《11》まちづくりにおける緑 B 都市デザインの視点における都市の緑化/ガーデンシティ横浜 執筆 桂 有生 都市整備局都市デザイン室 渡辺 荘子 都市整備局都市デザイン室担当係長 1 はじめに  1960年代からの横浜・都市デザインの取組では、美しさといった人間的価値、特に各地域の自然的、歴史的、文化的価値を尊重し、都市の質的向上を推進する活動を長年続けてきた。その中で、緑の軸線構想に始まり、多くの緑に関わる機会があったが、都市デザインという横断的な手法の性質上、それらは人々のコミュニケーションの場としてのオープンスペースや広場の「質」を向上することなどと合わせて総合的に考えられてきた。  本稿では、都市デザイン室が関係してきたこれらの取組の中から、これまで様々な機会を捉えて緑を創出してきた事例を紹介すると共に、これらの根底にある思想が時代の変化に対応しながらも、脈々と現在に生きていること、そしてその思想がこれからの「ガーデンシティ横浜」にも寄与できるであろうことを論じてみたい。 2 「都市デザイン×緑」の取組  まず、都市デザインにおける緑やオープンスペースを創出する取組の中から、テーマに沿う事例をいくつか紹介する。 (1) 緑の軸線構想及びウォーターフロント軸【1968年?】  横浜の最大の魅力である港と緑を活用して都心部を有機的に結び付ける緑の軸線構想は、六大事業・都心部強化事業の目標の一つで、大通公園から山下公園へ至る都市軸形成のこと。関内・関外地区の中心に、既存の緑地である横浜公園や山下公園をつなぐ新たな緑と豊かなオープンスペースを通すことで、既成市街地に活気をもたらすと同時に、緑を感じる快適な歩行空間を形成するものであった。  また、水際線に緑の軸線と直行する形で、開かれた公共空間と緑地をつくる軸線形成をウォーターフロントの軸線と呼んでいる。具体的には、山下公園から臨港パーク(1990年)、象の鼻パーク(2009年)、赤レンガパーク(2002年)などの都市公園や港湾緑地、これらをつなぐプロムナードを整備してきた。  今後予定される現市庁舎街区等活用事業など、現在でも緑の軸線整備は継続して行われている。 (2) 港北ニュータウン【1969?1996年】  港北ニュータウンは、人口の急増が問題化していた当時、港北区、緑区( 現在は都筑区)にまたがる約2,530haの区域で「乱開発の防止」「都市農業の確立」「住民参加のまちづくり」「多機能複合的なまちづくり」を基本理念とした宅地開発で、六大事業の一つである。このエリアは当時、県内有数の農業地帯である一方、都市化の波にさらされ、離農希望者と営農意欲の高い農家の両方が存在し、都市と農業の共存が大きな課題であった。その結果、農業専用地区6地区を設定している。また、都市公園や校庭などのオープンスペースや、寺社仏閣、屋敷林等の地域の歴史を保つ貴重な緑の資源を歩行者専用道路及び緑道で結びつけながら構造化した。これがグリーンマトリックスシステムである。限られた面積の公園や緑道のみでは分断されてしまう緑地を、隣接する開発や、学校などの公共施設整備で連続的に担保することで、豊かで質の高い住環境を生み出している。 (3) 日本大通の再整備【2002年】と景観重要樹木指定制度【2011年】  日本大通は開港直後の横浜大火による大きな被害を受けて、日本人街と外国人居留地とを隔てる防火帯としてつくられた幅員36mの日本初の西洋式街路である。関東大震災とその大火を契機に燃えにくい銀杏が街路樹として植えられたが、現在ではその紅葉が美しい通りとしても知られている。  2002年の再整備では、銀杏並木の外側だけだった歩道を内側にも拡幅すると同時に、植栽防護柵を整備するなどして銀杏の生育環境や歩行環境も改善した。この再整備でつくられた植栽帯は、緑化フェアの際にも多くの草花で彩られた。通りの主役は銀杏である、という考えをベースに、照明の配置や色温度、舗装石の選定にいたるまで、細かく配慮してデザインされている。  沿道の銀杏(計65本)を指定している景観重要樹木指定制度は、地域の個性ある景観づくりの核として重要な樹木の維持、保全及び継承を図るもので、日本大通に欠かせない銀杏並木は法的にも担保されることとなった。  これらのほかにも、山手景観保全要綱における緑保全の取組、市民参加も盛んに行われた「水と緑のまちづくり」による河川敷のプロムナードや親水公園、緑道の整備など、緑に着目した都市デザインのプロジェクトは多い。次に、これらの取組の根底にある思想を解き明かしたい。 3 取組に見る緑の考え方と今後の展望  まず、その地域の資源を把握することが都市デザインでは重要だが、緑の取組においても同様である。緑の軸線は、山下公園や横浜公園といった、横浜都心部の歴史によってもたらされた地域資源を読み込み、新たにそれらをつなぐ緑を構想し、長期的な取組の積重ねによって実現することで、緑を都市の中心的構造へとアップグレードするというものであった。港北ニュータウンは、当時、多くの都市が抱えていた乱開発の解決のために計画的な宅地造成を行うプロジェクトであるが、大規模開発が必ず直面する山や緑、農地などを切り崩さなくてはいけないという課題に正面から向き合い、自然地形や既存の緑地、農地を開発の中にできるだけ活かそうと苦労して工夫した結果が、グリーンマトリックスシステムや農業専用地区を生み出した。  「都市デザイン・7つの目標」にもあるように、緑やオープンスペース、コミュニケーションの場を豊かにすることは、都市の質を向上するのに重要な要素である。しかし、緑やオープンスペースが環境や防災といった視点からも重要な都市インフラであると認識されている一方、7つの目標がかつては「7つのW擁護すべきW価値」であったことからも分かるように、この2つは、守り、新たにつくっていかなくては都市から容易に失われてしまうこともまた事実である。  みなとみらいのグランモール公園の再整備(2017年)で都市デザイン室から提案したことの1つは、みなとみらいの企業による公共空間利活用の動きに合わせて、公園沿いの施設からの活動がにじみ出やすくなるよう、中央を通行空間、活動スペースを両側の建築に寄せる断面構成へと変更することであった。緑は生き物であり、継続的な維持管理が必須だ。市内に残される多くの樹林地も、維持管理に苦慮し、都心部における緑も景観的価値を含めた質が保たれなければ、人を惹きつけることはできない。横浜ならではの場所性を活かし、企業や市民活動の中で魅力的なオープンスペースを維持し、質を担保する取組の展開が、持続可能な都市経営とガーデンシティの形成に必要不可欠となる。中期4か年計画によるとガーデンシティとは花や緑だけでなく、水や農、シビックプライドから、グリーンインフラによる都市環境の改善など、多岐にわたる取組である。そのためには、これまでの経緯を踏まえた上での位置付け、長期的で横断的な構想と柔軟な展開が重要となってくる。都市デザインという手法は、ここでも重要な役目を果たすことができるだろう。 参考  「SD 別冊No.11 横浜 都市計画の実践的手法」 「都市デザイン 横浜 その発想と展開」