コラム 横浜の街路樹 執筆 藤波 徹 道路局施設課 ◆樹種と本数  横浜市内には約13万本の高木が、街路樹として植えられています。本数ランキングの上位は、かつて大量に植えられた生長の早い樹種が今でも多く占めていますが、ハナミズキやヤマボウシ、クロガネモチなど、生長が比較的遅く管理しやすい樹種も少しずつ数を伸ばしています(表−1)。また、常緑樹と比べ、落葉樹が圧倒的に多くなっています。 ◆街路樹の役割  街路樹は、街並み景観の形成や延焼防止等、様々な機能を持っていますが、とりわけ昨今では、地球温暖化やヒートアイランド現象等が問題となっている都市部において、もっとも身近で効果的な暑熱対策として、その存在が再認識されています。街路樹の木陰は、夏場の厳しい日差しから直接的に歩行者を守ってくれるだけでなく、日なたであれば50℃近くにも達する路面等の日差しも遮り、足元や周囲からの照り返しも大幅に減ります。また、人工的な日よけでは、日射により日よけ自体が蓄熱する一方、街路樹は葉の蒸散作用によって、逆に暑さを和らげてくれます。  街路樹は、道路施設の中では唯一の自然物であり、新葉や落ち葉、花などで季節の移ろいを感じることもでき、人の心も和ませてくれます。他の施設と違って幅広い領域での役割を担っています。 ◆近代街路樹発祥の地  横浜は日本の近代街路樹の発祥地と言われています。1867年(慶応3年)、馬車道の各商店が、店の前に柳と松の街路樹が植えたのが始まりですが、関東大震災で焼失し、現在では1977年(昭和52年)以降に植えられたアキニレに代わっています。関内駅近くの馬車道広場には「近代街路樹発祥之地」の記念碑が建てられています。  日本大通りのイチョウ並木は、関東大震災の復興事業により1927年(昭和2年)から3年間かけて植えられ、自然樹形の風格ある立派な並木へと生長しています。2011年(平成23年)には、景観法に基づく「景観重要樹木」に指定されました。  山下公園通りのイチョウ並木も、同じく震災復興事業により1928年(昭和3年)から植えられました。このあたりは、震災で倒壊した建物の瓦礫等を埋め立てた上に植栽されており、生育には厳しい環境でしたが、今日では大きく生長し、1986年(昭和61年)に「日本の道百選」(建設省(現・国土交通省)と「道の日」実行委員会により制定)に選ばれました。  これらの並木は、今では横浜を代表する街路樹であり、観光名所にもなっています。 ◆戦後の大量植樹  市内に街路樹が大量に植えられ始めたのは、戦後の高度経済成長期で、郊外部における大規模な宅地開発や土地区画整理事業等によって、急速に失われ始めた緑の代償として、新たな道路の拡大とともに街路樹が大量に植えられました。当時は早期緑化という観点で、プラタナス、ユリノキ、サクラ、ケヤキなど、生長の早い樹種が選定されました。  ところが現在、これらの樹木が巨木化し、肥大した幹や根が植樹桝や歩道舗装を持ち上げ、通行に支障をきたすなど、街路樹としての生育空間の限界を超え、樹木の健全な成長を阻害するようになってきました。  今後迎えるであろう、大量の街路樹の高齢化を見据え、緊急性の高いところ(特に寿命が短く、病気に弱いサクラなど)から優先的に植え替え等、更新している状況です。 ◆街路樹点検  街路樹の高齢化に伴い、ベッコウタケ等のキノコ(根株心材腐朽菌)によって、幹の根元付近の内部が腐朽し、一見元気そうに見える樹木が倒伏するなど、新たな問題も発生しており、安全確保のための点検が重要となってきています。  このため、従来の道路パトロールや徒歩パトロールによる点検等に加え、2014年(平成26年)からは、主に※根株心材腐朽菌に侵されやすい樹種(サクラ類、ユリノキ、ケヤキ、プラタナス、シダレヤナギ、ポプラ類、エンジュ、ニセアカシア)については、樹木医による点検を実施しています。  (※国土技術政策総合研究所の「街路樹の倒伏対策の手引き」に例示) ◆街路樹の維持管理  現在、高木の剪定や中低木の刈込、草刈など、街路樹の維持管理については 各区土木事務所で行っています。  また、各区の代表的な一部路線の高木剪定については、横浜みどり税を財源とした「いきいき街路樹事業」(※2019年度からは「街路樹による良好な景観の育成事業」に名称変更)による、ふところの小枝を残した適切な剪定を行うことにより、美しい並木づくりを目指しています。  なお、来街者の多い都心臨海部の一部街路樹は、公園管理担当部署との連携により、質の高い管理を行っています。 表−1 本数の多い街路樹(歩道並木) (平成30 年3 月31 日現在) 1位イチョウ 15,788 2位ユリノキ 9,089 3位サクラ類 7,840 4位ケヤキ 6,288 5位ハナミズキ 5,825 6位トウカエデ 5,091 7位ハナノキ 3,251 8位クスノキ 3,112 9位アキニレ 2,929 10位プラタナス 2,647 11位モミジバフウ 2,553 12位シラカシ 2,381 13位ヤマボウシ 2,007 14位カツラ 1,974 15位クロガネモチ 1,857