《8》地域における取組から A 市民の森愛護会の取組 執筆 裏戸 秀幸 環境創造局みどりアップ推進課 1 はじめに  市民の森は、良好な樹林地を土地所有者の協力を得て保全するとともに、住民の憩いや環境教育等の場としても活用する、横浜市独自の緑地保全制度である。この制度の大きな特色は、維持管理を地域で設立した愛護会により住民参加で行うことである。昭和46年度の制度開始以来、平成30年4月までに、開園した市民の森38か所で、31の愛護会が活動をしている。 2 森や地域とのつながり  制度運用後の初期に設置された市民の森の愛護会は、農家など土地所有者を主体に組織され、活動は、開園前から行っていた自身の土地の山林管理(草刈りや間伐等)の継続と、施設の保守やパトロール、清掃等であった。  平成10年頃からは、土地所有者の高齢化により愛護会作業が困難なケースが見られるようになった。土地所有者に代わり愛護会を担ったのは、地域活動や環境に関心の高い地域住民であった。山林管理の技能や経験が少ない方も多かったが、行政が主催する研修等で技術を学び、土地所有者の協力を得ながら愛護会活動を行えるようになった。なお、この研修は、平成21年度から開始された「横浜みどりアップ計画」(以下、みどりアップ計画という。)にも位置付けられ、継続して実施されている。  みどりアップ計画の開始以降、保全制度に基づく緑地の指定や、相続など不測の事態の際の緑地の買取りが急速に進展し、市有地が含まれる市民の森も増えてきた。愛護会については、行政が近隣自治会等へ結成を働きかけるものの、愛護会活動にかかる労力などが負担に感じられるようになるなど設立の合意を得ることが難しくなってきた。また、既存の愛護会でも、高齢化に伴い活動継続が困難になったところもあった。そこで、平成24年の制度改正において、愛護会の森への関わり方を見直し、その役割を行政の管理をサポートするものと位置づけ、会が担う作業を危険を発見するための巡視や快適な利用のための清掃等の軽作業に改めた。 3 森の魅力向上に向けた協働の取組  多くの愛護会では、会ごとにそれぞれ森に対する想いを持ち活動している。自身の山林の継承、希少な山野草の保全、鬱蒼とした森を明るくして子どもを遊ばせたい、などの想いである。その想いが活動に反映され、各市民の森にも特色を与えてきた。  一方、行政の関与の管理は、みどりアップ計画を契機に、それまでの最低限の安全管理から森の質の向上を図る樹林地管理へと幅を広げ、愛護会と保全管理計画策定の取組を開始した。保全管理計画とは、愛護会と行政など森に関わる人々が、それぞれの森への想いや価値観について話し合いながら森の将来像を定め、安全確保や、保全と利用とのバランスに考慮し、協働で作業を進めるその森固有の森づくりの計画である。  この計画に基づき、主に行政は防災対策のための樹木管理など大規模で集中的に行う作業、愛護会は森に密着したきめ細かな作業を行っている。例えば希少な野草の保全において、守りたい野草を丁寧に残す草刈りや盗掘防止の見回りのような作業は愛護会の活動に負うところが大きい。愛護会の地道な取組が希少な野草を保全・育成しているケースも多く、地域の生物多様性向上に大きく寄与している。 4 おわりに  市民の森制度はまもなく半世紀を迎える。貴重な自然環境である市民の森は、地域コミュニティ上でも重要な施設となっており、これは、愛護会が顔の見える活動を絶えず実践してきた成果である。また、行政と愛護会が話し合い、共有する保全管理計画策定の取組は、市民協働で都市の自然環境保全を行っている好事例であるとも言える。一方、ボランティア組織の共通課題である後継者育成は、市民の森愛護会でも例外ではない。今後、市民の森を良好に守り育てるためにも後進が加わり、愛護会がより活性化していく必要がある。行政は、愛護会活動の功績や魅力について市民の理解を深め、次世代の森づくりを担う人づくりを進めることが求められている。