《5》アフリカ開発会議(TICAD)の横浜開催を契機としたアフリカとの連携・協力の推進 執筆 江成 政義 国際局国際連携課担当課長  杉浦 綾音 資源循環局政策調整課 辰巳 秋穂 政策局男女共同参画推進課担当係長 瀬川 進太 水道局国際事業課 ■はじめに   2019年8月28〜30日、42名の首脳級を含むアフリカ53か国参加のもと、国内外から1万人以上の会議参加者をお迎えして、第7回アフリカ開発会議(TICAD7)が横浜で開催された。   会議の誘致及び開催にご尽力いただいた議会をはじめとする地元関係者の皆様、駐日アフリカ外交団、外務省、独立行政法人国際協力機構(JICA)、本市関係区局の皆様に、この場をお借りして改めて感謝申し上げたい。   アフリカ開発会議は、アフリカの開発をテーマに、国連、国連開発計画(UNDP)、世界銀行、アフリカ連合委員会(AUC)と共同しながら、日本政府の主導により開催している首脳級の国際会議である。   1993年に第1回が東京で開催されて以来、5年に一度、日本で開催され、2008年の第4回、2013年の第5回に続き、今回、横浜での開催は3回目となった。   2013年以降は、3年に一度、日本とアフリカで交互に開催されることになり、2016年には、はじめてアフリカ(ケニア・ナイロビ)で開催、2022年には、再びアフリカ(チュニジア)が開催地となる。   第7回アフリカ開発会議について、本市は開催都市として、外務省や地元経済界・関係団体の皆様と連携し、会議の安全かつ円滑な開催を支援するとともに、本市の取組テーマである「アフリカと横浜、あふれる力でともに未来へ」に基づき、@「国際技術協力の拡大」、A「ビジネス支援の強化、女性の活躍推進」、B「次世代育成・市民交流の充実」の3つの方向性に沿って、様々な取組を行い、アフリカとの連携強化を図った。   右記3つの方向性に関する取組と会議参加者との交流等を含めた「横浜市開催推進事業」には、約23万人の皆様に参加いただき、会議開催に伴う市内経済波及効果は、約27億6千9百万円(第5回:21億5千万円)、パブリシティ効果は、約155億円(第5回:約114億円)に達した。  また、第7回アフリカ開発会議では、これまで積み重ねてきたアフリカとの交流・協力を礎として、第5回会議では実施しなかった次の事業に新たに取り組んだ。  ●技術協力の分野では、2017年度に環境省、JICA、アフリカ各国等と共同で設立した「アフリカのきれいな街プラットフォーム(ACCP)」を通じ、廃棄物管理の経験や技術を紹介する研修を実施した。  ●女性活躍推進の分野では、第5回会議において、林市長から女性のエンパワーメントの重要性について提起があったことにより、「横浜宣言」及び「横浜行動計画」に重要分野として「アフリカの女性のリーダーシップ・起業」が掲げられた。これを契機にJICAと本市が協力して、女性の起業を支援する「日アフリカ・ビジネスウーマン交流プログラム」がスタートし、アフリカ各国からビジネスウーマンと関係政府職員をJICAの研修員として受け入れ、横浜の女性起業家との交流・意見交換を実施している。  ●次世代育成については、市内小中学校等での「アフリカとの一校一国」に加え、高校生・大学生を対象としたセミナーの実施など、幅広い年代を対象とした取組を実施している。  この他に、ビジネス支援の強化として、独立行政法人日本貿易振興機構(JETRO)、JICAと連携して開催した、市内企業を対象としたビジネスセミナーや駐日大使館と連携したビジネス環境の情報提供等も行っている。また、本市では毎年、アフリカ各国から研修員等を受け入れ、横浜港の整備状況や物流効率化の取組、維持管理・運営状況等を紹介している。   この後は、第7回アフリカ開発会議開催に関連する代表的な国際協力の具体例として、廃棄物管理、女性活躍推進及び水道の環境改善に係る取組について詳述する。   1 アフリカのきれいな街プラットフォーム(ACCP)【資源循環局】   横浜市は、2017年4月に、環境省、JICA、国連環境計画(UNEP)、国連人間居住計画(UN―HABITAT)、アフリカ各国・都市と共同で「アフリカのきれいな街プラットフォーム(ACCP)」を設立した。   このプラットフォームの設立は、2016年に開催された、第6回アフリカ開発会議のJICAサイドイベント「廃棄物管理セミナー」において、アフリカの廃棄物管理向上のためのプラットフォームの必要性が確認され、更なる協力の促進が宣言されたことを契機とする。設立以降は、「2030年までにアフリカ諸国がきれいな街と健康な暮らしを実現し、廃棄物管理に関するSDGsを達成する」ことをミッションとし、知見の共有等を行っている。  (1)横浜市の役割   横浜市は、これまでの廃棄物管理の知見や先進的な技術が評価され、本邦研修の拠点として位置づけられており、アフリカ各国における廃棄物管理部門の責任者を対象に研修を実施している。  (2)研修の目的と内容   横浜市で実施している研修は、各研修員が自国の廃棄物管理の課題を明確にし、その課題の解決に向けて、横浜市を中心とする日本の実例を学ぶことを目的としている。また、成果として、自国で必要な施策に関するアクションプランを作成する。   研修は、家庭からごみが出されてから最終処分されるまでの一連の流れを追う構成になっている。   はじめに、各国の研修員が自国の現状をそれぞれ報告した後、日本全体の廃棄物管理の概要を学ぶ。その後、横浜市が講義とあわせて各施設の視察を実施し、研修員に横浜市の廃棄物管理を紹介する。扱う内容は、行政の取組に限らず、地域、民間事業者の取組についても講義・施設視察を実施し、日本における廃棄物管理を総合的に学んでもらう。最後に、研修の内容を踏まえたアクションプランを作成し、帰国後、プランを実行することになっている。  (3)研修後のフォローアップ   帰国した研修員に対しては、フォローアップを実施し、研修の成果として作成したアクションプランの進捗状況や課題の把握等を行っている。   これまで、2018年11月に、JICAと連携し、帰国した研修員とテレビ会議を行ったほか、同年12月に、エチオピア・アジスアベバ市に職員を派遣し、研修員と意見交換を行った。  今後も継続的に帰国後の研修員と意見交換の機会を持ち、アクションプランが実行されるよう支援を行っていく。  (4)アフリカのきれいな街プラットフォーム(ACCP)第2回全体会合   2019年8月26・27日には、横浜で開催された第7回アフリカ開発会議の公式サイドイベントとして、「アフリカのきれいな街プラットフォーム(ACCP)第2回全体会合」が開催された。   林市長が横浜市の廃棄物管理の取組を紹介したほか、アフリカが直面する廃棄物の課題に関する発表や意見交換などを行った。   本会合の成果としては、今後の活動の方向性を示した「横浜行動指針」が採択され、第7回アフリカ開発会議の「横浜宣言」においても廃棄物管理の重要性が強調された。  (5)取組の成果と課題   参加した研修員から、研修の内容について高い評価をいただいている。また、ボツワナからの研修員が作成したアクションプランが、JICAボツワナ支所が主催する帰国研修員のアクションプランコンテストにて、最優秀作に選ばれるなどの評価を受けており、本研修を通じたアフリカ各国での廃棄物管理能力向上が期待される。一方で、より効果的な内容となるよう、帰国後の状況把握、アフリカ現地のニーズ把握に向けた取組が必要である。  (6)今後の展望   第2回全体会合で採択された横浜行動指針では、自治体間でのネットワークについて触れられている。アフリカ各国の多岐にわたる課題の解決には、横浜市以外にも豊富な経験を持った都市とともに、連携して取り組むことが効果的である。   今後は、こうした国内他都市とともに、アフリカ各国への協力を行う関係づくりを進めていく。 2 アフリカの女性企業家支援【政策局】  (1)「日アフリカ・ビジネスウーマン交流プログラム」の経緯・内容  前述のとおり、第5回アフリカ開発会議(2013年度)の「横浜宣言」及び「横浜行動計画」において、重点分野として「アフリカ女性のリーダーシップ、管理、起業における能力強化」が掲げられたことを契機に、横浜市とJICAが連携し、「日アフリカ・ビジネスウーマン交流プログラム(以下、本プログラム)」をスタートさせた。横浜市は、女性起業家支援施策の紹介、日本の女性起業家とのワークショップなどでこのプログラムに協力している。   (2)第7回アフリカ開発会議での取組   2013年度から毎年実施されてきた本プログラムの成果を踏まえて、第7回アフリカ開発会議の公式サイドイベントとして、「女性と少女が変えるアフリカの未来〜ビジネスを通じた社会変革の可能性〜」を横浜市、JICA、外務省で共催した。   基調講演にはGaviワクチンアライアンス理事長のヌゴジ・オコンジョ・イウェアラ氏を迎え、「アフリカの女性たちの今、そして未来」について講演いただいた。講演では、アフリカの女性の置かれている状況について統計等に基づいてご紹介いただき、未来に向けた女性のエンパワーメントのためには、男性の関わり、女性が経済・政治的な力を高めること、そして、テクノロジーの活用が重要になるというメッセージが発信された。   基調講演に続いて、「ビジネスを通じた社会変革の可能性」をテーマに、様々な立場でソーシャルビジネスに関わっているパネリストによるパネルディスカッションを実施した。パネルディスカッションでは、ビジネスを通じて社会変革を起こしていくためには、「女性に差別的な政策・制度を変えていくことやジェンダー課題を可視化すること」、そして、「様々なアクター同士のネットワークを強化し、それぞれの専門性や知見を活用していくこと」、さらに、「ジェンダー課題の解決を目指す取組への投資を増やしていくことが不可欠であること」が共有された。また、強い意志を持ってダイナミックに行動を起こすことの重要性も指摘された。(※講演者の肩書は当時のもの)  (3)成果や課題、今後の展望   本プログラムでは、2013年度から2019年度までの7年間で、アフリカ21か国から95人の女性企業家・行政官を受け入れている。ブルキナファソから参加した女性企業家は、帰国後に「カイゼン」などの日本式ビジネス手法を経営に取り入れ、自国の「乾燥マンゴー産業最優秀輸出者賞」を受賞するなど、本プログラムに参加することで、参加者が新たな視点を取り入れ、ビジネスを発展させることに貢献している。また、日本の女性起業家とのワークショップは、アフリカからの参加者だけでなく日本の参加者にも気づきや刺激を与える機会になっている。   令和2年度は新型コロナウイルス感染症の拡大により、本プログラムの来日研修は見合わせとなった。令和3年度は動画講義での実施を予定している。   本プログラムの達成目標として、当初は日本とアフリカの女性企(起)業家支援の取組について相互理解を深めることや、交流やネットワークの促進を図ることが掲げられていたが、近年はSDGsやジェンダー平等の視点を踏まえたビジネスなど、新たなビジネスの潮流やアプローチへの理解を促進することが達成目標に追加されている。本プログラムの参加者がビジネスを通じて社会課題を解決することで、より良い社会への変革へつながっていくことが期待される。   3 多方面に広がる水道局のアフリカ地域への支援【水道局】  (1)アフリカ支援のあゆみ   横浜市水道局のアフリカ地域への支援の歴史は古く、1977年のケニア派遣以来、現地の水事情の改善に貢献してきた。2019年度末までに職員派遣は13か国81人、海外研修員等の受入は47か国から644人となっている。第4回アフリカ開発会議(2008年度)の横浜開催を契機に、以降、アフリカ地域の水道技術者を対象とした研修を毎年実施するなど、JICAと連携してアフリカ諸国への支援を積極的に進めている。   とりわけ近年はマラウイ国との関係が深く、第5回アフリカ開発会議(2013年度)を契機に同国の最大都市であるブランタイヤ水公社への職員派遣を開始し、第7回アフリカ開発会議が開催された2019年からは、同国の首都リロングウェ水公社の無収水対策プロジェクトに長期専門家を派遣している。  (2)JICA課題別研修「アフリカ地域都市上水道技術者養成」コース  第4回アフリカ開発会議を契機にJICAと本研修を立ち上げ、横浜ウォーター株式会社(2010年に水道局100%出資で設立)と連携しながら、2019年度末までに計13回の研修を実施し、30か国から133人の上水道技術者が参加している。   主な研修テーマは無収水(漏水や盗水など請求につながらない水)の削減だが、浄水処理、水圧・水量管理などの技術面に加えて料金管理、経営計画など水道事業全般を講義している。参加者は講義や意見交換を通じて課題解決の方策を検討し、自国の水道事業改善に活かしていく。   局は積極的に若手職員を講師に配し、講義資料を作成する過程で改めて自分の日常業務を見つめ直す機会とするなど、人材育成を進めている。   また、約1か月の研修の中で、横浜水ビジネス協議会会員企業とのビジネスマッチングや、地域NGOとの連携や小学校訪問など、市民と研修員の交流も進めている。  (3)マラウイ国ブランタイヤ水公社への職員派遣   第5回アフリカ開発会議において、当時のマラウイ国大統領のジョイス・バンダ閣下が林市長と対談する中で、マラウイ国の上水道整備について協力を要請されたことを受け、翌2014年度からJICA短期ボランティア制度を活用し、同国ブランタイヤ水公社(BWB)への職員派遣を開始した。   2019年度末までに20人の職員を派遣し、漏水管理や料金徴収の改善等に関する協力を行ってきた。派遣職員は局内サポートチームと連携しながら、施工管理マニュアルや料金管理マニュアルなどの整備、出前水道教室の実施手法の指導などを進めている。   ブランタイヤ市では水源から市内まで800メートルの高低差があり、ポンプで市内に給水している。一度停電が発生すると、長時間断水となる。派遣職員も活動中に何度も断水を経験し、この課題を局内で共有する中で、局で更新時期を迎える給水車2台をBWBに寄贈する案が出た。2019年6月に実現し、現在、現地で大活躍である。  (4)マラウイ国リロングウェ市無収水対策能力強化プロジェクト   BWBにおけるこれまでの取組等をJICAに高く評価され、同国の首都リロングウェ水公社(LWB)へのプロジェクトへと発展した。   本事業は2019年6月から4年間のプロジェクトで、@無収水対策の計画の策定、A無収水対策の実施、Bプロジェクトで得られた知見の共有・発信の3つの業務を通じてLWB職員の能力強化を進める。プロジェクトの総括として、局職員を長期専門家に配し、横浜ウォーター株式会社等の民間コンサルタントとも連携して取り組んでいる。   LWBは、マラウイ水道協会を通じて国内でも他の水公社に対して指導的立場にあるほか、ルワンダやケニアと独自に域内連携を行い、相互に知見を共有するなどの取組を進めている。本プロジェクトの成果のマラウイ国内への面展開、ひいては他のアフリカ地域への波及も期待できる。 (5)今後の展望 横浜市は「SDGs未来都市」に選定されている。SDGsの目標6には「安全な水とトイレを世界中に」と掲げられており、アフリカは重点地域の一つである。水道局としてもその理念を踏まえて、アフリカを含む国際貢献の取組を一層推進していくとともに、横浜水ビジネス協議会と連携して、海外水ビジネス支援にもつなげていきたい。 ■おわりに   以上のように、横浜市では、2008年以来、過去3回にわたるアフリカ開発会議の開催に伴い、アフリカ諸国との連携、協力を推進してきた。紙面の都合で、今回ご紹介できた事業はごく一部に限られてしまったが、多くの関係区局からご協力いただきながら、様々な取組を実施することができた。   横浜市は、東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会に関連し、9か国のホストタウン(英国、イスラエル、チュニジア、ベナン、ボツワナ、コートジボワール、ブルガリア、モロッコ、アルジェリア)に登録されている。アフリカ開発会議開催以来、アフリカ諸国と友好関係を深めてきていることから、うち6か国がアフリカ諸国となっている。オリンピック・パラリンピックの開催に向けて、各国との連携・交流を一層深めていくとともに、大規模な国際会議の開催を契機とする横浜の資源と技術を活かした国際協力を今後も引き続き展開していくことが重要である。