調査季報178号 特集:ダブルケアとオープンイノベーション 横浜市政策局政策課 平成28年3月発行 《コラム》子育て支援の現場から見るダブルケア <執筆者> NPO法人さくらんぼ 理事長 伊藤 保子 「ダブルケア」。  女性が家庭で支えてきた介護と育児を同時進行で担っている状況に焦点をあてたこの言葉を相馬先生から聞いた時、「そうなんだよ。当たり前だと思われているけれど、かなり必死で当事者が支えている。ようやくそれが言葉を得て表出するんだ」と思わず握手を交わしたい勢いで話し込みました。  しかし、子育て支援の現場から見ると、もう少し違った様相があります。介護と育児という代表的なものだけでなく、特別なケアが必要なきょうだい児のケア・配偶者の看護、介護、養育者が主計者となっている一人親家庭…と多様な困難状況で子育てを担っている現実があります。また、養育者自身が何等かの疾病をもっている状況も多くみられます。こんな風に考えるとダブルケアという新しい視点から捉える対象は、介護と育児という代表的な視点だけでなくもっと広くあってほしい。これが子育て支援の現場からの率直な感想です。  出産・育児の期間、特にスタートから1 年は特別な状況がなくても母親自身にもケアが必要とされる時期です。この間のダブルケア・そもそもそれってトリプルケアなんじゃない?  この視点で取組が進むことが、非常に大切なことだと思います。  NPO法人さくらんぼは、保育事業、地域子育て支援事業を地域にこだわって展開しています。この中でダブルケアを含めた支援として力を発揮しているのは、横浜保育室で積極的に提供している一時保育と横浜が先駆的に取り入れている乳幼児一時預かり事業です。  困ったときに身近なところに一時保育サービスが豊富に、そして使い勝手良くあることは大きな力となります。誰でもが必要な時に使える保育機能や、今絶対的に不足している夜間や休日の保育提供が地域の中にあたりまえに、どの区にもあること。これは、ダブルケアに対応して子育て分野から負担軽減を図ることができるとても大きな力となると思います。  残念ながら、乳幼児一時預かり事業は現在のところ各区には展開されていません。ですから、私どもの事業の利用者は近隣区からも多くあり、すべての申し込みに対応できない状況があります。また、保育園での対応時間を超えた時間帯に対応する横浜子育てサポートシステムや、普通の子育てを支えるヘルパー派遣が金銭的な負担が少なく提供されることも必要とされていると思います。ダブルケアという切り口から多様な困難を抱える子育て家族をまるごと支援できるようになっていってほしいと感じています。  この1月末に地域子育て支援拠点には各区に1名づつ利用者支援専門員(横浜子育てパートナー)が配置されました。子どもの育ちへの不安から家庭での困りごとまで幅広く対応する相談窓口です。ここを入り口として、ここから各専門機関や地域資源に繋げていこうとする子育て支援分野に初めて取り入れられたソーシャルワークの手法とも言えます。現場で私たちが強く求めていた家族全体を支援する視点と道が開かれたと思っています。この機能が発揮されることで、ダブルケア状況をキャッチし当事者と一緒に考え、伴走することができます。また、地域資源につなげることで生活に密着した姿で当事者を支えることができるようになるのではないかと期待するところでもあります。  中学校区にほぼ1か所づつある地域ケアプラザで行われている支援と地域子育て支援拠点の利用者支援事業が有効に連携できると、介護、療育、保育と制度ごとに分断されている諸支援が統合されて地域で暮らす「家族」を単位とした支援が展開できるのではないかという希望も見えてきました。  高齢者も、障がいをもった方も、そして子育て層も、生活困難者もみな地域で暮らしています。ともすれば無関心になりがちな現代生活ですが、究極はやはり地域の包括力なのだと思います。  おせっかいなおじちゃんやおばちゃんが子ども達の育ちにも必要ですし、子育てしている若い層ができることも沢山あります。ダブルケアという新しい概念が必要でなくなるような暮らし方を手にする一歩としてダブルケアの現状の把握と多くのステイクスホルダーが提供できる領域を拡げながら、この新しい課題に取り組んでいってほしいと思います。  最後に多くのダブルケアを支える女性の立場から「ダブルケア?それってそもそもトリプルケアでしょ!!」