調査季報178号 特集:ダブルケアとオープンイノベーション 横浜市政策局政策課 平成28年3月発行 《コラム》横浜型リビングラボ <執筆者> 株式会社富士通研究所 原田 博一  2015年11 月、一般社団法人コード・フォー・ジャパンが実施するコーポレートフェローシップ制度を通じ、横浜市政策局政策課政策支援センターにて市のオープンイノベーションプロジェクトの実行支援に携わる貴重な機会を頂戴しました。ここでは、私の専門領域である定性調査およびコミュニケーションデザインの視点から一連の活動を振り返ります。 その先につながるか?  今回はオープンイノベーションプロジェクトに係るフューチャーセッション等の実行支援という定性的なミッションであることに加えて、3月末までという短期間も相まって、開始当初からアウトプットを強く意識する必要がありました。特に注意を払ったのは「ここでの成果は、その先の動きにつながるものか?」という、未来の横浜市政策への継続性、発展性、貢献性についての評価基準です。言わずもがな、ごく主観的な基準ではありますが、これが自身のミッションを貫く価値観、行動原則でした。 政策支援センターの向くところ  着任後は、背景や関係性といった文脈の収集と把握に努めました。見えてきたものは、政策支援センターでは目下、オープンデータ推進の延長線上にある「データに基づく行政の仕組みづくり」と、オープンイノベーション指向に沿う「公民連携の新しいあり方づくり」について、実現可能性を検討しているという動向でした。これはベッドタウンの少子高齢化の加速とそれに伴う地域内合意形成の困難さ、新しい公共の考え方に基づく産官学連携の形態模索といった、多様な地域文脈と社会情勢に依るものであることはいうまでもありません。 覆えされた想定  印象深かったことは、政策支援センターではこの検討プロセスにおいて「横浜市戸塚区」というフィールドパートナーと、「ダブルケア(育児と介護の同時進行)」というテーマを設定したうえで、地域の社会福祉系サービス従事者や大学研究者との勉強会や交流会の実施、企業との協定に基づく実証実験プロジェクトの立ち上げなどが重層的に行われていたことです。政策支援センターという名前から想像する、方針や計画といった構想の立案業務には留まらない、実践による検証作業を同時並行的に行っている状況は、自身の専門領域からみて良い意味で想定を覆されるものでした。 公民連携の一形態  2015年12 月、戸塚区にある横浜市原宿地域ケアプラザにて、地域包括ケア事業者、自治体、大学、企業の四者によるミニダイアログを実施しました。地域包括ケアと企業との関係が希薄である現状、ダブルケアを地域サービス産業として捉える視点、産業と生活が分離していた時代から共創する時代への変化など、地域社会福祉サービス全般について幅広く意見交換がなされました。この経験は、公民連携の新しいあり方の一形態として、リビングラボの発展形を示唆しているように感じられました。 横浜型リビングラボ  リビングラボとは、住民と共創する活動の総体であり、利用者視点から得られる気付きや所感、生活空間から得られる条件や実際を、新たなサービス・製品の開発プロセスに組み込むことです。限定的にいえば、こうした活動を行うための拠点です。これら一連の文脈から「横浜型リビングラボ」として定義するならば、以下の三つの特徴的なスペックを備えるのではないでしょうか。(1)オープンデータを利活用するだけに閉じない、自らデータを生み出す場であること。(2)施設の新設に限定せず、既存の地域生活拠点をより未来志向の場へと再定義すること。(3)社会福祉サービス領域を含む、生活支援サービス産業を創造する場であること。 その先への下地づくり  横浜型リビングラボの実現には、多様性あるコアコミュニティの形成が不可欠です。なぜならイノベーションには多様性の確保と知識の交換速度が重要であり、今回のそれは地域密着型イノベーション機能といえるからです。キックオフとして、2016年3 月にコアコミュニティ形成を主目的とするフューチャーセッション(未来志向の対話の場)を戸塚区で開催する予定です。今回の活動はほんの一端ですが、市のオープンイノベーション構造を形成する、その先への下地づくりとなれば幸いです。