《1》座談会/なぜ今国際協力なのか 長岡 裕 東京都市大学建築都市デザイン学部都市工学科教授 土井 一成 元水道局長 赤岡 謙 国際局長 進行 西山 玲子 国際局国際協力課国際技術協力担当課長 ■横浜市の国際協力を振り返って ―― 本座談会では、これまでの横浜市の国際協力の取組を振り返りつつ、地方自治体である横浜市が国際協力を行う意義や、今後どうあるべきかといった可能性などについてお話をいただきたいと思っています。まず議論のきっかけとして、横浜市の国際政策の変遷と国際協力の果たす役割がどのように変わってきたのか、赤岡局長からお願いします。 【赤岡】お二人の前で私が改めて変遷などを語るのはおこがましいのですが、口火ということでやらせていただきたいと思います。  横浜市は国際局という組織を6年前に設置し、国際関係の取組を統括して進めていますが、遡ると、1950年代に姉妹友好都市交流が始まったのが最初です。当時はまだ市民が自由に海外渡航できる状態ではなかったですし、外貨の持ち出し制限などもあり、行政主導で取組が始まりました。  国際協力でいうと、港湾局が1963年から、水道局が1973年から技術者の受入れや専門家の派遣を始めましたが、これは、戦後日本がODA(政府開発援助)を受ける側にあったのが、1954年頃から逆にODAを出す側に回ったという枠組みの中での技術協力でした。JICA(独立行政法人国際協力機構)の前身の設立が1974年ということですので、これと同時期か、少し早くから横浜市も動き始めているということになります。  1980年代になりますと、国の枠組みももちろん継続して取り組んでいるのですが、都市が主体となる国際協力ということで、1982年に横浜で行った第1回アジア太平洋都市会議をきっかけとしたマレーシア・ペナンへの技術協力や、都市間ネットワークであるシティネットが設立されるなど、横浜市が主体となった国際協力を始めました。横浜市はいきさつもありまして、現在シティネットの名誉会長都市となっています。  10年ほど前から、スマートテクノロジーなど最新の技術を使った援助への途上国側のニーズの高まりなどがあり、援助の内容がかなりテクニカルに高度なものになっていきました。途上国では先進国と同じような経緯を踏まずにいきなり最新の技術から入っていけるということが起こっています。横浜市の国際協力の場合では、例えば上下水道やごみの分別をはじめ、スマートテクノロジーの分野へのニーズが高まってきたことと、横浜市が日本の近代水道発祥の地であり、さらには過去の様々な環境問題などを乗り越えてきたことで、行政だけでなく市内の企業にも経験や技術が蓄積しており、市内企業の活躍の場が国際協力の中でも現れてきました。  そして、横浜市ではY-PORT事業という公民連携による新興国への新しい国際貢献に着手しました。これは行政だけではなく、市内の企業と行政が一緒になってODAの枠組みなどを活用して国際協力を行うもので、都市開発のマスタープラン等いわゆる「上流」部分への参画から始まり、FS調査(※1)段階を経て途上国で事業化した際に横浜市の企業の受注につながるといった結果も現れてきています。2019年までにFS調査実証事業に横浜市の企業が59件参画して、結果として16件が事業化されました。例えば、市内企業の潟Oーンによる、フィリピンのセブ市での廃プラスチックのリサイクル事業(写真1)や、市内企業等を主体とする一般社団法人YUSA(※2)によるタイのアマタ社からの都市開発コンサルティングの受注といった事例があります。このように横浜市の国際政策は、行政主導の国際交流から始まりましたが、主役が行政だけではなく企業に、しかもそれがボランタリーではなくてビジネスにつながるという形で進めてきました。 ―― 企業の参画が特色として出てきていると思いますが、横浜市では2011年から公民連携による国際技術協力事業、Y-PORT事業を開始しています。土井さんは当時、共創推進事業本部長としてY-PORT事業をご担当なさっていたと思いますが、当時はどのような問題意識を持たれていましたか。 【土井】共創推進事業本部(以下「事業本部」)は2008年4月に発足したのですが、横浜市全体の公民連携を推進することを目的につくられました。仕事の一つは、今までやっていた広告事業や指定管理者制度、PFI事業など、既存の制度を全体的に見直し強化するということで、各局から人が集められ、民間からも何人か採用して、20人以下の小さな組織で始まりました。  既存の制度見直しが始まってすぐに、新たな公民連携の仕組みをつくろうということで、民間からの提案窓口である共創フロントを同年6月に設置し、企業や大学などと公民連携について話し合う場として共創フォーラムも始めました。その後、横浜らしい新しい公民連携の一つとして、国際技術協力のY-PORT事業をつくり出しました。  横浜のノウハウや技術を他の途上国などにどうやって活用し、その中にどう民間を入れていくかということが大きな課題だったのですが、長岡先生はじめ専門家の方に集まっていただき1年間、研究会として議論していただきました。主な論点がPPP(パブリック・プライベート・パートナーシップ)を海外で横浜がどのようにやっていくかということでした。その頃は経済産業省や国土交通省がインフラ輸出という言い方で、特に上下水道や鉄道、都市開発などを中心に進めようとしていて、横浜市も参加しないかという話が来ていました。横浜は以前からシティネットという形で都市間の技術協力をやっていましたので、かなりのノウハウを持っていました。  そもそも横浜は、外国人技術者の技術を入れてまちづくりが動き出したという歴史があります。水道や港でいうとパーマー、街路や公園だとブラントンなど、外国人技術者からの恩恵で日本人が技術を習得して街をつくってきた。その象徴的な都市なので、研究会では当然横浜がリードすべきだといった意見などが出ました。  一番難しかったのは、どういう形で民間企業と市役所が連携してやっていくかということです。当初は推進主体として株式会社方式を考えていたのですが、当時本市では外郭団体の整理をしていましたので、新たに会社をつくることは、なかなか合意が得られませんでした。また、ちょうど水道局で横浜ウォーター株式会社の設立の検討をしていることもあって、水道局を優先することになり、水ビジネスは横浜ウォーターで進めていくということで、事業本部としては株式会社案をペンディングにしました。まずは日揮株式会社などの市内企業と連携協定を結び、また、JICAなどとも協定という形で始めました。  事業本部での3年間が終了し、私は水道局に異動しましたので、その後はY-PORT事業を外野から見させていただいていますが、赤岡局長がおっしゃったように「上流」の仕事からだんだんビジネスにつながってきて、当初先生方と議論したことが具体的な形になってきていることをうれしく思っています。 ―― 長岡先生は、土井さんのお話にもありましたように、外部有識者からなる市の研究会の座長として、横浜の資源・技術を活用した公民連携の国際貢献を推進する必要があるとの提言を2010年に横浜市にご提出いただいていますが、10年が経過して、所感をお聞かせいただけますでしょうか。 【長岡】先ほど赤岡局長から話があったように、事業化した案件が16件という形につながってきたこと、それから、やはり何と言っても、縦割りだけではなくて全体で国際協力に向かう体制として国際局ができたことが大きいと感じています。私は上下水道を専門にしていますが、しばしば水道なら水道だけ、下水道なら下水道だけという形での国際協力が一般的でしたが、このY-PORT事業では横浜市が一体となって取り組むということが非常に大きいことだったと思います。水道にしても下水道にしても、水道だけ、下水道だけで解決できないことがたくさんあります。災害対応でも、水道・下水道だけでなく市全体の防災計画との整合性が必要ですし、例えば下水道でも資源循環ということが最近いわれていますが、そういう中で廃棄物行政との連携も必要です。また、都市のインフラ全体として交通などとも絡んできます。海外で事業化するときには、狭い視点ではなく広い視点が必要であるということはずっと考えてきたことなので、そういう体制ができたということは非常に高く評価できるのではないかと思っています。  あとは、私も横浜市民なのですが、Y-PORT事業という形で国際協力の体制が横浜市としてできて事業化が進んできたことは、市民としても非常にうれしいことです。 ―― 赤岡局長は、2015年に横浜市が国際局を政令指定都市で初めて設置して以来、副局長、局長を務めていますが、国際協力による市内経済活性化への寄与について振り返ってみて、いかがでしょうか。 【赤岡】国際局ができてから、かなり強く市内経済への寄与を打ち出してきました。それまでは中期4か年計画などのいわゆる目標管理では、例えば調査件数や、受け入れた技術者の数などで実績を測っていたのですが、先ほど申し上げたように、実際に仕事を受注した数など、いわゆるアウトカム指標が出せるようになってきました。それをみんなで目標として共有して進めているということで、市内経済への波及という色合いを強くしてきたと思います。 ■横浜市が国際協力を行う意義 ―― 続いて、地方自治体である横浜市が国際協力を行う意義についてお話をお聞きしていきたいと思います。長岡先生は、他の自治体の取組などをお知りになる機会が多いのではないかと思いますが、横浜市の国際協力の特色についてどのようにとらえていらっしゃいますか。 【長岡】市の部局全てが協力する体制になっていて、インフラの支援をパッケージとして輸出する体制ができあがったということが、私は一番大きいことかなと思っています。もちろん水道局あるいは環境創造局の中の下水道は非常に長い歴史もありますし、日本の中でも有数の規模を持つ事業体で体力もあり、研究開発力も備わっています。いろいろなノウハウのある人材が多いのですが、それにプラスして、市の中のいろいろな部局が協力する体制になっている、それが非常に大きいと私は思っています。 【赤岡】国際局は発足して6年なので、50年近く国際協力に携わってきた水道局、港湾局の後発です。最初はやはりぎくしゃくした部分もありましたが、JICAとの連携協定など国際局が窓口となって全体を取りまとめていく中で、イニシアチブをもっと発揮するように他局から言ってくれるような感じになり、機構として、国際局という組織は必要だったと思います。 ―― 自治体がなぜ国際協力を行うのか、国がやればよいのでは、という疑問を持つ方もいると思うのですが、地方自治体が国際協力を行う意義や役割をどのようにお考えになるか、皆様からお聞かせいただけたらと思います。長岡先生からお願いします。 【長岡】私の専門の上下水道でいうと、現実問題として、水道事業や下水道事業は、国は直接事業を行っていません。だから、現場力というのは自治体が持っているのです。国は、全国的な法制度の整備や国からの補助金など、日本全体のことはやっているのですが、本当の現場を持っているのは自治体です。そういう意味で当然、自治体にノウハウが蓄積されています。先ほど「上流」からという話がありましたが、その「上流」から攻めていくときのノウハウは圧倒的に自治体が持っているということが、まず大きいのではないかと思っています。  あとは、先ほども申し上げたのですが、自分の住んでいる市が国際協力をやっているということは、やはり市民にとっての誇りなんですよね。  さらには、企業との協力、民間との協力という意味でも、自治体の方が身近なところで見ています。例えば技術協力なども、最前線で協力しているのは自治体です。自治体が実際に国際協力のプレーヤーとして参画することは当然なのではないかと思っています。 ―― 土井さんはいかがでしょうか。 【土井】1999年、企画局広域行政課長時代に、広域行政をどう広めるかということを「調査季報(139号)」に書いたことがありまして、その中で、ズームレンズのように近くから遠くまで問題に焦点を合わせる仕組みが横浜市の大都市行政の中に要るのではないかということを考えました。具体的には、住宅、地域、都市、広域、国際という5段階のレベルの空間領域を設定すると、地域の領域の区の機能強化と、広域や国際の領域を強めることをしなければいけないと思いました。  例えば、もともと水道局はパーマー氏の技術から始まっているので、最初から国際レベルの技術協力の結果として局ができています。2016年に水道局の長期ビジョンを策定する際、この5段階の空間領域について局内で議論しましたが、水道局は5段階全ての領域で様々な施策を行っていることを職員と意識共有しました。今まで現場での業務しかしていなかった職員も水道工事の海外技術研修に率先して行ってくれて、そういうことが水道局全体で動くようになりました。  国際事業をやることで初めて水道のプロフェッショナルとして気付くことが山ほどあって、アジアやアフリカの現場に行くと、みんなもう水道事業に燃えて帰ってくるんです。これは多分、水道の原点を感じたためであり、福祉や教育など他の分野でも同じことがあるだろうと思います。長岡先生がおっしゃったように、国際局ができたことは、この国際レベルの取組がみんなでできる、みんなでやるんだというようなことが宣言されたという意味があり、非常に大きいのではないかと思います。 ―― 人材育成の観点もあるとのお話でしたが、技術継承や人材育成については、80年代・90年代頃と現況とで、求められる能力や取り巻く環境は変わってきているとお考えになりますか。 【土井】私が入庁したのは1980年なのですが、社会的ニーズが大きく変わっているなと思いますね。私は建築職ですが、仕事の中身が2000年ぐらいまでは様々な建設事業が目白押しで、そこを越えた時点からは都市経営的にPPPのような民間との連携やそのノウハウといった形に変わってきています。海外技術協力も以前はやはり公共事業中心だったと思いますが、現在は公共的な主体間の技術共有ばかりでなく、それに民間企業も加わることが当然中心になっていますし、今後は市民も一緒に、ということに変わってくるのではないかと思います。  また、人材育成ということでは、私は幸いなことに、先ほど赤岡局長がおっしゃった1982年のアジア太平洋都市会議の資料作成に携わり、インドの大学の先生2人の視察アテンドを担当しました。彼らはスラム問題の研究家であり、横浜のスラムを見せてくれと言われました。そこで、市内の密集市街地を一部見せたのですが、こんなすばらしい環境はスラムではないと言われた思い出があります。入庁して3年目の職員でこんな経験ができたことは、後々すごく自信になりました。係長時代には、海外研修制度で1か月間単独で欧米のウォーターフロント開発の状況の調査に行き、また課長時代には都市計画の技術交流で上海市に行ました。水道局長になってからは多くの国際会議に参加するほか、ベトナムのフエ市やダナン市などと活発に相互交流しました。英語は達者ではないのですが、自分のモチベーションをつくる上で国際経験が大きな刺激になったとつくづく思います。国際都市横浜の職員ならそういうチャンスをぜひ若い方に与えてあげるような仕掛けを国際局で考えていただくとよいと思います。 ―― 長岡先生は人材育成や技術継承についてどのようにお考えでしょうか。 【長岡】これからの市の職員はどの局でも対応すべき問題がすごく複雑になってきて、マニュアルどおりに対応すればよいということは多分限られてきていると思うのです。国際協力を行うというときに、横浜あるいは日本とは全く違う状況で対応しなければいけないという経験を踏むことによって、課題解決能力、あるいは発想を柔軟にして解決するというような力が圧倒的につくのではないかと思っています。ですから、人材育成という意味では、普段のルーチンから離れるということは非常に大きいことだと思います。また、長期専門家として海外に行くというだけではなくて、例えば国際会議に参加するだけでも様々な経験をすることができるので、横浜市として様々な局の職員を積極的に海外に連れていって経験させるということを、ぜひやってもらいたいと思っています。 ―― お二人から主に人材育成の観点からの切り口でお話をいただきました。赤岡局長、他の観点も含めて自治体が国際協力を行う意義や役割についていかがでしょうか。 【赤岡】私は現役の行政の責任者として市民に対する説明責任を負うわけなのですが、先ほど長岡先生から横浜市民として誇りに思っていただけるとの大変うれしいご発言がありました。370万人全員が誇りに思ってくれるかどうかはちょっと分からないのですが、 【一同】(笑) 【赤岡】職員の士気や人材育成といったところが、水道で言えば水道料金を払っている市民にどうご理解いただけるかということに関わると思うのです。そういった意味で、人材育成も含めた市役所の活性化といいますか、職員の満足度を上げて市民の満足度につなげるといった意味での活性化であり、そしてまさに土井さんがおっしゃったように、大きな建設をする時代ではない中で、市内では経験できないことが海外では経験できるといった意味で技術継承、人材育成というような市役所の活性化が市民に還元できる一つ大きなことだと思います。  それから、先ほど来申し上げているように市内経済の活性化につながっていくということが、いずれは件数ではなく金額で出せるようにしていきたいと思っています。受注額が幾らで経済波及効果が幾らで、というところを目指していくと、またご理解も違うと思います。これはかなりハードルが高いですが。  また、横浜市は一昨年、国際平和の推進に関する条例を制定したのですが、これは平和が大事ですという条例とは一味違っていまして、国際交流、国際協力、そして多文化共生の取組を通じて国際平和に貢献していくという新しい形の条例で、直接的ではないものの、国際協力は平和につながっていくということです。それを分かりやすく説明するものがSDGsだと考えます。前のMDGsは途上国に対する支援でしたが、SDGsは先進国自らも課題解決していくものです。人口の6割近くが都市に住んでいると言われている中で、SDGsで解決していく課題に対して都市の役割はとても大きいです。Y-PORT事業で関わっている項目は、17の目標のうち、この間数えたら7つありました。改めてY-PORT事業はSDGsの課題解決につながる取組であり、それがやはり都市の役割ではないかと思います。例えば、技術提供等により途上国の二酸化炭素の排出量を減らすことで自国の排出量削減にカウントできる二国間クレジット制度をはじめ、SDGsや国際平和に対する貢献が、国際都市、地方自治体の役割であるとご理解いただけるのではないかと思います。 ―― SDGsの責務などについて土井さんはどのようなお考えをお持ちでしょうか。 【土井】極めて大事だと思います。やはり新型コロナウイルスを経験すると、今までは情報化や経済のグローバル化でしたが、一人ひとりの人間の生活や生命の問題もグローバル化している。パンデミックがこうやって全世界で起きているときに、共通の話題や目標として今一番有効なのがやはりSDGsだと思うのです。国際局ではぜひ政策局や温暖化対策統括本部などと連携して、17ゴール全てを2030年までに横浜市民と一緒に動かすというようなことを目標に掲げてもらえるとありがたいと思います。 ―― 長岡先生はいかがでしょうか。 【長岡】私の大学でも、個々の教員の研究がSDGsの何に関わっているかということを明らかにしなさいと大学当局からしつこいぐらいに言われるようになってきていて、結局、大学全体としては全部のゴールに関わる研究をしているのですよ、とアピールをする時代になっているということはすごく感じます。企業もそうですよね。SDGsに関わっていることを重要な戦略として宣伝に多く使っていますので、横浜市全体として、SDGsの全てに関わって貢献するということは当然やらなければいけないことだし、そういうことで都市のアピール度を高める必要がある時代に来ていると思います。 ■今後の国際協力の在り方 ―― 最後に今後の国際協力の在り方についてお考えをお聞きしていきたいと思います。昨今、社会経済が複雑化・多様化する中で、また現在、新型コロナウイルスの感染拡大により、海外との往来にも影響が生じているというような状況があります。市内経済にも影響がもたらされている現状において、今後を見通し、横浜市の国際協力はどうあるべきか、あるいはどのように変化していくべきでしょうか。まず、長岡先生からお願いします。 【長岡】新型コロナウイルス対策という意味では、皆さんそうだと思いますが、我々大学も現在、遠隔授業中心という状態です。遠隔授業では確かに学生の顔は直接は見えないのだけれど、例えばZoomのチャットなどでは以前と比べものにならないぐらい学生からの質問が来るようになっているんですね。  国際会議、国内の会議もそうですけれども、遠隔というものを使ってむしろ密な議論ができるようになる。海外など遠いところに行くことができなくても交流できるというシステムができ上がってきましたし、そのような環境に慣れてきて、それを活用する素地ができたと思っています。このコロナ時代では、いろいろな制限がある中でも国際的な活動というのは、工夫の仕方で今までよりももっと密にすることが可能だと思いますし、例えば旅費がないから海外に行けない方が多いといった状況でも遠隔システムを併用することによって、より多くの技術者が関わることができるようになるのではないかという感じがしています。これからはICTの技術などを活用して、国際協力がより身近なものになっていくということは大いに期待できると思っています。コロナ時代でそういう経験をしたというのは、ある意味大きな成果だと思いますし、横浜市の国際協力でもそういう形で工夫して、ますます国際協力活動を活性化できるのではないかと思っています。 ―― ICTの活用で裾野が広がるというのは、まさにおっしゃるとおりですよね。土井さん、いかがでしょうか。 【土井】やはり今回、特に新型コロナウイルスで、自分たちの生活のすぐそばにこんな国際的というか世界レベルのリスクがあるのだと改めて痛感しました。自分たちの安全や安心をどう自分たちで納得して、生活意識につなげるかという課題が重要であると思います。私はこの7月まで神奈川県内広域水道企業団に勤めていたのですが、小田原市を流れている酒匂川から水を取って、それを横浜、川崎、横須賀の県東部に持ってきています。横浜市民は実は市内に降っている雨は一滴も飲んでいないわけです。全部、相模川または酒匂川の水に依存していて、あちらの森林が減ると横浜市民の水に影響が出る。また、山梨県道志村の森に土砂崩れがあるとこちらの水に影響が出るということです。水だけではなく、エネルギー、食糧など基本になるものがどうつながって自分たちの生活が成り立っているのかということを先ほどのSDGsなどを使って市はできる限り市民と共有する。国際協力にはそういう市民レベルの視点もこれからは必要になると思います。一緒にアジアやアフリカの問題を考える、お互いに森を大切にする、水の汚濁を防ぐなど、そういう時代に持っていかないと、地球全体が危ないということになってくるのではないかという気がします。 ―― 市民への分かりやすい共有というあたりが、国際協力においてはまだ足りていないのですね。 【土井】市民の側もなかなかそこまで想像力がいかないのだろうと思います。ところが、やはり水や食糧、エネルギーは世界につながっているんだということになれば、それは気候変動の問題も影響するということが分かってくるし、そうしたら自分たちができることも見えてくる、そんな気がします。 ―― 自分事としてとらえることが大事ですね。赤岡局長、いかがでしょうか。 【赤岡】今後の国際協力には、先進国から途上国への一方的な支援ということではなく、双方向の課題解決という視点が必要になってきていると思います。フィリピンの方と今後の話をしていると、先方からマイクロプラスチック問題の提案があるわけです。その前にまずごみの分別をどうするのか、山積みのごみ処理をどうするかといった諸課題がある一方で、先進国でも課題になっている最先端の課題にもいきなり対応していくという環境になっており、こちらの持っている技術だけでいくというよりも、双方の技術を合わせて対応していくという視点がだんだん求められると感じました。  また、AIが今すごく進歩していまして、今回コロナ禍で、在住外国人向けの英語の情報提供を全ページ自動翻訳したのですが、それがびっくりするぐらい正確で、人が翻訳したのではないかと思うぐらいなのです。誤訳を訂正していくと次から間違えなくなって、さすがAIだなと。そういう意味で海外との国際協力のハードルは、ますます低くなるような気がします。AIがここに来て格段に進んでいるなと今回の新型コロナウイルスで実感しました。 さらに、これは少し大げさな話なのですが、例えば国民の平均寿命を延ばしたのは、医療などではなくてベーシックなサニテーションだと。上下水道やごみの処理、栄養状態の改善、そういう基本中の基本があって初めて乳児の死亡率が下がって平均寿命が延びるという中で、感染症も、もちろん目先の対策は大切ですが、一番大事なのは手を洗える環境にこそあると思うのです。そういう基本の地道な国際協力がまさに新型コロナウイルスの感染症対策にもつながってくる、今こそ取組の重要性が増していると思います。 ―― 社会経済が大きな変革期を迎えている中、今だからこそ国際協力を進めていく意義についてご示唆をいただきました。今日はありがとうございました。 *座談会は2020年10月20日に実施しました。 ※1 FS調査 フィジビリティ・スタディ(feasibility study)のことで、新規事業などのプロジェクトの事業化の可能性を調査すること。 ※2 YUSA(一般社団法人YOKOHAMA URBAN SOLUTIONALLIANCE) 横浜市が打ち出したY-PORTセンターの機能強化の動きに呼応し、海外インフラビジネスの機会の拡大と、新興国の都市課題解決に貢献するため、市内中小企業が中心となって設立。