調査季報178号 特集:ダブルケアとオープンイノベーション 横浜市政策局政策課 平成28年3月発行 《コラム》多様な主体が関われるテーマとして「ダブルケア」に注目 執筆者 戸塚区福祉保健センター福祉保健課事業企画担当係長 林 正隆 連携のテーマをどうするか  戸塚区でも、子育て世帯や一人暮らし高齢者の孤立化、老々介護、ダブルケア、生活困窮など地域福祉保健課題は増大しています。さらに、生活習慣や価値観が複雑化・多様化する中で、高齢者や子ども、障害児・者、保健といった従来の枠組ではとらえきれない多様な課題が生じており、行政だけで地域福祉保健施策を進めていくことはできなくなっています。  こうした状況の中で、近年、社会福祉法人や民間企業、大学等の地域貢献活動が活発になってきていることに大きな期待を感じています。一方で、多くの法人や企業、大学等が社会に貢献したいという想いを持ちながらも、まだまだ活動に結び付いていない現状も見えてきました。これからの行政には、こうした多様な主体が地域の現状や課題を共有し、連携して解決に取り組んでいくネットワークづくりと、それらが有効に機能するようにコーディネートしていくことが一層求められています。  戸塚区が山積する地域福祉保健課題の中から「ダブルケア」に注目したのは、ダブルケアラーへの支援策の検討が急がれるのはもちろんですが、ダブルケアというテーマが、介護や子育てといった地域福祉保健分野にとどまらず、雇用・就労・働き方、教育、デジタル技術の活用に至るまで、そして、子どもから高齢者、個人、団体、企業まで、非常に「間口」の広いテーマであることが大きな理由です。 ダブルケア研究会との連携 ~ネットワークの“厚み”が増す  ダブルケア支援について検討する場として、市レベルでは、政策局と横浜国立大学(経済学部附属アジア経済社会研究センター)、横浜市男女共同参画推進協会の三者を中心とした「ダブルケア研究会」がありますが、研究会の視点である家族や地域社会、雇用・就労・働き方の視点(介護離職や子育て離職など)、経済・産業の視点(ダブルケア産業の育成、ダブルケアをテーマにしたソーシャルビジネスの育成など)は、区においても重要な視点であると考えています。そこで、地域と密接に関わる区役所として、ダブルケア研究会と可能な範囲で連携していくことにしました。  まず、政策局と日本ユニシス株式会社、横浜信用金庫のダブルケアをテーマとしたプロジェクトのモデル区として、地域データの提供などに協力することとし、区役所と区社会福祉協議会、地域ケアプラザで、区や地域ケアプラザがどのようなデータを持っているのか整理を行い、有効活用できそうなデータなどについて議論を行いました。特に、地域の福祉保健活動の拠点である地域ケアプラザには様々なデータが集まっていましたが、実際にデータ提供に向けて整理を始めたところで、いくつか課題が見えてきました。  戸塚区には地域ケアプラザが10 館ありますが、各地域ケアプラザが独自の項目でデータを把握していたために、区全体で統一された基準や項目で集計することができませんでした。データの収集項目が統一されていなければ、地域間で比較することができません。このため、このプロジェクトでは残念ながら多くのデータを生かすことができませんでした。しかし、プロジェクトを通じて、ネットワークが多様な主体に広がっていくほど、議論や検討の根拠となるデータをわかりやすく可視化(データビジュアライズ、インフォグラフィックス)し、事業の目的や必要性を共有することが重要であることを改めて認識しました。これらの経験から、地域ケアプラザにおいて、統一された基準で収集すべきデータの洗い出しや、業務報告などとの連動、フィードバックの方法などについて、地域ケアプラザと検討を始めたところです。  さらに、別のプロジェクトとして、医療・介護・障害・子育て支援分野でのウェアラブルデバイスの活用に向けた実証実験にも協力していく予定です。これは、市と包括連携協定を締結しているアクセンチュア株式会社が、ウェアラブルデバイス(身に着けるデジタル端末)を活用し、介護者や事業者の負担軽減や、施設の運営コストの削減等について、実証的に実験を行うものです。戸塚区は、26 年度に設立された区内の社会福祉法人のネットワークである「社会福祉法人と地域つながる連絡会」(事務局:戸塚区社会福祉協議会)の協力を得て、区内の社会福祉法人が運営する施設等に情報を提供し、プロジェクトをサポートしていく予定です。 多様な主体が“強み”を発揮できる環境を  今回、ダブルケアに注目したことにより、新たな企業等との連携につながるとともに、データの可視化の有効性や福祉保健分野における様々なデバイスの活用の可能性といった新たな視点も得ることができました。データビジュアライズやインフォグラフィックス、ウェアラブルデバイス…と聞くとハードルが高く感じますが、今回のプロジェクトのパートナーのように各分野でノウハウを持ち、そのノウハウを社会貢献として惜しげもなく提 供してくれる企業やNPOが数多く存在していることがヨコハマの強みではないかと思います。  これからの行政には、多様な主体が“強み”を発揮できるよう、オープンデータなど環境を整備しコーディネートしていくことが、より一層求められていると思います。