調査季報178号 特集:ダブルケアとオープンイノベーション 横浜市政策局政策課 平成28年3月発行 《コラム》ダブルケア視点から多世代型地域包括ケアシステム構想を考える <執筆者> 横浜市片倉三枚地域ケアプラザ  地域包括支援センター主任 介護支援専門員 小薮 基司 ダブルケア視点  私はケアマネジャーとして多くの介護者の方と接してきました。今思えばその中に何人ものダブルケアラーの方がおいででしたが、「介護者さん」という役割を当てはめることにさほど疑問を持っていませんでした。  しかし、ダブルケアという捉え方に触れたことをきっかけに、要介護者本人への支援と介護者への支援はどちらも大切であることを再認識しました。どちらも人として尊重され、どちらかが無理を強いられることなく、必要なときには支援を受けることができること。ダブルケアという枠組みを通じて、そのことが自分の中でくっきりと浮かび上がるのを感じました。私たちはこのような枠組みを「ダブルケア視点」と呼んでいますが、この視点を取り入れることで、要介護者の問題、介護者の問題、子育ての問題、青少年の問題、働き方の問題などがすべて繋がって見え、ひとつの家族を丸ごと見ること、そして包摂的な支援が必要であることが浮かび上がります。 ダブルケアへの取組  当ケアプラザのダブルケアへの最初の取り組みは、平成27年8月に開催したダブルケア事例での個別ケース地域ケア会議でした。通常の地域ケア会議は、要介護者を主人公にして支援方法や地域課題を検討していきますが、この時はあえてダブルケアラー(子育て中の母親であり、認知症の親を介護する介護者)を主人公としました。介護保険が支援の対象とするのは要介護者本人ですが、課題を抱えているのは本人だけではなく、それは家族も同じであり、しっかりと支援を受ける権利があるという「ダブルケア視点」からの判断でした。私たちは、この会議を通して、30代~40代の介護者が過ごすコミュニティーでは、「認知症」、「介護」などの体験を共有することが難しいことや、ケアラー自身も自分が支援を受けられることを知らないことなどを共有しました。  その後、より広域での地域ケア会議である包括レベルの地域ケア会議や、そこでの討議を基にダブルケア・カフェも開催しました。カフェは当事者同士の情報交換やピアカウンセリングの効果の他にも、ケアマネジャーなどの高齢分野の支援者と子育て支援者間の情報交換の場ともなり、制度をまたがったネットワーク形成の場ともなっています。また、このダブルケア・カフェは、地域ケアプラザ内の2つの部門、即ち地域包括支援センターと地域活動交流の共催事業として実施しています。高齢者の介護と母子の問題がからみ合って生じるダブルケアの問題には、高齢者を主な支援対象とする地域包括支援センターだけで事業を行うのではなく、赤ちゃんからお年寄りまでを対象とする地域活動交流との共催がしっくりきます。 多世代型地域包括ケアシステム  介護保険法では、ケアマネジャーによる一月に1回のモニタリングが定められています。介護保険制度が始まり16 年が経つ今、わが国において市民に最も身近な相談援助の専門家といえ、しかも自然な形で家庭に入り込むことができる専門職です。高齢者の介護の問題解決が目的ですが、実は母子や青少年などの問題を併せて抱える家庭にも毎月訪問していることが珍しくありません。  私たちはこれら複合的な課題を抱える家族に対して「ダブルケア視点」で家族全体を丸ごと支援したいと考えています。その支援のきっかけとしてケアマネジャーと地域ケアプラザが協働しながら、より専門性の高い支援機関(例えば、医療機関、区高齢支援担当、区子ども家庭支援課、生活支援センター、後見的支援室、児童相談所、青少年相談センター、保育園、地域子育て支援拠点と利用者支援事業等)と一緒に動くことで、一人ひとりへのケアを考えることができます。  このように赤ちゃんから高齢者までをまるっと見るケアを多世代型地域包括ケアと呼びたいと思います。その実現により、ひとつの家族に同時並行的、多世代的に横たわる様々な福祉ニーズへの対処を可能にします。新たな制度や施設、サービスを創設するのは現在の社会状況からは困難です。既にある制度、人材を活用することが現実的であり、社会保障制度を効率的かつ公正に運営することにも繋がると思います。