《6》横浜みどりアップ計画の10年 執筆 清水 健二 環境創造局緑地保全推進課長 枝広 育恵 環境創造局農政推進課担当係長 長尾 哲也 環境創造局課長補佐(農業振興課担当係長) 井上 雅人 環境創造局みどりアップ推進課担当係長 北村 直也 環境創造局みどりアップ推進課  横浜市は、緑の減少に歯止めをかけ、「緑豊かなまち横浜」を次世代に継承するため、独自の「横浜みどり税」を財源の一部に活用し、平成21年度から「横浜みどりアップ計画」を推進している。この計画は、これまでに約850haの樹林地を保全するなど着実な成果を挙げ、全国的にも注目されている。ここでは、横浜みどりアップ計画の策定のプロセス、取組の考え方及び変遷と、10年間の成果について振り返る。 1 計画策定の経緯 (1) 計画のはじまり  横浜市では、全国に先駆けた緑に関する様々な施策を展開し、緑の確保を図ってきたが、横浜市水と緑の基本計画が策定された平成18年の時点でも樹林地や農地の減少が続いていた。また、宅地化の進行とともに、市街化調整区域でも学校・病院・社会福祉施設や墓地、資材置場、駐車場などが増加し、緑地・農地の減少が起こっていた。  そこで、平成18年度からの横浜市中期計画において、水と緑の基本計画に基づき緑の総量の維持・向上を図る「横浜みどりアップ計画(2006−2010)」が掲げられた。この計画が、現在に至る横浜みどりアップ計画の原型となっている(図1)。  この時点では公園整備などの既存事業も含んだ内容であったが、緑地保全制度の指定による樹林地の保全、市民農園など農体験の場の開設促進、市民協働による緑化など、現行の計画にも共通する基本的なフレームが形作られたほか、下水道事業の一環として河川源流域の緑地を保全し治水力を向上するために創設した「水源の森」の制度を再編し、「源流の森保存地区」として指定拡大するといった組 織横断的な取組の推進も記載された。  さらに、これらの取組に加えて、緑の保全・創造に向けた新たな制度の活用や、新たな財源の確保について、検討することも盛り込まれた。 (2) 課題の抽出  平成19年9月に樹林地や農地の保全のため、土地所有者の土地の保有上の課題を把握することを目的として、市街化調整区域の農地・樹林地所有者に対してアンケートを行った。樹林地の所有者からは「相続対策」や「維持管理負担」などが(図2)、農地の所有者からは同じく「相続対策」や「担い手不足」などが樹林地や農地を持ち続ける上での課題として上げられ、所有者の困難な状況が改めて浮き彫りとなった。  横浜市の環境の保全及び創造に関する事項について調査審議する組織「環境創造審議会」からの提言「緑施策の重点取組について」(平成19年12月)では、様々な公益的機能を持つ豊かな緑を市民共有の財産として将来の世代に引き継いでいくために、長期的な視点から重点的に取り組むべき方向性として「10大拠点等まとまった緑の保全」「市街地の身近な緑の創造と保全」「樹林地等の維持管理・運営」「多様な主体の参加と協働の促進」の4項目が提示された。  さらに、農政施策検討会からの提言「横浜における今後の農政施策について」(平成20年7月)では、「農地の担い手対策」「農地の保全策と営農環境整備」「農業振興対策」「農地の相続対策等」といった項目について具体的な提案がなされた。  これらを踏まえ、既存事業に対し新規・拡充すべき施策をまとめるとともに、施策に必要な概算事業費を算出した。 (3) 事業費の確保  特別緑地保全地区や市民の森の指定地において買取りの申し出があった際の事業費として、平成20年度以前も年間約30億円程度を充当していたが、まとまった樹林地の所有者からの買取り申し出があった際に単年度で対応することは難しく、制度指定を受け入れる土地所有者側の不安材料となっていた。緑地の指定拡大や維持管理への支援など緑の取組を進めていくうえで、土地所有者の理解と協力を得るためには、安定的かつ機動的な財源確保が必須の課題であった。  このような背景の中、税の専門家によって構成される「横浜市税制研究会」(平成19年8月設置)において、課税自主権を活用した財源の検討が重ねられ、8回の検討会や現地調査を経て平成20年8月に最終報告が提出された。報告では新たな緑施策に必要な事業費について、緑が持つ多面的な機能の受益者となる市民に広く負担を求める市民税均等割超過課税方式が提示され、税率を個人から年間1300円、法人から年間均等割額の13%相当とする試算のほか、事業内容・事業費の精査を行ったうえで市民理解が得られるかなどの観点から実際の税率を設定すべきとされた。  なお税制研究会では、課税方式について開発事業者等の「緑を減少させる原因者」に対しても負担を求めることができないかを検討する必要があると判断し、慎重な審議が行われたが、緑を減少させること自体を原因として直ちに税負担を求めることについては法律上様々な課題があり、また既に行われた開発には課税されずに結果としてこれまで緑の保全に協力してきた土地所有者へ税の負担が転嫁されることになるため、公平性の点でも課題が残るとの結論となり、採用には至らなかった。  「リーマンショック」により世界的な不況が引き起こされた直後の、平成20年10月、環境創造局と行政運営調整局は施策の内容や事業費を精査し、税率を個人1,100円、法人11%とする税制案を公表した。 (4) 市民意向の把握  緑の保全・創出の取組についての検討に合わせて、市民意向の把握も行った。「横浜の緑に関する市民意識調査」(平成20年5月・図3)及び「横浜の緑の保全・創造施策と財源確保に関する市民意識調査」(平成20年8月)といった市民1万人アンケートの実施や、 シンポジウム「横浜の豊かな緑を次世代につなげるために」(平成20年7月)の開催、税制案に対する市民意見募集(平成20年11月)などを実施、検討の段階ごとに市民意向の把握と周知に努めた。 (5) 計画の策定  市会常任委員会において平成19年12月に土地所有者アンケートの結果と環境創造審議会からの提言を議題として以降、計14回に及ぶ議論を重ねた。経済状況などを考慮して更に厳しく事業を見直し、税率を個人900円、法人9%とした新たな財源の条例が、平成20年12月に本会議で附帯意見を付けて可決された。  これをもとに具体的な事業内容・事業費をまとめ、平成21年3月に「横浜みどりアップ計画(新規・拡充施策)」を策定、平成21年4月に計画がスタートした。 2 横浜みどりアップ計画の取組の変遷と成果  「横浜みどりアップ計画(新規・拡充施策)」は、平成21年からの5年間を計画期間とし、「樹林地を守る」「農地を守る」「緑をつくる」の3つの取組の柱によって構成されている。緑の多くが民有地であることから、緑地保全指定や継続保有のための支援など、民有地の緑に対する施策を従来の施策から大幅に拡充したものとなった。  さらに、平成26年からの次の5か年の計画として、それまでの取組の成果や課題、市民意識調査や市民意見募集の結果などを踏まえ、平成25年12月に二期目として継続・発展させた「横浜みどりアップ計画(計画期間:平成26−30年度)」を策定した。3つの取組の柱に「効果的な広報の展開」を加え、公園内の樹林地の保全や、緑の少ない区で用地を確保し緑をつくるシンボル的な緑の創出など、より身近に緑を実感できる取組を強化して、引き続き緑の保全と創造に取り組んでいる。 (1) 樹林地を守る〜市民とともに次世代につなぐ森を育む  樹林地を守る施策の一期目の計画では、施策の根幹となる緑地保全制度による地区指定を5か年で大幅に拡大(当時の累計約830haに対し約2倍以上の1,119haの新規指定)し、保全対象となる民有樹林地約2,830ha中の3分の2を指定することを目標とした。これは、保全対象となる樹林地を10年後までに全て指定することを前提とした、非常に高い目標であった。  計画初年度の樹林地保全の取組として、5月に一筆500u以上の樹林地の所有者5,020人への意向調査を実施した。  結果、4割の所有者から回答があり、「指定したい」との意向や「関心がある」との意向のあった樹林地面積は約523haにのぼった。  そのほかにも、5月下旬から6月上旬にかけて市内5か所で制度説明会(参加人数528人)を開催、8月末に2,500通のダイレクトメールを送付するなど積極的な働きかけを行った。あわせて指定要件の緩和、維持管理助成制度の創設などにより、指定を強力に推進した。  その結果、初年度は指定目標面積51.6haを上回る87.8haの指定を行い、2年目も目標の138.1haに対し、117.5haと目標に近い成果をあげた(図4)。  しかし3年目、指定目標は309.9haに対し実績が104.6haと大きく下回った。市会から「指定推進体制に問題があるのでは」と厳しい指摘も受けたのもこの時期である。この傾向は4年目以降も変わらず、一期目の5か年の指定実績は目標が1,119haに対し実績は527haに留まったが、計画前の5倍のスピードで指定が進み、樹林地の減少に歯止めをかけることができたことは一定の評価を得た。  横浜みどり税を財源の一部として買取りの予算が確保されたことも保全が推進された大きな要因である。  指定と買取りには密接な関係がある。計画以前の緑地保全の予算状況が厳しい時代には、「指定すれば買取りが発生するが、予算はないから指定も進められない」という状況もあった。企業が宅地開発を行うために保有していた市街地に残る樹林地に対し、積極的に保全制度による指定を働きかけられたのも予算があったからこそで、買取りにより市街地の貴重な樹林地を守った事例も多く、市民や市会にも評価された。  また、保全した樹林地については、適切な管理が欠かせない。そこで市民協働による維持管理を推進するため、「横浜市森づくりガイドライン」を平成25年3月に策定し、森づくりに関わる市民と行政が具体的な手法や技術を共有した。  平成26年度からの二期目の計画では、緑地保全制度による樹林地の指定拡大の取組として、一期目の指定実績や樹林地の減少傾向の鈍化を踏まえ、横浜市水と緑の基本計画の最終年度である平成37年度の時点で保全対象となる樹林地を全て指定することを目指し、5か年で500の指定を目標に取組を進めた。  前半2か年は年100以上の指定を達成し、その後は年60 ha程度を指定し、最終的な実績は5か年目標の8割程度となる見込みである。  森の育成の取組では、森ごとの特性等を踏まえた管理方針となる「保全管理計画」の策定も着々と進んでおり、愛護会などと連携しながら計画に基づいた維持管理を行い、その成果を確認・検証して計画にフィードバックすることで、生物多様性や安全性に配慮した良好な森の育成が進展した。 (2) 農地を守る〜市民が身近に農を感じる場を作る  農地を守る施策の一期目の計画では、農業従事者の高齢化や後継者がいないことによる担い手不足、農業収入の低迷など、農業を取り巻く深刻な状況を踏まえ、周辺環境との調和と生産性向上による農地保全や農業を支える多様な担い手の育成、地産地消に着目した農業振興策等を進めた。  中でも、水田の保全の取組は大きな成果を挙げた。水田は貯水機能や景観形成などの多面的機能を有しているが、畑作に比べて収益性が低いことに加え、耕作者の高齢化等により水稲作付が困難となっていたため、水稲作付を10年間継続することを条件に土地所有者へ奨励金を交付した。その結果、5か年目標の50haを大きく上回る118.8ha の水田を保全し、市民共有の貴重な財産である水田の減少を食い止めることができた(図5)。  また、野菜の収穫や果物のもぎとりなどを気軽に体験できる収穫体験農園の開設支援も、5か年の目標23 haに対し21 haと順調に進捗し、農を楽しむ場の確保により市民と農家双方のニーズに応えることができた。  計画の二期目からは、市会や税制調査会での議論を受け、業(なりわい)としての農業を支援する取組は横浜みどりアップ計画から一般会計の事業に移行し、地産地消に関する取組も横浜みどり税を非充当とするなど、計画や税の趣旨に基づいた事業の再編を行った。農業経営の安定化・効率化など持続可能な都市農業のための取組は「横浜都市農業推進プラン」(図6)に基づいて引き続き進めながら、横浜みどりアップ計画では「農を感じる場づくり」を掲げて、農地の持つ環境面での役割に着目した取組や、市民と農の関わりを深める取組を展開した。  水田の保全の取組では、平成29年度までに市内の水田面積全体の約9割に当たる119.8haの横浜に残る貴重な水田景観が保全された。  また、土地所有者による維持管理が難しくなった農地等を市が買い取るなどして、市民が楽しめる農園区画を備えた農園付公園(都市公園)も整備し、平成29年度までに9公園4.5haが完成している。その他にも、土地所有者が自ら開設し、区画貸しで利用者が自由に耕作する特区農園など、様々な市民ニーズに合わせた農園の開設や整備が大きく進んだ。  地産地消の取組では、市民が地産地消にふれる機会を拡大するため、地場の新鮮な農畜産物などを販売する直売所の整備等の支援や、青空市での市民交流イベントの支援を行った。また、地産地消に関わりたいと考える市民・企業等との連携や、新たに地産地消に関するビジネスに取り組みたいと考える新規創業者等の支援を行い、市内産農畜産物を使用した新商品(図7)の開発やマルシェの開催などの取組が進んだ。  さらに、平成29年度からは、食や農に関わる多様な人たちと、農畜産物、農景観など横浜らしい農業全体を一つの農場に見立てた言葉である「横浜農場」を活用し、横浜の農の魅力等をブランドとして広く発信しはじめた。これらの取組により、市民が農を感じる場や機会が増加したことで、市民の農への理解が深まるとともに、食や農への関心も一層高まっている。農地を中心とした田園景観が保全され、身近に農がある横浜の豊かなくらしの実現に近づくことができた。 (3) 緑をつくる〜市民が実感できる緑をつくる  緑をつくる取組の一期目の計画では、横浜みどりアップ計画と同時期に創設された「緑化地域制度」など一定割合以上の緑化の義務づけを行う制度の運用とともに、公共施設や民有地など様々な場所で緑の量を増やす取組を展開した。また、市民が目にする機会が多い街路樹では、街並みの美観向上に寄与する街路樹を良好に育成するよう、目標とする樹形を決め、剪定方法に配慮しながら維持管理を行う取組を18区で展開した。さらに、市民協働による地域緑のまちづくりとして住宅地や商店街、オフィス街、工業地帯など16地区において緑化計画が策定され、地域ぐるみの緑化活動が行われた。  二期目の計画では、それまでの成果と課題を踏まえ、より多くの市民の実感につながる緑化の取組を計画に盛り込んだ。  地域緑のまちづくりの取組は市内47地区に広がり、なかでも鶴見区の北寺尾地区では、国道一号線沿いの住民・事業者・教育機関などが協力して沿道の緑化や維持管理の活動を継続的に行い、緑豊かなまちづくりを表彰する「緑の都市賞」において内閣総理大臣賞を平成30年秋に受賞するなどの成果をあげている。  また、子どもを育む空間での緑の創出の取組として、保育園や幼稚園、小中学校において園庭や校庭の芝生化に加え、ビオトープや花壇、樹木による緑化など多様な緑を創出した。また、創出した緑が適切に管理できるよう、維持管理費用の助成のほか専門家による技術講習会や訪問指導などの支援を行った。  公共施設・公有地での緑の創出の取組では、各区の新総合庁舎(南区、金沢区、港南区)整備に伴い計画的に緑化を行ったほか、地区センターやコミュニティハウス等の多くの市民が利用する公共施設・公有地の緑化を進めた。  さらに、第二期から取り組んだ「シンボル的な緑の創出」により、鶴見区の下野谷三丁目公園や西区の伊勢町もくせい公園など、土地利用転換などの機会をとらえて緑の少ない区において用地が確保され、緑豊かな空間を創出した。  同じく二期目からとなる「緑や花による魅力・賑わいの創出」の取組では、多くの市民や観光客が訪れる都心臨海部において、緑や花による演出や質の高い維持管理を集中的に展開した。山下公園や港の見える丘公園などの都市公園や新港中央広場などの港湾緑地、日本大通りなどの植栽帯等を季節の花や緑で演出し、街の魅力形成・賑わいづくりにつなげるとともに、この取組で創出された緑が、平成29年度の第33回全国都市緑化よこはまフェアの会場としても活用された。 (4) 効果的な広報  平成20年12月の横浜みどり税条例の可決にあたって市会から付された附帯意見では「税の目的・内容の周知徹底」及び「税の使途・事業進捗の公開」について特段の努力をすることが求められた。このため、平成21年度の計画初年度から、みどりアップ計画の理解促進と事業成果の普及のため、広報よこはまやウェブサイトをはじめ、より多くの市民の目に触れる列車内での交通広告など、様々な広告媒体を通じて情報発信を行っている。各事業や制度の周知にとどまらず、「みどりアップ月間」での集中的なPR、各区局でのイベント等への出展など、緑に関わる活動に参加するきっかけづくりを進めてきた。  二期目となる平成26年度からは、計画やみどり税の効果を実感につなげ、これまで以上に市民や事業者の参画を得るため、更なる周知とPRを図るべく3つの取組の柱に加えて「効果的な広報の展開」を計画に位置づけた。みどりアップの取組により親しんでいただけるよう、マスコットキャラクター「横浜みどりアップ葉っぴー」(図8)を作成したほか、横浜みどりアップ計画や横浜みどり税に対する認知度調査を毎年実施し、PR効果の検証も開始した。横浜みどりアップ計画を知っている人の割合は調査開始以降40%台で推移しており、年代別に比較すると高年層(60代以上)で高く、若年層(20〜30代)で低い傾向が続いているが、若年層の認知度は徐々に向上してきている。 3 横浜みどり税とよこはまみどり基金、特別会計  次に、課税自主権を活用した独自の「横浜みどり税」と、使途を明確化するための基金及び特別会計について述べる。 (1) 横浜みどり税条例  「横浜みどり税」は緑の保全・創造に取り組むための安定的な財源として、市民税均等割への超過課税の形式で実施し、税額は個人から年間900円、法人から年間均等割額の9%相当の負担をいただいている。  また、基準以上の上乗せ緑化を行った場合や、宅地内の農業用施設などに対し、その保全を行うことで固定資産税等の軽減を行うなど、負担を軽減する措置もあわせて条例に盛り込まれた。  横浜みどり税の使途は、「樹林地・農地の確実な担保」「身近な緑化の推進」「維持管理の充実によるみどりの質の向上」「ボランティアなど市民参画の促進につながる事業」に限定されており、新規事業や拡充した事業以外の、計画開始前から一般会計により実施されてきた事業は使途から除外されている。  二期目となる平成26年度からの5年間については、それまでの横浜みどり税を活用した施策の成果も含めて横浜市税制調査会(横浜市税制研究会より改組)が再検証し、同水準での賦課を答申した。 (2) 基金と特別会計の設置  横浜みどり税は新たな税負担を広く市民に求めていることから、その税収を他の財源と区分し、使途を明確にすることが必要不可欠である。  このため、横浜みどり税を一般会計から繰り入れる「横浜みどり基金」を設置するとともに、実際の事業を執行するための特別会計である「みどり保全創造事業費会計」を設置した(図9)。  横浜みどり基金は、歳入を分離する機能のほかに、年度間の財源調整の機能も担っている。不測の事態に対応した樹林地の買取りは、緑地保全制度による指定の推進により対象面積が増加していくなど、年度により事業費が変動することになるため、基金に積み立てることにより年度間の調整にも柔軟に対応できる仕組みとした。  また、特別会計は横浜みどり税以外の国庫補助や市債、横浜みどりアップ計画に移行した既存事業分の一般財源などによって構成され、その内容や進捗状況を他の施策と分離している。さらにこの特別会計を「横浜みどり税充当事業」と「横浜みどり税非充当事業」に分け、横浜みどり税の使途が明確になるような工夫も行っている。 4 横浜みどりアップ計画市民推進会議  横浜みどりアップ計画の取組を定着させていくためには、透明性・公開性をより一層確保し、施策や税に対する市民理解を得ることが重要である。  そこで、横浜市会からの附帯意見や横浜市税制研究会からの意見を受けて、市民の視点から施策に対する評価や意見・提案を行うとともに、市民への情報提供を行うことを目的として、「横浜みどりアップ計画市民推進会議」を施策のスタートと同時に設置し、平成24年度からは条例設置の附属機関として位置づけた。委員は公募市民や町内会・自治会代表をはじめ、関係団体や学識経験者等の有識者など幅広い主体により構成されている。  施策の評価・提案の活動としては、行政からの報告を受けての議論だけでなく、それぞれの立場で真正面から真摯に意見が交わされている。さらには市民推進会議が主催する市民フォーラムを開催し多様な市民の意見を聴取したほか、現地調査により事業を活用している市民や団体の声を直接聞くなど、市民目線での事業評価・提案を実施してきた。  また、市民への情報提供の活動としては、「みどりアップQ」など独自の広報誌の取材・発行を市民推進会議のメンバーが自ら行うとともに、施策や税という理解の難しいテーマについて、市民の目からわかりやすく伝える「見える化」という活動を展開した。  市民推進会議の取組は平成26年度以降の横浜みどり税の取扱いに関する横浜市税制調査会の答申においても「緑の保全・創造による受益を受ける市民自らが取組に携わり、大変有効に機能していると評価されている。 5 これからの緑の取組  これまで取り組んできた「横浜みどりアップ計画」の成果を踏まえ、計画の理念や目標像、基本的な枠組み、主要な取組を継承しながら、計画期間中の社会の変化にも対応して、平成30年11月に、三期目の計画となる「横浜みどりアップ計画[2019−2023]」を策定した。 (1) 樹林地の確実な保全  緑地保全制度に基づく指定を積極的に進め、多くの樹林地を保全してきたが、市内には保全すべき未指定の民有樹林地が平成29年度末時点でおよそ1,500ha残されている。依然として土地所有者のみの力で残されている樹林地が多くある。一方で、これまで大規模な樹林地の土地所有者から順次働きかけを行い、指定を進めたため、残る「まとまりのある樹林地」の一か所当たりの面積は小規模化してきている。こうした近年の実績や傾向を踏まえて、平成31年度からの指定目標は5か年で300 ha としている。緑の減少に歯止めをかけ続けるためには、緑の10 大拠点や市街地に残された樹林地を中心に、今後も粘り強く指定に向けた取組を進めていくことが必要である。  また、緑の担保が進むに従って将来的に買取りが発生する可能性がある樹林地も増加し、総面積約450haに達している。買取りにより市有の樹林地となるため、指定の際も市有地化を見据え、接道や排水経路の確保、崖防災対策などについても考慮する必要がある。 (2) 良好な森の育成  緑の量の確保とともに質の維持向上を目指し、市有地化した後の樹林地について緑の持つ多様な機能や役割を発揮できるよう、市民協働による適切な育成と、市民による利活用の取組が求められている。  横浜市内に残された全ての樹林地を横浜市が取得し管理することは現実的ではない。今残されている貴重な緑を将来につなげるために、土地所有者による維持管理に対し樹林地内部の倒木の撤去、簡易土留めや不法投棄防止のためのフェンスの設置など、助成制度の一層の拡充も行った。 (3) 農を感じる場づくり  平成27年に制定された「都市農業振興基本法」により、都市農地の位置付けが「都市にあるべきもの」とされたことで、農を取り巻く社会的な環境は変化した。市民が農を感じる場をつくる取組ではこれを踏まえ、栽培や収穫などの体験ができる多様な農園や、「横浜農場」の展開による地産地消の推進などの取組を更に進め、農にふれあう場や機会への高いニーズに応え、市民と農との関わりを深める。 (4) 実感できる緑や花をつくる  緑をつくる施策の新たな取組としては、老木化した桜並木など地域で愛されている街路樹の再生や、オープンガーデン等の市民や地域が主体となるイベントの実施など、市民が身近な場所で緑や花に親しみ、コミュニティ形成にもつながる取組を実施する。さらに都心臨海部をはじめ新横浜都心や里山ガーデンなど多くの市民が訪れる場所でも季節感ある緑化による場づくりを集中的に展開するほか、花木を用いた花の名所づくりなどにより、街の魅力を高め、市内全体が花と緑にあふれる「ガーデンシティ横浜」を推進していく。  緑の保全・創造の取組は、継続して長期的に取り組むべき政策課題である。横浜みどりアップ計画は安定的な財源をともなって着実に緑を守り、つくり、育てる取組であり、急速に失われてきた横浜の緑に一つの転機をもたらしたと言えよう。また、10年間の取組の成果は、花と緑あふれるガーデンシティ横浜の基盤となっており、横浜市が招致を目指している国際園芸博覧会の招致にもつながるものとなっている。  今後も引き続き計画の理念である「みんなで育む みどり豊かな美しい街 横浜」を目指して、実践から得られる課題や社会の変化、市民意見等を反映するとともに、緑との関わりの裾野を広げ、市民・企業等の多様な主体の一層の参画を得ながら、更なる施策展開を図ることが重要であると考える。