調査季報178号 特集:ダブルケアとオープンイノベーション 横浜市政策局政策課 平成28年3月発行 《コラム》ダブルケアと生活支援サービス産業 ~あっとほーむの取組から <執筆者> 認定NPO法人あっとほーむ 代表 小栗 ショウコ  私たち認定NPO法人あっとほーむは、今から18 年前、横浜市都筑区で誕生しました。働く女性の支援のため、残業や出張の際に保育園にお迎えに行き、夜まで保育を行う活動です。医師、看護師、介護職員、公務員等が多く、私たちの生活を支える職業に就いている親が、いざというときの子どもの居場所として契約してくれています。  もし祖父母や親族が近所にいたら、残業やシフト勤務時に子どもを保育園までお迎えに行き、一緒にご飯を食べ、お風呂に入り、愛情いっぱいの中で過ごすように、私たちの活動もそれと同じです。一軒家を借り、子どもたちが兄弟姉妹のように過ごせるように少人数に設定し、手作りのご飯をみんなで囲む。そんな地域の居場所として活動しています。地域的に核家族が多いので、子育てを支える親族の役割を地域の私たちが担ってきました。 働くことは、社会への貢献  私たちの活動は夜間ですから、夜まで子どもを預けて仕事をすることを疑問に感じる人も多いでしょう。  しかし例えば、私たち市民が緊急医療が必要になったとき、子どもを保育園に迎えに行かなくてはいけない、自分の親がデイサービスから帰ってくる時間だから家にいなくてはいけないという理由で、医師や看護師が患者を置いて帰ってしまったらあなたはどう思いますか?それでも子どもを預けてまで働くのはいかがなものかと言うでしょうか?  医師や看護師でなくても、同じことが言えます。どんな職業であっても社会に必要とされ、貢献しているからこそ、私たちの生活が成り立っています。そして、私たちあっとほーむは、そのような働く親の子どもが安心安全に、愛情あふれた場で過ごせるように活動をしてきました。 子どもがかわいそうという思い込み  では、子どもはどう思っているのでしょうか。  2年前に出版した私たちの書籍「だれも教えてくれなかったほんとうは楽しい仕事& 子育て両立ガイド」の中で、ずっとフルタイムで働いていた親の子どもにインタビューをしています。小さいころからあっとほーむを利用し、時にはお泊りもしていた子はこの時すでに高校生。お母さんが仕事をしていることをどう思っていたのでしょうか?彼女の口から出たのは「ママ、かっこよかったな」と言う言葉。いつもスーツで迎えに来てくれるママのこと、かっこいいと思っていたのです。そして、ママが働いていることで自分のことをかわいそうなんて思ったことはないと。現在、彼女は大学生。親との仲は良好で、自分の夢の実現のために学校生活を満喫しています。 支える人も支えられる人も働く人になる  あっとほーむの活動は横浜市都筑区の一か所だけですが、私たちはこの活動を全国に広げる事業もしています。あっとほーむのようなところを自分でも立ち上げたいという志のある方に、起業支援を行い、自分の地域で自分らしい子育て支援事業を立ち上げてもらっています。現在、宮城県から熊本県まで、13か所が起業しました。  私は、社会は助け合いで成り立っていると思っています。その最たるものが税金です。子育てや介護をしながらも、社会で活躍して報酬を得て税金を納める。私たちが支援することでそのような人を増やし、また私たち支援する側も報酬を得て税金を納める。そのように、支援する側もされる側も働く人になることで、社会が成り立つのだと考えています。  ただし、すべての人が働かないといけないわけではありません。働きたい人が楽しく自分らしく働き続けられる社会にすることが、私たちの目標です。 自分らしく生きることを諦めない  仕事もしたい、子育てもしたい、親の介護もやってあげたい。しかし、そのすべてを完璧に担うことは不可能です。仕事と子育て、介護の両立に悩む人に対し、同じ地域に住む私たちが、出来ることを出来る分だけ助け合う、そんな昔ながらの関係性を創ることが、これからの社会を創り、誰もが自分らしく生きていくためのコツではないでしょうか。私たちの活動は小さいですが、地域に根付き、これからも働く親と子どもを支援していきたいと思います。