《7》教育分野の取組 @これまでの取組経過 執筆 土屋 隆史 教育委員会事務局小中学校企画課主任指導主事 1 外国籍・外国につながる児童生徒の状況  横浜市に外国籍・外国につながる住民(※1)が増えるのに伴って、学校においても外国籍・外国につながる児童生徒(以下「外国籍等児童生徒」という。)が年々増加している。2019年5月1日現在、横浜市立の小・中・義務教育学校488校には、103の国とつながる10,103人の外国籍等児童生徒が通っている。この数は、10年前となる2009年の5,825人と比較して、約4,000人、73%も増えていることに なる(図1)。また、横浜の外国籍等児童生徒の特徴として、日本国籍であっても両親のどちらかが日本人であったり、海外で育ったりといった、外国につながる児童生徒の増加が著しいことが挙げられる。  こうした外国につながる児童生徒10,103人のうち、日本語の支援が必要な児童生徒(JSL(※2、図2)レベル5未満)は、2019年5月1日現在、2,705人(約27%)在籍しており、10年前の1,278人と比較して1,427人、約112%も増加している。特に最近では、2015年度1,538人、2016年度1,670人、2017年度2,080人、2018年度2,320人(いずれも5月1日現在)と大きく増加しており、2017年度は前年度に比べ、410人(約25%)増加した(図3)。これは、実際に日本語指導が必要な日本籍児童生徒が増えているだけでなく、2017年の県費負担教職員の市費移管に伴い、日本語指導が必要な児童生徒が多く在籍する学校への教職員配置を拡充したことにより、児童生徒の日本語指導の必要性について、学校がきめ細かく把握するようになったことも大きな要因であると考えられる。日本語指導が必要な児童生徒の増加と国際教室(※3)担当教員の配置基準の変更により、2019年度の国際教室担当教員配置校 は小・中・義務教育学校を合わせ142校となり、前年度に比べ21校(約17%)増加した。  なお、区別にみると、外国につながる児童生徒数は、鶴見区、南区、中区の3区が特に多い。 2 教育委員会の取組の歴史 (1) 帰国児童生徒教育から外国籍児童生徒教育へ  1970年代に日本企業の海外進出が盛んになったことにより、多くの日本人が家族を連れ、海外での仕事に従事した。その影響から、1971年に1,500人だった帰国児童生徒数は1979年には6,600人(国内全体の数値、文部科学省資料による)に急増し、このような児童生徒への対応は新たな教育課題の一つとなった。  こうした課題に対し、横浜市では、1981年から「帰国子女教育専任教諭配置校」(帰国児童生徒の多い学校に専任教諭を配置し、当該児童生徒への支援や市内の帰国児童生徒教育の先導的役割を担う学校)や「日本語回復教室」(帰国児童生徒の日本語能力の回復、日本文化の学習を目的に実施)、「海外転出入子女教育相談コーナー」(帰国児童生徒及び外国転出入児童生徒に関する教育相談の実施)の設置、保護者向けのガイドブックである「帰国児童生徒教育ガイド」の配付を開始した。また、今日では小学校の 外国語活動の一部として行われている「国際理解教室」(様々な出身国の外国人講師が自身の出身国の文化について英語で行う授業)も、帰国児童生徒を受け入れる環境づくりを目的として1981年に設置された「帰国子女教育実践推進校」において開始された。さらに、市立東高校では1982年度入学者選抜か ら帰国生徒特別募集を開始するとともに、帰国生徒教育担当職員を配置し、入学後の教科学習支援や生活・教育相談等を行うこととした。このほかにも、1982年からは国際理解教育推進の中心的な役割を担う「国際理解教育センター校」を設置するなど取組を進めており、文部科学省による「帰国子女教育の手引き」作成が1986年であることを考えると、横浜市での取組は全国に先駆けて行われていたことが分かる。  1980年代始めに帰国児童生徒への支援体制が整えられる中、日中国交正常化後の中国帰国者の子どもの増加が新たな教育課題となり、1985年に元街小学校と港中学校に中国人講師が配置されることとなった。また、同時期には大和市にあった定住促進センター(1980年2月〜1998年3月)での支援を受けたインドシナ難民が横浜市内(特に泉区)に定住するなどし、帰国子女に対して整えられた体制が外国人への支援にも活用されることとなっていった。  このような流れを受け、1986年には帰国児童生徒を対象としていた「日本語回復教室」を「日本語回復学級」に名称変更し、日本語を初めて使う児童生徒を対象とする「日本語集中学級」(入学前に一定期間日本語指導、学校生活の体験を受講)と「巡回指導」(集中学級に通級できない場合の学校への巡回による日本語指導)を新たに始め、この3つの機能の総称を「日本語教室」に改めて事業が始まっている。  また、同じく1986年には、児童生徒の国際平和の重要性に対する意識を高め、国際社会で自分たちのできることを実践しようとする子どもたちを育成することを目的として「よこはま子ども国際平和プログラム」(開始当初は「よこはま子ども国際平和フェスティバル」)を開始した。取組の一つであるスピーチコンテストには全小・中・義務教育学校から毎年約5万人の児童生徒が参加している。このコンテストでは「国際平和のために、自分がやりたいこと」をテーマにスピーチが行われるが、外国につながるクラスメイトについて書かれたものや、外国につながる児童生徒が自身の体験をもとにしたものなど、多文化共生の視点に立ったスピーチが多くあり、横浜市が目指す「自分を見つめ、多様性を尊重し、共生する力」を育む一助となっている。 (2) 外国籍児童生徒教育から日本語指導が必要な児童生徒への支援へ  1992年になると、外国籍児童生徒への支援のために担当教員が配置される「国際教室」の設置が始まった(後述の教職員人件費の市費移管までは、外国籍で日本語指導が必要な児童生徒のみ加配の対象としていた)。当時、教職員の人件費は神奈川県が所管していたため、神奈川県全体でこの取組が実施された。  1990年代に国際教室が設置される一方、帰国児童生徒への対応が一段落したため、1998年に「日本語回復学級教室」が、2001年には「帰国児童生徒教育専任教諭配置校」が廃止された(「日本語集中学級」及び「巡回指導」は継続)。横浜市教育委員会においては、その間も日本語指導を担当する外国語指導主事助手(Foreign Consultant、以下「FC」という。)の雇用や、日本での学校生活を始めるに当たって の留意事項などを保護者に示した「きょうからはまっ子」や「学校用語・通知文対訳集」を発行するなど、各校での支援を後押しする取組が行われた。  2006年になると、ボランティアとの協働による取組である「母語を用いた学習支援推進校」と「学校通訳ボランティア」を開始した。「母語を用いた学習支援推進校」は、国際教室設置校のうち、学習支援推進校として委嘱された学校が、児童生徒の母語ができるボランティアと連携し、教科学習の支援を行うものだった。「学校通訳ボランティア」は、外国につながる児童生徒の保護者が学校と面談を行う場合などに通訳ボランティアを派遣するもので、横浜市国際交流協会への委託により実施したものである。 また、2008年には「母語を用いた学習支援推進校」以外の学校でも、転・編・入学直後の児童生徒が学校に適応するための支援をボランティアと連携して行う「母語を用いた初期適応支援」を開始した。  このようにボランティアと協働するに当たって、支援に協力してくれるボランティアを学校単独で見つけることは難しいことから、ボランティアの紹介を市内に10か所ある国際交流ラウンジ(鶴見区、 中区、南区、港南区、保土ケ谷区、金沢区、港北区、青葉区、都筑区、泉区)及び横浜市国際交流協会に協力の依頼をしている。教育委員会では、学校と国際交流ラウンジの円滑な連携のために、2010年からは毎年、各国際交流ラウンジを担当者が訪問し、連携を深めるための協議を行っている。その結果、国際交流ラウンジとの連携が深まり、一部のラウンジではあるが、ボランティアと教育委員会担当者が直接意見交換する会を設けている。こうした意見交換やボランティアからのアンケートを基に、徐々に 事業の見直しを行い、2017年には「母語を用いた学習支援推進校」と「母語を用いた初期適応支援」を統合した「母語による初期適応・学習支援事業」を実施するに至っている。  国際教室担当教員は日本語指導の経験がある教員が少ないことから、2010年には、国際教室担当教員等が日本語指導について学ぶ場である「日本語指導者養成講座」を開講している。2017年には国際教室担当教員の経験が長い教員向けの「日本語指導者養成上級講座」、2018年には「日本語指導者養成中級講座」を開講し、教員がそれぞれのレベルや学習したい内容に応じて研修を受講できる体制を整えた。  さらに、2017年には、既存の新任校長研修と新任副校長研修の中に外国につながる児童生徒に対する理解と学校全体で支援するためのビジョンに関する内容を盛り込んだ。両研修では、教育委員会が提供している支援の紹介だけでなく、横浜市において校長として多文化共生の学校づくりに取り組んだ経験のある大学教授を講師として招き、学校全体でどのように支援体制を構築するかなどの研修を実施した。また、経験の浅い教職員が対象となる「初任者研修」や「採用前研修」、「臨時的任用職員及び非常勤講師研修」の中でも外国につながる児童生徒に関する内容を取り上げ、様々な角度から理解促進を図った。  2014年1月には文部科学省から「学校教育法施行規則の一部を改正する省令等の施行について(通知)」が発出され、外国につながる児童生徒の日本語指導に関して、「特別の教育課程」が編成できることになり、日本語指導を教育課程に位置づけられることとなった。このことにより、「特別の教育課程」を編成する児童生徒にはそれぞれの状況に応じた「個別の指導計画」を作成することとなったため、2014年度からは国際教室担当教員配置校でこれを導入した。その後、2015年9月には「個別の指導計画(横浜版)」等の様式を作成し、全校に導入することとした。  研修以外の学校への支援としては、前述の外国につながる児童生徒の受入れに関するガイドブック「ようこそ横浜の学校へ」(2013年)の作成(http://www.city.yokohama.lg.jp/lang/ residents/en/living/kyoiku/nihongoshido-tebiki/)が挙げられる。「ようこそ横浜の学校へ」は、「T 日本語指導が必要な児童生徒受入れの手引き」、「U 学校通知文・用語対訳集」、「V 保護者の方へ」の 3部構成となっており、このうち、保護者への対応に使用する「U 学校通知文・用語対訳集」、「V 保護者の方へ」が外国語に翻訳されている。これらは当初、4か国語(中国語、英語、スペイン語、タガ ログ語)だったが、翌年に3か国語(ベトナム語、ポルトガル語、韓国・朝鮮語)を追加し、7か国語対応となった。  このほかにも2016年には8か国語(日本語、中国語、フィリピン語、スペイン語、英語、韓国・朝鮮語、ベトナム語、ポルトガル語)に対応した学校生活紹介DVD「見てみよう!横浜の学校」(制作: TOMORU〜外国につながる神奈川っ子教育支援)を国際教室担当教員配置校に配付、翌2017年には国際教 室担当教員配置校以外にも配付している。また、2018年には文部科学省からの依頼により、タブレットに話しかけると日本語と外国語(音声翻訳11言語、テキスト翻訳30言語対応(2018年8月現在))との相互翻訳ができる多言語翻訳アプリ「Voice Biz」の活用を始め、授業内外での活用方法について検証 を実施した。  国際教室担当教員の配置については、2013年度から、神奈川県の配置基準である「外国籍で日本語指導が必要な児童生徒が5人で1人加配、20人以上で2人加配」に加えて、市費による教員配置を行った。神奈川県の基準では、20人を大きく上回る数の日本語指導が必要な児童生徒を抱える学校での対応が困難であることから、「日本語指導が必要な児童生徒支援非常勤講師」と児童生徒の母語と日本語ができる「外国語補助指導員」を配置し、学校での人的支援を手厚くするとともに教育委員会内にFCを1名増員した(中国語対応)。また、同年からは横浜東部地区に在籍する外国につながる児童生徒を対象とした夏季学習会を開催し、支援を行っている。  2017年に教職員人件費が県費から市費へと移管されると、「いじめや不登校など複雑・多様化する課題に対応するための体制強化」、「小中一貫教育の更なる推進やきめ細かな指導体制の整備」、「児童生徒の発達に適した学習環境の充実」と並び、「日本語指導の必要な児童生徒への支援」が本市の特性や教育施策に応じた教職員配置の拡充の項目として掲げられることとなった。このことにより、それまで「外国籍で日本語指導が必要な児童生徒」を対象としていた国際教室担当教員の配置基準を国籍に関係なく 「日本語指導が必要な児童生徒」を対象とすることとなった。その結果として、2016年に80校だった国際教室担当教員配置校は、翌年109校まで増加した。さらに、横浜市で初めて日本語指導を専門とする指導主事を配置し、学校への指導・助言機能を強化した。  また、同年9月には「日本語支援拠点施設ひまわり」を開設した。これは市内小・中・義務教育学校に在籍する日本語指導が必要な児童生徒の急増や、それに伴う諸課題を受け、統廃合によってできた学校用地に新たに設置したものである。また、日本語教室の5つ目の集中教室である「横浜??田教室」を施設内に開設した。同施設の取組の詳細は30ページの記事を参照いただきたい。  2019年5月、横浜市立の小・中・義務教育学校に在籍する外国につながる児童生徒が10,103人となり、ついに1万人を超えた。  以上、教育分野における取組経過についてお伝えをしてきた。引き続き、来日間もない外国籍等児童生徒及び保護者の不安を軽減し、できるだけ早く学校生活に適応できるよう支援するとともに、学校の負担軽減を図っていきたい。 ※1 外国につながる住民(児童生徒)  外国出身の日本籍住民。両親のどちらかが外国出身の児童生徒。 ※2 JSL  日本語指導と教科指導を統合し、学習活動に参加するための力の育成を目指した「第二言語としての日本語」(Japanese as a second language)カリキュラム。 ※3 国際教室  国籍問わず日本語指導が必要な児童生徒が5人以上在籍する学校に担当教員を配置して設置される、日本語指導だけでなく教科指導、生活適応指導等を行う教室。