《16》税制から見た横浜みどりアップ計画 ?横浜市税制調査会におけるみどり税の議論から 執筆 中川 譲 財政局課長補佐(税制課企画係長) 1 はじめに  「横浜みどり税」は、横浜市が緑の保全・創造の取組の財源を確保するために課税自主権を活用して独自に実施している市民税(個人・法人)の超過課税である。  「横浜みどりアップ計画」の財源の一部に活用するため、平成21年度に5年間の時限措置として導入し、26年度に5年間延長している。その26年度からの第2期横浜みどり税が、30年度で最終年度を迎えたため、継続に関する検討を行うこととなった。  横浜みどり税の継続には、「横浜みどり税条例」の改正を行うために、横浜市会での審議・議決が必要となる。市会での審議に先駆けて、「横浜市税制調査会」に31年度以降の横浜みどり税の取扱いについて諮問し、議論が行われた。30年度には、横浜みどり税に関する審議が6回開催され、その結果を答申としてまとめ、市長あてに提出された。  本稿では、30年度の横浜市税制調査会における、横浜みどり税の継続に関する議論の内容を中心に紹介する。 2 第2期横浜みどり税の実績評価  30年度の横浜市税制調査会における議論は、第2期横浜みどり税について、全てゼロベースで検証し直すところから始められた。  具体的には、まず、横浜みどりアップ計画のこれまでの成果について実績評価が行われた。  これは、横浜みどり税が、緑の保全・創造の取組の財源を確保するために課税自主権を活用した超過課税であり、その課税の根拠は、横浜市が実施しようとしている樹林地の保全や緑化の推進という事業の妥当性と、事業の財源を超過課税でまかなう必要性とに求められるためである。事業の妥当性を確認するために、横浜みどり税の使途である横浜みどりアップ計画の成果について評価を行う必要があるとされた。  また、併せて、その事業の財源を超過課税でまかなう必要性を確認するために、横浜市の財政及び行財政改革等の取組状況についての評価が行われた。 (1) 横浜みどりアップ計画の成果  横浜みどりアップ計画の成果についての評価は、取組の柱ごとに行われた。具体的な取組内容については他稿に譲り、ここでは、横浜市税制調査会で成果として評価された点について触れることとする。  まず、取組の柱1「市民とともに次世代につなぐ森を育む」では、横浜みどりアップ計画の根幹の事業であることから、様々な実績・指標について確認が行われた。横浜みどり税の導入により、不測の事態等による買取り希望に対して確実に対応してもらえる安心感などを背景に、樹林地の緑地保全制度による指定推進が大幅に進んでいることが評価された。  取組の柱2「市民が身近に農を感じる場をつくる」では、市域内の水田の9割を保全していることと、収穫体験農園や農園付公園の整備が進んだことが評価された。  取組の柱3「市民が実感できる緑をつくる」では、市民協働による緑のまちづくり事業により、市民が自ら地域にふさわしい緑を創出する取組が実施されていることが評価された。 (2) 財政及び行財政改革等の取組状況  横浜市の財政及び行財政改革等の取組状況について確認が行われた。その結果、横浜市が厳しい財政状況の中で、借入金残高の縮減や未収債権の縮減などに取り組むとともに、事務事業の見直しに取り組んでいるとされた。 3 第2期横浜みどり税の税制の検証  第2期横浜みどり税の課税の根拠が確認されたことから、続いて税制についての検証が行われた。 (1) 課税手法  横浜みどり税の課税手法は、市民税(個人・法人)均等割への超過課税を採用している。  これは、横浜みどり税の導入時に、横浜市税制調査会の前身である横浜市税制研究会において、緑の保全・創造に向けた新たな税として、市民税(個人・法人)均等割への超過課税によって、多くの市民の方々に広く薄く負担を求めていくことが適当と整理されたものである。  その趣旨は、  @首都圏としての立地環境等から強力な開発圧力にさらされている横浜市において、緑を保全・創造していくためには大きなコストを要し、他都市における行政需要や標準的税負担による行政需要を超える水準のコストと考えられる。  A緑の保全・創造による受益は、市民である個人・法人に広く及んでいくことから課税手法としては市民税(個人・法人)均等割の超過課税がふさわしい。 というものであった。  横浜みどり税を活用した横浜みどりアップ計画の事業・取組による受益は、広く個人・法人に及んでいる。したがって、横浜みどり税が、課税手法として市民税(個人・法人)均等割の超過課税を採用していることは妥当とされた。  なお、第1期の横浜みどり税において設けていた、法人市民税法人税割が課されない法人、いわゆる赤字法人に対する横浜みどり税の課税免除措置を、第2期横浜みどり税において廃止している。この点については、横浜市税制調査会から、特定の対象に特例を設けるような制度は公平性という点からは、望ましいとは言えないと指摘されていたものである。 (2) 課税期間  横浜みどり税の課税期間は、横浜みどりアップ計画に対応した5年間であり、第2期では、個人については26年度から30年度まで、法人については26年4月1日から31年3月31日までの間に開始する各事業年度等としていた。  これは、横浜みどり税導入時の横浜市税制研究会において、「定期的に事業効果の検証を行っていくうえで、5年間という期間設定が合理的」と整理されているものである。  課税自主権を活用した財源確保策においては、期限を区切って定期的に事業効果の検証を行うべきであり、横浜みどり税の課税期間が、それを財源の一部に活用している横浜みどりアップ計画の計画期間と同じ5年間であることは妥当とされた。  なお、横浜みどり税の税収を一般財源と区分して管理している「横浜市みどり基金」の、課税期間終了後の取扱いについて、横浜みどり税の使途の根幹となる樹林地の買取りは、必ずしも課税期間中に生ずるとは限らないことから、基金に残った額は、引き続き特別緑地保全地区等の買取りの財源として活用すべきとされた。 (3) 税率  第2期横浜みどり税の税率は、個人は年間900円、法人は年間均等割額の9%相当額としている。  税率の算定にあたっては、横浜みどり税は緑の保全・創造の取組のために必要な財源を確保するものであるため、「これからの緑の取組[平成26−30年度](案)」の総事業費約485億円から、国費・市債の充当分及び一般財源で対応すべき部分を除いて、横浜みどり税を充当する必要がある事業費が約130億円と積算された。  そして、この事業費の全てを市民税(個人・法人)均等割の超過課税によってまかなうこととした場合、個人の税率は年額900円、法人は規模等に応じた均等割額の9%相当額(4,500円〜270,000円)になると算定されたものである。  なお、個人・法人間の負担割合については、横浜みどり税の導入時に、市民税全体(所得課税分を含む)の負担増加率を個人・法人で同程度とすることが適当であるとされ、横浜みどり税では個人100円につき法人1%相当額となっている。  この個人・法人間の税率設定は、府県における森林保全等に向けた県民税超過課税においても広く採用されており、そういった点から見ても妥当であるとされている。 (4) その他の税制等  横浜みどり税の運用にあたって、必要な追加措置として設けている固定資産税等の軽減措置と市民参画の制度があるが、それらについても検証が行われ、現行の制度が適切であることが確認された。  特に市民参画については、市民推進会議が横浜みどり税の使途を、市民の立場からチェックしており、有効に機能しているとされた。 4 第3期横浜みどり税の継続の検討  第2期横浜みどり税が妥当であったとの確認結果を踏まえ、続いて、第3期横浜みどり税の継続についての検討が行われた。  継続の検討のため、改めて課税の根拠の確認が行われた。課税の根拠とは、超過課税により実施しようとしている事業の妥当性とその事業の財源を超過課税でまかなう必要性である。  そのため、「これからの緑の取組[2019−2023](原案)」の詳細について確認が行われた。  まず、「これからの緑の取組[2019−2023](原案)」では、第2期横浜みどりアップ計画の基本的な枠組みや主な取組は継承しており、第2期横浜みどりアップ計画の成果が確認されていることから、継承している取組については基本的には問題ないとされた。  そして、取組の柱ごとに次期に向けて変更・拡充しようとしている事業を中心に確認が行われた。 (1) 取組の柱1「市民とともに次世代につなぐ森を育む」  取組の柱1は、横浜みどり税の主たる使途であり、横浜みどりアップ計画の中でも最も重要な施策である。この事業について、必要性と変更・拡充しようとしている内容の確認が行われた。  まず、事業の必要性を確認するため、横浜市が依然として高い開発圧力にさらされているのかということについて確認が行われた。  樹林地が開発された事例や、緑被地の減少原因で最も多いものが住宅の建築であるという結果から、樹林地が減少する主な原因は住宅の建築であることが確認された。新築住宅着工数の推移などの状況から、横浜市は引き続き高い開発圧力にさらされていることが分かった。  続いて、取組の柱1のうち、次期に向けた施策の変更点について確認が行われた。  まず、変更点の一つ目は、第2期横浜みどりアップ計画では5か年で500haであった樹林地の新規指定の目標面積を、300haとし、緑の10大拠点内の樹林地や身近なまとまりのある樹林地の指定を推進するとしている。  これは、大規模で比較的合意が得られやすい樹林地の指定が進んだことで、今後はより規模の小さい樹林地の指定が増えるために指定面積の平均が小さくなるであろうとの予測に基づくものである。今後はより小さい樹林地やより難易度が増している案件について、指定の勧奨を進めていくこととなるが、目標達成に向けて全力で取り組むことを期待するとされた。  また、買取りの想定面積について、第2期計画の108haから113haと増加を見込んでいる。これは、既に指定している樹林地からの買取請求を見込んでいるものであり、引き続き所有者の不測の事態による買取りにしっかりと対応していくべきとされた。なお、引き続き、保全措置が講じられた樹林地を適切に維持管理していくことが必要とされた。  さらに、次期の計画案では、土地所有者が樹林地として持ち続けられるよう、指定した樹林地における維持管理の負担を軽減するための支援の拡充を予定している。  こうした助成の拡充により、土地所有者による樹林地の維持管理負担が軽減されることで、樹林地の買取請求が後年度となる効果も期待できるとされた。 (2) 取組の柱2「市民が身近に農を感じる場をつくる」  取組の柱2において横浜みどり税を充当している主な事業は、水田の保全、収穫体験農園・農園付公園の整備である。これらの事業は、次期に向けて特に大きな変更は行わず、引き続き取り組むとしている。  横浜市では、樹林地と田や畑が一体となった谷戸景観や、川沿いの水田景観などの農景観は、地域の景観として多くの市民に親しまれている。水田は樹林地と同様、一度転用されてしまうと元に戻すことが困難であることから、市民が身近な緑としての農を感じる場として、水田を保全する取組は継続が妥当とされた。  また、収穫体験農園・農園付公園の整備についても、市民が自ら緑と土に触れ合う場を提供することで、市民が緑の保全・創造の取組に対する意識を高めることにつながることから、継続することが妥当であるとされた。 (3) 取組の柱3「市民が実感できる緑や花をつくる」  取組の柱3においては、これまで行ってきた市民協働による地域緑のまちづくりなどの取組を継続しつつ、新たに老木化した桜の街路樹などの地域で愛されている並木の再生を実施するとしている。  街路樹を再生し、街路樹による良好な景観づくりを目指す取組は、まさに市民が実感できる緑や花をつくる取組であり、次期の計画で実施すべきものであるとされた。  また、市民の花や緑への関心を高めるため、既に一般会計で実施しているガーデンシティ事業の一部を次期計画に位置付け、これまでの都心臨海部での取組と一体として進めることは妥当であるとされた。 5 第3期横浜みどり税の税制の検討  横浜みどり税を継続する必要性が確認されたことから、続いて具体的な税制案が検討された。  その結果、課税手法・課税期間については第2期と同様とすることが妥当であるとされた。  また、税率については、次期横浜みどりアップ計画における横浜みどり税の必要財源額である約136億円を、市民税(個人・法人)均等割超過課税によってまかなうこととして税率が算定された。  その結果、個人の税率は900円、法人の税率は規模等に応じた均等割額の9%相当額(4,500円〜270,000円)となった。これは、第2期までの横浜みどり税と同じ税率であるが、改めて必要財源額から算定された結果である。  なお、固定資産税等の軽減措置及び市民参画の制度についても、引き続き必要であるとされた。 6 森林環境税との関係性  今回の横浜みどり税の継続に関する議論の中で、新たに創設される国税・森林環境税と横浜みどり税との関係性についても整理された。  森林環境税は、平成30年度与党税制改正大綱において、創設するとされた国税である。  具体的には、国内に住所を有する個人が納税義務者であり、税率は年額1,000円となっている。賦課徴収は、国税だが市町村が個人住民税均等割と併せて行い、国から譲与税として、市町村及び都道府県に私有林人工林面積、林業従業者数、人口などの基準に応じて譲与するとされた。また、課税は36年度から、譲与は31年度から行うとされている。  使途は、市町村では間伐や人材育成・担い手の確保、木材利用の促進や普及啓発等の森林整備及びその促進に関する費用とされた。  横浜市税制調査会では、森林環境税のより具体的な使途について検討が行われた。その結果、森林環境税の構想当初の目的は、経済・商業ベースで林業が成り立たない森林の整備であり、その目的に適合する横浜市における具体的な使途は、そうした森林整備事業で生み出された国内産木材を、消費地である都市自治体として購入・利用することであるとされた。  横浜みどり税の目的は、都市部の樹林地の保全であり、都市緑化の推進であることから、森林環境税と横浜みどり税の目的は異なると結論付けられた。  また、横浜市税制調査会で議論された内容ではないが、森林環境税と並んで、横浜みどり税と比較されることの多い、神奈川県の水源環境保全税についてもここで少し触れておくこととする。  水源環境保全税は、神奈川県が水源環境の保全・再生に継続的に取り組むために課税自主権を活用して実施している個人県民税の超過課税である。そして、その税収を活用した事業の対象地域は、主として神奈川県西部の水源保全地域とされており、この地域に横浜市域は含まれていない。また、横浜市の実施している事業に水源環境保全税の税収は、交付等はされていない。  こうした点から、横浜みどり税と神奈川県の水源環境保全税とでは、目的が異なっていると言える。  横浜みどり税・森林環境税・水源環境保全税の3つについて、比較した表を掲載しておくので、違いを見ていただければと思う。 7 おわりに  本稿では、横浜みどり税に関して、平成30年度に横浜市税制調査会で行われた議論の内容を中心に紹介してきた。  ここでは、紙面の都合で議論の詳細な内容について、大幅に割愛している。詳細な内容は、横浜市税制調査会の平成30年度答申を横浜市ホームページに公開しているので、そちらも併せてご覧いただければと思う。  横浜市では、7月に提出された横浜市税制調査会の答申を受けて、内部で更なる検討を行い、平成30年第3回市会定例会に横浜みどり税条例の改正議案を提出した。市会における審議では、議案関連の質疑のほか、常任委員会が臨時で開かれるなど、熱心に議論が行われ、結果として議案は附帯意見を付して可決された。  附帯意見の内容は、@横浜みどり税の目的、内容について、今後も引き続き、市民への周知の徹底を図るとともに、その効果を市民が実感できるよう工夫を図ること。A引き続き、行財政改革を一層推進し、事務事業については、徹底した見直しを行うこと。の2つである。  これまでも、市税を所管する財政局と横浜みどりアップ計画の事業所管局である環境創造局とで連携して広報活動を行ってきたところだが、横浜みどり税と横浜みどりアップ計画を市民の皆さんに知っていただけるよう、広報に積極的に取り組んでいく必要があると考えている。  また、併せて横浜みどり税と森林環境税・水源環境保全税との違いなども市民の皆さんに伝えていけるよう、取り組んでいきたいと考えている。 表1 横浜みどり税、水源環境保全税、森林環境税の比較 横浜みどり税 課税団体:横浜市 課税手法・税率:個人市民税均等割に900円、法人市民税年間均等割額の9%相当額を上乗せ 課税期間:平成21年度〜35年度(法人市民税については、開始事業する事業年度)(5年ごとの期限を設けており、直近の改正は30年) 税収規模:約28億円/年(個人17億円 法人11億円) 使途:@樹林地・農地の確実な担保、A身近な緑化の推進、B維持管理の充実によるみどりの質の向上、Cボランティアなど市民参画の促進につながる事業 水源環境保全税 課税団体:神奈川県 課税手法・税率:個人県民税均等割に300円、所得割に0.025%上乗せ 課税期間:平成19年度〜33年度(5年ごとの期限を設けており、直近の改正は28年) 税収規模:約40億円/年 ※約16.9億円/年(横浜市における想定徴収額) 使途:@森林の保全・再生、A河川の保全・再生、B地下水の保全・再生、C水源環境への負荷軽減、D県外上流域対策の推進、E水源環境保全・再生を推進する仕組み 本市への譲与等:・横浜市の実施している事業には、交付等はされていない。 ・事業の対象地域は、主として神奈川県西部の水源保全地域とされており、この地域に横浜市域は含まれていない。 森林環境税 課税団体:国 課税手法・税率:1,000円を個人住民税と併せて賦課徴収 課税期間:平成36年度から 税収規模:約600億円/年(1,000円×納税者6千万人) ※約19億円/年(横浜市における想定徴収額) 使途:@市町村は、森林環境譲与税を、間伐や人材育成・担い手の確保、木材利用の促進や普及啓発等の森林整備及びその促進に関する費用に充てなければならないこととする。(横浜市では、木材利用の推進を図るほか、今後本格化する学校建替事業の財源として活用) A都道府県は、森林環境譲与税を、森林整備を実施する市町村の支援等に関する費用に充てなければならないこととする。 本市への譲与等:・市:県=9:1 ・私有林人工林面積:林業就業数:人口=5:2:3 ※平成31年度から譲与 ・31年度:1.4億円/年 31年度〜35年度:計8.6億円 45年度:4.8億円/年(平年度化)