《1》はじめに 〜特集のねらい〜 執筆 編集部  平成21年、緑の減少に歯止めをかけ、緑豊かなまち横浜を次世代に継承することを目的とした「第1期横浜みどりアップ計画」がスタートし、同時に、その計画を推進するための「横浜みどり税」が導入 されて今年で10年が経過した。  そして、この4月からは、引き続き「横浜みどり税」を財源の一部としながら、「第3期横浜みどりアップ計画」がスタートを切る。  本号では、これを機会として、これまでの緑の取組を振り返るとともに、将来の展望について考え、さらには、緑が私たちの生活にとってかけがえのない大切なものであることを再認識する機会とした い。 1 市民意識調査の結果から  平成29年度に実施された「横浜の緑に関する市民意識調査」の結果によると、「森や農地、公園や街路樹、花壇など、横浜の『緑や花』の大切さ」について、73.6%の人が「とても大切なものだと思う」、25.0%の人が「大切なものだと思う」と回答し、そう思わないと回答した人はわずか1%未満であった。  また、「あったら良いと思う森」については、8割近くの人が「市民が安心して散策などの利用ができるように、歩道などが整備された森」と回答し、実際に半数近くの人が横浜の森で散策やウォーキングを行うことがあるとしている。さらに、街なかの緑や花については、「あったら良いと思う緑や花の空間」として約7割の人が、緑や花が豊かな「駅前広場」や「市民利用施設」、「美しい街路樹が並ぶ道」を挙げ、約半数の人が現在行っていることとして「自宅の庭やベランダなどでのガーデニング」や「季節の緑や花を見に出掛ける」を挙げている。  これらの結果からは、「緑は大切」という認識のみでなく、多くの人が緑を身近なもの、身近に感じたいものとして捉え、また、少なくとも約半数の人が実際にガーデニングなどを通して、緑を暮らしの中の一部としていることがうかがえる。  しかし、時には、少し踏み込んで緑のことを考えることも必要であろう。緑が私たちにどのような効用を与えてくれているのか。私たちが思っている以上にその効用、役割は大きいのかもしれない。また、普段何気なく目にし、安らぎを与えてくれている森の緑や街なかのまとまった緑は、実はその所有者個人の努力によって何とかそのままの姿で残され、引き継がれているのかもしれない。このような緑の保全や負担のあり方の望ましい姿とはどのようなものだろうか。緑を大切に思いながらも、自らの生活の利便性が向上する何かと引き換えに緑が失われるような場面に出会ったとき、何を考えるのか。さらには、今後、横浜市においても人口の減少が見込まれる中で、空き家だけでなく空き地も増えていくかもしれない。そのような状況の中で緑をどのように維持していくのか。なかなか難しい問題が潜んでいるように思われる。  高度経済成長の時代を経験し、緑は自然にあるもの、何もしなくても自然に残るものと捉えている人は現在では多くないと思われるが、何となく大事だと思っているものは、意識をしていないと、いつの間にか失われていってしまうようで不安にも思う。 2 特集の構成  さて、以上のようなことも考えつつ、本号の特集テーマを「よこはまの緑の取組〜『ガーデンシティ横浜』の推進に向けて」とした。横浜みどりアップ計画及び横浜みどり税の開始から10年を機会とするものであるが、今、横浜市では、市民・企業等の様々な主体が連携し、安らぎや交流を生み出す場づくりや魅力ある空間づくり、公民連携による公園の活用など、花・緑・農・水を活用した幅広い取組を展開する『ガーデンシティ横浜』の推進を掲げている。これらも踏まえて今後の展望を考えていくこととしたい。  前半では、これまでの取組をしっかりと辿ることを中心としつつ、横浜の環境行政や緑の取組のあゆみを紹介するほか、市民生活と社会に影響を与える緑の多様な機能についてお伝えをする。最近耳にするようになった「グリーンインフラ」についても触れておきたい。そして、その上で、横浜の緑の現状を紹介したい。また、横浜みどりアップ計画市民推進会議の座長を務めていただいている福井県立大学学長の進士五十八先生の寄稿「緑政学からみた環境先進都市・横浜」をお届けする。  続いて、横浜みどりアップ計画の10年を振り返る。計画策定の経緯や計画の変遷、成果を丁寧にお伝えするとともに、新たな第3期横浜みどりアップ計画についても紹介したい。第1期の計画策定当時の担当課長であった橋本理事へのインタビューでは、策定の経過や当時の考え方などについてお話をいただいた。10年を振り返っての所感や今後の展望などを含めてお届けする。  そして、緑に関する取組や活動についてお伝えしていく。  地域における取組からは、公園愛護会、市民の森愛護会のほか、地域緑のまちづくりの活動や、港北オープンガーデン開催の様子、京浜の森づくりの取組を紹介する。横浜の取組の大きな特徴の一つは市民参画、市民力である。地域や市民の力を感じていただきたい。  また、公園に関する施策について公園の誕生からこれまでを辿りながらお伝えするとともに、緑としての農地、さらには、まちづくりにおける緑として、みなとみらい21地区の取組や港湾緑地、都市デザインの視点における都市の緑化についてお届けする。  そして、後半では、まず横浜みどりアップ計画市民推進会議委員、元委員の皆さんに座談会形式で、この10年を振り返りながらそれぞれの思いや考え、今後への期待を率直に語っていただいた。その様子をお届けする。また続いて、ガーデンネックレス横浜の取組などの開催状況や成果、今後の展開についてもお伝えしたい。  さらに、視点を変えて、税制から見た横浜みどりアップ計画をお届けする。横浜市税制調査会の議論に沿いながら横浜みどり税の性格などを含めてお伝えしたい。市民推進会議も同様であるが、異なる視点で施策を確認することの大切さを教えてくれる。  そして最後に、現状の課題と今後の展望として、職員による座談会、全国的視点からの横浜市への期待をお届けしたのち、愛・地球博の会場演出総合プロデューサーなど全国で活躍をされ、旧上瀬谷通信施設における国際園芸博覧会招致検討委員会の委員長を務めていただいている造園家で東京都市大学特別教授の涌井雅之氏と野村環境創造局長との対談をお伝えする。横浜の課題と今後の展望について考えたい。  それぞれの記事をお読みいただき、どのような考えで取組が進められてきたのか、今後進められるべきなのか。そして、緑の大切さ、存在意義等について改めて考えていただければ幸いである。  なお、横浜みどりアップ計画と横浜みどり税の概要を以下に掲載した。詳細は各記事をご覧いただきたい。