コラム 「やさしい日本語」A やさしい日本語の今とこれから 執筆 市民局広報課 新谷 惠理子 ◆やさしい日本語の活用の広がり  1995年に発生した阪神・淡路大震災の教訓から考案された「やさしい日本語」は、平時における情報発信の分野でも広がりを見せています。  例えば、2015年、気象庁を中心に、内閣府・観光庁が連携し、『緊急地震速報の多言語辞書』を作成しました。この辞書は、情報配信事業者等が緊急地震速報を提供する際に必要となる情報の翻訳表現をまとめたもので、外国語6言語とやさしい日本語の訳が収録されています(表1)。  2019年10月には、出入国在留管理庁が日本で生活する外国人向けに「生活・就労ガイドブック」のやさしい日本語版「生活・仕事ガイドブック」を公開し、在留手続や生活に身近な情報を提供しています。  基礎自治体では、東京都港区が、AIを活用した多言語AIチャットによる情報発信を開始し、外国人が生活する上で生じる疑問や生活に関する行政情報の問合せに自動回答するサービスの運用を行っています。また、町田市の「見直そう!“伝わる日本語”推進運動」や綾瀬市の「外国人市民への情報提供ガイドライン」策定等、各自治体で行政文書の見直しが進んでいます。  報道分野においては、NHKの取組が代表的です。NHKでは、2012年から外国人向けにウェブサイト「NEWSWEBEASY」でNHKが報じるニュースから毎日5つの記事をピックアップし、やさしい日本語のニュースを公開しています。「NEWSWEBEASY」のニュースについては、NHKの通常のニュースと比べて外国人、子ども、知的障害者にとってやさしくなっているか調査が行われ、外国人のほかにも様々な人に効果を持つことが報告されています。  観光分野においては、福岡県柳川市が外国人観光客のうち日本語を話したい方向けに、「やさしい日本語」でのおもてなしを掲げ、市民向けに研修会を実施するなど、市民レベルで活用が広がっています。 ◆横浜市での「やさしい日本語」の活用事例  市ウェブサイトでは、外国語に加えて「やさしい日本語」で情報発信を行い、2019年9月・10月に台風15号・19号によって被害が発生した際には、トップページの「重要なお知らせ」欄に被災状況や被害に伴う支援制度の案内を掲載しました。  南区では、来日初期の外国人向けに行政情報や生活に必要な知識、地域の魅力などの情報を体系的にまとめたパンフレット「南区生活のしおり」を2018年に作成し、外国語版4言語と「やさしい日本語」版を配布しています(写真1)。「やさしい日本語」版の作成に当たっては、各部署の職員自らが書き換えを行いました。  市の基幹となる計画や指針についても、「やさしい日本語」による広報を実施しています。写真2は、政策局が発行した冊子「中期4か年計画(概要版)」です。外国語版6言語と「やさしい日本語」版を配布しています。  写真3は、市民局が発行した冊子「横浜市人権施策基本指針(概要版)」です。本指針は本市の施策・事業を人権尊重の視点を持って推進するために策定され、国籍を問わずあらゆる方にご覧いただけるよう外国語版6言語と「やさしい日本語」版を配布しています。 ◆「やさしい日本語」の今後  「やさしい日本語」は行政からの情報発信に有効であるだけでなく、地域における有効なコミュニケーションツールになることも期待できます。  また、本市では、「やさしい日本語」は主に外国人市民向けの情報発信をする際に活用してきましたが、外国人市民だけでなく子どもや障害者などあらゆる方に対してわかりやすい伝え方として可能性を持つ言葉であると考えています。  今後も取組を通じて、行政情報を発信する際には、情報の受け手が理解しやすい文章で伝えるという広報マインドを職員に浸透させるため、意識啓発に取り組んでいきます。