《6》座談会/国際協力に携わる職員から見た成果と課題 @都市インフラ 窪田 明仁(進行) 国際局国際協力課国際技術協力担当係長 辻 笑子 環境創造局下水道事業マネジメント課  牛田 皓介 道路局企画課  正岡 千尋 港湾局政策調整課 高木 佑介 水道局国際事業課  杉山 伸康 交通局課長補佐(プロジェクト推進課担当係長)  ■海外に派遣されて感じたこと 【窪田】本日の座談会では、それぞれの局で国際協力に携わっている皆さんから見た成果と課題についてお話を伺っていきます。まずは、海外に派遣されて感じたことについてお聞きしたいと思います。  私からお話しさせていただきますが、国際局という立場で海外に行くと、「この人は何でもできる」と見られてしまうということです。私は土木職なのですが、行政の中での業務経験の幅が狭く、例えば治水の話をされても、よく分からないんです。 先日、水道局のY-TAP(※1)に参加させてもらったときに面白いなと思ったのですが、水道局はバックアップとしてサポートチームがいて、何かあったら助けてくれる仕組みがあるんです。国際局の場合は、メールで相談すれば所管課に照会してくれるのですが、きちっとしたバックアップがないので、出張に行く前にその国のニーズやホットイシューは何かを調べています。何となくでも分かっていないと、「何しに来たの」と言われてしまうので…。オールマイティに知識を持っているわけではないので、いきなりそういうところに放り込まれて驚きました。 【一同】笑 【高木】今の話は共感する部分が多いです。現場では幅広い知識が求められると感じています。私は事務職ですが、局の研究発表に参加するなどして、できるだけ多くの技術的な知識を身に付けるようにしています。加えて、現場で感じたのは、適切な質問をすることの大切さです。   例えば水だと、「無収水(収入にならない水)」という問題を抱えていることがあって、その理由は漏水や、料金徴収ができないなどがあるのですが、適切な質問をしていくことで問題がどこにあるのかが分かります。そうすると、この部署のこの人に聞こうということが分かるので、幅広い知識を持つことと適切な質問をすることは大事だと思っています。また、相手方の考える課題と、こちらが考える課題が乖離していることがあるので、質問をすることで本当の課題を見つけていくことが大事だと感じています。 【杉山】私も同じ悩みを持っています。私の専門は鉄道土木なので、「鉄道」という幅広い中の特定の分野しか分からないのですが、JICAに出向していたとき、JICAの専門家として現地に行くと、相手方は交通の専門家だと思って様々な質問をされます。そういうときは、「僕はこの専門家なので、ここについては答えますが、範囲外については持ち帰らせてください」と言うようにしています。それを言うと、相手方も事務だけでなく技術の専門家が入っているので分かってくれるんですよね。   局内の誰に聞けばよいかは分かっているので、急ぎであれば夜のうちに連絡を取ります。公式なバックアップチームはありませんが、個人的にバックアップチームをつくって対応しています。 【窪田】辻さんはどうでしょうか。 【辻】JICAの草の根技術協力事業で、事務局の立場としてハノイ(ベトナム)にプロジェクトメンバーと行くことがありますが、テーマを絞っているので、専門外で困るということはありません。事務局として、メンバーの人たちが専門分野に集中できるように調整をするのですが、現地派遣で難しいと思ったのは、予定通りにいかないということですね。かなり前から連絡を取って、やっておいて欲しいことなどを伝えているはずなのに、実際に現地に行くとできていないことがあって、国内での調整は何だったのかと思うのですが、そんなときにその場での臨機応変な交渉力、対応力が求められると思いました。 【正岡】私も事務職ですが、港湾のことが分からないまま港湾局に入ったので、国際交流をやっていると何でも知っていなければいけないという苦労がありました。   港湾分野はインフラ整備が占める割合が大きく、事務職がコーディネートして、技術職に入ってもらうことに一番苦労しています。国際的な仕事は多いですが、国際協力プロジェクト業務で、技術職も含めてチームにすることがすごく大変です。また、スケジュールや人材育成の観点から、同じ職員が出張に行けないことも悩みです。出張する職員が毎回変わるとなかなか関係性が築けないと思うので、国際チームをつくることをいつも目指しています。 ■視察受入れや派遣を通じて感じる海外都市のニーズ 【窪田】視察の受入れ時に海外との施策の違いを感じたことはありますか。 【牛田】視察受入れでは、「きれいですね」と言われることが多いです。みなとみらい周辺を歩いたあとで来ているからだと思うのですが。   例えば韓国だと、放置自転車が後を絶たないという話を聞きます。自転車の利用率が日本より少ないにも関わらず、放置自転車の台数は日本よりも多く、いたるところに放置自転車があるそうです。横浜市では駐輪施策を進めているので、道に自転車がなくてきれいだねという話がありました。また、馬車道の地下駐車場を案内した際には、空気環境の良さや使っている方のマナーの良さをお褒めいただいたという話を聞きましたね。私が日本大通りを施策として紹介した際には、日本大通りは日本初の西洋式街路ということで非常に感銘を受けて喜んでいただき、私自身も案内していてすごくうれしかったです。 【窪田】横浜市の港湾も先進的だと思うのですが、視察受入れの時は横浜港の良さや海外との違いが際立つものですか。 【正岡】きれいということはよく言われます。   東南アジアの港の問題の一つは、港の管轄と都市の管轄が違うときに、その連携がうまくいっていないことだと思います。港の中は高度な技術化をされているのに、港の周りがスラム街で交通の妨げになっている港湾都市があるのですが、それは道路が港の管轄ではなく、都市の管轄だからではないかと思います。横浜の道路網と港がこれだけきれいに整えられていて、しかも道路網は東京までつながっている、こういったところにすごく感動されます。  でも、彼らがそれを求めると、途方もない時間がかかってしまうので、そこに悩んでいます。「港を良い状態にするために、港の周りを改善したいが、どう対応しているか」と聞かれますが、どちらも横浜市が、他の所管部署や国と連携して整備しているので、一体的に政策が進められていることを羨ましがられます。 【窪田】本市では、道路は道路局、公園は環境創造局が所管していますが、臨港地区の場合は港湾局がやっていますよね。道路施策と港湾計画がリンクして上手くできていると思います。そういったことは横浜港ならではでしょうか。 【正岡】都市が港を管理・運営しているということは、海外では意外と少なく、ポートオーソリティという独立した運営組織が管理・運営していることが多いです。また、もともと都市が管理していた財産を売り払っていた例もあります。そのような形だと、港湾都市としてどうやって発展させていくか、施策が打ちにくくなってしまいます。横浜市は港が都市に近く、関連行政が連携しているので、港湾都市としての賑わいがある。そういったことを感動されます。 【窪田】皆さんは、海外都市のニーズはどういったところにあると感じますか。   私の場合、例えばフィリピンだと飲み水が全然足りないと言っていました。また今は、新型コロナウイルスが大変だと。新型コロナウイルス関係の医療系廃棄物を処理するにはどうしたらよいかと言っているので、時代を反映していると感じます。   ただその中でも一貫しているのは、ごみと下水が新興都市の中だと話題になっているということです。捨てるものになぜお金をかけなければいけないのか、という考えはまだ根強いですが、それが自分たちの海などの観光資源を汚して、最終的にそこでビジネスができなくなってしまうということを現地の行政もようやく気付いてきた状況なのかなと思っています。Y-PORTで取り上げられているのは、静脈産業(※2)である下水と廃棄物の問題、それに最近は新型コロナウイルスが加わってきています。   水道はどうでしょうか。やはり無収水が一番多いですか。 【高木】そうですね。他には、最先端の技術について聞かれることが多いと感じています。例えばスマートメーターなどです。ただ実は、本市では新しいものをどんどん使うよりは、古いものを大事に長く使っているんです。例えばアフリカから研修員を受け入れたときに、GISに加えてまだ紙の図面を使っているのかと言われたのですが、紙の図面は意外と重要なんですよね。新しい技術は魅力的ですが、その前に基礎となる考え方を理解してもらうことが大事と感じています。   また、実際に現場で重宝するのは、例えば鉄の棒で漏水を聞く音聴技術などで、長年培ってきたものが活きるのではないかと最近思っています。 【窪田】我々の場合、既に施設整備が済んでいるので、最先端の技術がなかなか使えないですよね。道路はどうでしょうか。 【牛田】道路局の場合は、道路より河川の視察受入れが多いです。洪水被害に苦しむ都市では、横浜市の河川の水域や遊水池、調整池などに関心を持たれます。道路については、よく言われるのですが、道さえあればよいという思想があるようで、 【窪田】舗装されていなくてもね(笑) 【牛田】はい。渋滞対策や生活道路の交通安全対策など、ワンポイントで視察に来ることは多いですが、道路の整備について緊急性を要して視察に来ることはないです。 【辻】環境創造局も浸水対策の視察がかなりあります。もちろん、下水処理の視察もありますが。 【窪田】防災対策も増えていると思いますよね。まず新興都市が求めるのは、水や電気などの生活に必要なインフラで、その次にごみや廃棄物、その次が防災だと思います。防災は、保険のようなもので、何も起こらなければお金をかける必要はない、でも対策しておくと災害時に効果が出る。去年のアジア・スマートシティ会議の日が台風だったのですが、参加者の方々と台風への対応方法についての話になったので、携帯電話で遊水池や川の水位が確認できるようになっていると紹介したら、皆さん感動していました。 【杉山】技術的なシステムと組織制度的な仕組み、それらを運用する職員の人材育成、この3つのバランスが重要だと感じていますが、国の体制や風土などによって考え方が異なりますね。社会主義的な文化が強い国ではトップダウンで強力に進めていくので、技術的なインフラとマニュアル類を提供してもらえれば、あとは我々で管理して進めますから、という国がある一方で、全部お任せしたい、外資の民間企業さんに全部上手くやってほしいという国もあって。そういった国には、そんなに甘いものではないですよ、と言っているのですが。 【一同】(笑) 【杉山】一番良いのは、ちゃんと人を育てて納得して良い社会にしていきたいという国です。そういったところには、我々がやってきた会社経営の仕組みや人材育成、人事制度、採用の仕方などの細かいノウハウの話が響きます。カウンターパートによって興味や関心のポイントが違うと感じますね。 【窪田】一つの枠でくくれないところがあるとは思いますが、おっしゃったとおりカウンターパートによるところはあるかもしれませんね。 ■地方自治体だからこそできる支援とは 【窪田】地方自治体だからできる支援とはどういうものだと考えていますか。  国際局が他の部局と違うと思うのは、特にY-PORT事業については国際協力だけではなく、市内企業の海外展開も一つ命題としているところです。なぜ国際協力をするのかというと、市内企業がそこでビジネスをできるようにするためで、経済局とも近い活動をしているのかなと思います。   地方自治体だからできる支援として私たちがやっているのは市内企業の受注促進で、マスタープランを作るなどの施策的な部分で私たち行政としての知見を提供しつつ、仕様に日本企業しか持っていない技術を入れることで有利に日本企業の、市内企業の受注につながる。当然相手国の都市課題を解決するということが一丁目一番地にありつつ、その先には市内企業に利益があるように取り組んでいます。 【杉山】JICAで実施する鉄道整備プロジェクトを私が担当する場合もあれば、JRや東京メトロから派遣された人が担当する場合もありましたが、民間エンジニアのプロフェッショナルの人は、インフラをどう効率的に造って維持管理していくかという視点に特化していたように感じました。   我々は自治体でもあるので、都市計画マスタープラン、交通計画マスタープランから順序立てて考えて、このプロジェクトを本当に進めてよいかどうか、ということから突っ込んでいけます。相手国から、なぜそんなことを言うのかと聞かれても、「私は鉄道事業者のエンジニアですが、横浜市の自治体職員でもありますから」という話をすると相手側も、なるほどね、となる。ただのエンジニアではなく、行政の立場のエンジニアということを分かってもらえると信頼感が生まれます。自治体側の企業職員はかなり良い立場のポジションにいると実感しています。 【窪田】水道ではどうですか。 【高木】見ている視点が違う、自治体ならではの視点があると思います。一番は、日々インフラの管理・運営をしていて現場の知識があるので、具体的な改善につながることが多いと思います。   自治体ならではの強みや弱みについては、去年JICAに協力いただきながらY-TAPの活動として調査研究をしました。その中では、長期的な視点で物事を見ることができる、都市の特徴を生かした支援、例えば横浜は水道でいうと高低差があることが特徴なので、高低差がある丘陵地帯のキガリ(アフリカ・ルワンダ)という都市での支援に生かせるなどの強みが挙げられました。   また、相手も自治体なので、自治体職員同士ビジョンが共有できて信頼関係につながりやすいというのは大きいですね。 【辻】環境創造局の場合、市内企業の活性化を大きな命題にしています。横浜水ビジネス協議会を立ち上げて民間企業の力を海外に押し出していくことに力を入れていますが、その中で自治体がいることの強みはすごく感じていて、現地の信頼力が違います。企業が突然行っても誰にも会えずに帰ってきてしまうかもしれませんが、我々がいることでコネクションができるという面は大きく、それが自治体として求められていることなのだろうと思っています。 【窪田】道路局はどうでしょうか。例えば、ラストワンマイル(※3)という話がありますが、こうした施策的な意見交換を海外とすることはありますか。 【牛田】海外と直接関わる機会は少ないのでありませんが、ラストワンマイルについては、去年の道路局の国際プロジェクトで調査をしました。海外ではMaaS(※4)を行政と一体となって取り組んでいるのが見受けられますが、横浜市では国が推奨しているものの、すぐに取り入れるのは難しいので、そこが海外と違うと思いました。 ■国際協力・交流を通じて学ぶ 【窪田】今の牛田さんの話のように、国際協力や交流を通じて海外から学ぶことも多いのではないかと思います。例えば、ごみの分別の啓発活動は、実はIoTで解決できるのではないかと。啓発活動は当然大事ですが、それが100%できていなくても都市課題が解決できるということがあるのだろうと思います。我々もどこかの時点で施設の再整備があるので、今後は他国から先進事例を教えてもらえればよいと思っていて、そのときのために国際協力をしているところもあると思っています。 【辻】環境創造局では去年から国際交流に力を入れ始めています。今までは新興国との協力事業でしたが、我々も諸外国から学び、先進事例を取り入れたいということで、今はフランスのパリ近郊の下水を広くカバーしている団体と通年で意見交換していて、既にオンライン会議を3、4回行っており、向こうの取組とこちらの取組を紹介し合っています。水道はネットワークになっていますが、本市の場合、下水道はネットワークになっていません。パリは下水のネットワーク管理を行っているので、そういった横浜にない取組や先進的な技術に関する情報を得たいと考えています。   また、パリの下水道団体との交流を契機に、別の交流グループとの活動も始まりつつあり、パリの下水道団体のほか、シンガポール、シカゴ、ロンドン、ドバイ、横浜の6者で国際グループをつくることを、シンガポールが声かけしてくれています。この6者は、どこも大都市で大口径の下水道管を持っていますが、今後老朽化を迎えるにあたり、どのように維持管理していくかが課題になっています。7月に設立する予定が新型コロナウイルスの影響で延びていますが、今後様々な情報交換ができると思っています。 【窪田】このような取組は、地下鉄でもありますか。 【杉山】海外事業に携わるまでは、日本の大都市の都市間連携や日本の大企業、JRや東京メトロなどの技術に関して情報収集しており、日本の地方に目を向けていなかったし、海外、いわゆる新興国の情報は考えもしなかったのですが、国際協力のフィールドでは海外や日本の地方の技術を知る機会を多くいただきました。地方の厳しい経営環境だからこそ生まれた安価で機能が十分備わった技術の活用も含めて、現地の課題解決のために、日本では連携が難しいようなチームで同じ目標を持って議論できました。その中で、この技術をうちの会社でも使いたい、ということにつながっていくので、本当に相互勉強です。国際協力のフィールドを上手く活用すると本来業務へのフィードバックがあります。特に新しい技術は、思いもよらないところに結構散らばっているので、国際協力をやっていて非常によかったと思っています。 【窪田】普段は商売敵であっても、国際協力という部分で協力し合えることは確かにあると思いますね。港湾局はどうですか。 【正岡】港湾だけでなく、皆さんの分野もそうかもしれないですが、国際協力がだんだんできなくなってきていると感じています。先進的な取組と横浜が現状でやっていることに乖離が出てきていて、技術協力できる部分はあるけれど、その幅がどんどん狭まってきていると思っています。先進的な事例を横浜も学んでいくというチャンネルが無いと国際的な技術協力もできなくなっていくと最近感じています。 【窪田】横浜の優位性が、だんだん無くなってきているかもしれませんね。あと10年ぐらいすると追い付かれて、ひょっとすると追い抜かされて、30年後には置いていかれて…、という可能性もあるかもしれません。どの分野でも技術は日進月歩で進んでいるので、新しいものを取り入れていかないと取り残されてしまう。それが既成都市の悩みだろうと思いますが、せっかく我々がこうやって幅広く様々なものが見える立場でいるので、それを横浜市としても取り入れていくことは必要だと思います。 【正岡】例えば行政が本当にできることは規制緩和や、そのノウハウの提供なのではないかと思うことがあります。技術というところだけではなく、もう少し行政ができることを考えなくてはいけないと最近は思っています。技術の部分だけで争っていると難しいところがありますが、例えばネゴシエーション、合意形成の仕方などは、もしかしたら成熟しているのかもしれない。横浜市が成熟した都市としてなぜこんなに綺麗で、みんなが上手く暮らせているのか、そこの部分をもっとフォーカスしたいと思うときがあります。 【窪田】どうやって我々が都市開発、まちづくりをしてきたのかというノウハウは大事だと思います。自分たちの強みをもっと知るべきだと思いますね。 【杉山】国際協力の枠組みでの開発事業の進め方と横浜市での進め方で大きく異なると感じるのがまさにそこです。地域との対話や環境影響評価を踏まえた対応など、面倒と思われることも持続的な街をつくるためには向き合っていかないといけないですが、国際協力では地域への関与に限界がありスピード感も違うので、極力当たり障りのない場所を探して大きなインフラ投資を提案する傾向があるように感じました。日本のODAを借りてつくるなら、日本の税金もそうですが、現地住民が将来にわたって負担する事業なので、現地行政側がその意を汲んで面倒と思えることもしっかり向き合ってやっていかないといけないんだと、そういうサポートを我々がやるとよいのではないかと思います。インフラ投資した先にどのようなビジョンを描くのか、行政がしっかり入っていくということは、そこに活路がありそうな気がします。 ■各局の国際関係プロジェクト 【窪田】各局の国際プロジェクトについて教えていただきたいと思います。盛んなのは水道局のY-TAPですね。 【高木】水道局では、実際に事業を実施する場合はプロジェクトごとにサポートチームが動くことが多いですが、これに加えて国際協力の実行部隊・人材育成組織としてY-TAPがあります。今50人ほどのメンバーがいるのですが、若手が多いことが課題で、中堅職員にも入ってもらう取組を行っています。技術継承していく体制をつくるために、試行錯誤しています。 【窪田】今年からY-TAPに参加させていただいていますが、初めて参加したとき、メンバーが大勢いて、びっくりしました(笑)。議論も活発で、羨ましいと思いましたが、中堅どころが少ないという悩みがあるのですね。環境創造局はどうですか。 【辻】環境創造局では、草の根技術協力事業などをはじめとしたプロジェクトは、局内からメンバーを募ってチームをつくっていますが、主要なチームメンバーは指名という形をとっています。プロジェクトではこういう人材を必要としているという話をして、適切な人材を選定していただいているので、チームのつくり方としては、環境創造局は恵まれているのではないか、と皆さんの話を聞いて思いました。当初は係長限定にしていた時期もあったようですが、最近は特に管理職に限定しなくても、国際協力に前向きな人であればよいのではないかという話になり、裾野を広げようとしているところです。 【窪田】人材育成にもなりますよね。道路局はどうですか? 【牛田】道路局の国際プロジェクトは平成27年から始動したので今年で6年目です。活動の目的としては、近年は海外への発信より、局事業の推進や課題解決を目的に海外から学ぶことを主としています。局事業の情報発信を目的としたパンフレットの作成なども継続的に行っています。   メンバーは道路局と土木事務所から公募していますが、同時にテーマ募集も行っており、業務の参考となる海外事例を知りたいなどでテーマの応募があります。応募いただいたテーマを局会議で諮って1つ選定することにしています。例年10人ほど集まり、3班に分かれますので、1班が局会議で決定したテーマ、もう1班がパンフレットの作成、もう1班が自由に職員でやりたいテーマを選定して活動する形が、昨年の体制でした。1年間机上作業がメインとなってしまうので、次の年度には国際局の提案型派遣制度を活用して、前年度に調べたことを実体験することで、自身の視野を広げることを理想としています。 【辻】局内でテーマを募るというのは、すごく面白いと思いました。先ほどは指名の話ばかりしましたが、環境創造局のプロジェクトにも公募メンバーがいて、視察受入れの補助などをしてもらっています。毎年20人ほど応募いただいて活動してもらっていますが、メンバーの募集のみなので、こういう情報を集めてほしいというようなテーマ募集は、すごく良いアイデアだと思いました。 【窪田】港湾局はどうですか。 【正岡】港湾局は、2015年から2017年までプロジェクトを立ち上げていて、国際のあり方を検討する管理職グループと、年間50件ほどの視察の受入れ補助をしてもらう中で海外と交流するグループの2つがありました。今は途切れてしまったのですが、今年、部課長級をメンバーとして国際のあり方を検討しています。業務の中で海外事例を取り入れていく必要があるという現状を共有し、港湾における国際のあり方を検討しており、その結果を基に来年度以降動いていきたいと思っています。 【窪田】交通局はどうでしょうか。 【杉山】交通局は、国際事業を始めたばかりなので私以外のメンバーはまだいません。今年度から1人、JICAに出向している係長がいるので、そういう意味では2人ですね。案件のたびに、対応できそうな人材を一本釣りして回っているような感じです。1回でも関与したら逃がさないです。 【一同】(笑) 【杉山】交通局は交通局採用の職員が多く、局採用職員は他局へ異動することもないので、10年後を見据えて少しずつ経験者を増やしています。経験豊かなメンバーが5人もいれば事業として安定するかな、と思いますが。JICA出向も2代目なので、これからです。 ■10年後を見据えた国際協力のあり方 【窪田】10 年後を見据えて、という言葉が杉山係長から出ましたが、皆さんは10年後の国際協力がどうなっているとよいと考えますか。   私は、先ほどから話していることですが、今私たちは先端技術を使えていないので、先端技術を使った国から10年後にはまた教えてもらうことになっているのかな、と思っています。150年前、開港のときに最新の技術をもらった私たちが、今なぜ国際協力をしているのかというと、ペイ・フォワード(※5)なんだ、と。だから、あなたたちもどこかで返してくださいね、という話を海外のセミナーでしています。   また、稼ぐ自治体になっていかなければいけないのかなと思います。何のために国際協力をやっているのかというと、それは横浜市に何らかの利益があるからです。自治体が稼ぐのは簡単ではないと思いますが、10年という期間があれば、例えば都市のコンサルティングを都市がするような形ができるとよいと思っています。 【杉山】支援という意味での協力が多いのですが、ぜひ連携や相互学習という意味での案件形成を考えてほしいとJICAにはお願いしています。我々横浜市の課題解決をテーマにして、JICAが支援したい国の方に来ていただいてプロジェクトをやるフェーズ1、フェーズ2は相手国の課題解決といった形もあり得ると考えています。人材育成が目的であるならば、現地でやらなければいけないということはなく、まさに我々の課題解決を一緒に考えていただくというやり方もあるのではないかと思っています。そういうことができたら面白いなと思っています。 【高木】3つほど考えてきました。一つは局の垣根を超えてプロジェクトをつくれるとよいと思います。水道も下水道や資源、温暖化対策などと関係するので連携の必要性を感じていますし、今は主にJICAの要請を受けて行っていますが、局同士が連携すれば、案件形成の段階からプロジェクトに関わって、都市づくりのコンサルティングのようなことができるのではないかと思っています。   二つ目は国際機関との連携です。今も世界銀行などと連携していますが、国連などの場に横浜の事例をもっと出していくことが必要だと思っています。以前国際機関側で、報告書に各都市の事例を書いていたことがあるのですが、韓国や中国に比べて、日本の良い事例がなかなか報告書に入らないことをもったいないと思っていました。そういうところに横浜市の事例が入ると、地域の方針を決めるような国連の会議や政策提言の場で、横浜市の取組が取り上げられて、市としてのプレゼンスが上がっていくと思いますし、国際機関の資金を活用できるかもしれません。   三つ目は、インフラだけではなく、インフラを機能させる知恵のようなものも伝えていけたらよいのではないかと思います。横浜市が発展してきたのは、例えばG30など、市民の行動変容によってうまくいってきた部分があると思います。開発途上国からは、例えばリサイクルプラントをつくりたいが、市民が適切に分別してくれるかどうかが課題という話を聞きます。インフラの技術的な支援に加えて、横浜市が培ってきた知恵や市民の行動変容などを合わせて伝えていけるとまさにビジネスにもなると思います。   横浜市は日本を代表する都市ですので、横浜市の職員は横浜市のためだけに働けばよい時代ではないと感じています。外に向けて、横浜市に何ができるか、経験やノウハウがどう生きるかが問われてくると思いますし、これからは、それに応えることが横浜の発展につながると感じています。「横浜市は、あの時国際協力しておいてよかったよね」と言われるようにやっていきたいですね。 【正岡】今は、技術協力というものが一方的にできる関係性ではなくなっているという認識を持っているので、私たちも学びたいし、学ぶ場に出ていきたいと思っています。1対1の関係だけではなくて、ネットワークをつくれるような国際協力をしていけたらと思っています。港湾では、先進港はネットワークづくりに熱心で、例えばシンガポールは自分たちの利益を一緒に共有するネットワークづくりにとても積極的です。そういったところに横浜市が今入れるか、こぼれ落ちてしまうか、というようなところにいて、最近も新しいネットワークができていることを後から知るようなことがありました。ネットワークで課題解決をしているということを見据えた協力や関係性ができたらと思っています。もちろん横浜はきれいで、様々なものが整っていて、街としての機能は成熟していますが、そうでないところで今動いてきているかもしれない。街の新しい仕組みのようなものをいろんな分野で見ていかなければいけないと思っています。今までは海外に行かないと見られないと思っていましたが、新型コロナウイルスによってオンラインが中心になっているので、出張旅費がなくても国際的な活動ができるようになるかもしれないと希望を持っています。 【牛田】道路においては、国際協力は先の話というのが正直な感想ですが、皆さんのお話を聞いていると例えば合意形成や知恵、道路で言うと交通ルールなどの部分で何かノウハウを渡すことができるのかなと思いました。   10年後を見据えてという部分では、海外から学ぶということを継続していきたいと思っています。海外から学ぶ中で、横浜市はこういうところが優れているけれど、海外では別のところで補っているということが多くみられ、横浜市の道路施策の強みを再確認することができています。視察受入れも国際協力という意味で継続したいと考えています。 【辻】双方向ということが求められていくのかなと思います。始めたばかりではありますが、先進事例を学び、横浜市の事業に活かしていくというパイプをもっと太くしようとしています。今までは、税金を使ってなぜ国際事業をやるのかと思われることもあったと思いますが、国際社会とつながりを持っておくと、様々なフィードバックにつながると思います。  また、10年後を見据えるにあたり、10年前はどうだったのかということを考えてみました。10年前の下水は水ビジネスの海外展開支援を始めたばかりでしたが、最近はそこを強く押し出せるような体制に強化されつつあります。10年後はもう少し具体的に案件化して市内企業が入り込めるような形になっているとよいなと思っています。 【窪田】 皆さんそれぞれが様々な思いを持って、今後も国際協力事業を進めてもらえることを感じ、頼もしく思いました。今日おっしゃっていたことが10年後に実現していれば、横浜市は今より素晴らしい都市になると思います。今日はありがとうございました。 *座談会は、2020年9月8日に実施しました。 ※1 Y-TAP 国際協力専門委員会(愛称Y-TAP= Yokohama Team of Aqua Profession) 平成5年度に発足し、現在は国際協力事業の推進と国際人材育成を主な目的として活動している。 ※2 静脈産業 資源・環境問題の重要性が増す中で登場した、ごみ、産業廃棄物などの回収と再利用をはかる産業。製造業など製品を供給する産業を「動脈」にたとえ、そのリサイクルを静脈に見立てた。 ※3 ラストワンマイル 交通結節点、特に鉄道駅、バス停、船着き場から最終目的地への移動の困難を指す。 ※4 MaaS バス、電車、タクシーからライドシェア、シェアサイクルといったあらゆる公共交通機関を、ITを用いてシームレスに結びつけ、人々が効率よく、かつ便利に使えるようにするシステムのこと。 ※5 ペイ・フォワード ある人物から受けた親切を、また別の人物への新しい親切でつないでいくこと。または、多数の人物が親切の輪を広げていくための運動のこと。