新型コロナウイルス感染症から始まるオンラインでの子育て支援の取組と今後の可能性 こども青少年局子育て支援課担当係長 柘植 慎一郎 ●新型コロナウイルス感染症拡大防止のためひろばを閉鎖  横浜市では、新型コロナウイルス感染症拡大防止対策のため、令和2年3月2日から6月1日までの3か月間、地域子育て支援拠点など全ての親子の居場所事業(以下「ひろば」という。)を閉鎖することになりました。  この間、政府による緊急事態宣言も発令され、新型コロナウイルス感染症の影響により、ひろばをはじめとする親子が気軽に集える様々な場所を失うこととなりました。  親子は自宅で過ごす時間が多くなり、子育て支援の届きにくい状況が生まれました。保護者にとっては、子育てに関する悩み事等を気軽に相談する場や外出する機会を失い、その負担は非常に大きかったことが推測されます。 ●改めて「ひろば」の意義を考える  ひろばの閉鎖は、利用者だけでなく、事業の運営法人側にも大きな影響を与えることになりました。閉鎖期間中も相談対応は継続していましたが、利用者は少なく、改めてひろばの存在意義を考えさせられたと聞いています。  そのような中でも、閉鎖期間を活用して、SNSによる情報発信の拡充や利用者にハガキを送るなど、利用者に支援が届くよう、様々な工夫を凝らした取組が行われました。スタッフは、直接的な支援を行う手法がなく、様々な葛藤を抱えながら、ひろばの再開を心待ちにしていたようです。 ●オンラインによる取組への支援  新型コロナウイルス感染症を機に、ビデオ会議ツールの認知度が一気に高まりました。仕事上の利用だけでなく、オンライン飲み会、里帰り等、プライベートでの利用も世代を問わず広がっています。  オンラインによる様々な取組が増え、ひろばが閉鎖されている中、オンライン導入の必要性を感じていました。同時にセキュリティー上の課題(個人情報の流出等)も浮かび上がってきました。そこで、個人情報の流出等のリスクを軽減させるため、補正予算を計上し、地域子育て支援拠点及びサテライト(23か所)、親と子のつどいの広場(66か所)に対して、オンラインによる支援の実施に必要な機材を購入するための費用を補助することにしました。  併せて、現場の意見を反映しながら「オンラインによる支援のガイドライン」を策定しました。このガイドラインの中では、オンラインで実施する取組として、具体的な項目を示しています(表1)。専用端末等の導入とともに、セキュリティー上の課題に対応しながら、安心して取り組める環境を整えたことで、少しずつオンラインによる支援が増えています。 ●オンラインによる支援の可能性  オンラインの利点は、自宅にいながら様々な支援が受けられることです。新型コロナウイルス感染症のように、ひろばが閉鎖されるような事態はもちろんのこと、他にも有効と思われる事例がいくつか挙げられます。  例えば、出産後、子どもの月齢が低い時期は、出掛けることを控える傾向があると思われますが、この時期は心身ともに負担が大きいと考えられます。オンライン上に保護者同士が交流できる場を設けることで、ちょっとした相談事や悩みを共有することができます。また、産後だけでなく、妊娠期からひろばにつながることは、地域における子育て支援の場と機会を知ることになり、産後の育児不安に対する備えにもなります。新型コロナウイルス感染症をきっかけに、新しい生活様式が定着していくことを考えると、今後は、オンラインが支援につながるきっかけとなるケースが増えていくと思います。  他にも、「遠くて通うのが大変」、「天候が悪い」、「子どもがインフルエンザで…」等々、ひろばに行きたくても行かれない人たちの代替手段としての可能性を感じています。また、ひろばに来たときは、あまり話さず物静かだった保護者が、オンラインひろばに参加すると、すごく明るくよく話す方で施設側が驚いた事例もあるようです。ひろばで輪になった状態では話すタイミングがつかめない、人見知りで話せないという保護者にとっては、オンラインでファシリテーターが話のきっかけを順番に伝えることで、話すタイミングが分かりやすいのかもしれません。  こうして、オンラインでのひろばの開催が、ひろば利用への敷居を下げることにつながり、利用者が増えることも期待しています。本市のオンラインによる子育て支援は始まったばかりです。これから各施設での取組内容を共有しながら、より良い支援内容が育まれていくと思っています。 ●「ひろば」の必要性  オンラインを活用した支援の可能性等について触れてきましたが、オンラインは、ひろばに取って代わるものではなく、補完するに過ぎないものと考えています。実際に他の親子の姿に触れる、スタッフとの雑談から多様な支援の利用へとつながるなど、オンラインでは体感することが難しく、ひろばでしかできない支援こそ、人と人とがつながることの大切さ、つなげることの重要性を体現できるものだと考えます。  これからも、様々なツールを活用しながら、地域における子育て支援の充実を目指し、行政や地域が一丸となって取り組んでいきたいと思います。