《2》統計からみる外国人人口の増加の状況 執筆 伊藤 智啓 政策局統計情報課担当係長 1 はじめに  本市の外国人人口は、2019(平成31)年4月末に初めて10万人を突破し、今後総人口が減少傾向に転じることが見込まれる中にあって、なお増加傾向が続いている。  その数は、全国の自治体の中で大阪市に次いで2番目に多く、前年の増加数は国内トップとなった(表1)。  なお、本稿で取り上げる人口は、住民基本台帳に基づく「登録人口」であり、国勢調査の確定値を基にした「推計人口」とは定義が異なる。  外国人は、かつては外国人登録制度という、日本人とは別の制度で把握されていたが、2012(平成24)年に「住民基本台帳法の一部を改正する法律」が施行されてから、外国人も日本人と同様に、観光や出張などによる短期滞在者を除き、住民票が作成されることとなった。住民基本台帳への登録により、年 齢別や動態など各種統計がとれるようになった。 2 外国人の増加の推移  本市において外国人が増加し始めたのはいつ頃からか。 図1で、外国人登録法が施行された1952(昭和27)年以降の推移をみると、1980(昭和55)年までは微増傾向が見られるものの、ほぼ1〜2万人台で比較的安定していた。  しかし、80年代後半になると急増し、外国人は3万人を超え、この時期に外国人の大幅な流入超過があったことを示している。  2000(平成12)年時点では外国人は5万人を超え、その後、リーマンショックや東日本大震災の影響で若干、増加の勢いは停滞するが、近年になると再び増加幅が大きくなり、2019(平成31)年に10万人に達した。  1980年からの約40年間で、総人口の増加が1.3倍(約281万人から375万人)であるのに対し、外 国人人口は5倍近く増加したことになる。それに伴い、総人口に占める割合も、1980年に0.7%だったものが、2019年には2.7%と4倍ほどに拡大している。 3 国籍別の推移  表2で、国籍別に推移をみると、1952(昭和27)年から1985(昭和60)年頃まで、外国人の半数を占めていたのは、 戦後、その多くが日本への在留を選択した韓国・朝鮮であり、他の国籍は中国、米国、 英国が比較極めて少ない状況であった。  ところが、80年代後半からアジア諸国において高度成長を果たした日本への留学や就労の関心度が高まり、中国やフィリピンの増加が始まる。他方、バブル経済の進行に伴い、製造業や建設業を中心に外国人の単純労働の需要増と不法就労が問題化し、これを受ける形で1990(平成2)年に入管法(出入国管理及び難民認定法)が改正された。これにより、日系3世とその配偶者と子供に対して、就労制限のない在留資格が付与されるようになり、その影響で南米のブラジルやペルーが急増することとなった。  その後は、中国の増加が目覚ましく、2000(平成12)年には韓国・朝鮮を上回る水準に達し、現在は4万人を超えて国籍別で最多となっている。一方、長年トップの座にあった韓国・朝鮮は漸減傾向にある。近年では、ベトナムとネパールの増加が著しく、2015(平成27)年の人口で比較すると倍増の勢いとなっている。  現在、本市に居住する外国人の国籍(出身地)の数は、160の国や地域に及ぶ。  中国、韓国・朝鮮、フィリピン、ベトナムの上位4か国で全体の7割を占めるが、地域別に分類し、その割合をみると、これらを含むアジアが圧倒的に高く、アジア86.7%、中南アメリカ4.7%、ヨーロッパ4.2%、北アメリカ3.1%、アフリカ0.7%、オセアニア0.5%の順となっている。 4 外国人の人口規模  表3から、直近の2019(令和元)年6月末日現在の本市の外国人人口は10万1039人、総人口に占める割合は2.7%で、西区の人口(10万3060人)に匹敵するほどの規模にまで大きくなっている。  行政区別にみると、地理的に京浜工業地帯から市の中心部にかけての鶴見区、神奈川 区、西区、中区、南区で、総じて多くの外国人が居住している。この一帯は、製造業や小売業、飲食・宿泊サービスの事業所が集積しており、これら5区で市全体の外国人の半数に達する。  特に中区は、横浜港が開港した頃から外国人居留地として栄え、各国の領事館や外国人向けの施設が置かれたことなどもあり、かねてから多くの外国人が居住する土地柄である。現在も、外国人人口が18 区中1位、人口の1割を外国人が占めている。  しかし近年、その様相は変化しつつあり、かつての中区の一極集中から、市内各区で外国人人口が急増している。最近5年間の状況をみると、日本人が8区で減少する中、外国人は泉区で唯一減少した以外は、緑区など14区で3割超の大幅な増加となっている。 5 人口動態  2018(平成30)年の1年間に本市の人口は7951人増加したが、内訳は日本人が1859人に対し、外国人が6092人で、増加の8割近くを外国人が占めた。  図2で、ここ5年間の動向をみても、外国人は増加幅が拡大傾向であるのに対し、日本人は2018(平成30)年を除き縮小傾向にある。この背景には、日本人は2015(平成27)年を境に出生と死亡との差がマイナス(自然減)に転じており、それを上回るだけの転入超過がなければ人口増が見込めない状況があり、外国人の増加が本市の人口増を支えている構図が顕著に表れている。  表4で、要因(動態)別にみると、外国人は自然増が少なく、増加のほとんどは社会増によるもので、国外からの転入超過が9087人と増加に大きく寄与している。ただし、移動量(転入+転出)だけでみると、国際移動より国内移動のほうが多く、入国した後も市区町村間での移動が活発である。そのほか、日本に帰化する外国人も年間300人ほどいる。  一方の日本人は6113人の自然減で、今後、少子高齢化の進展により自然減は更に大きくなると予想される。総人口に占める外国人の比率が高まる現状において、この先、本市の人口減少のペースが急速に進むのか、緩やかに進むのかは、外国人の人口動態にかかってくると言っても過言ではない。 6 国籍ごとの人口分布  表5で、行政区別に外国人の分布状況をみると、中区、鶴見区、南区において1万人超の外国人が居住しており、全体の4割がこの3区に集中している。  居住エリアの傾向は、国籍ごとに異なる。人口が最多の中国は、中華街を抱える地域性から、中区が最も多い。韓国・朝鮮のほか、米国も中区が最も多い。米軍による主な接収は解除されたが、区内に米国人向けの施設や住宅が多く建てられた。他の国籍では、フィリピンが鶴見区、南区、ベトナムが鶴見区、泉区、ブラジルが鶴見区で多い特徴がみられる。製造・建設業を中心に外国人の就労を受け入れている企業や工場などがこれらの地域に多いことに起因すると考えられる。留学生が多いネパールは鶴見区のほか、大学や日本語学校がある神奈川区、西区で多い。インドは緑区で多いが、霧が丘地区にインド人が通うスクールがあり、地域とのつながりも深い。 7 年齢構成  図3は、外国人と日本人、それぞれの年齢別割合をグラフ化したものである。  生産年齢人口(15〜64歳)は外国人が83%で、日本人の63%よりかなり高い。  5歳階級別にみると、外国人で最も多い階級は25〜29歳で、20歳から39歳までの若年層が全体の半を占める。一方、日本人で最も多い階級は45〜49歳で、20歳から39歳までの層は2割程度にとどまっている。  グラフの形状からも、日本人は少子高齢化を反映した年齢構成であるのに対し、外国人は20代・30 代の働き盛りの年代が多い年齢構成であるのが分かる。 8 在留資格別の状況  在留する外国人に対しては、日本における活動の内容や身分・地位に応じて「在留資格」と呼ばれる資格が付与される。  表6で、在留資格別にみると、本市では「永住者」(一般永住者)が3万3906人と最も多く、「特別永住者」(在日韓国・朝鮮人など)を含めた永住者が4万人ほどとなっている。  このほか、人数の多い順に、「家族滞在」(日本で就労ビザをもって働いている外国人の配偶者や子供)、「技術・人文知識・国際業務」が続く。  一方、「留学」や「技能実習」は、割合としては全国に比べ本市はまだ低いが、その動向は注目されるところであり、本市にもアジア新興国から多くの留学生や技能実習生が入ってきている。  図4で、留学(8768人)は、中国が4割を占めて最も多く、ベトナム、ネパールを加えた上位3か国で7割を占める。政府が2008(平成20)年に策定した「留学生30万人計画」により、アジア諸国で日本への留学ブームが起きていることが背景にある。  技能実習(3573人)は、ベトナムが6割を占め、中国、フィリピン、インドネシアを加えた上位4か国で9割を占める。特にベトナムとは、本市が現地の自治体や学校と、介護人材受入に関する覚書を締結しているが、今後ベトナム以外にも対象国を広げていくなど、海外からの人材受入が活発化する動きもある。 9 外国人の今後の動向  人口減少、少子高齢化の進展、さらには労働力人口の減少への対応策として、外国人労働者に依存すべきかどうかの議論が活発化しており、外国人の動向に対する社会的な関心や政策上の重要性も高まってきている。  こうした中、深刻化する人手不足に対処するため、先般、改正出入国管理法が施行された。特定技能1号、2号という在留資格を創設し、介護や外食など特定の分野で外国人労働者の受入れを拡大するものである。留学や技能実習からの移行も多く見込まれており、今後、対象分野の拡大、家族帯同、さらに永住への道が開かれることになれば、本市の外国人の人口規模も新たな段階へ進むことになろう。  これまでみてきたように、外国人の人口動態は、社会経済や治安といった国際情勢を背景に、わが国の外国人に対する政策転換や労働力需要、国民の意識などによって大きく左右される。日本人の人口動態と比べても、その傾向やパターンが統計上からは読み取りにくく、究極的に言えば、外国人にとっての働く場所が有るか否かで、住む場所が決まってくる、こうした言い方もできるかもしれない。今後の外国人人口の動向を読み解くには、労働環境の整備や共生社会への取組をはじめ、内外の情勢の変化をいかに的確に把握していくかがポイントになると思われる。