調査季報178号 特集:ダブルケアとオープンイノベーション 横浜市政策局政策課 平成28年3月発行 《コラム》シングルの女性が直面する「介護」 執筆者 男女共同参画センター横浜南 小園 弥生  「男兄弟が2人いるが仕事をしているので、自分が仕事をやめて親の介護をすることになると思う。結婚していて夫の収入が保証されていればいいが、自分はそうではない。自由がない。」(39歳)  「母の介護のとき、正社員で介護休暇のある姉の出産と重なり、介護休暇もない(非正規職の)自分が介護を担った。その大変さを姉には理解してもらえない。」(42歳)  「両親ふたりとも病気で、親と同居する兄がほぼ不在のため、私が毎晩仕事帰りに食事作りに行っている。独身で末っ子。私の人生は介護で終わるのかなあと思うときがある。以前母の通院で急きょ仕事を休んだら、そのために雇用契約の期間が短くなってしまった。」(42歳)  (2015年12月、当センターで実施した非正規職シングル女性を対象とした調査(注1)のうちのグループインタビューより≪親の介護・病気についての悩み≫を抜粋)  これらは、現在私たちのセンターで新しく支援に取り組もうとしている「非正規職で働く氷河期世代シングル女性」の声である。 現在、未婚化が進行している。2010年の国勢調査によれば、35~39歳女性の23.1%、同年代の男性では35.6%が未婚であり、生涯未婚率(50歳時点での未婚者の割合)は女性10.6%、男性20.1%となっている。2030年には女性の生涯未婚率は約23%になるだろうと予測されている(国立社会保障・人口問題研究所) 。未婚、低収入、不妊などさまざまな事情から子育ては経験しない人が増えるかもしれないが、介護はだれの身にもやってくる。「ダブルケア」は広い意味では、あらゆる世代の男女だれでもが働いて社会に参画しながら同時に、自分自身のそれぞれ制約のある生活条件の中で家族や身の回りの人たちのケアを担うことであろう。  横浜市男女共同参画センター(市内戸塚区・南区・青葉区に3館)では、1980年代の終わりから女性の再就職支援、継続就業支援等に取り組んできた。当時は“子育てと仕事の両立”が女性たちの悩みだったが、それは本来男性も取り組むべき課題だと、今では“イクメン”が推奨されるようになった。次にやってきた課題は“介護と仕事の両立”であった。  2009年、私たちは就労支援が届かないできた女性の対象層として、ひきこもりなどで働くことに困難をかかえる若年シングル無業の女性(“ガールズ”と称した)を設定し、グループ型のしごと準備講座、南区のフォーラム南太田に就労体験「めぐカフェ」を立ち上げ、“ガールズ”支援事業を開始した。その中で、息子ではなく娘であるがゆえに家族の中で介護・介助が必要になったときに彼女たちは働くことよりも介護の人手としての役割を優先させられており、そのために働く機会を逸していた人がいるという現実をみた。  しかし、家にいる若年女性だけではなく、フルタイムで働いているシングルの壮年女性までもが家族からケア役割を課され、実際に職を辞すまでしている事実は、冒頭にあげた調査を行ってわかったことだ。グラフ(図1)で見るように、じつに2人に1人が現在の悩みや不安として「家族の介護・世話」をあげている。独身の娘は親の介護をするのが当然とされ、そのために職を失うことも少なくない。彼女たちには、主たる稼ぎ手がほかにいるわけではない。派遣社員や契約社員、パートなどで働きながら、税金や保険料も納めて、社会に貢献している人たちである。にもかかわらず、介護休暇など正社員なら享受できる権利をもたないか、不安定雇用ゆえに制度があっても利用しづらい状況が見えてきた。  非正規職の壮年男性が低収入で大変な状況であることが昨今、報道されはじめた。しかし、男女で比較すると男性は「大黒柱」という社会通念から非正規から正規職に引き上げられる傾向があるが、「大黒柱はほかにいる」と仮想されているために女性は引き上げられないというデータがある。上記の調査では、35歳から39歳(2015年10月現在)の女性の70%が初職から非正規職に就いており、低収入と雇用不安にさらされていた。彼女たちの親である団塊世代はこれから老いて、ケアが必要になってくるだろう。子の性別、自分の性別は選べない。性別によらず、生計の不安に脅かされることなく家族のケアが担える社会環境としくみづくりが、社会全体の安心・安全のために急務ではないだろうか。 注1 「非正規職シングル女性の社会的支援に向けたニーズ調査」。横浜市男女共同参画センターの指定管理者である横浜市男女共同参画推進協会が2015年10月から12月に実施。ウェブアンケートとグループインタビューからなる。2016年3月に調査報告書を発行、協会ウェブサイト上で公開。