調査季報178号 特集:ダブルケアとオープンイノベーション 横浜市政策局政策課 平成28年3月発行 《コラム》特定非営利活動法人ワーカーズ・コレクティブたすけあい栄だからできること <執筆者> 特定非営利活動法人ワーカーズ・コレクティブたすけあい栄 代表 知野 朱美 特定非営利活動法人ワーカーズ・コレクティブたすけあい栄とは  特定非営利活動法人は「公益に資するサービスを提供し、営利を目的としない民間の団体」であり、ワーカーズ・コレクティブは「働く人たちが共同で運営費を出資し、経営し、労働する団体」です。そのような団体が、団体直接契約の生活支援事業を中心に、介護保険の訪問介護事業・介護予防訪問介護事業、障害サービスの居宅介護事業・重度訪問介護事業、横浜市地域生活支援事業、横浜市産前産後ヘルパー事業をおこなっています。サービス提供時間の割合は、生活支援事業45%、そのほかの事業55%です。 ダブルケア支援 ~昔~  たすけあい栄は利用者さんの必要に応じて事業を広げてきた一面があります。困った人がいると何とかしてあげたいという中高年の女性メンバーが多いからなのか、「お互い様のたすけあい」で支援してきました。いろいろと反省する点もありましたが。  任意団体だったころは「有償ボランティア」ということもあり、ヘルパーの自己判断でおまけのボランティアをすることも多々ありました。20 年ほど前、生活支援事業の利用者さんがダブルケア状態で、介護で疲れたお母さんに代わってヘルパーがボランティアでお子さんの病院の付き添いや話し相手をしていたそうです。今では、できないことです。  病気のお子さんの介護をしている若いお母さんからの依頼で、数か月間、上のお子さんの送迎の依頼を受けました。忙しい時間帯で、毎日のため、ヘルパーの手配が出来ませんでした。お断りしようという意見も出ましたが、複数のヘルパーでどうにか時間調整し対応することが出来ました。しかし、母親の大変さを気遣う一方で、病気の兄弟姉妹を持つ子供のさみしさや不安を理解する視点がすっぽり抜けていました。その後、小さい子供の 支援については、必ず、事前にヘルパーと子供が対面するようにしました。 ダブルケア支援 ~今~  公的サービスが整備された現在のダブルケア支援は、介護は公的サービス、同居の家族への支援は独自の生活支援事業で行っています。  今年1 月に公的サービスの利用者さんがお亡くなりになりました。仮にMさんとお呼びします。Mさんは、病気で倒れ、寝たきり状態となりました。お嬢さんが同居介護を始めたばかりのころ、ケアマネジャーさんからの依頼を受け、公的介護サービス提供させていただくことになりました。同居の家族はMさん、お嬢さんご夫妻とお子さんが二人でした。しばらくしてから、お子さんの送迎と病気の時の見守り(生活支援事業としての子育て支援)が加わりました。介護と子育て支援を同じヘルパー(複数人)で行いました。サービスを開始したころ、Mさんの容態はとても不安定でしたが、次第に安定していきました。意思の疎通が不可能と思われていましたが、残存機能による意思表示があることを確信した時には、感動しました。  普段、お嬢さんが介護の中心でしたが、Mさんはご家族と同じ空間で過ごし、ご家族の協力もありました。学校が長期の休みの時、Mさんは長期の旅行(ロングロングショートステイ)に出かけ、お嬢さん家族の時間も大切にしていました。  ヘルパーから見て、Mさんの介護はとても難しいものでした。5年の間、何度もアクシデントはありましたが、Mさんは頑張り、お嬢さんとご家族はとても素晴らしい介護をされたと思います。ヘルパーはその一部分を支援しただけですが、こちらには、たくさんのきづきや感動を頂きました。 「ダブルケア」を広げよう  ダブルケア研究に係らせていただき、ダブルケア支援の実践者として話をすることにより、日常的に行っていることが世間では珍しいことだと知り、戸惑い、人前で話をするだけで協力していると言えるのか疑問になり、身近でできるPR 活動を始めました。  たすけあい栄は横浜市栄区にあり、栄ユニットという連絡会に所属しています。生活クラブ栄コモンズ、福祉クラブ系列のワーカーズ・コレクティブ6団体、たすけあい栄の計8団体で構成されています。毎年、テーマを決めて地域の問題や課題について学習を行います。昨年度は2025年問題を介護予防日常生活支援総合事業とダブルケア、今年度はこども子育て支援事業とダブルケアの組み合わせで自分たちなりに考えました。アンケートや事例検討を行い活動報告書を栄ユニット関係団体所属メンバー(約3000人)に配布しました。学習会の参加者の中には、地域のケアプラザなどでダブルケアの話題を出してPR 活動をしているそうです。皆さん興味深く聞いていらしたそうです。  「ダブルケア」を知らない人がまだたくさんいます。ダブルケアの話をするとはじめ「何それ」となります。一定年齢以上の人、特に身近に多世代家族がいた人には日常的なことでしたので、どのようなものがダブルケアかだけではなく、昔は日常だったものが、なぜ、今問題になっているかまで話すことで、初めて理解されるようです。介護が未経験の人たちは、自分に置き換えて想像することによりその負担の大きさを理解できるようです。  介護は急にやってきます。病気(がん・脳梗塞・若年性認知症等)、事故などは年齢に関係ありません。高齢者介護と子育ての組み合わせは、事業所ヘルパーとしては比較的冷静に支援できると思いますが、男女問わず働き盛りの人が何らかの理由で突然介護が必要になり、同時に子育ても、仕事もしなくてはいけないというケースの支援は、経験を積んだヘルパーでないと難しいのではないかと感じています。  ダブルケアの知識があれば備えることができ、支援することができます。そのための「ハッピーノート」と「ダブルケアサポーター養成講座」を有効活用していきたいと思います。