《12》「ヨコハマ・カナガワ留学生就職促進プログラム」の取組 執筆 星野 尊 政策局課長補佐(大学調整課担当係長) はじめに  最近、コンビニエンスストアやファーストフード店などで働く外国人を多く見かける。  平成30年12月末の法務省の統計をみると日本にいる在留外国人(中長期在留者及び特別永住者)は、約273万人となり、10年前に比べ約1.23倍に増加した。特に永住者、技能実習生(※1)及び留学生等が増加している。  留学生については、平成20年に「留学生30万人計画」が策定され、日本が世界により開かれた国へと発展する『グローバル戦略』の一環として、2020年を目途に30万人の留学生の受入れを目指してきた。実際にこの10年間で、国内の大学や大学院、専門学校等で学ぶ留学生は、124,000人から30万人へと2.4倍増加した。市内で学ぶ留学生も3,300人から8,000人へと同様に2.4倍増加している(図1)。 1 留学生就職促進プログラムの選定  「留学生30万人計画」には、卒業・修了後の社会の受入れの推進として、「産学官が連携した就職支援や企業支援」が掲げられている。平成28年6月の「日本再興戦略改訂2016」において、「外国人留学生の日本国内での就職率を3割から5割に向上させることを目指し、各大学が留学生の就職支援のために特別プログラムを設置することを支援すること」が閣議決定された。それを受け、文部科学省では委託事業として、平成29年2月に「留学生就職促進プログラム」の公募を開始した。  その頃、市内の各大学の課題の一つとして「留学生の就職支援について、十分対応が行われていないこと」があった。大学や大学院で学び、高度な専門性を身に付け、日本での就職を志しても就職できず、帰国せざるを得ない状況が生じていた。一方、企業側では、少子高齢化を背景に生産年齢人口が減少しており、平成20年のリーマン・ショック以降の求人倍率は右肩上がりで「人手不足」となっていた。また、「デジタル化やグローバル化の進展に伴い、対応できる優秀な人材の確保」や「後継者不足」などの課題もあった。大卒予定者や転職者は大企業志向のため、特に中小企業にとって深刻な問題となっていた。本市としては「企業や地域の活性化」、「グローバル化の推進」、「産学官連携の強化」などに更に取り組む必要があった。  そこで、大学、企業、本市の3者の目的が一致し、当初は、横浜市立大学と連携して、文部科学省の「留学生就職促進プログラム」に申請する予定であった。しかし、横浜国立大学も神奈川県と連携して申請する予定であった。そのため、「平成29年度留学生就職促進プログラム公募要項」(以下「公募要項」という。)の中で「選定においては、地域バランスを考慮する。」とあり、両者の目的も一致していたことから、4者が連携し、横浜国立大学を代表校として、「ヨコハマ・カナガワ留学生就職促進プログラム」(以下「本プログラム」という。)を申請することとした。  その結果、平成29年6月に全国で12大学が採択され、その1校として選ばれるに至った(※2)。 2 「ヨコハマ・カナガワ留学生就職促進プログラム」の特徴  本プログラムに参加している留学生へのアンケート(図2)によると「日本の就職活動で不安に思っている点」として、「面接」、「筆記試験」、「企業の探し方」、「何をやりたいのかわからない」という回答が多かった。日本で就職を希望する留学生は、日本人の学生と同じ土俵に立たなければならないため、「言葉」、「企業文化」、「就職活動」などについて理解する必要がある。  公募要項には教育プログラムとして「ビジネス日本語教育」、「キャリア教育」、「インターンシッププログラム」の開発、実施が求められており、本プログラムを推進するため横浜国立大学及び横浜市立大学では専任のコーディネーターを配置し、横浜国立大学では「ビジネス日本語教育プログラム」、横浜市立大学では「キャリア教育プログラム」、「インターンシッププログラム」を中心に企画、運営している。  特に5年間の委託期間のうち、最初の2年間を「横浜モデル」として、本市、横浜国立大学、横浜市立大学、市内の経済団体や国際交流団体、民間企業が連携し、大学・都市パートナーシップ協議会(※3)参加大学の留学生も受講対象にして、本プログラムに取り組んできた。3年目以降はこれまでの検証、改良を加え、神奈川県及びその他県内自治体、大学、経済団体等と連携し、県域展開を目指している。  最終的な目標は、県内大学の留学生の日本企業への就職率を30%から50%にすることである。 3 「横浜モデル」の確立  平成29年3月に市内中小企業を対象に、令和元年7月、市内に本社を置く大企業を対象に留学生のインターンシップや採用についてアンケート(図3)を実施した。インターンシップや採用は、大企業の方がいち早く実施しているが、「優秀な人材」や「外国語ができる人材」の確保などのために、「今後、検討したい」という潜在的なニーズは、中小企業の方が高かった。採用に当たって企業が不安に思っている点としては、「コミュニケーション」、「短期間での離職」、「社内の受入体制」、「ビザの取得手続」が上位に上がっており、採用の際には「日本語能力」、「協調性」、「長期の就労」、「バイタリティ・熱意」といった点を重視しているという結果だった。本プログラムは、正にアンケートで明らかになった課題に対応しており、留学生に対する就職支援のみでなく、企業にとっても「キャリア教育プログラム」や「インターンシッププログラム」に参加することで、留学生に対する理解や社内の受入体制の整備などの一助となっている。これらプログラムを推進していく上で、経済団体や国際交流団体、市民ボランティアなどにも参画や協力をいただいている。本市では、大学、経済団体、関係団体、本市関係部署等で組織する「留学生就職促進プログラム実行員会」を開催し、本プログラムの取組について、情報提供や意見交換等を実施しているほか、留学生のインターンシップや採用に関心がある企業への訪問や様々な場を捉えて本プログラムを説明することで、企業の参加を促している。また、大学・都市パートナーシップ協議会参加大学への各教育プログラムの周知、企業と留学生の交流会や合同企業説明会なども行っている。このように、この2年間で「オール横浜市」として取り組む体制を構築してきた。 4 今後の方向性  令和元年度は、本プログラムの折返し地点となるが、5年間の委託期間終了後(令和4年度以降)には、持続的な就職支援体制つまり「自立化」が求められている。現在、自立化や県域展開について、横浜国立大学、横浜市立大学、神奈川県及び本市で、方向性や取組内容等を検討している。既に県内にキャンパスのある59大学に、本プログラムの情報提供が行われ、留学生の参加を促している。それ以外にも県内の自治体や主要大学、経済団体や関係機関とも連携等を行う必要がある。  留学生の日本企業への就職に対する意識は、本プログラムが始まった2年前と比べ変化してきている。例えば、これまで日本企業の給与水準は高かったが、出身国との差が縮まっている。また、在留資格(就労ビザ)については、日本も緩和されてきているが、日本同様に生産年齢人口の減少が進んでいる国では、外国人材の受入れを行うため、積極的に政府が雇用管理や就労ビザの緩和などを進めている事例もある。さらに日本企業の場合、学生時代に学んだことが生かせない、就職後、どのようなキャリアを積めるのか分からないなどの課題もある。このようなことから日本企業への就職を敬遠する留学生もいる。  日本は平成20年をピークに人口減少に転じ、生産年齢人口も減少している。AI(人工知能)、IoT(モノのインターネット化)、RPA(ロボットによる業務自動化)が進められているが、「人手不足」を全て解決することは難しいと考えられる。日本は、これまで、女性の社会進出、障がい者雇用、高齢者の就労機会の提供などを進めてきた。外国人の雇用についても、まずは国として積極的に推し進めるべきである。令和2年度の文部科学省の「外国人留学生の国内就職支援」や厚生労働省の「外国人材受入れの環境整備」の予算要求額は、今年度に比べ増額となっている。外国人により一層、日本に定着してもらうのであれば、もう一歩踏み込み、福祉サービスや教育等の支援はもちろんのこと、法整備など環境や制度を整えるべきである。  横浜市も外国人人口が10万人を超えた。平成26年の約76,000人から5年間で3割増加し、今後も一層増加すると見込まれている。本市も、外国人材の地域での円滑な受入れに向け、生活支援の拡充など取り組んでいるところではあるが、市内の中小企業の支援、経済や地域の活性化等という視点からも本プログラムに取り組む意義があるだろう。 ※1 技能実習生  入国管理法における外国人の在留資格の一つ。外国人が日本の企業などで培われた技能や知識などを出身国に移転を図り、経済発展を担う「人づくり」を目的としている。 ※2「留学生就職促進プログラム」選定大学  北海道大学、東北大学、山形大学、群馬大学、東洋大学、横浜国立大学、金沢大学、静岡大学、名古屋大学、関西大学、愛媛大学、熊本大学 ※3 大学・都市パートナーシップ協議会  都市を構成する多様な主体である市民や企業、行政と大学が互いに成長、発展する関係を構築するため、平成17年3月に設立。現在、市内にキャンパスを置く26大学と本市に隣接する2大学の合計28大学が参加して、連携体制を構築している。