《2》横浜市の国際協力を振り返る 執筆 桑田 雄飛 総務局人材開発課担当係長(政策研究大学院大学派遣・元国際局) 1 はじめに  横浜の歴史を振り返ると、開港場として日本の海外への玄関口として整備された本市の都市インフラには、海外の技術者、いわゆる「お雇い外国人」の力を借りたものが多く存在する。例えば、新橋〜横浜間の鉄道はエドモンド・モレル氏、近代水道はヘンリー・S・パーマー氏、西洋式街路や公園はリチャード・ブラントン氏などが関わってきた。横浜はかつて、海外の専門家が培ってきた経験・専門性を学びながら形成された都市であることがわかる。  その後横浜は、関東大震災、横浜大空襲、戦後の接収、高度経済成長期の急激な都市化など数多くの課題を市、企業、市民が共に乗り越え、国内有数の大都市に成長することができた。そのような都市づくりの経験を、リー・クアンユー世界都市賞の特別賞をはじめ、国内外より評価いただく機会も増えてきている。  21世紀は「都市の時代」とも呼ばれ、新興国を中心に都市への一層の人口集中が進み、各都市は都市インフラの不足を中心とする様々な課題に直面している。気候変動や感染症対策などの地球規模の課題解決においても、国だけでなく地方自治体、都市がその解決策を担う存在として役割を増してきた。地方自治体が直面する課題とは、地域に根ざしたものであると同時に、世界のあらゆる場所に存在するものでもある。私達が日々直面しているものと同じ課題に、それぞれの立場から取り組む地方自治体職員が世界中にいると考える。  横浜市は、これまで培ってきた職員の経験や専門性を元に、様々な分野で海外の都市の課題解決に貢献してきた。また、共通する政策課題について海外と互いに知見を共有してきた。本稿では、横浜市のこれまでの国際協力の歩みについて振り返りたい。 2 技術協力のはじまり  横浜市が初めて海外に対して技術協力を行ったのは戦後に入ってからのことだ。日本政府が1954年にコロンボ・プラン(開発途上国援助のための国際機関)に加盟し、日本から海外への国際協力が始まった。日本が高度経済成長期を迎え、被援助国から援助国へと変化し始めた時期である。  横浜市は政府が行う国際協力に専門的な知見を提供する形で、1960年代頃から港湾分野・水道分野で海外の技術者に対する技術協力を開始した。  〈港湾分野〉  港湾分野では1963年から海外の技術者への協力を開始した。また、1970年代からは市職員が政府のODA(政府開発援助)に協力する形で中南米に派遣され、コスタリカやメキシコなどで技術協力に従事した。  その後、海外と姉妹・友好・貿易協力港の関係を結ぶようになって以降は、職員や交流団の相互派遣を長く行ってきているほか、JICA(独立行政法人国際協力機構)やOCDI(一般財団法人国際臨海開発研究センター)と連携した港湾研修生の受け入れなど幅広い技術交流を行っている。2014年には、タイの主要港湾(レムチャバン港・バンコク港等)を管轄するタイ港湾庁との間でパートナーシップに関する覚書・基本合意書を締結し、人材育成・技術交流をはじめとする相互交流を推進している。  〈水道分野〉  1973年に水道局職員をアフガニスタンに派遣したのが始まりである。その後、1982年には友好都市上海との交流を始め、1987年からは近代水道創設100周年記念事業として、ODAによらない横浜独自の海外研修員受入事業を開始した。JICA、WHO(世界保健機関)、CLAIR(一般財団法人自治体国際化協会)、JICWELS(公益社団法人国際厚生事業団)、シティネット(アジア太平洋都市間協力ネットワーク)等と連携した国際事業にも取り組んでおり、2020年3月までに137か国から4277人の研修員を受け入れ、34か国に457人の職員を専門家として派遣し、調査や技術指導を行った。1993年度には技術協力を支える職員からなる「国際協力専門委員会(通称:Y-TAP)」が水道局内に発足した。  近年は中・長期的な技術協力のプロジェクトも実施している。ベトナムではフエ省水道公社を中心に2003年からJICAプロジェクトを通じた技術協力を実施、2009年にはフエ省全域で水道水を飲むことができる「安全な水宣言」が実現した。その後、JICAプロジェクトを通じてこの成果のベトナム中部地方への水平展開が図られたほか、局独自の覚書を通じたベトナム各都市との技術交流も継続して実施している。このほか、ラオス、インドネシア(メダン)、パキスタン(ファイザラバード)、タンザニア(ザンジバル)、マラウイ(ブランタイヤ・リロングウェ)でも中長期的に職員派遣を行っている。 3 都市間のつながりを通じた国際協力  1980年代に入ると、国が行う国際協力の枠組に協力する形だけでなく、国を超えて都市同士がつながり、共通課題を解決する機運が高まった。姉妹・友好都市の枠組を活用した取組のほか、シティネット(アジア太平洋都市間協力ネットワーク)など都市課題を解決するためのネットワークが構築されるようになり、本市は主導的な役割を果たした。  〈姉妹友好都市との交流〉  横浜市は1950年代より姉妹・友好都市の提携を始め、現在では8都市と結んでいる。1970年〜80年代からは、友好交流に限らず、これらのつながりを元にした技術交流も実施するようになった。特に、1973年に友好都市となった上海市(中国)とは、提携後の早い時期より交通・港湾・水道・公園整備をはじめとする幅広い分野で職員を相互に短期派遣するなどの交流を行った。  〈シティネットの創設〉  アジア太平洋地域の新興国では都市人口が急速に増加し、それに伴いさまざまな都市問題に直面することになった。これらの諸問題の解決には自治体の役割が重要であるが、個別的努力のみでは解決し得ない問題も多く、国際的協力が不可欠となっていた。このような状況を踏まえ、1982年に、横浜市、UN-ESCAP(国連アジア太平洋経済社会委員会)及びUNHABITAT(国連人間居住センター)の主催によって「Y‘LAP(第1回アジア太平洋都市会議)」という、アジア太平洋地域における都市づくりの課題と自治体の役割について議論する国際会議が横浜で開催された。1970年代に横浜市企画調整局で都市デザインチームのリーダーであった岩崎駿介氏が、本市での勤務の後、UN-ESCAPで3年間勤務し、会議の担当者であったことがきっかけである。当時、ESCAPは国レベルではなく、自治体と直接関わりを持つ意向があり、UNDP(国連開発計画)もそれを資金面で積極的に援助していた。  会議では、横浜市はアジア太平洋地域の都市間連携の強化を提言し、会議後にはフォローアップとしてアジア太平洋地域の地方自治体間の専門協力のためのネットワークの創設案が作成された。その案は1987年に名古屋で開催されたN‘LAP(第2回会議)の場において決議され、シティネットが設立された。シティネットは数多くの自治体、NGO、学術機関等が共に、同地域の都市の課題の解決を目指す非営利の国際組織である。  1989年には横浜市は初代会長都市として選出され、1991年にはみなとみらい地区に事務局が設置された。それ以来、横浜市はシティネットにおいて中核的な役割を果たし、アジア太平洋地域の会員都市の都市課題の解決に貢献してきた。  なお、本事業は1982年度は企画調整局、1983年〜1992年度は都市計画局が担当していた。ESCAPが幅広く人間居住に関するテーマに取り組んでいたことや、当時は都市計画局が技術部門の総合窓口となっていたことが背景にある。その後、より幅広い分野をシティネットが取り扱ったことや、業務上国際部門との繋がりが強くなったことから、1993年度より総務局国際室に移管された。(現在は国際局所管)シティネットの会長・事務局はいずれも2013年にソウル特別市(韓国)に引き継がれたが、名誉会長となった横浜市は同年に開設したシティネット横浜プロジェクトオフィスと連携しプロジェクトを継続している。近年は防災分野を中心に消防局、総務局危機管理室、建築局などの協力も得ながら、マカティ市・イロイロ市(フィリピン)やカトマンズ市(ネパール)で技術協力を実施した。2020年11月現在、シティネットには22か国・地域の173会員(110都市・58団体・5社)が加盟しており、設立当初と比べてネットワークは大きく拡大している。  〈都市デザイン分野を中心とする技術協力の開始〉  1971年に担当部署が設置されて以来、都市デザインは本市の特色ある街並み形成における重要な要素となってきた。1980年代半ば頃から、同分野における海外との協力・交流が積極的に行われるようになった。  ペナン市(マレーシア)では都市デザイン分野を中心に技術協力を実施した。1982年に横浜で開催された前述のY‘LAPを縁に横浜市とペナン市が交流を始めたことや、JICAが実施する道路交通に関する技術協力に専門家として横浜市道路局の職員がペナン市に派遣されていたこともきっかけとなり、1986年に両市の間で「技術交流に関する共同宣言」が調印された。双方の技術職員をお互いの都市に派遣するというものであった。本市からは、主に都市デザインや道路の維持管理・固形廃棄物処理等の分野で1995年まで交流を行った。  この時の人的つながりを背景として、2015年から2018年にかけて、JICA草の根技術協力事業として、ペナン市の対岸、セベランプライ市においても都市デザイン分野での技術協力を実施した。  また、創造実験都市・横浜会議(1986年、88年)、国際デザイン展(1987年)、国際都市創造会議(1990年)、ヨコハマ都市デザインフォーラム国際会議(1993年)など、この時期には都市デザイン分野の国際会議が数多く行われた。海外の都市や専門家と積極的に意見交換を行い、事例を取り込む中で、横浜の魅力的な都市空間の形成に寄与してきた。 4 国際機関や政府機関の支援・誘致を通じた国際協力  1980年代以降、横浜市は地球規模の課題に取り組む国際機関や政府機関を市内に誘致し、活動を支援している。国際機関を誘致するため、みなとみらい地区に「横浜国際協力センター」を開設した。  また、JICAの横浜センターを誘致し、地方自治体として初めて包括連携協定の締結も行った。  〈国際機関の支援を通じた地球規模課題の解決〜横浜国際協力センター〜〉  1986年には新設されたITTO(国際熱帯木材機関)の本部が山下町に開設された。これまでに横浜で行われたITTOの理事会には、多くの横浜市職員が応援スタッフとして従事してきた。  1991年にはこのような国際機関を誘致するために、パシフィコ横浜の中に「横浜国際協力センター」を横浜市が設置した。ここにはITTOの本部が移転したほか、シティネット事務局も入居した。1996年にはWFP(国連世界食糧計画)の日本事務所、1997年にはFAO(国連食糧農業機関)の駐日連絡事務所も本市の誘致により設置された。 これらの国際機関は、YOKE(公益財団法人横浜市国際交流協会)が行うこどもや若者を対象とした交流イベントやインターンシップを通じて、横浜の青少年のキャリア開発や国際理解教育に貢献している。  〈日本の開発協力政策と共に〜JICAとの連携〜〉  2002年には、ODAの実施機関であるJICAの国内拠点(支部)である横浜センター(JICA横浜)が開設された。JICAは海外への専門家派遣や、海外からの研修員受入、地方自治体や企業、学術機関等の技術を活かした技術協力を担っている。  2011年には日本の地方自治体として初めてJICAとの包括連携協定を締結した。これまでにJICAが実施する技術協力プロジェクトの専門家として様々な職種の横浜市職員が海外に渡航し、また、海外からの研修員を受け入れてきた。市とJICAが相互に職員を派遣するなど、人事交流も行っている。JICAボランティア(青年海外協力隊等)として海外に旅立つ前の隊員(保健師)が、本市の各区の福祉保健センターで研修を行う事例もある。  JICAには「草の根技術協力事業」という、自治体やNPO・NGOが自ら提案した国際協力事業をJICAが資金面で支援するという枠組があるが、横浜市はこの枠組に採択され数多くの国際協力事業を行った実績がある。これまでに港湾(タイ・マレーシア・スリランカ・フィリピン)、上水道(ベトナム・インドネシア)、下水道(ベトナム)、廃棄物(ベトナム)、防災(フィリピン)、野生生物保護(インドネシア・ウガンダ)、都市デザイン(マレーシア)など様々な分野でプロジェクトを実施した(13頁参照)。  後述のY-PORT事業や、TICAD(アフリカ開発会議)やADB(アジア開発銀行)総会等の国際会議等の場においても、本市とJICAの連携は深まっている。  〈国際開発金融機関との連携〉  2010年代以降は、国際協力を行う専門的な機関である世界銀行やADBとの連携を強化している。  世界銀行については2016年に日本の自治体が有するノウハウを開発途上国に共有する「都市間パートナーシッププログラム」の対象都市の1つに選ばれている。また、都市計画や都市デザイン、治水、公有財産管理等の分野で視察受入や、本市職員の派遣を行ってきた。  ADBについては、2013年に地方自治体として初めて連携促進のための覚書を締結し、後述の2017年の第50回年次総会開催にも繋がっている。近年はフィジーとの都市間連携や廃棄物分野での研修実施等を進めている。 5 国際協力を通じた市内経済活性化へ  2010年代に入ると、国際協力を行うだけでなく、インフラ輸出を政府・民間一体となって進め、日本の経済振興に寄与すべきという機運が高まった。2010年6月の日本政府「新成長戦略」において「パッケージ型インフラ海外展開」が掲げられ、その中で「自治体の水道局等の公益事業体の海外展開策の策定・推進」も謳われた。横浜市でも「Y-PORT事業(横浜の資源・技術を活用した公民連携による国際技術協力)」や、上下水道分野での「横浜水ビジネス協議会」の発足など、この機をとらえた事業や取組が開始した。  〈Y-PORT事業〉  横浜市は2011年に「Y-PORT事業(横浜の資源・技術を活用した公民連携による国際技術協力)」を開始した。高度経済成長期に急激な都市化に伴う課題を市・企業・市民が一丸となって乗り越えた経験を新興国の課題解決に役立てるとともに、都市インフラを支える横浜市内企業の海外進出を支援し、市内経済の活性化に寄与することを目指している。  Y-PORT事業では、2012年から毎年度、国際会議「アジア・スマートシティ会議」を横浜で開催している。アジアの諸都市・企業・国際機関等が集まり、都市づくりに向けたビジョンや取組を共有するとともに、海外インフラビジネスの機会を創出する場を提供している。会議実施に際しては、前述の世界銀行・アジア開発銀行とも連携している。また、このような会議開催や、メディアを通じたPRを通じて横浜市の政策を対外的に発信することもその目的の一つとしている。  2015年には、Y-PORT事業を推進する公民連携のプラットフォームとして「Y-PORTセンター」を発足させた。2年後の2017年には、Y-PORT事業に呼応する市内民間企業が中心となってYUSA(一般社団法人YOKOHAMA URBAN SOLUTION ALLIANCE)が発足した。YUSAは横浜国際協力センターに設置した「Y-PORTセンター公民連携オフィス」内に入居し、本市と密接に連携している。  同事業では、横浜市と覚書を締結したセブ市(フィリピン)、ダナン市(ベトナム)、バンコク都(タイ)、バタム市(インドネシア)を中心に、アジアの幅広い地域で、都市間連携をベースに、市内企業のビジネス展開を支援してきた。具体的には、廃棄物、上下水道、都市計画、省エネルギーなどの分野で、庁内各局や市内企業と連携して事業を推進している。  ここで生まれたダナン市との縁が、横浜市健康福祉局が推進する、外国からの介護人材受入事業において、両市の覚書締結に繋がるなど、他分野にも波及した事例も出ている。  また近年ではアジアをはじめとする新興国で、現地民間企業が都市開発を行うケースがあり、みなとみらい21地区などまちづくりの実績を持つ横浜市には大きな期待が寄せられている。こうした新たなチャンスに、より多くの市内企業が参画できるよう、更なる後押しに力を入れている。  〈上下水道分野と横浜水ビジネス協議会〉  2010年には横浜ウォーター株式会社が、翌年には企業のビジネス展開を支援するために、水道局・環境創造局が中心となり「横浜水ビジネス協議会」が発足し、公民連携によるインフラ輸出の機運が高まっている。この時期には、早い時期から国際協力を進めてきた上水道に加えて、下水道分野での国際協力も加速している。2012年には「下水道事業における国際貢献等に関する基本指針」が制定され、新興国における技術協力やそれを通じた下水道分野の市内企業のビジネス展開支援や、海外の先進事業者との積極的な交流が図られるようになった。「下水道事業国際貢献・国際交流実行委員会(通称:パワートレインチーム)」も環境創造局内に発足した。ハノイ市(ベトナム)においてはJICAの資金を活用した技術協力を2013年から行っているほか、Y-PORT事業と連携したセブ市(フィリピン)等での協力も行われている。また、2019年にはSIAAP(パリ広域圏下水道事務組合)との技術交流も開始し、相互の知見の共有を進めている。 6 国際会議を契機とした国際協力  横浜市はこれまで数多くの大規模な国際会議を誘致してきた。TICAD(アフリカ開発会議)、ADB(アジア開発銀行)総会、APEC(アジア太平洋経済協力)首脳会議は、本市の名前を海外に広くPRし、経済効果を生んだだけでなく、市が海外とのつながり、国際協力事業を強化するきっかけになった。  〈TICADとADB総会〉  2008年にはTICADの東京以外の初の開催地として、横浜が選ばれた。その後も2013年、2019年とこれまで横浜で3回の会議が開催されている。この会議は、日本政府が主導しアフリカ諸国の開発について議論するもので、本市が包括連携協定を結ぶJICAも深く関わっている。開催都市である横浜は市民を対象とした様々な交流プログラムを実施してきたほか、将来的な都市インフラ輸出を見据えたアフリカとの国際協力も開始している。例えば、JICAが行うアフリカの女性企業家支援、廃棄物分野での「アフリカのきれいな街プラットフォーム」への協力や、水道をはじめとする様々な分野での専門家派遣・研修受入を行っている。  2017年には横浜市が連携を促進するための覚書を締結しているADBの第50回年次総会も横浜で実施された。市民を対象とした様々な交流プログラムを通じてアジア・太平洋地域の国が抱える課題や文化について知る機会となると共に、本市との連携も一層強化された。 7 地球規模の課題解決に向けて  気候変動やSDGs、国家や国際機関が主体となって行われてきた国境を超える地球規模の課題解決において「非国家主体」、特に地方自治体の存在感が近年増している。  〈気候変動やSDGs〉  横浜市は市域内において様々なプロジェクトを通じて、省エネルギー・気候変動対策に取り組んでいるが、この分野での海外連携も推進している。気候変動対策に取り組む国際的なネットワークであるC40やイクレイ、CNCA(Carbon Neutral Cities Alliance)への加盟、COP(国連気候変動枠組条約締約国会議)への参加を通じて2050年までの脱炭素化を目指す「Zero Carbon Yokohama」等、本市の取組について積極的な情報発信と知見の共有を行っている。加えて、EU-日本国際都市間協力プロジェクトを通じたフランクフルト市(ドイツ)との連携をはじめ、バルセロナ市(スペイン)、バンクーバー市(カナダ)、サンディエゴ市(米国)や前述のY-PORT事業と連携したバンコク都(タイ)、ダナン市(ベトナム)との都市間の技術交流も推進してきた。例えば、JCM(二国間クレジット制度)の枠組を活用して、市内企業の技術を東南アジアに導入し市内経済活性化を図ると同時に温室効果ガスの排出を削減し、地球温暖化の「緩和策」に貢献している。また、前述のようにシティネット事業では防災、環境創造局においては下水道分野での協力も推進しているなど、地球温暖化に起因する洪水等の気候変動への「適応策」についても、本市の技術協力が寄与している側面がある。   また、2030年を年限とするSDGs(国連の持続可能な開発目標)の達成においても都市の果たす役割は重要である。目標の11番「包摂的で安全かつ強靭(レジリエント)で持続可能な都市及び人間居住を実現する」をはじめ、SDGsの各目標は都市の行政運営と関係が深い。横浜市は日本政府から「SDGs未来都市」に選定されているほか、SDGsに取り組む世界の都市による「SDGsリーダーシップ都市連合」に加盟し、「アジア・スマートシティ会議」などの国際会議等においても積極的な情報発信を行っている。 8 まとめ  ここまで紹介してきたもの以外にも、横浜市では幅広い分野で国際協力を行ってきた。視察受入れ等も含めると、ここ20年ほど国際協力が行われてきた主な分野は、上水道、下水道、温暖化対策、動物飼育・繁殖、医療衛生、保健、廃棄物・リサイクル、建築、都市整備、都市デザイン、道路、河川、港湾、消防・危機管理、交通、行政管理(財政・行政運営)、福祉など、非常に多岐に渡っている。横浜市が所管する行政分野の幅広さや、各分野の専門性を持った職員が数多くいることが実感できる。  2015年からは、国際局国際協力部に兼務発令されている部長級職員を中心とした「国際協力推進会議」が年に複数回開催され、全庁が連携して国際協力事業を推し進める体制となっている。また、水道局、環境創造局、道路局、資源循環局等で局ごとに国際事業を推進するプロジェクトチームが構成されているほか、他局も含め、局横断的な国際事業担当者同士の意見交換も行われるようになった。  横浜市はこれまでの半世紀で幅広い分野・地域において国際協力の実績を積み重ねてきた。国とは異なり、地域住民に行政サービスを提供することを本旨とする横浜市が国際協力事業を推進する上では、その意義を常に再確認していくことが求められる。  国境を越えて経済・人的交流がある現代において、SDGsや国際平和に貢献することは大都市の責務である。さらに、それだけでなく市内経済の活性化、次世代育成、各都市インフラ部門を中心とする職員の人材育成・技術継承などその成果を横浜市域に還元することを念頭においた上で、さらに充実させていくことが必要である。また、本市からの技術提供のみならず、積極的に海外と情報を共有し知見を得ることで、高度・複雑化する横浜の行政課題の解決に寄与していくことも求められていくと考える。