《8》地域の取組 A南区における多文化共生コミュニティづくり 執筆 佐々木 亮介 南区区政推進課企画調整係長 小椋 光 南区区政推進課  本稿では、区の東端部において在住外国人の急増を契機とした、日本人と外国人が共に暮らしやすいまちづくりを目指す、「多文化共生コミュニティづくり」について述べていきたい。 1 多文化共生コミュニティづくりとは  南区は市内18区中3番目に外国人が多く居住している。特に寿東部地区においては、中国、韓国、フィリピン、ベトナム、台湾等の外国人居住者の割合が20.4%(平成30年12月末時点、全市2.6%、南区5.2%)と、非常に高い状態にあり、言語や生活習慣の違い、自治会・町内会加入率の低下、活動の担い手の日本人への偏り、ごみの分別等生活ルールの不徹底、地域の小学校への影響等、地域コミュニティの維持について戸惑いの声が寄せられた。こうした状況を背景に、南区では寿東部地区を対象とした3年間のモデル事業として「多文化共生コミュニティづくり」を平成29年度から開始した。このモデル事業は、南区役所、国際局、教育委員会事務局、横浜市国際交流協会の連携により、みなみ市民活動・ 多文化共生ラウンジ(以下「みなみラウンジ」)のコーディネート機能の強化を通じて、地域で暮らす日本人・外国人のニーズに応じた取組を行うものであり、異文化理解や外国人支援に留まらず、既存の施策から一歩踏み込み、日本で生活する外国人と、彼らを受け入れる地域社会の双方に寄り添い共に暮らしやすいまちづくりを目指した事業である。 2 南区における共生を手探りしていく  モデル事業の中で始めに区役所とみなみラウンジが行ったのは、日本人住民と外国人住民へのヒアリングであった。地域との「顔の見える関係づくり」を通じ、双方の生の声を聴くことで課題解決への手がかりを探ることとした。  これまで区役所が自治会・町内会と関わる機会は数多くあったが、対象が外国人となると、アプローチの方法をほとんど持ち合わせていなかった。そこで、寿東部地区内に立地し、外国籍・外国につながる児童が5割を超える南吉田小学校にご協力いただきながら、外国人保護者に対するアンケート調査及びヒアリングを行った。  一方、みなみラウンジのスタッフは寿東部地区の定例会に毎月参加し、地域の現状や要望等を伺いながら支援を重ねていった。例えば、町内会からのお知らせやごみの分別に関する掲示物を地域と共に作成・翻訳し、地域の広報紙では日本語と中国語のコラムを担当するなど、少しずつではあるが、日本人・外国人双方の理解を深める取組を進めていった。また、寿東部地区の自治会・町内会に対しても、暮らしの中で感じることや地域の現状について、外国人と同様にヒアリングを行った。  これらのヒアリングにより、「日本の生活ルールやマナーを知ってほしい」、「南区のまちを知り、愛着を持ってほしい」という日本人のニーズと、「日本での暮らし方を知りたい」という外国人のニーズがあることが分かった。 3 地域住民の思いを外国人に届ける「南区生活のしおり」「生活ガイダンス」  ヒアリングで得られたニーズを取組に反映させる手段の一つとして、行政手続だけでなく、住居や交通ルールなど来日初期の生活に必要な知識や、地域の魅力などの情報を体系的にとりまとめた冊子の作成を開始した。これは横浜市で初めての試みであった。作成に当たっては、南区役所、国際局、教育委員会事務局、みなみラウンジがアイデアを持ち寄り、それぞれの業務に関わる部分を担当し、掲載する情報を検討した。また、ヒアリングの際に日本人から意見が出た「自治会・町内会の役割や活動を知ってほしい」、外国人から意見が出た「母国と生活ルールが違う」、「ごみの分別が難しい」などの声も内容に反映させた。試作版ができた段階で改めて地域の外国人に読んでもらい、いただいた意見をもとに修正を重ねながら、全54ページの冊子「南区生活のしおり」が完成した。  英語、中国語、ハングル、タガログ語への翻訳は、南区在住・在勤など南区に関わりのある日本人・外国人12名で行い、「できるだけ堅苦しくなく、外国人にとって分かりやすい文章」を念頭に進められた。また、日本語の冊子については市民局広報課の協力のもと、外国人に伝わりやすい表現を関係部署と共に検討し、やさしい日本語への書き換えを行った。  こうして完成した「南区生活のしおり」は、住民登録をするために区役所を訪れた外国人に対し、母語に合わせて戸籍課の職員が手渡しで配付している。  また、「南区生活のしおり」の発行と合わせて行ったのが「生活ガイダンス」である。これは冊子の内容を対面で説明し、より理解を深めてもらうための取組である。ガイダンスの実施に当たっては、資源循環局南事務所がごみの見本を用いたパネルを、南区総務課が災害時に必要となる防災用品一式を用意し、より伝わりやすくなるよう工夫を行った。ガイダンスは参加者の母語で説明を行うため、「割ってしまった皿はどのように捨てるのか」、「防災用品はどこで買えるのか」、「公園の花植えなどに興味がある が、町内会は外国人でも入れるのか」など、参加者からの質問が飛び交った。また、「南区の祭りに参加してみたい」、「南区の美味しいスイーツを買いに行きたい」などの声も上がった。  このように外国人に日本での暮らし方や南区の魅力を伝えることで、来日初期の暮らしをサポートすると共に、外国人を受け入れる側である地域住民の戸惑いの軽減を目指している。 4 日本人と外国人を橋渡しする「多文化お茶会」  次なる取組として行っているのが、地域で暮らす日本人と外国人の顔合わせの場「多文化お茶会」の開催支援である。これまであまり接点がなかった日本人と外国人が「顔見知りのご近所同士」になるきっかけづくりであり、地域のために何かしたいと考える外国人と地域住民とのマッチングや、今後の地域活動の担い手発掘を目指すものである。現在までに2回開催し、外国人からは「日本の生活に合わせ、地域に溶け込みたいと思っている」、「南区に住んでいる私たちに、ここが我が家だと感じさせてくれた」、 日本人からは「これまで外国人ときちんと話をしたことがなかったが、今日は多くのことを学べた」、「外国人もこの地域が好きだということや、町内会の存在意義について、外国人も日本人と同じように考えていることが分かった。このような方と手を取り合って、地域の活動に参加したい」などの感想が聞かれた。また、お茶会で連絡先を交換したことを機に、町内会長が地域の外国人を祭りに誘うなど、いくつかの交流が生まれている。 5 今後の方向性  国の施策において、外国人材の受入れが始まり、今後も在住外国人が増加することは容易に予想される。横浜市国際戦略の中でも多文化共生による創造的社会の実現が記載されているが、急激に増える地域では、南区が経験しているように、戸惑いが生じる可能性は否定できない。  そういった状況の中、南区がモデル事業として実施してきた、日本人、外国人双方に寄り添いながら支援をする取組を他の地域、他区でも展開していくことで、目指すべき多文化共生社会の実現が果たされるのではないかと思う。