《17》現状の課題と今後の展望 @ 座談会/職員が考える現状の課題と今後の取組の方向性 大内 達詩 環境創造局政策課 千木良 泰彦 環境創造局みどりアップ推進課 池上 佑里 環境創造局公園緑地維持課担当係長 関根 伸昭 環境創造局課長補佐(農政推進課担当係長) 吉野 美沙樹 環境創造局動物園課 進行 相場 崇 環境創造局みどりアップ推進課長 ◆みどりの現状について 【相場】今日はみどりの現状の課題や今後についてお話をできればと思っています。よろしくお願いします。  最初に、現状やこれまでの緑行政についてどう思っているかなど、皆さんの経歴や経験に軽く触れながらお話いただければと思います。では、千木良さんからどうでしょうか。 【千木良】平成16年、緑政局最後の年に入庁し、西部公園緑地事務所で1年、環境創造局になり旭土木事務所で2年、現場での公園や街路樹の維持管理を経験しました。その後、公園緑地整備課で10年間公園や緑地の新設整備等を担当した後、みどりアップ推進課に異動し、2年目になります。  従来、緑行政というと、公園や緑地の維持管理、設計施工、住民対応や市民協働などが求められてきたと思います。もちろん今もそういった技術は業務の基本で非常に重要ですが、ここ5年くらいでしょうか、みどりアップ計画も進み、樹林地の保全、生物多様性の保全などのほか、がけ地の防災対策から都心臨海部の緑花や里山ガーデン(※1)といった花に関わる取組、園芸博覧会の招致、最近のトレンドでは公民連携により公園の魅力を高めようといった視点も増えてきています。さらにガーデンシティ横浜の推進のための取組なども求められるようになり、様々なスキルが高いレベルで求められていると思います。 【相場】千木良さんから幅広いスキルが求められるとの話がありましたが、その一つとして緑化フェアやガーデンネックレスなど、花に関係する取組は最近よく話題になりますが、これらを担当している吉野さん、お願いします。 【吉野】公園緑地整備課に3年間在籍し、中区や旭区を中心に公園をつくっていました。その後、みどりアップ推進課に1年いて、緑化フェアの立ち上げを担当し、全国都市緑化フェア推進課に3年、現在は動物園課で里山ガーデンの仕事をしています。里山ガーデンが開いている間、会場にいると、子どもからお年寄りまですごく喜んでくれているというのが分かります。みどりアップ計画の成果の広報という部分でも、花や緑で魅力的なまちにしていきますというところで、花というのはすごく分かりやすいコンテンツだなと思っています。 【相場】緑が観光とか地域の活性化にも貢献できるということは、我々は以前から思っていたと思いますが、それが一般の人にも伝わったのかなと感じています。そういう意味では緑化フェアが緑の取組の一つのターニングポイントだったと、みんなそんなふうに思っているんじゃないかと思います。では、昔から緑行政と言えば基本は公園だったと思いますが、公園の施設管理のとりまとめ的な部署にいる池上さん、お願いします。 【池上】入庁して、現みどりアップ推進課で開発行為に伴う緑化や公園の指導などに携わった後、旭土木事務所で公園の管理に4年間携わり、現在は公園緑地維持課にいます。  管理の経験から、緑に関する市民の方の思いは様々で、管理するのが難しいと感じました。危ないから切ってほしいという人もいれば、残しておいてほしいという人もいます。都市と緑の距離が近いというのが横浜の素晴らしい魅力ですが、その部分をどう市民に、理解を求めながら進めていくのかというのがすごく難しいと感じていますね。 【相場】緑と近いことで要望も様々ということですが、何か解決策などはありますか。 【池上】それで始めたのが、身近な公園内に残る樹林地に対し、保全管理計画を立てて、市民の方と一緒に、この森をどのように管理していったらいいのかを考え、問題をクリアにしていくというものです。こういったプロセスの積み重ねが非常に重要だなと感じています。 【相場】ありがとうございます。続いて、みどりアップの樹林地の指定を担当し、その後は計画策定に携わっている大内さん、お願いします。 【大内】平成23年に入庁し、緑地保全推進課で樹林地の指定に6年間携わりました。入庁した当初は、1年間で樹林地を300ha指定するのが目標で、一人当たりにすると約20の指定を目指しましたが、今一つボリューム感が分かりませんでした。仕事にも慣れてきて、1haの樹林地を持っている方は大規模所有者だと感じる中では、目標達成は絶対無理だという感想を持ちました。また、こんなにたくさんの樹林地を買い取って、管理はどうするのかとも思いましたが、みどりアップ計画が2期目、3期目となるにつれ、維持管理のメニューが増えるなど、少しずつ課題が計画や事業に反映をされてきているというところが現状だと思います。また、緑があることに対する市民の実感については、私は昔から横浜の郊外部に住んでいますが、郊外部に住んでいる人は山や緑が近くにあることが当たり前なので、たくさんあるという感覚はあまりないように思います。反対に、都心部に住んでいる人は少し行けば山や多くの緑があるのに、それに気づいていない、意識していない人も少なくないように思います。 【相場】ありがとうございます。では現状に関することの最後に、横浜は伝統的に農地も緑の一つの形態ということで、緑の関係の中に農地を位置づけてやってきました。関根さん、お願いします。 【関根】私は、最初に農業振興課に配属になり、収穫体験農園開設支援などに3年間携わりました。業務をしながら過去の施策を調べると、昭和40年代の都市計画の線引きで、農地に緑の機能やオープンスペースの機能というものを認めて線引きをするなど、横浜市の緑に対する姿勢にはすごく先駆的なものがあると感じました。だからこそ今これだけの緑が保全されていて、みどりアップ計画のような、公園、緑、農という3つの分野で総合的な他に類を見ないものが実施できているのかなと思います。開発もある中、緑がここまで残っているというのは、先人たちのこれまでの努力の積み重ねだと思っています。大都市横浜で農地の保全や農業の振興をするというのは、農業・農地と住民が近いおかげで他の大都市にはない多面的機能も享受できるという一方で、開発圧などで困っている農業者がいるとか、都市と農業の摩擦があるのも現実なんだろうなと思います。 【相場】都会に近いところに住んでいるにもかかわらず、すぐに野菜の直売所に行けるなど、都会と緑の両方の良さを享受できるというのはすごいことですよね。でも大内さんも言っていたように、それに気づかない人も多いのが現状なのかもしれませんね。 ◆課題@ 樹林地管理 【相場】今までの皆さんの話から、今後に向けての課題も出ていますが、まず樹林地の管理の話からできればと思います。買った樹林地など、大変増えているんですよね。 【大内】次の計画の中間年である2021 年には約1,000haが管理の対象となる見込みで、更に今後買取りの可能性のある樹林地もあります。また、住宅と距離が近いこともありますので、それだけ小さい山がたくさんあり、住宅との接点も多いので、管理費はかなりかかると感じています。 【相場】財源的なことや人手のこと、都市ならでの悩みみたいなところもありますが、何かアイディアなどありますか。 【千木良】管理する樹林地の面積が急激に増える中、職員にあまり精神的な負担がかからないよう、樹林の管理に対してやりがいを見出しやすいような仕組みがあるとよいと思います。市民の方々と保全管理計画を作るというのもその一つのきっかけになると思います。ただ、すべての樹林地で保全管理計画を作るというのも現実的ではないと思います。市民の方々と合意形成を図りながら一緒にやっていくところと、ある種割り切って淡々と必要な管理をするところを設けて管理の仕方やお金のかけ方を変えていくようにできると、たくさんの樹林地を回って管理しなければならないという負担感を減らしていくことにもつながると思います。 【相場】樹林地は急激に管理の対象が増え、特に公園事務所の職員には負担となりますが、実際は、大きな成果でもあるし、いろいろなことをできるフィールドができたというふうに前向きに捉えると良いかなという感じはします。 【池上】そうですね。メリハリをつけてやっていくというところの中に、例えば、公民連携で何かやっていくこともできるのかなと。横浜動物の森公園では先駆的に進めていますが、樹林地管理においても森の恵みを享受できるようなアイテムとセットで展開していくというのが可能性として考えられるかなと思います。そこで管理費を捻出できれば、そういう手段も一つあるのかなと思ったりしています。 ◆課題A 公民連携 【相場】公民連携は公園に限らず今話題になっていますが、公民連携について思うことなど、フェアの経験も踏まえていかがですか。 【吉野】現在、横浜動物の森公園でPark-PFI(※2)の手法での森を活用した遊戯施設の公募を行っています。民間事業者のノウハウを活用し、集客もでき、かつ樹林地の管理も行ってもらえることになれば、より公園が活性化すると考えられます。ですが、ヒアリングなどを通して、民間事業者の方が事業を実施しやすい場所や条件でないと、公園での公民連携は難しいということを感じました。だから何でもとにかくPark-PFIで、ということでなく、それぞれの公園の魅力をきちんと把握した上で、どのように公民連携を進めていけばいいのか考えていけると良いと思います。 【相場】大内さんは緑と公民連携で何か感じるところはありますか。 【大内】民間を入れるということは、やはり収益性が必要になると思います。そうすると一番やりやすいのはやはり公園だと思いますが、それもできる場所は限られるとなると、おそらく、その方法を全てに適用するというのは無理だと思います。お金をただかけて管理するのではなく、今も森の楽校というのを一部の事業でやっていますが、学校や市民の方々などと協働して行うなど、他の手法を考えないと、後で本当に立ち行かなくなるのではと思います。 【相場】農地も、企業参入や農業生産法人などが話題になることが多いと思いますが。 【関根】個人的にはそういったものばかり追い求めるのもどうかなと思います。当然、農業は農村というコミュニティで維持されてきたもので、農業を専業にやっている方と兼業の方、いろいろな方がいる中で、その地域全体がうまく運営されていかなければなりません。企業参入においては、地域にどう溶け込んでもらうかが重要だと思います。そのあたりの見極めや、地域コーディネートが重要だと思います。 ◆課題B 技術継承 【相場】ありがとうございます。次に職員の技術継承の話を少ししたいと思います。過去からの取組を含めて、緑の仕事全体として技術継承をどうしていくかが課題だと思っていますが、そのためにどのようなことをしていこうかと考えていますか。 【千木良】自分としては、今後どの分野に携わるか分からないので、常にいろいろな準備はしておきたいと思っています。基礎的な技術はもちろん、新しい技術や公園や緑に求められることなどにも常にアンテナを張って、いろいろなものを知っておきたいと思います。また、やはり一番大事にしないといけないのは、地域の方と一緒に、というベースのところを大事にするという気持ちで仕事に取り組むことだと思います。 【相場】素晴らしいですね。次に関根さんはどうですか。 【関根】大量の業務の中でも効率化などの工夫をして、職員間でいろいろな情報共有や技術継承の時間をとれるようにしていく必要があると思います。特に現場に一緒に行く経験が重要だと思います。 【大内】時間の観点から言えば、これまで行った事業の経緯や地権者とのやりとりなど、細かいことでも案件ごとに経過の記録が分かるようになると、そういった時間がなかなかとれない中でも、有用なものになるのではと思います。 【相場】池上さんはどうですか。 【池上】造園職としては、緑の機能や樹木の名前を多く知っているなど、何でもよいと思うのですが、「あなたが造園職でこの部署にいて良かった」と思ってもらえる人材であり続けないと、ということは常に意識しています。今後もまちづくりでいろいろな立場の人との関わりが求められていく中で、そういう部分を大事にしていかないといけないと思っています。 【相場】吉野さんはいかがですか。 【吉野】技術継承というと、やはり職員研修の話が出ますが、そういうものだけでは難しいと思います。研修では知識は持って帰ってもらえるとは思いますが、同時に体験したり、悩んだりすることで、本当の意味での技術は伝わっていくと思います。 ◆課題C 新しいフィールド 【相場】緑の仕事として、上瀬谷(※3)や深谷(※4)といった広大なフィールドで新しいことができるチャンスがありますが、どのようにしていきたいかなど、考えていることを聞いていきたいと思います。 【関根】私は上瀬谷の業務に関わっていますが、上瀬谷には現在100ha以上の農地があります。今後どのようになるかは地域の農業者の皆さんとの話し合いにもよりますが、せっかくの大きなフィールドですので、一緒に計画されている公園などとも連携し、地域の農業者の皆さんのやりたい農業と、市民の方々の農の魅力を享受したいというニーズをうまく汲み取り、相乗効果を発揮できる場ができたらよいと思います。 【相場】大内さんはどうですか。 【大内】立地としてかなり行きにくい場所という現状がありますが、横浜のみどりアップやガーデンシティのイメージを表す場所となればいいなと思います。 【相場】吉野さんはどうですか。 【吉野】具体的なことではないですが、里山ガーデンの仕事をしていて、「横浜にもこんな緑があったんだ」とよく言われるので、横浜と言えばみなとみらいとか中華街とかのイメージが強いですが、もうひとつ、横浜と言われてパッと浮かぶようなものがそこにできるといいのかなと思います。 【相場】ありがとうございます。では池上さん。 【池上】郊外部のまちづくりの、これからのよい在り方を示す場所になればいいと思います。緑をキーワードにいろいろな主体が関わり、市民やそこに関わる人も楽しい、そういう場所になっていくといいなと。 【相場】それでは、千木良さん。 【千木良】これまでの歴史を踏まえて、市民の皆さんに喜んでもらえるようなところになってほしいと思います。特に上瀬谷は、公園や農地、樹林地があり、また園芸博覧会も招致しているので、ガーデンシティ横浜を体現するような公園、日本だけでなく世界でも注目を集めるような、また何十年と長い目で見たときにも評価されるような公園になればと思います。 ◆これからの横浜のみどりについて 【相場】では最後に、これからの緑の取組で力を入れたいことや、新たに取り組みたいと思っていることなどについて伺いたいと思います。では、大内さんから順にお願いします。 【大内】市が管理する樹林地は増えていくので、市民と協働した新たな管理手法の検討など、これまで保全した樹林地のストックを積極的に活用できるようになればと思います。特に学校と連携した手法が可能ならば、親子で緑に触れる機会も増え、より多くの世代の実感にもつながるのではないかと考えています。 【吉野】これまで、緑化フェアなどを通して、市内の花の生産者の皆さまや造園業者やガーデナーの方々から特に花やその魅力について多くのことを学ばせてもらってきました。ここで得た知識を生かして、花や緑で横浜をより魅力的にし、市民の方や横浜を訪れた方にとって心地の良い空間をつくる仕事に携わっていきたいと思います。 【池上】横浜にある多様な緑の価値と魅力をもっと市民の方々にアピールして、緑と共に暮らす良さを実感してもらいたいと思います。  一方で、財政が硬直化する中で、公園施設の老朽化や緑地の管理面積増加の課題に対し、様々な手法を模索し実行していきたいと考えています。 【千木良】公園や樹林地など従来の緑の取組の幅も広がっていますが、再開発や地域活動、観光などまちづくりの場面でも緑のニーズが高まっていると感じています。花や緑、農などの緑の取組は誰もが親しみやすく、地域の活性化や魅力づくりなど、まちづくりに大きく貢献できると思います。そういった新しいフィールドにも造園職の技術や活躍の場が広がり、ガーデンシティ横浜の推進や横浜の魅力向上に関わっていければよいと思います。 【関根】今関わっている仕事で言えば、横浜に2か所あるふるさと村の活性化です。ふるさと村やその周辺は横浜の原風景を残す貴重な空間で、市民の森や公園、農地が一体となって、多くの人が散策や農の魅力を感じるために訪れています。そういった環境を未来に残すために、担い手不足などの課題解決や、市民を巻き込んだ農業振興の活性化策だとか、新たな農地の保全方法などに取り組みたいと思っています。 【相場】今日はみなさんいろいろなお話をありがとうございました。 (※1)里山ガーデン…2017(平成29)年に開催された「全国都市緑化よこはまフェア」や翌年から継続して開催している「ガーデンネックレス横浜」の会場のひとつで、横浜動物の森公園未整備区域内に設けられている。 (※2)Park-PFI…都市公園法に基づく公募設置管理制度のこと。飲食店、売店等の公園利用者の利便の向上に資する公園施設の設置と、当該施設から生ずる収益を活用してその周辺の園路、広場等の整備、改修等を一体的に行う者を、公募により選定する。 (※3)上瀬谷…瀬谷区と旭区にまたがって存在する2015(平成27)年に返還された米軍施設(旧上瀬谷通信施設)の跡地で、民有地や国有地を合わせ約242haに及ぶ大規模な土地。土地利用について検討が進められており、2026年の開催で招致が進められている国際園芸博覧会の会場とされている。 (※4)深谷…泉区に位置する2014(平成26)年に返還された米軍施設(旧深谷通信所)の跡地で、円形形状が特徴的な、約77 haの広大な土地。緑豊かな空間の中で、健康づくりに寄与する公園を中心とした空間等を目指して跡地利用が進められている。