《8》地域の取組 C〈インタビュー〉地域子育て支援拠点「にこてらす」における外国人相談対応 立原 久美子 瀬谷区子育て支援拠点「にこてらす」スタッフ 林 静(祁 静) 「にこてらす」スタッフ 星野 ハイン(グェン ティー ハイン) 「にこてらす」スタッフ 稲田 亜希(ダン ティー トゥー) 「にこてらす」スタッフ 舩矢 多紀子 国際交流Seya代表 聞き手 編集部 ─ 今日は、まず、外国人スタッフが活躍している瀬谷区地域子育て支援拠点「にこてらす」の皆さんと、主に子育て中のお母さん方が「にこてらす」に子どもを預けながら日本語の勉強をするなど、「にこてらす」とも連携をしている、日本語学習グループ、国際交流Seyaの舩矢さんに、お話を伺っていきたいと思います。 まず、子育て支援拠点は各区に1か所設置されていますが、瀬谷区の拠点の特徴はどのようなところでしょうか。 【立原】駐車場があることもあり、瀬谷区外の方の利用がとても多く、全体の3分の1近くを占めています。また、広い庭があります。外遊びをさせたいと思っても、公園だと飛び出したら困るとか、泥んこになったらどうしようかといった悩みがある中で、安全が保たれた空間の中で、子どもたちは思い切り泥遊びもできます。そして、今日同席しているベトナム人、中国人の3人のスタッフがいてくれること、このことが大きな特徴になっていると思います。 ■「にこてらす」のスタッフになって ─ それでは、スタッフとして働いている、林さん、グェンさん、ダンさんに、「にこてらす」と関わるようになったきっかけを伺いたいと思います。 【林】瀬谷区に住んでいたとき、回覧板と掲示板で子育ての「出張ひろば」(※1)があると知って、近所の中国のママと約束をして一緒に行くことにしました。そして、実際に行ってみたら、子育て支援というよりも友だちの感覚でスタッフが接してくれて、とても感じが良かったんです。また、その頃、私は日本語教室にもう一回行って勉強しようかなと思って、ここの国際交流Seyaの教室に来ていたのですが、中国のママから「1階のところで子ども を遊ばせたりできるよ」と教えてもらって、それで「にこてらす」も利用するようになりました。そのときは「出張ひろば」を同じ「にこてらす」がやっているとは思っていませんでした。 【グェン】私が「にこてらす」に来たきっかけは、近くに住んでいるベトナム人のママの友だちに付き添って区役所へ行って通訳の手伝いをしたときに、ダンさんたちも来ていて、「遊びにおいで」、「(同じ建物内に)日本語教室もありますよ」と誘ってもらって、それで遊びに行って日本語教室にも通い始めました。 【ダン】私は2010年からここの国際交流Seyaの日本語教室にお世話になっていて、それから「にこてらす」もできたので、子どもを遊ばせながら日本語教室にも通っていました。そして、ある日、「にこてらす」の施設長さんから、「ベトナムのお母さんが来ているので通訳に入ってくれますか」と声をかけていただき、何回かやっているうちに、「子どもが幼稚園に入ったらここで働きませんか」と言われて、それがすごくうれしくてスタッフになりました。 ─ スタッフになってみて、いかがですか。 【ダン】スタッフになったことで、顔見知りのお母さんが増えました。いろいろな子どもに関わっていると子育てのこともよく分かってきて、心強く思っています。利用者の方の子育ての話が自分の勉強になることも多いです。 【グェン】私は最初は長く勤める予定ではなかったんですが、やはり働いている間に楽しいなとか、すごい意味のある仕事だなって思いました。日本人のママの子育てを見て、こういうやり方もあったんだとか、こういうふうに伝えたら子どもが言うことを聞いてくれるんだとか、学ぶことができてよかったと思いますし、外国人のママたちにも伝えたいと思っています。 ─ 日本の子育ての流儀とか、文化の違いを感じることもあると思いますが、日本人の子育てを見て、ちょっとびっくりしちゃったとか、全然違うなって思ったことは、例えばどんなことですか。 【グェン】まだ1歳ちょっとなのに靴下と靴を自分で履かせる。「それはできないでしょ」と最初は思っていましたが、でも、できている。やらせて練習すればできるようになるんだと思いました。 ─ 林さんはいかがですか。 【林】私は、利用者としてこちらに遊びに来ているときは、スタッフの人はすごく楽しそうだと思って見ていましたが、実際にスタッフとして入ってみたら、いろいろ見えないところで気配り、目配りをしなければならなくて、表から見るような楽しいことだけではないなと思いました。いろいろな課題があることが分かって、子育て支援も大変だなと感じています。それから、日本のお母さんは、子どもが少しできたら、すごく褒めますよね。今は段々慣れてきて、子どものやる気が出るからいいことだと思うようにもなりました。いろいろと文化の違いもありますね。 ■様々な相談が ─ 皆さんが受けている相談の内容を具体的に教えていただけますか。 【ダン】日本語が分からなくていろいろな手続ができなくて困っているなどの相談があったりします。ご夫婦の両方がベトナム人で日本語が分からないと、保育園のこととか、住んでいる団地の中での手続など分からないことがいろいろあります。 ─ 子育て以外の相談もあるのですね。 【ダン】そうですね。 【立原】その辺りは、私たちも大きな課題だと考えています。子育て支援拠点として相談の窓口ではあるのですが、相談のつなぎ先が住宅供給公社であったり裁判所であったり行政の窓口ということがすごく多くなっています。そして、そこに電話をかけても、つないだ先は外国語の対応をしていないことが多く、結局は彼女たちが間に入って通訳をすることになってしまいます。外国人のますますの増加を考えると、早く手を打ってほしいと本当に思います。 ■日本語を学ぶこと ─ お話を伺っていて、国際交流Seyaとのつながりが思っていた以上にあるんだなと驚きました。日本語教室の会を立ち上げたきっかけを教えていただけますか。 【舩矢】きっかけは、小学校に上がるお子さんのいるブラジル人のお母さんから、「娘に日本語の手ほどきをしたい」、「安心して小学校に入学させたい」、「誰かあいうえお≠ゥら日本語を教えてくれませんか」という問合せがあり、子どもを思う母親の気持ちは同じでしたから、早速引き受けて、一人の生徒さんに友だち2、3人で教えたのが始まりです。その後は、あっという間に口コミで広がって、1年後には10人近い人が来るようになりました。そういう形でもう27年目に入っています。 ─ 小学校での外国人対応は、日本語学習支援拠点施設の「ひまわり」などある程度進んでいますが、ボランティアの力は大きいですね。保育園など就学前についてはどうでしょうか。 【林】泉区役所では「いずみ多文化共生コーナー」があって相談に対応してくれる人がいますので、保育園からのお手紙を通訳してくれたりしています。でも、やはり保育園の先生と直接お話をするのは難しいというのはあります。今はスマホの通訳アプリを活用することもできてきて、すごく便利になったとは思いますが。 【舩矢】私は、働く、住む、暮らすことを覚悟して来日された外国人の方にはやはり日本語を覚えてほしいと思っています。いつも通訳が付いて歩いたり、どこの窓口にも通訳を置けるわけではありませんので、やはり最初に時間がかかっても、多少お金がかかっても、日本語をしっかり覚えてほしいと思いますし、日本語を覚えてもらう施設をもう少し増やすべきだろうと思っています。 ─ その辺りはいかがでしょうか。同じ国の人でコミュニティができていて日本語が分からなくても困らないということもあるのでしょうか。 【グェン】夫婦の両方がベトナム人の場合は、子どもは外で日本語、家でベトナム語を話せば両方話せるようになります。ですので、家に帰ったら子どもが「今日何した」とか「何がいる」とかベトナム語で教えてくれれば、それほど困らないと思います。職場でも周りがベトナム人が多い環境であれば、日本語が少し分かれば生活は困らないだろうと思っている人が多いように思います。 【ダン】子どもが日本語ができるようになって通訳してもらうのを待っている親も多いです。(笑)でも、「家に帰ったら翻訳とか通訳をしないといけない」と、子どもに負担がかかっていることもあると思います。 【立原】国際交流Seyaの日本語教室に行き始めた人に、「何で頑張ろうと思ったの?」と尋ねたら、「子どもが保育園に行って言葉が分かるようになって、英語の歌を歌ったり、日本語の歌を歌ったりしてくれる。自分も子どもに負けていられない。」と言っていました。そういうことがきっかけの人もいます。 【グェン】そういうのはあります。分からないと、子どもについていけないようで怖く感じます。 【林】国にすぐ帰る人もいますが、日本に長く住むという人には、私たちも「まず最初に日本語を覚えなさい。今は日本語が分からないから目の前のことは私たちが手伝ってあげるけれども、長く住むと必ず自分でやらなければならないことがたくさんある。自分の子どものこともあるし、若いうちに日本語を勉強しなさい。」と伝えています。 ─ 受け入れる側としては、どのような対応を優先して行っていったらよいと思いますか。 【ダン】やはり日本語が分からずに急に来日して小学校1年生とかに入ってくる場合が一番困っていて大変そうに見えます。親も日本語が分からないと、子どもが手紙を持って帰っても読んでもらえませんし、準備もできません。保育園もそうだと思いますが、相談できる人がいると助かると思います。 【林】日本のお母さんも初めてのお子さんだといろいろ調べたりすると思いますが、高校は公立の学校は1校しか受けられないとか、日本の制度は自分の国とは違うので、私たちには全く分かりません。ですので、私はこの間、外国人のための高校受験説明会に行ってきました。外国から来て3年以内の子どもが対象で、自分のうちは対象ではありませんが、分からないと何もできないので、とりあえず1回勉強しに行きました。─積極的に情報収集をしたんですね。 【林】自分から行かないと。(笑)日本語が分からないと何も聞けないから、日本語をまず勉強しないと。来日して間もない人については、行政とか周りの人が手伝ってあげることでOK。でも、長くいる人はやっぱり勉強しないとと思います。 【グェン】日本語を覚えなくてはいけないというのは、多分ママたちは分かっていると思います。直接先生と会って話し合うことができないなど、何かきっかけがあると、気持ちが入って頑張るように思います。 ─ 勉強する気になったときに、つながる場所があるということが大事だということですね。 【立原】お子さんが小学校に入るときなどに国からお子さんを連れて来られるということが多くあります。その段階ではお子さんは何も日本語を話せない状態で入学されるため、関連団体が学校に母語支援で入ったりする必要も出てきています。また、お子さんを連れて日本語を学べるという環境ということでは、やはり国際交流Seyaの日本語教室と子育て支援拠点の連携というところは非常に大事だと考えています。 ■最後に ─ ここまで、外国人スタッフの皆さんの「にこてらす」と関わるようになったきっかけ、そして相談対応のことから日本語を学ぶことなどについてお話を伺ってきました。施設を利用する立場であった方が施設のスタッフになるということもすごく珍しいなと思ったのですが、スタッフとして入ってもらうことについて、「にこてらす」として何かお考えはあったのか、改めて教えていただけますか。 【立原】基本的に子育てというのは外国の人であっても日本人であっても結局は同じだということだと思います。「にこてらす」には「おいでよ!」という毎月発行している広報紙があるんですが、そこにはいろいろな国の言葉で、誰でも「にこてらすに遊びに来てね。まってるね」というコンセプトというか、メッセージを載せています。外国人のスタッフがいてくれることで、外国人のお母さんたちがここに来てくれるようになる、そういう土台づくりをしてきたんだなと思っています。 ─ ありがとうございました。それでは、これで第1部を終わりにしたいと思います。いろいろとお話をお聞かせいただき、ありがとうございました。(第2部に続く) ※1 出張ひろば  常設のひろばに来にくい地域や、利用ニーズがある地域に出向いて開催される親子が集う場 第二部 舩矢 多紀子 国際交流Seya代表 岡部 修 にほんごせや代表 聞き手 編集部 ─ それでは、瀬谷区内で日本語教室をされている、にほんごせやの岡部さんと国際交流Seyaの舩矢さんにお話をお伺いしたいと思います。 まず、現在の活動状況について教えてください。 【岡部】現在、ボランティアのスタッフは11名で毎週火曜日の夜間に、こちらの「せやまる・ふれあい館」(※2)で教室を開いています。生徒さんは現在14名で、うち10名の方がベトナムの方です。区役所のボランティア講師養成講座の受講者が平成15年に立ち上げた会です。日本語を学習し、更に日本の文化や習慣を紹介することで国際交流の一助となればと夜間の日本語教室を始めました。 【舩矢】現在、スタッフは26名で、登録の学習者は37名です。国籍別では11か国となっています。毎週水曜日の午前に「せやまる・ふれあい館」の部屋をお借りして教室を開いています。 ─ 「にこてらす」のスタッフの方々は、日本語教室にも通われていたということですが、前半のお話を聞いていていかがでしたか。 【岡部】一番感動したのは、林さんが「自分で情報収集もしないと」と話していたことです。情報を自ら取りに行く姿勢は素晴らしいですね。 【舩矢】子育て世代の方のお話を伺いながら思っていたのですが、私どもの教室で最近目立ってきたのが、子育てを終え、子どもも就職し、夫は定年間近のシニアの女性です。子どもは学校で日本語を習い、夫は職場で日本語を覚え、自分は若いうちは自国語のコミュニティができていて、お買い物もスーパーなど日本語をあまり話さなくても生活できてきたのが、年をとりコミュニティも崩れていって、気がつくと自分が一人になっている。おしゃべりの相手もいない、病院に行っても病状が話せないということで、少し意欲のある人が習いに来はじめています。友だち言葉の日本語ではなく、「きれいな日本語を話せるようになりたい」と勉強にみえています。 ─ 岡部さんのグループはいかがですか。 【岡部】そうですね。以前は中国の方が多かったんですが、今はベトナムの方が多くなっています。N3(※3)レベル合格という条件で来た人が多く、介護士の資格も持っています。ただし、日本語は話せるという条件で来ていても会話は難しいこともあって、もう少し勉強したい、N1(※3)までの資格を取ってという目標を持った生徒さんが今は大半です。通い続ける人と仕事優先ですぐに辞めてしまう人の二極化が進んでいるように思います。 ─ 日本語教室の運営に関するご苦労も多いと思いますがいかがでしょうか。 【舩矢】国際交流Seyaの場合は、スタッフと学習者を合わせて30〜40人の部屋が必要ですが、その確保に苦労しています。にこてらすや区社協やケアプラザの方にもご協力をいただいていますが、毎月毎月出向いて半年先の会場予約をしなければならず、他団体と重複すると抽選です。ボランティアも頑張れる部分は頑張りますが、多くの外国人を受け入れていくのであれば、もう少しボランティアが活動しやすい環境を整えてほしいとつくづく思いますね。 【岡部】私たちの教室は、夜間なので部屋の問題はありませんが、スタッフの確保が難しいということがあります。うちのメンバーの平均年齢は70歳くらいでしょうか。私たちのときは、会社が60歳で終わって、あと20年どうしていこうかなという人が結構いましたが、今は定年も延びて、それから勉強しよう、ボランティアをやろうという人は少ないのかもしれません。また、スタッフは英語や母国語でなく、日本語を使った授業をするよう努力しています。それから、生徒さんにもスタッフにも、会に宗教、政治、お金のことは持ち込まないように、勉強に集中するようにと、それは強く言っています。そこは大事にしています。 ─ 担い手不足は自治会活動でも言われています。昔と状況は違ってきていますよね。 【岡部】本当に深刻な問題です。国際化と言いますが、状況を踏まえた対応が必要です。 【舩矢】メンバーも高齢になっていきますし、健康上の問題も出てきます。どうしたらやりがいのあるボランティア活動ができるか。区役所にも相談していますが検討していきたいです。会場や担い手など課題もありますが、ボランティアとしての自由度や理念を大事にしながら今後も活動していきたいと思います。 ─ 本日はありがとうございました。 ※2 せやまる・ふれあい館  子どもから高齢者まで、幅広い年代の人が利用できる瀬谷区内の複合施設。地域子育て支援拠点「にこてらす」のほか、福祉保健活動拠点、区民活動センターなど6施設が入る。 ※3 N3、N1  日本語能力試験による認定のレベル。N1(難しい)からN5までの5つのレベルがあり、N3は「日常的な場面で使われる日本語をある程度理解することができる」、N1は「幅広い場面で使われる日本語を理解することができる」。