《8》地域の取組 BつづきMYプラザ「学校との連携」〜外国につながる子どもへのより良い支援のために 執筆 林田 育美 都筑多文化・青少年交流プラザ(つづきMYプラザ)館長 1 都筑多文化・青少年交流 プラザの概要  平成19年11月に開設された都筑多文化・青少年交流プラザ(愛称:つづきMYプラザ、以下「MYプラザ」という。)は、港北ニュータウンを擁する横浜市都筑区にあります。国際交流・外国人支援の拠点機能と青少年の地域活動拠点機能を併せ持ち、同じ場所で同じスタッフが、異なる分野の事業を担う特色ある施設です。そしてこの特色を生かすため、二つの分野が重なる「外国につながる子どもの支援」に力を入れています。毎週土曜日の午後、近隣の公立小中学校に在籍する外国籍児童生徒を対象にした学習補習教室「KANJIクラブ」を「学校連携を基盤にした支援のあり方」を模索しながら実施し、多くの地域の方々が学習支援ボランティアとして活動しています。 2 KANJIクラブの運営  10か国40数名が在籍するKANJIクラブでは、子どもたちが置かれた状況を把握するために、登録の際には必ず保護者にも来てもらい、できるだけ丁寧な面接を行うよう心がけています。本人は何に 困っているのか、家族の状況はどうか。それを基に、多くの子どもたちが抱く日本語の壁や、アイデンティティに関する課題、学習言語習得の厳しさや発達の課題など、自己肯定感の育みを難しくする個々の状況を「想像」し、私たちの支援が始まります。そして、学習支援を継続する中で生まれる対話を通して保護者とMYプラザとの信頼関係構築に努め、ケースによっては、多様な課題に取り組むために必要となる学校連携を探ります。その際重要になるのが、MYプラザが学校にとって連携したいと思う機関かどうかという観点と、信頼されるための取組です。なぜなら学校連携には、情報共有が必要となるからです。 3 学校連携を目指した取組 @「外国につながる子どもとともに〜考えるためのヒント〜」の発行  学校との信頼関係構築を目指すために考えたのが、MYプラザの考え方を記したリーフレットの作成でした。MYプラザが「外国につながる子どもたち」をどのように捉えているのか、学校に何を知ってもらいたいのか、それらを整理して一つにまとめ、それを基に、一つひとつの機会に丁寧に向き合い、地道につながりを作りたいと考えました。発案から発行まで、スムーズだったわけではありません。学校に向けて発行することの難しさに直面し、検討を重ねました。実現させるためにはこの取組に対する熱意を示し、理解を求めることが必要だったのです。外国人集住地区ではない都筑区には、外国につながる児童生徒が在籍していても数人、又は全くいない学校も数多くあります。しかし実は、既に在籍していても課題に気づかれずに見過ごされるケースもあります。そのような状況の中、日本語が全く分からない児童生徒が一人入ってきただけでも、学校が対応に苦慮するという現実があります。そういうときにこそ、MYプラザの機能が役立つのではないかという思いもありました。何度も何度も小中学校校長会でご相談し、校正を重ね、8か月後の平成22年5月、ようやく都筑区内の小学校22校と中学校8 校の全教職員、横浜市北部学校教育事務所の全指導主事に配布することができました(写真)。このことは、MYプラザを知っていただくきっかけになったのではないかと考えています。そして私たちにとっては、学校連携を目指すための、本当に大きな一歩となりました。 A外国籍保護者との信頼関係の構築  傾聴と寄り添いを通した外国籍保護者との信頼関係の構築は、学校との関係構築にも大いに役立っています。異なる文化の中で生活する保護者に寄り添い理解することは、外国につながる子どもたちを支える上で不可欠です。彼らの文化を知ろうとする姿勢を示し、その上で、日本の仕組みを保護者に伝え理解してもらうことが、子どもたちの支援に直結します。そしてそれは、日本で生きる子どもたちが、自分自身の夢を持つことにつながっていくのです。子どもと家族を一体的に捉え支えること、子ども自身が、自分の家族が支えられていることを実感すること。これにより、彼らは安心して自分の将来を描くことができるのです。それはまた、外国につながる子どもと家族の孤立を防ぐことを意味しています。外国につながる子どもの支援は、外国籍家族への支援でもあります。 4 高校受検を乗り切るために @支援の現場から  定時制高校2年のFは、中学3年の春、ネパールから来日しました。すぐにMYプラザにつながってきたものの、F本人は日本語を覚える気がなく、日本での生活も受け入れられずにいました。正に心のシャッターを閉じた状態です。学校では座っているだけで、学習する意欲はなく、卒業後の進路について話し合うことはできませんでした。まずは、保護者となるべく多く話し、母国での様子を聴いたり、日本の学校の仕組みを伝えたりして相互理解に努めました。そして担任とMYプラザは、些細なことも含め、定期的に情報共有を図りました。また、母語話者を探し、Fと二人だけで話してもらうことも試みました。これからのことを考えるに当たり、Fの本心を知りたかったのです。そういった取組を通し て、ゆっくりと、一つずつ、固まっていた心がほぐれていきました。日本の学校生活に慣れていったのかもしれません。私たちが最も大切にしたことは、Fに安心感を与え、「日本で生きることも悪くない。」と感じてもらい、「あなたはひとりじゃない、支える人がいるよ。」というメッセージを渡すことでした。そして目指したかったのは、「高校という未来へのステップ」を、F自身が、Fの意思で一段上ることでした。 A将来をイメージすること  外国につながる子どもたちにとって、自分で進路を選択し決定することは容易なことではありません。経験や情報量の不足から、将来を想像することは難しく、同時に受検の仕組みという壁にも直面します。そもそも、「自分の将来は自分で決める」ということすら考えられないかもしれません。なぜなら、来日したこと自体、自分には決定権がないことが多いからです。そのため「中学卒業後、どうしたいのか」という問いに対して、すぐには答えられない子どもがたくさんいます。また、日本に馴染めないまま学 校生活を送っている場合、「高校には行かない」と言い切るケースもあり、日本語の壁を強く感じる子どもほど、「分からない」と言います。私たちはこの時期こそ、子どもと保護者に対して丁寧な説明をし、将来をイメージさせることが必要だと考えています。自分自身で将来の可能性に気づき、「こうなりたい」という意思の醸成が必要なのです。ロールモデルと出会い、転んでも起き上がることを学び、ありのままの自分を受け入れてくれる場所があれば、前に進むことができるはずです。 5 学校連携の必要性  外国籍人口の増加とともに、日本語支援を必要とする外国につながる子どもたちは増え、抱える課題は多様化しています。実は日本生まれでも、日本語支援を必要とする外国につながる子どもたちは数多くいて、そういう子どもたちのほとんどは、自分たちの困り感を見せません。コミュニケーションは不自由なくとれるため、学習言語の未定着から来る、「意味が分からない」という課題の本質を、できるだけ隠そうと振る舞います。そして教師自身も、その課題に気づかないという状況に陥ってしまいます。学校連携は、異なる立場の異なる視点を合わせ、学校では気づかないことに気づく大きな機会となります。課題が「外国につながること」に起因しているとするならば、学校だけの対応では解決しきれず、学校教育を中心としながらも、より広い視野と支援が必要になるのです。「支援」は、外国につながる子どもたちにとって、「将来へのエネルギー」です。自分たちだけでは前に進めない中で、なぜつまずいているのか、これからどうすればいいのかを読み解き、導くための重要な鍵です。課題が多様化すればするほど学校と地域が手を結び、見立てを増やし、最大限のエールを子どもたちに送ることが必要となります。