《10》外国人の就業状況と本市の取組〜中小企業の人手不足と企業誘致の視点から 執筆 手塚 清久 経済局企画調整課長 冨岡 典夫 経済局国際ビジネス課長 伊藤 智啓 政策局統計情報課担当係長 1外国人の就業状況 (1)就業者数  5年ごとに実施される国勢調査(総務省)の結果から、外国人の就業状況を把握することができる。  直近の2015(平成27)年の結果をみると、本市に常住する外国人のうち、就業者(※1)は25,327人で、年を追うごとに増加傾向にある。  また、15歳以上人口に占める就業者の割合を示す「就業率」は41.9%である。これは日本人の就業率(52.3%)よりも低く、前回2010(平成22)年に比べ就業者が増えているにもかかわらず、率は下がっている。これについては、就労目的以外の外国人、具体的には留学や家族滞在などの在留資格も近年増えており、その結果、相対的に就業者の割合が低下したものと考えられる(図1)。 (2)国籍別  就業者を国籍別にみると、人数の多い順に、 @中国9,663人 A韓国・朝鮮4,949人 Bフィリピン2,449人 C米国1,079人 Dベトナム941人となっている。  次に、国勢調査で用いる産業分類を、便宜的に大まかな仕事の分野に置き換えて分類してみると、従事する分野は国籍ごとで傾向が分かれる。主な分野で就業割合が高い国は、おおむね次のとおりである(表1)。 ・「卸売・小売、飲食・宿泊」―中国、韓国・朝鮮、タイ ・「建設・製造」―フィリピン、インドネシア、ベトナム、ブラジル、ペルー ・「学術研究・教育」―インド、米国、英国 (3)分野別  就業者を分野別にみると、人数の多い順に、 @製造3,603人 A飲食・宿泊3,230人 B卸売・小売2,833人 C学術研究・教育2,740人 D運輸・情報通信2,605人 となっている。  2010年から5年間の就業者数の増減をみると、 ・飲食・宿泊11.9%減 ・卸売・小売5.4%減 ・運輸・情報通信4.8%減 の3分野で減少しており、代わって、 ・医療・福祉27.4%増 ・建設20.2%増 の2分野で大きく増加している(表2)。 (4)外国人就業者への依存度  就業者全体(日本人+外国人)のうち外国人就業者が占める割合は、2015年の時点で1.5%である。  これを外国人への依存度としてみた場合、「飲食・宿泊」の分野が3.6%と高い率となっている。実感として、都市部では、訪日外国人への接客やサービス提供のため、外国人を雇用するホテルやファーストフード店をよく見かける。昨今も様々な分野で外国人材のニーズが高まってきていることから、2020(令和2)年国勢調査で依存度がどう変化するのか、結果を注目したい。  日本人の生産年齢人口が減少し、深刻な人手不足が確実視される中、対応策として、各方面で外国人の受入拡大に向けた動きが急速化している。今後の国内の雇用情勢や外国人の受入体制の整備により、各分野における比率も変化してくるものと思われる。 2 人手不足が深刻な市内中小企業 (1)有効求人倍率の上昇  横浜市の有効求人倍率は、1.26(平成28年平均)、1.39(平成29年平均)、1.48(平成30年平均)と近年上昇し、仕事に対して人が足りない状態が続いている。「社員を募集しても応募がない」、「応募はあるが、求める人材が来ない」、「熟練労働者の退職」など、特に中小企業において人手不足が深刻な状況となっている。人手不足感はほぼ全産業に広がっているが、その深刻さの度合いは、業種や規模によって異なる。建設、運輸、飲食サービス、医療・福祉などの非製造業や、規模の小さい企業で人手不足感が強く、事業の継続に必要な人員を確保できなかったことによる「人手不足倒産」も増加し問題となっている。 (2)横浜市景況・経営動向調査特別調査を通じて  こうした企業の人手不足の状況を具体的に把握し、施策につなげていくため、経済局では景況・経営動向調査特別調査として、直近では第105回(平成30年6月実施)において、市内企業に対してアンケート調査(1,000社対象、回答率54.3%)を実施した。この調査の中で、新たに採用する人材として、「外国人」に焦点を当て、雇用(又は雇用を検討)する@理由、A課題、B必要と思われる支援について尋ねた。 @ 外国人を雇用(又は雇用を検討)する理由  まず、外国人を雇用(又は雇用を検討)する理由について、全産業でみると「外国人としての語学力・国際感覚等の強みを発揮してもらうため」(42.3%)が最も多く、次いで「新卒採用でまかなうことができない人材を確保するため」と「多様な人材を雇用することにより、社内活性化を進めたいため」(30.8%)が同率となっている。規模別にみると、中小企業では「新卒採用でまかなうことができない人材を確保するため」(44.4%)が最も多くなっていることに特徴がある。 A 外国人を雇用するに当たっての課題  次に、外国人を雇用するに当たっての課題について、全産業でみると、「言語・文化・宗教の違いによる不安がある」(51.4%)が最も多く5割を超え、次いで「受け入れに当たっての人事制度や社内教育が進んでいない」(22.5%)、「自社の業務内容が適さない」(18.6%)、「長期間、継続した雇用が望めない」(16.0%)の順となっている。 B 外国人雇用に当たり求められる支援制度  外国人を雇用するに当たり必要と思われる支援について全産業でみると、「留学生や在留外国人向けインターンシップの受入支援」(26.7%)が最も多く、次いで「企業と応募者のマッチング機会提供や法規、各種制度の説明会等の実施」(16.8%)、「採用のための個別相談やアドバイス」(15.8%)、「他企業の採用事例の紹介」(14.9%)の順となっている。  この調査結果も踏まえ、次の項では、特に中小企業における外国人就業者の増加に向け、本市がどのような施策・事業を実施し、支援を行っているか、今後の方向性と併せてお伝えしたい。 3 外国人就業者の受入拡大に向けた取組 (1)インターンシップ生受入事業〈IDEC横浜〉  横浜市の中小企業支援センターとして唯一指定されている横浜企業経営支援財団(IDEC横浜)は、中小企業の人材不足の解消に向け、取組を進めている。平成17年度からは、日本のジェトロに相当する台湾貿易センター(TAITRA)の機関である国際企業人材育成センター(ITI)の学生に向け、横浜市内企業へのインターンシップ受入事業を実施している。これまで、延べ277社の横浜市内の企業が、310名の学生を受け入れ、自社の海外事業展開や社内の活性化などに役立てている。卒業生の多くは台湾の主要企業で活躍しているが、横浜の受入れ企業のうち7社が12名のITI卒業生を採用した実績もある。例えば、大江電機株式会社(南区)では、台湾からのインターンシップ生の研修受入を継続的に行い、採用にもつなげている。 (2)外国人への就労支援 @スタンバイ〜横浜で働く!ハマを支える求人特集!外国人材募集の特集ページ  市内中小企業の採用支援事業として、民間企業と連携し、平成30年に市内中小企業向け求人サイトを開設した。サイトへの求人掲載費用やマッチングの成功報酬等、中小企業が無料で採用活動を行えるよう、負担が軽減された制度設計となっている。さらに、「求人ページ」の作成支援や採用に関するアドバイスも受けられ、中小企業の採用担当者に採用活動のノウハウが蓄積される視点も盛り込まれている。  令和元年7月には、掲載企業の求人募集枠として、「外国人材」のカテゴリーを新設するなど、今後もサイトの充実を図るとともに、求人サイトの認知度をより一層高めるため、バスや市営地下鉄と連携した広報などを通して、PRを強化していく。 A外国人材就労支援事業  日本における就職活動や企業に関する情報が不足し、また市内中小企業等と直接交流ができる機会が少ないなど、就労に苦慮している外国人が多数いることから、外国人材就労支援事業を令和元年から実施している。日本での就職活動の概要や企業研究の仕方など、就職活動に必要な情報を分かりやすく説明する「外国人のための就職活動応援セミナー」と、横浜で就職を希望する外国人と外国人の受入れに意欲的な市内中小企業が直接交流する「合同企業説明会(外国人のための就職応援フェア)」を年2回開催。セミナーは2部構成で行い、受講する外国人の日本語の習得レベルが様々なことを考慮して、1部の講義については対応言語を英語で行った。2部では、より実践に近い形で、模擬面接形式でのロールプレイングを参加者全員が行った。事後のアンケートでは、「日本のビジネスマナーを学べた」「やる気が出てビジョンが明確になった」「面接での自分の回答内容が不足していることが分かった」などの声があった。  「合同企業説明会(外国人のための就職応援フェア)」では、1回目を令和元年10月に新都市ホール(西区)で開催し、39社の企業の参加と250人を超える来場者があった(写真)。来場者は、企業の説明を聞きながら熱心に質問を行っていて、用意した椅子に座りきれないブースもあった。2回目は令和2年1月に予定しており、外国人が市内中小企業等への理解と就労先としての関心を高めるとともに、自社の魅力等を直接アピールする機会を提供していく。 4外国企業の立地促進 (1)横浜の魅力とビジネス環境の優位性  横浜は、東京都心や羽田空港への交通アクセス、日本有数の国際貿易港、東京都心に比べて割安なオフィス賃料、研究者・技術者をはじめとする豊富な人材、進出企業に対する助成金など、ビジネスに必要な都市環境を持ち合わせている。  外国企業にとっては、これらに加え、外国企業が日本進出する際の立ち上げコストの低減や日本市場参入の円滑化を目的として設立された、外資系企業が入居しやすく、ビジネスサポートを受けやすい施設があることも魅力の一つとなってきた。オフィス機能のほか、研究開発や組み立てなど、日本への進出を希望する外資系企業の様々なニーズに応えられる環境となっている。  外資系企業が進出を決めるに当たっては、外国人就業者にとって横浜が暮らしやすい土地であるか、という視点も重要である。本人や家族が受けられる医療や、子供の教育環境など、生活していく上で非常に重要な要素となるが、市内には横浜インターナショナルスクールをはじめ、ドイツ人学校やインド人学校など10の外国人学校があることも強みとなっている。 (2)外資系企業誘致の施策展開、実績  横浜市企業立地促進条例は平成16年の制定以降、企業立地を取り巻く環境の変化等を踏まえた条例改正を行ってきた。平成24年には、この条例に多国籍企業誘致を強化する要素を追加し、羽田空港の国際化などを踏まえ、アジアを中心とするグローバル企業の誘致にも力を入れていく方針とした。この制度や成長産業立地促進助成、外資系企業向けインキュベーションオフィス(WBC)を活用して、中国、韓国、台湾の企業立地が進み、近年ではベトナム企業の立地も増えている。  外国企業の市内立地数をエリアに着目してみると、平成の時代に入り、欧米企業の数が圧倒的に多く、平成5年度から30年度までの26年間で、欧米から横浜に進出した企業は350社を超えている。また、アジア企業の立地も近年加速化し、平成5年度から平成20年度までの16年間は39社、平成21年度から平成30年度までの直近10年間で85社のアジア企業が横浜に進出した。  また、本市は、外資系企業の誘致や市内企業のビジネス支援などを目的として、海外事務所を設置している。  ドイツ・フランクフルト、中国・上海、インド・ムンバイに続き、昨年には新たに米国・ニューヨークに米州事務所を開設した。これら4か所の海外事務所は、現地の企業と直接面談し進出先としての横浜の魅力をアピールするなど、誘致活動に取り組んでいる。 (3)進出外資系企業へのサポート  横浜に進出した外資系企業が市内に定着し、ビジネスを継続・展開できるよう、様々なサポートを行っている。市内で行われるビジネスセミナーなどの情報を定期的に提供するほか、外資系企業同士のネットワークづくりを支援する「外資系企業交流会」を毎年開催し、令和元年度には40社を超える企業が参加している。また、外国人材とのマッチング機会として、前述の「合同企業説明会」に参加を呼びかけ、令和元年10月の合同企業説明会には5社の外資系企業が参加した。 5 おわりに  本市の生産年齢人口(15〜64歳)は、2020年からの30年間で、約55万人減少すると推計されている。企業は、新卒や第2新卒に加え、外国人、キャリアブランクのある女性、シニア層も幅広く視野に入れ、採用していくことが求められる。AI時代の到来による省力化は未知数だが、それでも人材は不足し、必要とされる労働力を、中小企業はターゲットを絞って確保していかなければならない。その取組を行政としてサポートしていく必要がある。  市の施策として、これまでは外国人の就業に関して、特に専門性を持った「高度人材」にターゲットを絞り政策を展開してきた。外国人の受入れに関し、国は外国人就業者を「技能実習生」とし、「労働力」としては捉えていない。国の制度はあくまでも、日本で習得した技術を母国に持ち帰って活躍することが目標とされている。一方で、市内中小企業の人手は不足し、現場の深刻さは年々度合いを増している。「雇用した外国人が仕事を覚え、技術が身についても1〜2年で母国に帰国してしまい、継続的に人材を活用できず、したがって常に人材確保の採用活動に追われるなど、中小企業には大きな負担がかかっている」との声も伺っている。人手不足への切り札として「外国人就業者」が選択されることも視野に入れ、区局を越えた関係部署が情報を共有し、連携を密にして、外国人の生活支援を含めた総合的な観点から今後の施策を展開していくことが求められる。  企業誘致の視点では、横浜経済を持続的に発展させるために、私たちは様々な施策を展開している。既存産業の活性化はもちろん、経済波及効果の大きいグローバル企業やブランド力を持つ企業の立地を引き続き働きかけることと合わせて、外資系企業をはじめ、ベンチャーを含む市内企業との交流から生み出されるオープンなイノベーション環境を創出していく。日本人、外国人など国籍を問わず、人と人との出会い・つながりを創出することを意識した施策事業を展開し、人的な結びつきが新たなビジネス創造につながっていく、そうしたネットワーク環境を提供できることが横浜の強みであり、今後も力を入れて取り組んでいく必要があると考えている。 ※1 就業者  本稿では、外国人労働者を国勢調査の定義に基づき「就業者」として表すこととする。  就業者とは、労働力人口から完全失業者を引いたもので、調査期間中に少しでも収入を伴う仕事をした者をいう。