《17》現状の課題と今後の展望 A みどりの現状と今後の政策 執筆 今村 隆 国土交通省都市局公園緑地・景観課景観・歴史文化環境整備室景観企画係長 1 はじめに  平成29年6月、都市緑地法等の一部を改正する法律が施行されました。本改正は、近年の人口減少や国及び地方公共団体の財政制約等の社会経済情勢の変化に伴う課題に対応したものです。公共施設としての公園緑地は、常に社会のニーズに対応することが求められます。現在、公園緑地にはどのような具体的ニーズがあり、今後どのような政策を推進していく必要があるのでしょうか。ニーズと今後の政策について全国的な視点から考えるとともに、今後の横浜市の公園緑地行政に期待することを述べたいと思います。 2 公園緑地これまでの取組と全国の状況  戦後、都市化の進展の中で、緑豊かな潤いのある都市を創造することは都市行政の大きな課題の一つでした。急速に土地利用転換が進む中で、都市公園等整備五箇年計画の策定をはじめ、総合計画である緑の基本計画を中心とした様々な制度が創設され、総合的な施策展開、官民による緑の保全・創出手法の多様化が図られ、これまで都市公園の整備等の永続性の高い公共の緑の保全が推進されてきました。また、近年、環境等の緑への関心の高まりの中で、総合的に緑を確保することや緑の中に都市があるようなまち形態を目指す取組が見られるようになっています。 @都市公園について  全国の都市公園等の整備については、平成28年末で約10万箇所、約12万ha、一人当たり公園面積は約10uです(注1)。なお、約10万箇所のうち、0.1ha未満の小規模な都市公園等が約4割、設置から30年以上経過したものが現時点で約4割を占め、20年後には約7割に達する見込みです。 A緑地について  緑地の保全状況として、特別緑地保全地区の指定面積(累計)については、平成28年度時点で、588地区、約2,719haです(注2)。 B都市緑化について  民有地等については、屋上緑化や壁面緑化をはじめとする取組みが進められ、平成12〜29年の整備面積( 累計) は、屋上では約498ha、壁面では約90です(注3)。 C市民・企業の緑に対する関心の高まりについて  近年、市民やNPOによる都市公園の管理運営の参加等が全国的に行われています。また、民間企業により都市の中心に緑を創出した「大手町の森」、まち全体を包み込む「みどり」を中心にまちづくりを進める「大阪市うめきた2期区域」のように、緑の中に都市があるような都市形態を目指す取組が見られるようになっています。  以上のように、公園緑地については、都市公園の整備、緑地の保全、都市緑化の着実な進展とともに国民・企業の緑に対する理解が高まっています。  一方、横浜市においては、全国唯一の横浜みどり税を財源の一部として活用し、緑地や農地の保全等に取り組む横浜みどりアップ計画、地域コミュニティの活性化に寄与している公園愛護会による公園管理、横浜の歴史的資産である西洋館等を活用した多様な都市公園の整備等の先進的な取組を実施しており、高く評価しています。 3 今後の公園緑地政策  今後の全国的な公園緑地政策を考える上では、@公共投資の縮減、A少子高齢化、人口減少、都市構造の変化(コンパクト化)への対応、B社会資本の老朽化対策・長寿命化対策、C災害への対応、D環境問題等への国民の関心の高まり(+ オリンピック・パラリンピック)等の社会的ニーズに対応する必要があります。  これらのニーズへ対応するために、今後の全国的な公園緑地政策には以下の4つの視点が重要です。 @公有地・民有地における緑の総合的な確保  地球温暖化対策、都市におけるエコロジカルネットワーク、市民・企業の緑に対する関心の高まりへの対応として、引き続き、緑の基本計画を中心とした公有地・民有地における緑の総合的な確保が重要です。 A都市公園等の既存ストックの利活用、再編  子育て支援、高齢化、地域活性化、公共投資の縮減への対応として、一定の蓄積がある公園緑地ストックの利活用や再編が必要と考えられます。使うこと・活かすことを重視し、積極的な官民連携を進めることが重要です。 B防災・減災に資する緑とオープンスペースの確保、個別施設の安全性の確保  公園緑地は、災害発生時の避難地や救急救命・救援活動の拠点であるとともに、延焼防止等の減災機能や大雨時の雨水貯留の機能を有するグリーンインフラでもあるため、引き続き確保していくことが重要です。また、設置後の経過年数を考えると老朽化への対応が求められるため、個別施設の安全性の確保が必要です。 C都市の空間マネジメントとしての公園緑地政策の展開  コンパクトシティ、都市と緑・農の共生が実現された都市、緑の中に都市があるようなまちを目指すため、都市全体・まちづくり全体の視野での発想による公園緑地政策を展開することが重要です。  こうしたことから国土交通省では、新たな時代の都市マネジメントに対応した都市公園等のあり方検討会を実施し、平成28年5月にとりまとめ、公表しました。今後の緑とオープンスペース政策について、以下の3つの戦略を重点的に推進することが必要であるとしています。 @ 緑とオープンスペースによる都市のリノベーションの推進 A より柔軟に都市公園を使いこなすためのプランニングとマネジメントの強化 B 民との効果的な連携のための仕組みの充実  さらに、都市緑地法等の一部を改正し、都市公園や農地を含む民有緑地等の都市のオープンスペースで行われてきた民間活動に着目し、民間のノウハウや投資を積極的に引き出すための幅広い施策を盛り込み、ニーズへの対応を図ってきているところです。 4 横浜市の今後の公園緑地施策についての提言  最後に、今後の横浜市の公園緑地施策に期待することを述べます。 @さらなる「みどりアップ」により市民が豊かな生活を実感できる都市へ  何もしなければみどりは減少してしまい、基地跡地の利用等においてもみどりの保全・活用は重要な視点と考えます。今後、更なるみどりアップ施策の展開により、我が国を代表する緑あふれる風格ある都市の実現を期待しています。また、みどりの保全・活用は市民一人一人が生活環境の豊かさを実感できるような都市である横浜の国際競争力の強化にも寄与するものと考えていますので、積極的に取り組んでいただきたいと思います。 A市民との協働等による都市緑化の推進  全国都市緑化フェアの開催を契機として、都市緑化意識が高まっていると認識しています。この機会を活かして、市民、企業、行政等が連携した緑あふれる国際都市の実現に向けた都市緑化の取組に期待しています。すでに産業界を含め、横浜市、横浜市民は伝統的にポテンシャルを保持していると思いますので、そのポテンシャルを発揮し、ガーデンシティ横浜を推進していただきたいと思います。 B都市公園等みどりのストック利活用、マネジメントの強化  官民連携によるストックの利活用の推進、都市公園の魅力アップと都市公園のポテンシャルをまちづくりに活用することを期待しています。特に、官民連携事業では、社会経済に対応するためのスピード感、持続可能性、小さい規模から育てていくことにも留意し、実績をつくっていただきたいと思います。また、港の緑や街路樹等の都市公園以外のストックも含め、マネジメントの強化が重要です、そのための体制の強化も重要と考えています。 C防災・減災空間等としての公園緑地の確保  公園緑地は都市の財産です。そのオープンスペース・非建ぺい地としての価値は、地域のレクリエーション、環境保全、景観形成等と併せ、特に防災減災の面でも貴重であるため、防災減災空間等としての公園緑地の確保を引き続き推進していただきたいと考えています。 5 おわりに  国土交通省では、SDGs等を念頭に置き、緑豊かで潤いのある都市、健康で文化的な都市、機能的で活力ある都市、安全で豊かな生活を実感できる都市の実現に向けて、グリーンインフラの視点等から公園緑地行政が一層発展するよう、今後も取り組んでまいります。  横浜市におかれましては、本年のラグビーワールドカップ、来年の東京2020オリンピック・パラリンピック、また、2026年開催を目指す国際園芸博覧会に向けて、今後もガーデンシティ横浜の推進をはじめ、公園緑地施策を積極的に進めていただき、我が国を代表する緑あふれる風格ある都市の実現を期待しています。 注1 国土交通省HP:都市公園データベースhttp://www.mlit.go.jp/crd/park/joho/database/t_kouen/index.html 注2 注3 国土交通省HP: 都市緑化データベースhttp://www.mlit.go.jp/crd/park/joho/database/toshiryokuchi/index.html