、アジア開発銀行など、国や国際機関などともしっかり連携して取り組んでいます。  JICAとの包括連携協定の効果は非常に大きく、セブでのマスタープランづくりを支援いただいて、大きなはずみをもらえました。また、JICAは2012年に中小企業の海外展開を支援する事業を始めたのですが、本市はセブやダナンなどの都市課題をいち早く市内企業にお伝えして、企業の方々と一緒に良質な事業提案を創り上げることができたのはとてもタイミングが良かった。2012年からFS調査(※2)に着手した企業は、今では海外事務所を開設したり、廃棄物のリサイクルプラントを運営したりしていて、現地でインフラ事業を具現化しています。   水道局、環境創造局などは、Y-PORT事業が始まる前から、国際協力の実績があり、それは本市の貴重な資源です。Y-PORT事業では、本市の総合力を発揮するために各局の取組を束ねて進める仕組みが必要だという課題認識があったので、今では9局1事業本部の企画部長等に国際協力部担当部長を兼務いただいています。事業当初から全庁的に一緒に動く体制をつくったことも大きな推進力になりました。 ■インフラビジネス支援の成果と課題 【中村】続いて、インフラビジネス支援の具体的な成果、あるいは課題について伺っていきたいと思います。水道局の山下さんからお願いします。 【山下】我々の企業支援の軸である水ビジネス協議会についてですが、10年の節目を迎えて企業を取り巻く状況などに変化があるだろうと考え、175社にアンケートを取り、改めて会員企業としての継続希望を伺いました。結果、8割の方が「継続」という回答をしてくださったので、何かしら期待するものに応えられているのかなということを実感した、それを一つ成果として感じています。   企業活動は複合的なので我々の支援だけでビジネスにつながったかどうかを判断するのは難しいですが、少なくともベトナムで我々がビジネスマッチングの機会を提供しビジネスとして成立した案件が3件ありますし、メーターの会社ですが、ベトナムでの販路が拡大できたということで、昨年現地に駐在員事務所を設立したと報告をいただきました。   また、先ほどのパキスタンの案件については、水道局からも人材を数名出して活動したのですが、先方から高く評価され、プロジェクトは終わるが横浜市との関係は続けたいということで、覚書を結ぶに至りました。覚書は技術交流と同時に、技術を検討する際には横浜水ビジネス協議会の技術を積極的に取り入れる、というものになっています。元々パキスタンのメーターは、仕様が州で決まっていて、日本企業の製品とは合わないものでした。パキスタンのメーターは日本より精度が高い基準になっているのですが、我々から、精度だけに着目せず現地の状況に応じたメーターを検討すべきだと提案した結果、仕様を変えることになりました。これによって、日本企業が参入できる仕様になっています。まだビジネスの成立というところまでには結び付いていませんが、信頼関係を構築して成果を出すことで一歩一歩進んでいくものだと思っています。   少し観点が違いますが、我々の人材が育っているということも感じるところです。特に我々は横浜ウォーターに退職派遣で人を送ったり、連携したビジネス展開をしたりすることで、企業性、経済性などに直に触れることができます。経済産業省やJICAとの人事交流が進んで、そこでも貴重な経験をさせていただいているので、ひいては水道局の組織基盤強化につながっていくと思います。   一方、課題は、海外とG toG(※3)の関係だけで、企業の製品を単品で、製品ベースで売り込むことは、価格競争のみになり非常に厳しいということです。そういう意味で、単に製品を売るのではなくて、プロジェクトとの連携、企業同士の連携などパッケージ化していくことが必要だと思います。企業側から、企業同士の連携がしたいというお声はいただくのですが、案件がない中で、単純に「あなたとあなたが組んでください」ということは実際にはすごく難しく、マッチングを進めるのにも工夫がいると考えています。   あとは、先方の意識改革ですよね。LCC(ライフサイクルコスト)や長期的な経営の視点、本当に何が最適かを見極める意識が先方にないと感じることが多々あるので、その意識改革が大事だと思います。そのために我々が行っている研修員の受入事業やJICAのプロジェクトも、技術支援だけではなくて、キャパシティ・ディベロップメント、人材をしっかりと育てていくことが重要だと思っています。 【中村】企業活動ですと現地との交流はその契約に基づいた期間だけになる場合が多いのではないでしょうか。一方で水道局がパキスタンの水道公社と覚書を締結することで現地との信頼関係を継続できる、そういったことを企業の皆様は期待されている。   横浜ウォーターは、株式会社としてビジネスを進めていますが、これまでの成果をどのようにとらえていますか。 【神澤】これまで数多くの案件に取り組んできましたが、その取組を通じて多くの国内の企業と信頼関係ができたことがまず一つ大きな成果だと思います。弊社はそれほど規模の大きな会社ではないので、なかなか単独でこなし切れないため、委託という形で横浜市職員とも連携していますが、ほかにもJV(共同企業体)を組んで行う事業が多くあります。そういったときは、こちらからお声がけする場合もありますし、逆にお声がけをしていただけることも非常に多くあります。   また、やはり大きいのは、横浜市と連携していることで、例えば協定に基づき横浜市の施設を活用できることは弊社の強みです。海外の案件でプロポーザルを出すときでも、研修施設があることや、施設見学の中で水道局や環境創造局の実務を見ることができることは、成果を重ねていく上での大きなバックボーンになっています。もちろん、人の問題もそうです。派遣された方は戦力になりますし、局へ戻ってからも活躍しています。  最近では直接、海外の事業体の方からお声がけをいただくことがあり、横浜ウォーターというブランドが確立したということも大きいと思います。   当然、課題もありまして、競争が激しい中で人材をどう確保して育てていくかについては継続して取り組まなければいけないですし、新型コロナウイルスのように突然起こる事態にどう対処していくか、どういう体制を組むかということも、今回検討し直す一つのきっかけになりました。 【中村】横浜市の人材や施設を活用しながら海外事業を展開していく、その仕組みの構築自体が画期的で成果だと強く思いました。環境創造局はいかがでしょうか。 【赤坂】水ビジネス協議会会員企業の海外進出や下水道整備につながる案件の形成のためには、新興国への技術協力を積極的に進めていく必要があると思います。その際、相手国のニーズに適した技術はどのレベルなのかなど、我々がしっかり把握したうえで会員企業等の優れた技術を紹介していくことが大事だと思っています。   環境改善のためのハード整備の実現に向けて、上流側の計画策定の段階から関与していくことの必要性は、ハノイ市との草の根技術協力事業を通じて強く感じています。その技術協力でハノイ市の下水道事業運営の能力向上のために、浸水対策や汚泥処理に関するプロジェクトを実施しています。   横浜市では下水汚泥を炭化燃料としての再生や焼却した灰を建設資材として再利用していますが、ハノイ市では脱水して埋め立て処分しているため、環境面を配慮した焼却による処理方法をハノイ市側は強く望んでいました。しかし、現地調査を重ねると、多くの都市ごみが郊外部の土地に大規模に山積みされ埋め立て処分されている状況を目の当たりにしました。ハノイ市は都市部の人口増加などにより、下水汚泥よりも都市ごみの処理がはるかに大きな都市課題であることが分かり、下水汚泥の焼却炉整備よりも都市ごみ焼却炉の整備が急務で都市課題としても優先度が高い状況が分かってきました。   このため、下水汚泥単独の焼却炉の整備ではなく、都市ごみと一緒に下水汚泥を焼却する混合焼却方式の焼却炉整備を進め、下水道が普及し下水汚泥量が大幅に増加する時期をとらえて、段階的に下水汚泥専用の焼却炉を整備する計画とすべきとハノイ市に助言しています。   ハノイ市の実務者を横浜に招へいし研修を行った際は、熱海市にある一般廃棄物と下水汚泥を混合焼却している施設を見学してもらい、混合焼却施設の整備は、現在のハノイ市の都市ごみと下水汚泥の問題を同時に解決できる方法であることや、急務で重要であることを説明し理解を得ました。また、実行性のある計画にするためにハノイ市のまちづくり関連局への照会や意思決定機関である人民委員会の承認が得られるよう調整しているところです。技術協力を行う際は、下水道などの専門分野の視点だけでなく、広い視野により都市問題を吸い上げることも大切だと勉強になった事案でした。   行政の立場として計画づくりから携わることで、これまで新興国で先送りされがちだった環境インフラの整備に、しっかりとつなげていく意識を持って技術協力に取り組んでいます。それがすなわちビジネスの機会創出にもつながるため、我々に求められる大きな役割の一つであると認識しています。   また、水ビジネスにつなげる取組は長い期間が必要です。2011年から水ビジネス協議会の運営を含めて活動していますが、その当時に撒いた種の芽がようやく出始めて成長し、今ちょうどその芽の摘み取りを行いながら、5年間くらいを見据えた種撒きをしているといった感じです。特にフィリピンのセブ都市圏での取組は、10年前に撒いた種が汚泥処理施設の建設に結び付いてきています。また将来の下水道整備に向けて、マスタープラン策定が急務であることをJICAや相手国自治体に数年前から働きかけ、今年、その準備調査が実施されており、来年頃には下水道整備のマスタープラン策定業務がJICAから発注されると思われ、一連の業務の市内企業受注も期待しているところです。この計画が基になり下水道管や処理場施設の整備が発注され、市内企業の受注にまで結びついたら最高です。 【中村】横浜市のインフラ整備の歴史や経緯も振り返ると、今の横浜がパッとできたわけではなく段階的に整備してきた、そういう歴史だったと思います。 【赤坂】横浜市もかつては混合焼却していた時代もあったようで、やはりそういう経過を踏んで都市課題を解決しながら、現在の下水汚泥単独の焼却炉の整備に至っているということをしっかりと彼らに伝えていくことが重要だと思います。 【中村】そういう歴史も含めてお伝えできるのが我々の強みですね。環境創造局と一緒にやっているフィリピンのセブの事業はY-PORT事業で力を入れてきた事業ですが、セブでは下水道管の普及率が0%なので、いきなり下水道管を整備するということではなくて、短中期的には汚泥をバキュームカーで集めて適正に処理するといった段階的な取組を提案しました。将来的にはもちろん下水道の整備を見据えてということですが、現地側でもそれが実現可能なアイディアだということで、JICAからも評価していただいて、現在は汚泥処理施設の建設の準備が進んでいます。このようにJICAと一緒に取り組んでいる技術協力では、計画策定の段階から徐々に企業のインフラビジネスにつなげていく一つのモデルを横浜市としてつくることができたことが成果として挙げられると思います。その他の例としては、タイのバンコクでは気候変動対策が現地の大きなニーズなので、交通やエネルギーなどの複数の分野で気候変動という切り口から技術協力をしながら、そこで現地のニーズをとらえて企業と一緒に何ができるかを考えています。単一セクターに留まらずに横浜の総合力という強みを生かした展開ができる体制になったこともY-PORT事業の成果です。   課題としては、セクター横断になると、特に中小企業は単独ではなかなかニーズに応じ切れない場合も出てきているので、どのように中小企業のビジネスにしていくかということです。   それから、海外、特にASEANでは、現地の民間の財閥など、民間資本が大きな都市開発をして、まちづくりを進めています。行政ノウハウを持ってない開発主体がまちづくりを進めていくといった状況があるということです。このような状況は、無秩序な乱開発が起きる懸念があります。これまでY-PORT事業では既成市街地を対象に課題解決支援を進めてきましたが、一方で課題が発生する前に予防する、これから街をつくっていく段階での本市のまちづくりのノウハウを活かす支援が求められています。その先に市内企業が出ていくチャンスがあるのですが、どのようにビジネスにつなげていくか、今後考えていかなければいけない課題の一つです。 ■今後に向けた取組 【中村】最後のテーマになりますが、10年前との環境の変化も踏まえて今後に向けたお考えを伺いたいと思います。では、山下さんからお願いします。 【山下】いろいろと状況が変化することは、この間もそうですし、今後もあると思いますので、水ビジネス協議会の会員企業のニーズをこまめに把握して、それにお応えできるような施策を考えていくという姿勢を持ち続けるのが重要と考えています。   企業が注力したい国についてもアンケートを取ったのですが、トップ3は我々がプロジェクトを通じて強みを持つベトナム、インドネシア、フィリピンでした。   一番ニーズの高いベトナムについては、引き続き先方とのマッチングを充実させていきたいと思っています。また、各企業からは、事業体だけではなく、現地の企業とつながりたいというお声がありますので、今後は現地の企業との協業も考えていきたいと思っています。  インドネシアについては、草の根技術協力事業をスタートさせますので、その中で企業の技術を紹介していくことに力を入れていきますし、ニーズはそれほど高くなかったのですが、マラウイでのプロジェクトで先方とすごく良い信頼関係ができていますので、そこでのビジネスマッチングも行っていきたいと思います。   新型コロナウイルスで渡航が難しくなっていますが、きれいな水や手洗いの重要性は高まっていて、JICAも力を入れていくという方針を出しています。ニーズにどう変化が出てきているのか、今後しっかりと注視して対応していくことが必要だと思います。   繰り返しになりますが、ニーズに細やかに応えていく中では、やはり一律の支援だけでは駄目で、その企業の強みや活動地域、ビジネスの進捗度合や在り方が様々ですので、個別の支援についても充実していきたいと考えています。 【赤坂】今後も引き続き、公共事業による環境インフラ整備の促進に向けた技術協力にしっかりと取り組んでいく必要があると考えています。それに加えて、今後の展開としては、都市化が急激に進行している都市や地域の中でも、水質の悪化が課題となり排水規制の強化の動きがあるところや、そうした動きの見込まれるところに注力していく必要がある点を挙げたいと思います。国際局や我々との関係が深いフィリピンでは、排水規制の強化に伴い、リゾート地などのホテルや商業施設等で排水処理施設の導入や改善のニーズが高まっており、これからはこうした民需の取り込みも視野に入れていく必要があると思っています。このため、こうしたB to B(企業間取引)のビジネスに関心のある会員企業同士が協業することで、新興国側関係者に訴求力のあるパッケージ型のソリューションを提供することを目指して、会員間の連携強化を図る取組もはじめたところです。   また、SDGsの取組の推進や昨今の新型コロナウイルス対策としても、衛生環境の充実を図ることの重要性が世界でも再認識され、上下水道の整備などのニーズも更に高まるのではと思っています。世界の動向を注視しながら、横浜ウォーターや水ビジネス協議会と連携して世界の水環境改善に貢献していきたいと考えています。 【神澤】これからも水道局と環境創造局と連携して事業を展開することが、まず私たちにとって非常に重要なことだと認識しています。   上下水道は、これから都市をどうしていくかという中の様々な要素の一部を担っているに過ぎないですが、そこでベストを尽くしていくということになると思います。事例を挙げると、私は以前、金沢区の埋立地にある工場排水処理施設を担当していたことがあるのですが、横浜市内に工場が点在している中で、悪臭や騒音、水質の汚濁の問題が増えていたため、住環境を改善するという全体的な経済政策の中で、工場排水処理施設をつくるということが都市計画の一部として入っていました。施設をつくるために、国にお願いして下水道法を改正してもらうという、法整備まで絡んで整備しました。たったそれだけの施設であっても、都市の計画であったり、法律の整備であったりということになれば、それは私たち単独ではなく、行政全体の中で、どういうまちづくりをしていくかという中で一翼を担っていくことになります。そういう意味で水道局、環境創造局との連携をこれからも強固にしていきながらやっていくことが今後非常に重要だと思います。 【中村】当時の先輩職員の熱い思いで、まちづくりを単一セクターの視点に留まらずに都市レベルで俯瞰して進めてきた事例が、横浜市には多くの文献として残っています。過去の調査季報を読み返してみると本当に刺激を受けます。今回の我々の調査季報も10年後に読んでもらったときに同じことを感じてもらえるとよいと思うのですが。 【一同】笑 【中村】Y-PORT事業についても、引き続き局横断的に庁内一丸となって取り組んでいきたいと思っています。その上で三点ほど今後注力していきたいことを挙げたいと思います。 一つ目として、水ビジネス協議会では企業と企業の組み合わせ、といった話がありましたが、まさにそこに力を入れていきたいと思っています。規模の大きな事業も来ている中、単独で企業が出ていくのは難しい場面が多く見受けられるので、複数の企業が技術を持ち合わせて進めていくような取組、企業間の連携を進めていきたいと思います。そこで重要なパートナーとしては、横浜水ビジネス協議会、それから、YUSAが2017年に立ち上がって現在30を超える企業が加入しているのですが、事業分野が廃棄物、エネルギー、ICTなど幅が広い。そこで、企業間の連携によって今海外で求められている、いわゆるスマートシティ化のための事業も生み出していけるのではないかと思っています。   二つ目は、海外では大規模開発が現地の民間資本によって進められているので、これまでと同様に海外都市とのネットワークは大事にしながら、これに加えて海外の開発事業者ともパートナーシップをつくって、市内企業のビジネスチャンスを生み出していくということです。協力対象が民間企業のみに見えるかもしれませんが、最終的に目指すところは現地住民の生活の質や環境を向上する、または、確保することです。   三つ目ですが、SDGsの達成や、温室効果ガスの排出の削減は地球規模の課題であり、地方自治体や民間企業が果たす役割は大きくなっています。これらの実現に向けたビジネス機会や資金をしっかりと市内企業につなげていくことも横浜市ができる取組だと思っています。  最後に、経済局の視点からこれからの企業支援についてご意見をいただきたいと思います。冨岡さん、お願いします。 【冨岡】経済局は、海外事務所やIDEC横浜(横浜企業経営支援財団)、ジェトロ(日本貿易振興機構)などとも連携し、インフラ分野に限らず、広い意味で市内企業のビジネスを支援しているセクションですが、市内企業の海外展開の裾野を広げていくという観点で、三点考えていることを申し上げたいと思います。   一点目ですが、ニーズや環境の変化に応じて、市内企業を後押ししていくことが大切だと思います。海外展開といっても、現地にオフィスを開設してビジネスを行うだけではなく、手法が特に近年すごく多様化していて、日本にいながらも海外展開につなげている事例があります。   例えば、外国人材の採用です。IDEC横浜は2005年頃から、台湾の関係機関と連携して、横浜の企業を対象に、台湾の方のインターンの受入事業を行い、これまで300人ほど受け入れています。インターンの受入れ後に正式な社員として7社が12名を採用していますが、インターン受入れを慈善的にやったということではなく、戦略的に、海外ビジネスにつなげていく狙いがあったと思います。   もう一つ例を申し上げると、オンラインです。コロナ禍で海外ビジネスが全く止まっているかというと必ずしもそんなことはなく、国際的な展示商談会もオンライン化されて数多く開かれていて、市内の中小企業が積極的に参加しています。経済局も新たにそういった経費の助成をし、サポートしています。ほかにもEコマース、電子商取引ですね。今までは、消費者が企業から買うB to Cが多かったと思いますが、B to B、企業が企業に売るというところもオンライン化が進んでいます。ここも力を入れているところで、ジェトロと連携して越境ECへの参加を後押ししており、様々な企業が活用しています。このように、ニーズや環境の変化に応じて取組を変えていくことが必要だと実感しているところです。   二点目は、企業の組合せ、マッチング・パートナリングです。必ずしも同業種である必要はなく、むしろこちらが予想しないような組合せによって、新しいビジネスやイノベーションが生まれることもあります。こうした出会いをお手伝いすることも、行政の立場としては大事だと思っています。   例えば、市内に200社以上の外資系企業が進出しているのですが、市内の中小企業の中には、こうした外資系企業と連携することで自らの技術を生かしながら新しいビジネス展開や、グローバルマーケットを意識したビジネス展開をやっている、そういった協業事例も生まれています。わざわざ海外に行かなくても身近なパートナーとイノベーションを生み出しているのは面白いと思います。   三点目ですが、市内企業の裾野を広げていく上では、既に海外展開をしている企業以外の企業にどのようにチャンスをつかんでもらうかという視点が大事で、そのためには具体的な事例を紹介していくことが必要だと思っています。新しく海外ビジネスに取り組もうとしている企業にとっては、ほかの企業の生の声が非常に参考になる。我々がビジネスセミナーを開いても、参加者から「実際に経験した企業さんの声が参考になった」とよく聞くんですね。私たちは、IDEC横浜やジェトロと連携して、市内企業の成功事例集のようなものを作ってアピールしたり、海外の展示会に参加した企業の報告会を開いたりしています。次に続く企業を後押しする、そういう取組を通じて、市内企業の裾野を広げていくことができればと感じています。 【中村】大変参考になりました。本市のインフラビジネス支援の実績が積み重なってきている今こそ、改めて経済局の企業支援ノウハウを取り入れる、連携を進めることが重要です。10年前は海外へのインフラビジネス支援がこれだけ進むとは予想していませんでしたが、本日の座談会でこれだけの成果と課題が確認できました。10年間は大きな変化をもたらすことができる期間だと思います。これからの10年も、今は難しいかなと思っていることも、しっかりとしたビジョンを立てて進めていけばできるのではないか、そんなことを強く感じた座談会でした。皆様、ありがとうございました。 *座談会は、2020年10月30日に実施しました。 ※1 横浜ウォーター株式会社 水道局が長い歴史の中で培ってきた技術やノウハウを生かして、ビジネス展開を図るため、2010年7月に水道局100%出資で設立。水道局・環境創造局と基本協定を締結し、連携して国内外の上下水道事業における課題解決に貢献している。 ※2 FS調査 フィジビリティ・スタディ(feasibility study)のことで、新規事業などのプロジェクトの事業化の可能性を調査すること ※3 G to G 「Government to Government」の略で政府間や自治体間で行われるやり取り