《4》よこはまの緑の現状 執筆 大内 達詩 環境創造局政策課 北野 紀子 環境創造局政策課 1 横浜の地形  横浜市の地形の特徴として、鶴見川、帷子川、大岡川、境川など、多くの河川があり、丘陵地が複雑に入り組んだ地形が多く見られることが挙げられる。また、横浜市の地形を大別すると、丘陵地、洪積台地、沖積低地、臨海部の埋立地となっている。最高地点は、鎌倉市境の大平山に至る山腹(栄区)で159.4m、最高峰は、金沢市民の森内の大丸山で156.8mとなっている。 ?丘陵地  丘陵地は横浜市の中央部を南北に貫くように連なっており、北部から中部は東京都八王子市から続く多摩丘陵、南部の円海山周辺は三浦半島に続く三浦丘陵となっている。  多摩丘陵は、河川に沿って緩やかな起伏となっているが、開発が進み本来の地形を残す場所は限られる。多摩丘陵部の特徴をよく残している緑地として、「寺家ふるさとの森(青葉区)」、「新治市民の森(緑区)」「追分市民の森(旭区)」などが挙げられる。  三浦丘陵は、元の地形をよく残しており、多摩丘陵と比べて深く急峻な谷が特徴となっている。「瀬上市民の森(栄区)」、「氷取沢市民の森(磯子区)」などが代表的である。 ?谷戸(やと)  特に、丘陵地に見られる浅い谷状の地形は、横浜では「谷戸」と呼ばれており、谷戸では古くから農業が営まれてきた。谷底部は水田として、周辺の斜面林は農用林、薪炭林として利用され、人々が谷戸の環境と密接に関わりながら生活することで、多様な生き物が生育・生息する特徴的な環境が生まれた。  このような人と自然が持続的に関わる谷戸の環境は「里山(里地里山)」と呼ばれ、今日の横浜の里山景観を形作ってきた。現在は市民の生活様式の変化により、人と里山との関係は変化し、また、都市化が進む中で、旧来の里山の多くは姿を消しているが、市内に残る数少ない里山は土地所有者や様々な市民活動によって支えられ、横浜の歴史と文化を伝える貴重な環境となっている。 ?洪積台地  丘陵地の東西を挟み込むように洪積台地が広がっている。北東部(鶴見区から磯子区北部まで)の洪積台地は下末吉台地であり、台地の斜面部には緑地が残されている。「獅子ケ谷市民の森(鶴見区)」や「熊野神社市民の森(港北区)」もその一つである。  南西部は相模原台地の東端に当たる。相模原台地は相模川が作り出した河岸段丘で、「瀬谷市民の森(瀬谷区)」は横浜市では珍しい大規模な平地林となっている。 ?沖積低地  沖積低地は鶴見川、帷子川、大岡川といった河川沿いに広がっている。砂や泥が厚く堆積した平地は開発が進み、市民の森のようなまとまった緑地はほとんど見られないが、緑区の鶴見川周辺の低地では、大規模な水田が見られるなど、農的な景観を残すところもある。 2 横浜の緑の特徴 ?緑被率  樹林地や農地、草地などの緑で覆われている場所を緑被地と言い、横浜市では、緑の現況を把握するため、おおむね5年ごとに緑被地の面積割合を示す緑被率調査を実施している。直近の平成26年の横浜市第10次緑地環境診断調査によると、300u以上の緑被率は、約28.8%、面積にして12,534haが緑被地である。 ?斜面緑地  昭和30年代からの高度成長の中で、横浜の人口は急増し、急激に市街化が進んだ。横浜市は丘陵地が複雑に入り組んだ地形であるため、開発の際には平坦な台地や段丘面が利用されるほか、丘陵地の広い頂上部が宅地造成され、段丘崖などの傾斜地に多くの緑が残ることとなった。これらの斜面緑地は市民が目にする機会も多く、横浜らしい景観を形成している。 ?都市計画による線引き  横浜市は昭和45年に、無秩序な市街化を防止し計画的な市街化を図るため、都市計画の方針である「都市計画区域の整備、開発及び保全の方針」に即し、市街化区域と市街化調整区域に区分する線引きを実施した。その結果、市域の約25%、面積にして約11,000haが市街化調整区域となった。  線引きに当たって土地利用状況に応じた区分けが細やかに検討されたことや、市街化区域に囲まれた土地でも、市街化区域に穴をあける形で市街化調整区域としたことから、横浜市の市街化区域と市街化調整区域は複雑に入り組むとともに小規模で分散しており、市街化調整区域の樹林地や農地が市街地の居住者にとっても身近なものになっていることが特徴として挙げられる。 ?土地所有者  昭和30年代からの急速な都市化とともに急激に緑地が減少してきたことから、市街化区域と市街化調整区域の線引きや、「市民の森」や「緑地保存地区」、「農業専用地区」などの横浜市独自の制度の創設、「緑の環境をつくり育てる条例」の制定、農地の基盤整備等の農業振興策や担い手支援策の実施、市民農園の開設や地産地消の推進、さらには安定的な財源である「横浜みどり税」を財源の一部として活用した「横浜みどりアップ計画」の推進など、緑を保全するために様々な施策を進めてきた。  市内には、緑地保全制度に基づく指定が可能となる保全対象樹林地が平成28年度末時点で、担保済みを含み、約2,900ha、農地は平成29 年時点で約3,000 ha残されている。急速に都市化が進んだ横浜において、これらの緑地が現在まで残されているのは、前述のような様々な施策や取組を市民とともに進めてきたことだけではなく、何よりも土地所有者の努力によるところが大きいだろう。  横浜市の特徴的な線引きなどにより、樹林地や農地は市街地に近接しており、身近にあるが故に適切に維持管理がされないと、周辺の住環境に影響を与えてしまうことから、土地所有者の維持管理負担が非常に大きい。  さらには、相続税の負担も大きい。依然として一定の住宅ニーズもあり、様々な土地利用の選択肢がある中では、先祖代々守ってきた樹林地や農地を残したいなどの土地所有者の強い想いがなければ、これだけの緑地が残されなかったであろう。