《13》外国人材の受入れ・共生のための環境整備〜国への提案・要望の取組を中心に 執筆 栗林 岳大 国際局政策総務課担当係長 1 国の「新たな外国人材の受入れ拡大」の動きへの対応 (1) 国の制度及び予算に関する提案・要望〈平成30年11月〉  平成30年6月、国においていわゆる「骨太の方針」で、即戦力となる外国人材の受入れ拡大のため、新たな在留資格の創設が示され、同年7月には、「外国人の受入れ環境の整備に関する業務の基本方針」が閣議決定されました。  この動きを受け、8月に、指定都市市長会を代表して、横浜市長が国への提言を行いました。その後、国では「外国人材の受入れ・共生のための総合的対応策検討会」が設置され、議論が進められる中、同年11月に、門山法務大臣政務官、その後、菅内閣官房長官に対して、本市独自要望として、「外国人材の受入れ・共生のための環境整備」について提案・要望を行いました。内容は次の2点です。 @地方自治体が行う生活支援に対する新たな財政支援メニューの創設  在住外国人が地域で暮らしていく上で必要な支援を行うため、関係府省の連携の下、地方自治体が行う生活支援に対する新たな財政支援メニューを創設することを提案・要望しました。また、財政支援に当たっては、ボランティア等の協力を得てきめ細かな支援が行えるよう、委託・補助等による実施も可能にするなど、地方自治体が地域の実情に応じて柔軟に活用できる仕組みとすることなどを提案しました。 A生活支援の拡充に継続的に取り組む仕組みづくり  在住外国人の生活支援の拡充に向けて、国と地方が一体となって継続的に取り組むため、在住外国人との共生に係る基本法を新たに制定し、国と地方の責務を法律に位置付けることについての検討、また、全ての地方自治体が最低限実施すべき対応を示したガイドライン等を策定することなどを提案しました。  在住外国人の生活支援については、これまで各自治体が限られた予算の中で任意の取組として実施してきた状況がありますが、新たな外国人材を円滑に受け入れ、共生していくには、国と地方が一体となって環境整備を進めることが必要です。また、地方自治体による生活支援が求められる分野は非常に多岐にわたることから、拡充に向けて継続的に取り組む仕組みづくりも必要です。  また、自治体によっては、どこまで、支援に取り組むべきなのか、模索しているところもあります。我が国に在留する280万人超の外国人に対する最低限の支援のベースの部分は国により示され、その上で、地方自治体において、地域の実情に応じたきめ細かな取組や、地域の創意工夫を凝らした取組がなされる、そのような形が望ましいと考えます。 (2) 総合的対応策の閣議決定を受けた、新たな支援制度の創設  平成30年12月上旬、参議院本会議で、改正出入国管理法が可決、成立し、12月下旬には、「外国人材の受入れ・共生のための総合的対応策」が関係閣僚会議で決定されました。この総合的対応策では、医療、保健、教育、住宅、金融・通信サービスなど生活の様々な場面を想定した、全126の施策からなる、総額211億円の関連予算の措置がまとめられました。126の施策の中には、地方自治体向けの支援として、行政・生活全般の情報提供・相談を多言語で行う一元的窓口に係る地方公共団体への支援の創設(「多文化共生総合相談ワンストップセンター(仮)」全国約100か所、11言語対応の整備)【20億円】が盛り込まれました。  また、平成31年2月には、そのための具体的なメニューとして、「外国人受入環境整備交付金」が創設されました。内容は次のとおりです。 ○目的:在留外国人が生活・就労等に関する適切な情報に速やかに到達できるよう、一元的相談窓口の整備に取り組む地方自治体を支援 ○交付経費・交付額:整備費:10億円(全額補助/限度額1千万円)運営費:10億円(1/2補助/限度額1千万円) ◆「横浜市多文化共生総合相談センター」の開設  この新たな交付金を活用し、横浜市では、市内在住外国人への総合的な情報提供・相談対応を行う「横浜市多文化共生総合相談センター」を、令和元年8月に、横浜市国際交流協会(YOKE)へ開設しました(図1)。同センターでは、出入国在留管理庁や神奈川労働局等の国や市内の関係機関と連携し、在留資格や労働問題等に対する相談対応の体制を整備するとともに、既存の4言語対応(日本語、英語、中国語、スペイン語)から、電話通訳・ICT機器の導入により、11言語対応(4言語に加えて、韓国語、ベトナム語、ネパール語、インドネシア語、タガログ語、タイ語、ポルトガル語)へと機能を拡充しました。  開設後、同センターでは、以前は対応できなかった、タイ語での年金に関する電話相談が寄せられ、電話通訳の活用により、センターと通訳を行うコールセンター、年金事務所をつなぎ、4者通話で相談対応を行うなど、支援の拡充が図られています(写真)。 (3) 国の制度及び予算に関する提案・要望〈令和元年6月〉  令和元年6月、本市は、国の制度及び予算に関する提案・要望の中で、「外国人材の受入れ・共生のための環境整備」について、提案・要望を行いました。内容は次の2点です。 @外国人との共生社会の実現に向けた国と地方自治体の連携強化  昨年11月と同様に、外国人との共生に係る基本法を新たに制定し、国と地方の責務を法律に位置付けることについて検討すること、また、共生社会の実現に向けた歩みを着実に進めていくためには、地域に根差したNPOやボランティア団体等による活動が不可欠であるため、外国人への生活支援等に取り組む団体の活動を国と地方が連携して支援する仕組みづくりを提案しました。  前述のとおり、新たに国の支援制度が創設されたものの、生活者としての外国人を地域で受け入れる地方自治体としては、外国人支援は一過性のものではなく、継続して取り組まなくてはならないものです。外国人との共生社会の実現に向けて、国と地方が一体となって継続的に取り組むことを担保するため、国における外国人との共生にかかる基本法の制定が求められます。  また、現在横浜市では、横浜市国際交流協会(YOKE)を通じた支援や、本市の「多文化共生市民活動支援補助事業」などによる支援等を行っているところですが、NPOやボランティア団体が取り組む外国人への生活支援や地域社会とのつながりづくり等の活動を国と地方が連携して支援する仕組みづくりがなされることが必要と考えています。 A地方自治体が行う共生に向けた取組に対する財政支援の拡充  新たに、外国人への情報提供及び相談に係る交付金(外国人受入環境整備交付金)が創設されましたが、上限額が一律に1千万円と定められています。地方自治体により、受け入れる外国人数の規模感が大きく異なる実情の中、地方自治体が居住する外国人人口に見合う支援拠点数を運営できるよう、上限額の複層化を提案しました。 2 今後に向けて  ここまで、国への提案・要望の取組を中心に述べてきました。  横浜市の外国人人口は10万人を超え、生活上の様々な場面で、外国人を見かけることも珍しくなく、既に市民として社会の一員となっています。外国人材の受入れ・共生は避けては通れない課題であり、また、人口減少社会の到来や超高齢社会の進展など、直面する課題を乗り越え、本市の持続的な成長を実現していく上で重要です。  引き続き、基礎自治体として、外国人材の受入れ・共生に向けた総合的な環境整備を進めていく上で、自治体として必要な取組について考えるところを以下に記します。 「外国人への情報提供・相談対応、日本語学習、地域とのつながりづくりの推進」  増加する外国人、そして受け入れる地域社会の状況をしっかり踏まえつつ、情報提供・相談対応のほか、日本語学習や地域とのつながりづくり等に係る取組を推進していくことが必要です。  情報提供・相談対応については、前述のとおり推進しているところです。日本語学習に関しては、現在、横浜市域において、NPOやボランティア団体などによる約130の地域日本語教室が開催されており、横浜市国際交流協会(YOKE)が地域日本語教室の運営支援や連携促進等を行っています。今年度は、新たに、文化庁の「地域日本語教育の総合的な体制づくり推進事業(プログラムA)」の採択を受け、地域日本語教室を運営する団体等を対象に実態調査(アンケート調査)などを進めているところです。  また、今年6月に、日本語教育推進法が成立・施行し、現在、国の基本方針の策定に向けた検討が進められているところであり、注視していかなくてはなりません。  地域とのつながりづくりに関しては、現在、南区において、急増する外国人と受け入れる地域社会が共に暮らしやすいまちづくりを目指す取組を国際交流ラウンジにコーディネーターを配置し、モデル的に進めています。外国人が集住、急増する地域において、このような、外国人と、地域コミュニティーのつながりをコーディネートしていく視点が今後より求められてきます。 「国際交流ラウンジの新設」  現在、市内には10の国際交流ラウンジが設置され、地域における身近な相談拠点として、日本語学習、通訳ボランティアの派遣や異文化交流などの取組も実施されています。  入管法改正等も踏まえ、今後も外国人人口の増加が見込まれる中、国際交流ラウンジの重要性は一層増していくものと考えます。各区における外国人人口やその増加傾向、外国人を支援する市民団体やボランティアの活動状況など、地域のニーズと国際化の状況を踏まえて、国際交流ラウンジ新設に向けた検討を進めていく必要があります。 「外国人支援等にかかる広報周知」  3つ目として、横浜市国際交流協会(YOKE)や国際交流ラウンジでの生活情報の提供・相談対応の実施、通訳の派遣、区役所窓口での通訳・生活情報の提供など、外国人支援に関する広報の充実です。市内在住の外国人5千人の方を対象とする今年度実施の「横浜市外国人意識調査」においても、支援制度の認知度を確認しているところですが、ニーズは高いと見込まれます。  ホームページやSNS等を活用した多言語での広報周知、国際交流イベントや日本語教室の場を活用した周知、また、外国人コミュニティを通じた周知等、様々な方法で波及に努め、必要なところへ情報が行き渡るようにしていく必要があります。  さらに、外国人材の受入れ・共生に向けた総合的な環境整備を進めていく上では、国のみでなく経済界との連携・協力という視点も重要と考えます。 「中小企業等における外国人材の円滑な受入れに向けた支援」  地域経済を支える中小・小規模事業者等における人手不足の解消は、喫緊の課題であり、外国人労働者への期待は大きいと考えますが、一方で、中小企業の多くは、外国人採用の経験に乏しく、言語の面を始め、外国人の募集、在留資格に係る手続、雇用管理等、ノウハウが蓄積されていない課題があると思います。  そこで、受入経験豊富な大企業が、例えば地方の経済団体等と連携した講演会や研修会の実施等、中小企業等における外国人材の円滑な受入れに向けた支援に取り組むことなどを経済界に期待したいと思います。 「在留外国人支援に取り組むNPO等への支援」  外国人材が魅力的な労働市場と認識されるために、子女の教育環境の充実や子育てにおける不安を払しょくする取組が必要です。一方で、外国籍児童生徒向けの放課後学習教室や、外国人親子のための地域交流会等の取組等は、体制や財源面など充実が必要な状況となっています。そこで、経済界で基金を設置し、上記のような取組を行うNPO団体等のプロジェクトを助成する等の支援がなされることを期待したいと思います。  上記は、本市が経済団体主催のセミナーの際、ご提案としてお話ししたアイディアの一端ですが、国の受入れ・共生の方針等の下、外国人を地域や職場などにおいて円滑に受け入れ、共生を実現していくため、自治体として必要な取組を進めつつ、引き続き、様々な機関と議論を行い、調整を重ねていきたいと考えます。