《8》地域における取組から B 緑の取組を通した地域の活性化 執筆 上田 智子 上星川レジデンス副委員長 高田 房枝 鶴見「みどりのルート1」をつくる会会長  横浜市みどりアップ計画では、地域が主体となり、住宅地や工場地帯など様々な街で、地域にふさわしい緑を創出する計画をつくり、市民と協働で進める取組として「地域緑のまちづくり事業」に取り組んでおり、これまで延べ47地区で事業を推進している。  この事業は緑のまちづくり推進団体(以下「推進団体」という。)と横浜市で複数年の協定を結び、推進団体が取り組む緑化整備や整備した緑地の維持管理、広報や研修などの緑化活動等を横浜市が支援する事業である。そのため、この事業は地域の緑化だけでなく、緑を通じたまちづくりが展開されるということも大きな特徴と言える。  今回はこの事業に取り組んだ上星川地区(保土ケ谷区・平成27年〜平成29年)と北寺尾地区(鶴見区・平成25〜平成29年)の推進団体の方に活動を振り返っていただき、緑を通じたまちづくりがどう展開されてきたかを紹介する。 1 緑の取組を通じた上星川地域の活性化(上星川地区)〜 ハンギングバスケットを街に広げる〜 ■ハンギングバスケットとの出会い  私はハンギングバスケット(以下ハンギング)をはじめて見たとき、衝撃を受けました。まるで空中に咲く花束のようで、しかも根がついていて成長していく過程を楽しめるのです(写真1)。植え方を習いたいと思って色々調べるうちにハンギングの先駆者である先生に出会いました。 ■ハンギングを我が街にも広めたいと思ったきっかけ  習いはじめてしばらくして、飾ってある私のハンギングを見た街の人たちに声をかけられるようになりました。プランターや鉢植えなど、置き型の従来のスタイルに対して、庭面積が少ない場所にも玄関先にも、目の高さで飾れるこのスタイルは、もしかしたらこの地域のみんなに受け入れられるのではと思ったのです。街中にハンギングが広がったらどんなに素敵なことかと想像するようになりました。 ■第1回ハンギング講習会を開くまで  そう想像する中、横浜市の事業「地域緑のまちづくり」で地域の方々と横浜市が協力をして、地域にふさわしい緑を創出する取組の募集があることを知りました。この事業を利用すれば自分たちが住んでいる街にお花が広がる、お花を通して会話の弾む街にできる、その結果、地域が活性化するのではと考え思い切って募集してみました。「上星川グリーンアッププロジェクト」と命名したこの街づくりを早速2015年春から準備に取りかかりました。  引っ越して来てまだ年数も浅い娘と私はその頃は全然知り合いもおらず、人数集めには苦労しました。横浜市の方にも二人で動いているのかと驚かれましたが、熱意が届いたのか無事に選定され、協定を締結し、ついに12月6日に先生をお招きしての第1回目のハンギング講習会が開かれたのです(写真2)。 ■ハンギングに対する街の反応  初めてハンギングを見た街の人たちの感想は、まずこれが自分たちの手で作り出せるのかと驚き、そしてこの小さなハンギングにたくさんの苗が入っていることに関して狭くて可愛そう、枯れるに違いない、値段を聞いて高すぎるというようなものでした。しかし、初冬に植えるハンギングは寒くて花の成長が活発でないため、お花がなんと春まで形をあまり変わらずに長持ちし、街の人々を魅了しました。今では雨避けや寒さ避けの不織布をかけ大事に育ててくれています。 ■まとめ  地域緑のまちづくりも4年目を迎え、今でもたくさんの方がハンギング講習会に参加してくださり、街では「ウェルカムハンギングバスケット」としてすっかり定着しました。ハンギング以外にも地域のお揃いポット、アイスチューリップ(写真3)や多肉植物の植え込み、タネ団子、コキアのほうき作り(写真4)、など最新の緑化を取り入れ地域の方々に楽しんでもらえるような企画をしています。会のメンバーからは「お花を通じて会話が増えた」と嬉しいお声をいただきます。ここにたどり着くまでに不安もありましたが、それを支えてくれた役員たちがいました。引っ越して来てどんな人たちかも分からない私たち親子を支持してくれたのです。それがどんなに心強かったかは言葉には言い表せません。心と心を繋ぐお花パワーに感謝。 2 現代の「沿道里山」づくりで地域の活性化(北寺尾地区) (1) はじめに  鶴見「みどりのルート1」をつくる会(以下「当会」という。)は、横浜市の国道1号「北寺尾」交差点を中心として約1qに亘る沿道の住民、店舗、教育機関等が一体となって「民有地の緑化によるまちづくり」に取り組む組織として平成24年に設立されました。  平成25年から5年間は横浜市と「地域緑のまちづくり事業」で協定を締結し、5年間助成を受けて協働しました。  平成30年には当緑化地域が里山だった過去の歴史を踏まえ、事業者、横浜市、地域住民の連携により新しい里山として「沿道里山」と位置づけての活動が評価され第38回「緑の都市賞」の内閣総理大臣賞を受賞することができました。 (2) 活動のきっかけ  昭和12年以前はこの地域は里山でした。「京濱国道」(現在の国道15号)の交通量の激増により「新京濱國道」が計画され、当地域の里山は開削され、「国道一号」として現在に至っています。  沿道は、時代の変遷とともに商業系地域として利便性が高く賑わいのある地域となりましたが、一方では僅かに残されていた緑は消失の一途を辿り看板が乱立し、ゴミも散乱する状況でした。  そのような折、平成19年に筆者の所有地にスターバックスコーヒージャパン(株)と(株)木曽路が出店する際、緑化に配慮する計画を要請し、これが受け入れられました。  この結果を契機として地域一帯の緑化まちづくりを構想し、沿道地域の事業者、住民に呼びかけ、当会の活動を開始しました。 (3) 沿道民有地緑化の実態 ?緑化計画の方針とテーマ  @幹線道路沿いの民有地の店舗、駐車場、道路沿い、擁壁を緑化しその中で憩うことができる持続可能で生物多様性の植栽ゾーンを「みどりの拠点」としてつなぎ、現代の「沿道里山」を創る。  A子どもたちに自然の大切さを体得することを目指す。  B「沿道における緑化」のモデルになる。  これらを目指しました。また、緑を楽しむことをテーマとして掲げ、トンボや鳥の観察・勉強会、また地域で発芽したドングリ苗からのミニ鉢づくりなどから生態系の変化を調べ、次のみどりのまちづくりの意識が高まることを期待しました。 ?緑化の成果  横浜市の助成により行った事業所の緑化箇所は平成25年度から29年度で15箇所、植栽した樹木数量は高・中・低木で約3,134本、樹種数93種類(植樹時)の緑が増えました。 ?新しいコミュニティー  当会の活動では、立場を異にする者同士が「地域の緑化」という目標や理念を共有して活動することで新しいコミュニティーが醸成されたと言えます。月例のクリーンアップ活動に加え、近隣住民はもとより、ガールスカウトの子どもたちや、野球部の中学生、総合学習や理科的な視点からの調査を計画する中学生等が参加し、学校や保護者を通じて活動の輪が広がっています。 ?市民主体でできた緑化  横浜市の緑の助成は主体者が市民又は企業等のため、合意形成が十分なされた緑化は愛着があり、緑化推進、維持管理に意欲的な取組となりました。この点は活動意欲につながる重要な点でした。 (4) 今後に向けて  計画立案時から今日に至るまで多くの問題を抱え解決してきました。横浜市からは財政基盤と多大なるアドバイスを得てきましたが、実施者からの立場での計画立案方法、課題解決時の調査方法等を明示し、誰もが緑化まちづくりに取り組める仕組み作りを創設し、今後も横浜市の緑化を推進したいと思います。