《9》公園に関する取組 執筆 千木良 泰彦 環境創造局みどりアップ推進課 1 はじめに  都市公園には、景観形成、環境保全、生物多様性保全、防災・減災、レクリエーション、スポーツ・健康、コミュニティ形成等の多様な機能がある。かつては、主に休息やレクリエーションの場としての役割を果たしてきたが、社会状況の変化や時代の要請に伴い、防災や子育て活動の拠点、さらには地域コミュニティの形成や都市の価値・魅力向上、賑わいづくりの場など、より一層多様な機能を担うようになってきている。  横浜市には、2,675か所、1,707.6haの都市公園があり(平成30年3月31日現在、県立の4公園を除く)、本市の緑の取組の中でも、良好な都市環境を形成する上で、都市施設として重要な役割を果たしている。これまでも、社会状況の変化や時代の要請に応えながら、地域の身近な公園から、スポーツのできる公園、多様なレクリエーションに応える大規模な公園まで、規模や地域の特性を踏まえて整備を進めてきた。一方で、市民一人当たりの面積は4.92u(県立公園を含む)となっており、全国平均の10.3u、政令指定都市の平均6.7u(出典:国土交通省「都市公園データベース」平成29年3月31日現在)に比べると低い水準にある。また、本市の配置計画(後述)でも充足していない地域もあるため、今後も整備が必要な状況にある。  本市では、「横浜市水と緑の基本計画(平成18年12月策定、平成28年6月改訂)」に基づき、「多様なライフスタイルを実現できる水・緑豊かな都市環境」の実現に向けて、様々な取組を進めている。公園については、小学校区を単位として身近な公園を整備する配置計画を策定するとともに、スポーツのできる公園、レクリエーション需要に応じた公園、地域の歴史や文化、景観、自然環境を生かした特色ある公園、新たなまちづくりや土地利用転換に対応した大規模な公園の整備等を進めることとしている。また、施設の適切な維持管理、更新を着実に推進し、利用者が安全に安心して利用できる公園にするとともに、多様化するニーズ等に対応し、利用者の満足度を高めるために、公園の特性を踏まえながら維持管理、運営を行うこととしている。さらに、身近な公園が地域の庭として愛され、地域活動やコミュニケーションの場となるよう、公園愛護会やボランティア、地域の活動団体のサポートやコーディネート、子育てや福祉等に関わる多様な主体との連携・協働等を進めることとしている。  本稿では、本市の公園行政の発展の歩みを振り返るとともに、今後の公園のあり方や取組の方向性についての展望を述べていきたい。 2 公園の誕生  横浜の公園の歩みは、我が国の公園の歩みでもあり、明治3年に開園した山手公園から始まる。山手公園は、日本で初めて造られた西洋式公園として、日本の公園史の原点でもあり、国の文化財(名勝)にも指定されている。明治9年には、彼我公園(彼は外国人、我は日本人を指す。外国人専用の山手公園と異なり日本人も利用できた)と呼ばれた横浜公園が開園した。山手公園、横浜公園、根岸森林公園(慶応3年に完成した日本初の常設西洋式競馬場である根岸競馬場の跡地を活用した公園)の3公園は、「旧居留地を源として各地に普及した近代娯楽産業発展の歩みを物語る」として、平成21年に経済産業省から近代化産業遺産に認定されている。  関東大震災(大正12年)からの復興は、計画的なまちづくりのきっかけとなり、多くの公園が誕生した。震災の瓦礫を埋め立てた上に造られ、昭和5年に開園した日本初の臨海公園である山下公園をはじめ、野毛山公園、横浜市児童遊園地、元町公園等が復興公園として整備された。  日本が戦争へと進んでいく中、昭和16年に空襲の際の避難場所、延焼防止等のため「防空緑地」が定められ、17か所が計画された。防空緑地は戦後も緑地として残り、県立保土ケ谷公園や県立三ツ池公園、三ツ沢公園、弘明寺公園等が整備された。  昭和20年の終戦後は、連合国軍が進駐し、市街地とともに横浜公園や山下公園等も接収され、将校の住宅等に利用された。その後、接収された公園の接収解除が進むとともに、新たに接収解除された土地に港の見える丘公園や富岡総合公園等が整備された。 3 急激な都市化の中での公園の整備 (1) 急速に進む都市化の中での公園整備  戦災復興から高度成長期に入る昭和30年代は人口急増と乱開発、「交通戦争」等が社会問題化し、子どもが安全に遊べる場所の確保が強く求められた。そこで、市では、昭和43年、「横浜市宅地開発要綱」を定め、事業者に対して、「提供公園」と呼ばれる児童公園(現在の街区公園)を整備することを求めた。これにより、子どもが安心して遊べる場所を確保することができた。これまでに整備された提供公園は2,000か所以上あり、市内の公園数の約75%を占めるまでになっている。なお、宅地開発要綱による指導内容は、平成16年に制定された「横浜市開発事業の調整等に関する条例」に受け継がれている。  一方、中心市街地の復興は遅れており、都市の基盤整備も不十分であったため、市は昭和40年に「六大事業」をスタートさせた。六大事業は、特定の基幹的事業を戦略的・重点的に遂行することで、都市全体の基盤と骨格を整え、健全な都市としての発展を図る大プロジェクトで「都心部強化事業」、「港北ニュータウン事業」、「金沢地先埋立事業」等からなっていた。中でも港北ニュータウン事業と金沢地先埋立事業は、その後のまちづくりにおける緑とオープンスペースのあり方に大きな影響を与えた。  港北ニュータウン事業は、「乱開発の防止」、「都市農業の確立」、「市民参加のまちづくり」を基本理念として、「グリーンマトリックスシステム」、「農業専用地区」等の新しい仕組みを導入し、緑豊かで魅力的なまちをつくり上げた。グリーンマトリックスシステムは、緑道を主骨格とし、公園緑地や歩行者専用道路等の公共の緑、集合住宅や学校、企業等の民有の保存緑地、水系等を連続させるとともに、農業専用地区をモザイク状に配し、地区の空間構成の要としたものである。港北ニュータウンは、グリーンマトリックスシステムにより、現在でも緑を中心とした質の高い住環境を保っている。  金沢地先埋立事業は、都心部強化事業に伴う市中心部の工場移転用地造成を主目的として進められた。埋立地には、工場地区と住宅地区「金沢シーサイドタウン」が配置され、職住近接のまちづくりを行うとともに、失われた水辺を復元するため、海の公園、人工島(現在の八景島)を配置した。また、職住近接のまちづくりに欠かせない緩衝緑地として、騒音防止、大気浄化等の効果に加え、市民の憩いの場とするために金沢緑地が整備された。 (2) 公園での市民協働の誕生  こうした急速に進む都市化の中で整備された公園のほとんどは街区公園、近隣公園等の身近な公園である(2,592か所、市の公園の約97%(平成30年3月31日現在))。こうした身近な公園は、地域の共通の「憩いの場」であり、行政だけではなく、市民とともに維持管理や活用に取り組む「市民協働」が不可欠であった。そこで、市では、全国でも先駆的な取組として、昭和36年に「公園愛護会」制度を創設し、現在に至るまで、地域住民を主体に結成された公園愛護会に公園の日常的な維持管理やイベント等の地域活動を担っていただいてきた。創設から約60年経過した公園愛護会の結成率は、約90%(2,478団体、2,407か所(平成30年3月31日現在))と全国でも極めて高い水準にある。現在は公園愛護会表彰や各区での公園愛護会交流会など、横のつながりを生む取組も実施している。「公園は地域の財産、地域の庭、公園からのまちづくり」を目標に活動する公園愛護会。市民の身近な暮らしや活動の場に公園があることが横浜の公園行政の特色となっている。 4 成熟する社会の中での公園 (1) 「横浜らしい」景観を創る公園  「横浜らしい」景観として、歴史や西洋文化を感じさせる建築物、港や運河等の水辺の風景が挙げられるが、公園は横浜らしい景観を創り、守り、都市に個性を与えることにも大きく貢献してきた。  市では、昭和63年に文化財保護条例及び歴史を生かしたまちづくり要綱を施行し、歴史的建造物の保全活用を進め、山手地区の西洋館や古民家、港のドック、鉄道遺構等が公園等で保全されている。横浜の歴史的建造物の保全は、活用とセットで考えられているのも特徴で、西洋館ではコンサートや結婚式、古民家では伝統行事等が行われている。また、公園と一体的な景観を創ることで、建物が建てられた時代の雰囲気を感じられることも大きな魅力となっている。公園での西洋館の保全は、旧イギリス総領事公邸を昭和44年に取得し、港の見える丘公園の拡張部「横浜市イギリス館」として公開したことから始まった。その後、元町公園、山手イタリア山庭園を加えた3公園に7つの西洋館を現地保存または移築保存している。古民家を生かした公園の先駆けとして、平成元年に開園したみその公園の「横溝屋敷」は、周辺の市民の森等の景観と合わせて公園として保全され、地域の歴史と文化を学ぶ場となっている。長屋門公園、都筑民家園など9公園でも、古民家を保存し、地域の歴史や伝統文化を継承するとともに、地域住民を中心とした運営組織によるイベント等を通して地域コミュニティの拠点としての活用も進めている。近年でも、平成21年に復元工事が完成した市指定有形文化財である野島公園の「旧伊藤博文金沢別邸」や、平成29年に再建され、市認定歴史的建造物に認定された俣野別邸庭園の「俣野別邸」等で歴史的建造物の保全・活用を図っている。  また、六大事業による港湾機能移転に伴い、みなとみらい21地区の海岸沿いにプロムナードや緑地を整備し、山下公園とともに、港や運河等の景観を楽しめる空間を創っている。  一方、もう一つの「横浜らしい」景観が、郊外部に残された横浜の伝統的な谷戸(丘陵地にできた浅い谷地形)である。平成4年に開園した舞岡公園は、郊外部の開発により失われつつあった谷戸景観を守る取組として、周辺の農地や山林と一体化した特性を生かし「少し前の時代の横浜の失われた郷土文化を残す」という形で整備された。雑木林や谷戸に水田が広がる光景は、まさに横浜の郊外の原風景であり、市民団体との協働により維持管理を行うなど、公園としてふるさとの景観を守る新しい手法を示した。その後も、平成21年に開園した新治里山公園など、谷戸を生かした公園整備や管理運営が続けられている。 (2) 新たな時代の魅力ある公園整備と管理運営 ?公園とスポーツ  日本のテニス発祥の地である山手公園や横浜スタジアムのある横浜公園以外でも、公園とスポーツの関係は深く、三ツ沢公園は昭和24年に「第4回国民体育大会」のバレーボール会場として開園、昭和30年に「第10回国民体育大会」のメイン会場、昭和39年に「東京オリンピック」のサッカー会場等になった。サッカーJリーグでは平成5年の開幕から使用され、現在横浜FC、YSCC、横浜F・マリノスのホームスタジアムとなっている。  新横浜公園の横浜国際総合競技場は、国内最大級の70,000席(現在は72,000席)収容の総合競技場として、平成10年にサッカー「ダイナスティカップ」日本対韓国戦でオープンし、「第53回神奈川国体秋季大会」のメイン会場となった。平成14年の2002FIFAワールドカップでは、日本戦と決勝戦が行われた。質の高い芝の管理に定評があり、FIFAクラブワールドカップや国際陸上大会、ラグビーなど多様なスポーツの舞台になっており、横浜F・マリノスのホームスタジアムとなっている。さらに平成31年のラグビーワールドカップ2019(TM)(決勝戦)、2020年の東京2020オリンピック・パラリンピックのサッカー(男子決勝、女子準決勝)の会場となることも決定し、スタジアムの魅力と大会に向けた機能の向上、安全性の確保等に向けた改修を実施している。 ?動物園  横浜の動物園の歴史は、昭和24年、日本貿易博覧会が野毛山公園等で開催され、会場の一部で動物を展示したことに始まる。昭和26年には遊園地を併設した野毛山遊園地として動物を展示し、遊園地廃止後は順次動物舎を増やし昭和47年に野毛山動物園に改名した。長い歴史を持つ野毛山動物園は親から子、子から孫へと世代を超えて親しまれている。  昭和57年に開園した金沢動物園は金沢自然公園の動物区として計画され、「生態系」という概念をいち早く取り入れたことが特徴であった。このコンセプトと野毛山との区別化から専門的動物園を目指し、希少草食動物を無柵放養式で展示することとした。  平成11年に開園したよこはま動物園ズーラシアは生息環境展示が特徴の総合動物園である。生息地の「自然環境や文化まで含めた多様性」を伝えることを目指した展示は、当時は主流でなかったが、現在では全国の動物園の改修に当たって目指すモデルとなっている。平成27年には、日本で初めて肉食動物と草食動物の4種を一緒に展示する「サバンナゾーン」が開園した。 ?特色や魅力ある公園整備と管理運営 (ア)住民参加による公園づくり  特色ある公園整備の取組として、昭和60年頃から街区公園を中心に試行されたワークショップ手法を活用した住民参加方式の公園づくりがある。急速に進む都市化の中で、行政主導により、多くの公園が整備されるにしたがい、画一的な施設計画になりやすい、利用者ニーズを十分把握できていないといった課題が生まれた。一方で、公園は、道路や下水道等の他の都市施設と異なり、地域のニーズを施設計画に反映できる余地が大きいことから、住民参加による公園づくりが試行されるようになった。住民参加のプロセスや設計・施工への関わり方は、公園や地域の特性に応じて様々であるが、平成2年開園のかに山公園、平成8年開園の天王森泉公園など、ワークショップ手法により地域の方々に親しまれる、魅力ある公園が誕生した。  その後も、設計段階での地域の方々との意見交換による計画づくりや計画内容を伝えるニュースレターの発行、施工段階での記念植樹など、地域のニーズや状況に合わせながら地域の方々に公園づくりに参加していただき、公園愛護会活動と合わせて公園に愛着を持っていただけるような取組を行っている。 (イ)子どもの成長の場をつくる取組  公園が子どもにとって魅力的な遊び場であり続けるために、市では様々な試みを行ってきた。「こどもログハウス」は、核家族化が進む中、異なる年齢の子どもが交流し、地域で子どもを守り育てる場として18区の公園に1館ずつ整備された。雨や炎天下の日でも屋内で遊べるログハウスでは、地下迷路や1階と2階をつなぐダイナミックな遊具で体を存分に動かしたり、絵本や工作を楽しんだりと、子どもが思い思いに過ごすことができる。「プレイパーク」は、極力禁止事項をなくし、泥んこ遊びや水遊び、たき火等、子どもたちが自分の責任で自由に遊ぶことを大切にした遊び場である。市はプレイパークを運営するNPOや市民と協力しながら、ルール作りやプレイリーダーの配置、事故防止のための研修等の支援を行っており、市の公園では24か所(市内では28か所)(平成30年4月1日現在)で開催されている。他の公園での出前型プレイパークや、公園を子育て支援の場として活用する取組等も行われ、地域を巻き込んだ活動に発展している。 (ウ)生物多様性を守る取組  横浜では、生物多様性という言葉が広く使われるようになる以前から、身近な自然に暮らす生き物に注目し、保全する取組が行われてきた。昭和50年代にはこども自然公園でホタル等を保全するための調査や管理が行われた。その後、身近な生物の生息環境づくりを「エコアップ」として概念化し、昭和61年には本牧市民公園トンボ池の整備が行われた。トンボという身近な生き物を指標に市民とともに環境を保全する取組は、その後の保全事業にも大きな影響を与えた。平成に入り、舞岡公園の里山管理の活動など市民による森づくりが活発化し、多様な市民が関わるようになると、森の将来像を見据えた合意形成と計画的な維持管理を行う必要が出てきたため、「保全管理計画」が策定されるようになった。そして、平成25年には植生や生息する動植物等に配慮した管理目標や管理手法、利用者や隣接住宅等への安全性の確保など都市の樹林地保全に必要な技術をまとめ、森づくりに携わる市民と行政が共有できる「横浜市森づくりガイドライン」が策定された。こうした取組により、横浜では大都市でありながら身近に生き物を感じられる場の創出が進んでいる。 (エ)特色ある公園の整備と管理運営  現在、市内の公園は、各区の土木事務所と公園緑地事務所等が、市民が安全で安心して快適に利用できるよう公園施設の点検、補修、清掃、草刈、剪定等の管理を行っている。こうした日常的な維持管理や老朽化した施設・遊具等の更新のほか、周辺環境の変化に合わせた再整備工事、公園愛護会等の支援等、地域の特性や周辺状況に応じて特色ある公園づくりを行い、地域で長く愛される公園となるよう様々な取組を進めている。特に公園愛護会をはじめとする地域との協働では、土木事務所に配置された公園愛護会等コーディネーターを中心として、花壇づくり等の地域の花いっぱい推進、講習会の開催等による健康づくり、様々なイベントなど地域に根差した活動を支援している。  平成21年から開始された「横浜みどりアップ計画(新規・拡充施策)」では、農地を守る取組として、市民が農作業を楽しめる農園(分区園)を主体とする農園付公園が位置づけられた。平成26年から開始された2期目の「横浜みどりアップ計画(計画期間:平成26−30年度)」でも、「市民が身近に農を感じる場をつくる」取組として、引き続き農園付公園が位置づけられ、現在までに9か所が開園している。また、「市民が実感できる緑をつくる」取組では、緑の少ない西区、中区、鶴見区等を対象に、多くの市民の目にふれる場所で、緑豊かな公園を整備し、街の魅力や賑わいづくりにつなげる「公有地化によるシンボル的な緑の創出」事業により、2か所が開園している。さらに、多くの市民や観光客が訪れるエリアである都心臨海部では、緑や花による空間演出や質の高い維持管理を集中的に展開し、街の魅力形成、賑わいづくりにつなげるため、「都心臨海部の緑花(りょくか)による賑わいづくり」の取組が行われ、山下公園や港の見える丘公園、グランモール公園等は、いつ訪れても緑や花で彩られた魅力と賑わいにあふれる公園となった。こうした取組の成果を活用し、平成29年に全国都市緑化よこはまフェアが開催され、多くの方々に公園を中心として花と緑で美しく彩られた横浜の街を楽しんでいただくことができた。さらにそのレガシーを継承し、ガーデンシティ横浜の推進の取組として、「ガーデンネックレス横浜」を展開している。  また、近年、「安全・安心で持続可能な国土」といった課題ヘの対応として、自然環境が有する多様な機能を活用し、持続可能で魅力ある国土づくりや地域づくりを進める「グリーンインフラ」という考え方が広まりつつある。この考え方を全国でもいち早く取り入れ、平成30年にリニューアルした公園がグランモール公園である。「横浜みどりアップ計画」や「環境未来都市・横浜」の取組の一つとして、公園内での「水循環」を生み出すグリーンインフラの仕組みを積極的に導入し、樹木、水景、休憩施設等と組み合わせることで「憩いと賑わいのあふれる公園」を実現している。 (オ)大規模な土地用転換における公園整備  本市には現在でも米軍施設があり、その返還は市政の重要な課題である。平成16年の日米合同委員会において、市内の米軍施設約528ha(当時)のうち、7割を超える面積の返還方針が合意された。翌年に返還された旧小柴貯油施設では、広域公園として都市計画の手続きを経て整備等が進められている。このほかにも、旧深谷通信所や2026 年の開催を目指して国際園芸博覧会の招致を進めている旧上瀬谷通信施設等において公園の整備が検討されている。 (カ)新たな手法が生む新たな賑わい  公園の役割は普遍的なものだが、時代とともに新しい手法や制度が生まれてきた。近年、公園に限らず「民間活力の導入」として民間事業者の発想や資金を活用し、より魅力ある空間形成やサービスの充実を図ろうとする動きが盛んである。本市では、これまでもこうした新しい手法や制度を積極的に活用し、公園の魅力を高め、まちの課題解決にもつなげてきた。  平成15年の地方自治法改正により、多様化する市民ニーズにより効果的、効率的に対応するため、公の施設の管理に民間事業者のノウハウを活用しながら、市民サービスの向上と経費の節減を図ることを目的に指定管理者制度が創設された。公園においても、平成16年から有人管理が必要な公園及び有料施設のある公園を対象として指定管理者制度を導入した。指定管理者の有するアイディア、ノウハウにより、公園の魅力アップ、利用者の満足度向上を図っている。  平成19年にハッピーローソンとしてリニューアルした山下公園レストハウスは、都市公園法の管理許可制度を活用し公園にコンビニエンスストアを設置するという、当時では前例のない公民連携の取組として注目された。コンビニエンスストアだけでなく、事業者提案により、休憩スペースや観光客向けの情報提供、横浜土産の販売等を付加し、魅力ある施設となった。民間事業者が収益を上げながら、公園やまち全体の魅力向上や行政の管理コストの低減につなげる取組は、その後の全国の取組のモデルとなっている。  アメリカ山公園は、平成16 年の都市公園法改正で創設された立体都市公園制度を全国で初めて活用し、平成21年に開園した。みなとみらい線元町・中華街駅駅舎上部を増改築して公園区域とし、隣接する緑地を公園として一体的に整備することで、元町地区と山手地区の回遊性の向上とオープンスペースの確保を実現している。さらに、地域の魅力向上や駅前拠点としての賑わいを創出するため、管理許可制度を活用し、公園全体の運営を行う管理運営事業者が公園区域の建物内に便益施設を設けている。  現在では一般的となったネーミングライツをいち早く導入したのが新横浜公園にある日産スタジアム(横浜国際総合競技場)である。日本最大規模を誇る競技場は、多くの管理経費が必要なことから検討が開始され、平成14年の2002FIFAワールドカップ決勝会場となり、知名度を高めた価値を生かし、当時では例の少なかったネーミングライツに取り組んだ。その後、市では、ネーミングライツを「横浜市、スポンサー、市民それぞれにとってメリットになり、地域活性化につながるような取組」として進めており、ニッパツ三ツ沢球技場(三ツ沢公園)など4公園で実施している。  また、市政の重要課題である待機児童の問題においても、公園としてその解消に取り組んだ。市では、それまでも待機児童解消に向けた取組を進めてきたが、平成25年、国家戦略特別区域法が改正され、都市公園内に保育所設置が認められたことから、国家戦略特区制度を活用し、保育所設置が困難な地域への対応策として、公園部局と保育施設部局等が調整し、反町公園に保育所を設置した。保育運営事業者の募集では、地域交流・地域支援等の公園との連携への配慮を求め、公園としての機能や役割を損なうことなく、公園と保育所の相互の価値の向上を図っている。 ?公園での公民連携の推進  本市では、これまでも多様化する市民ニーズにより効果的、効率的に対応し、利用者の満足度を高めるため、全国でも先進的な公民連携の取組を進めてきた。  一方、少子高齢化・人口減少の進展、都市間競争等の社会状況の変化、ますます多様化する価値観やニーズ、厳しい財政状況の中、本市でも開園から30年以上経過した公園が60%を超え、良好な維持管理や機能維持等のための再整備が順次必要な状況となっている。こうした状況に対応するため、多様な主体との連携により、新たな公園の価値を創造する取組や、これまで以上に公園を柔軟に使いこなす取組が求められている。  国においても、社会状況の変化や公園の状況、今後の都市の方向性等を踏まえ、平成26年、国土交通省が「新たな時代の都市マネジメントに対応した都市公園等のあり方検討会」を設置し、平成28年に「社会情勢の変化等に対応するため、公園緑地行政は新たなステージに移行すべき」との認識を示した最終報告書が公表された。さらに、平成29年には、都市公園法が大きく改正され、社会情勢やニーズへの対応、民間ノウハウや投資を積極的に引き出す施策が盛り込まれた。具体的には、公園施設を適切に整備・更新し、利用者の利便向上や公園の活性化、魅力向上を図るため、民間活力を最大限活用する公募設置管理制度(Park -PFI)等が創設された。  こうした社会状況の変化や要請を踏まえ、平成29年に、市内全ての公園を対象としてサウンディング調査を実施し、民間事業者、社会福祉法人、NPO団体、公園愛護会等57団体から80件の提案をいただいた。現在、こうした提案を踏まえ、事業化について検討を進めている。  平成30年からは、学識経験者や市民代表等から組織される「横浜市公園公民連携推進委員会」を設置し、公園の公民連携に関する基本事項をまとめる「公園における公民連携に関する基本方針(仮称)」の策定を進めている。さらに、横浜動物の森公園未整備区域において、Park -PFIを活用して、アスレチック施設等の整備・管理運営を行う民間事業者の公募を行うなど、公民連携の取組を具体化し、公園を一層柔軟に使いこなすマネジメントを進めている。 5 これからの公園の姿  横浜では、全国に先駆けて多くの公園に関する取組が行われてきた。日本初の西洋式公園である山手公園の開設、公園愛護会制度の創設、歴史を生かした公園づくり、公民連携等、社会の要請や課題に対応しながら、都市の要素の一つとして、重要な役割を果たしてきた。豊かな自然環境と暮らしが共存し、花と緑にあふれる環境先進都市を実現し、ガーデンシティ横浜を推進する上でも、都市の景観や風格形成、地域活性化、都市環境の保全、観光・MICE、子育て、観光、防災、文化など、様々な視点から「公園」への期待はますます高まっている。今後も将来を見据え、時代の要請に柔軟に対応しながら、これまで整備してきた公園のストックの活用や公園のポテンシャルを生かすとともに、多様な主体とも連携し、より魅力的な公園の計画、整備、管理運営の取組を展開していきたい。