《17》インタビュー/子育て支援に関するフィールドワークから 里方 沙枝 横浜市立大学国際総合科学部国際都市学系 三輪ゼミ4年 遊佐 菜月 横浜市立大学国際総合科学部国際都市学系 三輪ゼミ4年 井上 舞 横浜市立大学国際総合科学部国際都市学系 三輪ゼミ3年 大西 銀次郎 横浜市立大学国際総合科学部国際都市学系 三輪ゼミ3年 須田 采李 横浜市立大学国際総合科学部国際都市学系 三輪ゼミ3年 佐藤 真優 横浜市立大学国際総合科学部国際都市学系 三輪ゼミ3年 聞き手 こども青少年局子育て支援課 ─ 今日は横浜市立大学の三輪律江准教授のゼミ生の皆さんにお集まりいただきました。三輪先生のゼミでは、未就学児を適切な環境の下で、健全に発達するようにフォローするために、まちがどう関わっていくかという視点で、それをまち保育≠ニいう言葉で表して研究をされていますが、本日は、皆さんが保育園や子育て支援者の方々と行っているフィールドワークのことや、子育てがしやすいまちについて、お話をお伺いできればと思っています。  では、まず自己紹介をお一人ずつお願いします。 【里方】横浜市立大学4年の里方です。昨年から、神奈川区で、防災とまち保育をかけ合わせたプロジェクトを行っています。プロジェクトは神奈川区との協働事業で「「まち保育」の観点から取り組む保育・教育施設の共助構築に向けた検討・実践」というものですが、その中で、アンケート調査などを通して、保育者の方々の地域や防災に対しての意識や行動の変化について研究しているところです。 【遊佐】4年の遊佐です。私の研究テーマは、妊娠期の母親のまち使い≠ノついてです。地域子育て支援拠点に通っているお母さん方が、妊娠中にどこによく行っていたかなどをアンケートで調べ、一人ひとりのサンプルを地図に表して生活圏などを分析し、子育て不安について、どのようなタイプの人がどういう子育て不安に陥ってしまう傾向があるのかといったことなどを研究しています。 【井上】3年の井上です。私が今ゼミで関わっているのは、まち保育のプロジェクトで、神奈川区と青葉区のプロジェクトに参加しています。神奈川区では保育園の園長先生を対象とした講座、青葉区では「保育施設と地域をつなげる仕掛けづくりの実践プログラム」をテーマに地元保育園の運営法人と活動をしていて、現在は「まち保育おさんぽビンゴ」の開発と実施に関わっているところです。 【大西】3年の大西です。私も神奈川区の防災とまちづくり、まち保育のプロジェクトに参加させていただいています。また、青葉区ではプロジェクトのリーダー的なポジションとして、保育園の先生方と様々な話し合いをしたりしています。自身の研究テーマはまだ決めかねているところですが、育児不安の解消や、それとまちづくりがどう関わっていくのかといったところに今は関心があります。 【須田】3年のゼミ長をしています須田です。私は三輪先生のまち保育のプロジェクトではなく、金沢区にある「並木ラボ」という拠点で、主に子どもに関連したプロジェクトのサポートや企画として、「あしたひろば」というものをやっていて、月曜日の午前中に地域のママさんたちと一緒に運営に関わらせてもらっています。個人の研究テーマとしては、子どもの遊びや、お母さん方がどうやって情報を得ているのかということに興味があります。紙情報や口コミ、ネットの情報というものをいつどういうタイミングで使ったら使いやすいのか、逆に届きやすいのかということも調べたりしています。 【佐藤】3年の佐藤です。井上さんと大西さんと一緒に、神奈川区と青葉区のプロジェクトに関わっています。最初は災害や防災のほうに興味があってプロジェクトに参加していたのですが、参加を通して地域と保育園の関係性や、子どもがまちをどのように見ているのかといったところに最近は興味を持っています。 ■フィールドワークを通して ─ 自己紹介の中でも、面白そうなキーワードがいっぱい出てきたと思います。横浜市をフィールドに現場に出て行って、保育園の先生や支援をしている皆さんと一緒に何かをつくり上げていくというフィールドワークを行い、積極的に研究に取り組んでいるところが三輪ゼミのすごいところだと思いますが、フィールドワークでは、多くの方と出会ってきたと思います。保護者の方、保育士の方や、地域の方との出会いもあったと思いますが、活動を通して気づいたことや感じたことなどをお話しいただけますか。 【里方】ゼミでのプロジェクトではありませんが、インターンで地域子育て支援拠点に2週間ほどお世話になったことがあります。そのときにスタッフの方から、子育てで困ったことがあっても、施設の前を行ったり来たりしていて、声をかけても「大丈夫です」と言っていたお母さんが、ようやく拠点に通うようになって、表情が明るくなったというお話を伺いました。子育てを手伝ってくれる人が近くにいない方も多いと思いますし、地域の方と子育てのことや子育て以外の話も気軽にできる場所、安心できる場所があることが本当に必要なんだなと実感しました。  それから、そのインターンのときに、お母さんにべったりでスタッフともあまり話をしない男の子がいたのですが、その子と一緒に遊んで仲良くなることができて、お母さんがいなくても遊べるようになったということがありました。学生でも力になれることがあるんだと、そのときに思いました。 【須田】私も里方さん同様、地域子育て支援拠点にインターンに行ったのですが、ママ友がもうそこでできていることを知って、保育園に入る前にお友だちができるのはいいなと思いました。何か面白い話があるかなと思って、そのママ友さんたちの会話に入ってみたことがあったのですが、頑張ってつくった離乳食を子どもに「食べる?」って食べさせたら、「いらない!」って投げられちゃって、「私の30分の努力が…」という話をされていて。その話をする人が家の中だと旦那さんしかいなかったりすると思いますが、その人にとって、話せる相手がいるというのがまずうれしいだろうなというのはすごく感じました。話す相手がいないのはストレスだと思いますし、そのような場があるのはいいなと思いました。  それから、もう20年くらい来ている、子どもと遊ぶのがすごく上手なボランティアのおばあちゃんがいらっしゃったのですが、スタッフの方が様子を見ていて、その方の不調に気づくということがありました。人とのつながりの中で、そのような発見もあるんだなと思いました。地域子育て支援拠点は、「地域」が付いているので、保育園のように子どもたちとかお母さん方の場所というだけではなくて、地域の人との関わりがあるという意味合いがあるんだと改めて思いました。 ─ 子育て支援拠点ではなくて地域子育て支援拠点。これは国もそう言ってるからですが、「地域」という視点はすごく大事だと思います。それから、先ほど里方さんも「学生でも力になれる」とお話をされていましたが、支援する側とされる側という分けとは何でしょうね。みんなが集ってお互いを支え合う。大事なお話だったと思います。他にはいかがですか。 【大西】私はフィールドワークやワークショップを通して、地図に情報をまとめるという作業の大切さを感じているところです。子どもが喜びそうなものや防災に役立ちそうなところなどを写真に撮って、手持ちの地図にメモして、戻って来て大きい地図にまとめ直すという作業をよくやっていますが、保育園や幼稚園の先生たちが「いろんな発見とか気づきがあるね」と話してくれます。公園の中で落ちているものなど、普段は気づかないようなものに目が行くようにもなります。地図にしてまとめると見てよく分かりますし、ワークショップに参加してなかった人たちにも伝わるように思います。 【遊佐】私もフィールドワークで実際に歩いてみて、気づいたことをしっかりと地図に表すことは大事なことだと感じています。大人の視点と子どもの視点では違った気づきがありますし、地域の人に見てもらうことで、子どもの視点や子どものこともよく知ってもらえる機会になるように思います。フィールドワークはまちづくりに欠かせないと思っていますが、地域を知ることで、よりその地域への愛着が湧くという気がします。 ─ 地図での見える化が大事というお話がありました。他にはどうでしょうか。 【佐藤】例えば保育園のまち歩きでは、事前の準備なども含めて、その園と地域のつながりが深まるように思います。まちにいる人たちと子どもや保育士の方が関わって、つながりがまた生まれていくように感じています。 【井上】地域の中で、施設同士のつながりも大切だと思います。神奈川区の研修会のときに、保育園の先生方が「お散歩のときにこういうことがあったら、ここで助けてくれるかもね」といった情報共有をしていて、他の保育園の先生方とするからこその情報共有やつながりの大切さを感じました。 ■フィールドワークにおける工夫など ─ 次に、フィールドワークにおいて工夫していることや、気をつけていることなどを教えていただけますか。 【遊佐】まち歩きの企画に主催者側として参加したときに思ったことですが、大学生は4年で卒業ということもありますので、地域の方たちだけで運営していくことも見据えて考えることも必要かなと思います。そのために、第三者、地域の外の人の視点ではなくて、しっかりと地域に入り込んで、その地域に住む当事者としての視点をベースに、地域の方々の知識をよく学び、自分の中に擦り込むということが大事だと思います。 【須田】私はプロジェクトやインターンで、お母さん方と関わる機会が多いのですが、最近気をつけていることが二つあります。一つは、企画についてどういう伝え方をするかということです。新型コロナの影響で活動にも制約があり、「SNSを始めてみよう」と並木ラボの学生運営のSNSを始め、あしたひろば≠ニいう子育て関係の発信を毎週月曜日に行っているのですが、地域のお母さん方が実はそのSNSをそれほどは使っていないということがありました。せっかくなので頑張って続けていますが、「発信したい」、「こういうことをしたい」と思っても、それだけではあまり効果的でないですよね。口コミも大事ですし、どうやって情報を届けるか、伝え方には結構気をつけています。  二つ目は、先ほどもお話がありましたが、支援する側とされる側という関係になりがちということです。インターンのとき、お母さんがトイレに楽に行けるように子どもの面倒を見てあげようと、最初は支援する側の気持ちでいたのですが、そうではなくて、子どもたちと遊んだり、お母さん方と話をしたりしているうちに、私が子どもと遊びたいから遊んでいる、自分の研究のためということでいいんじゃないかと思うようになりました。助けようみたいな気持ちで取り組むのは、なんかちょっと違うかなという気持ちが生まれてきました。 ─ 学生に限らず、単純にその場が魅力的である、インセンティブがあるということは、人の集う場をつくるときにすごく大事ですよね。他にはいかがでしょうか。 【大西】フィールドワークの手法の検討ということになりますが、新型コロナの影響で今までどおりのフィールドワークができなくなって、他のメンバーと一緒に「何か新しいやり方を考えよう」と、今考えてるのが「まち保育おさんぽビンゴ」です(写真)。子どもたちや親御さん、保育園にビンゴカードを配るのですが、ビンゴカードの中身は、まちの中にある子どもが喜びそうなもの、ただの木の枝や都道府県の形に見える石、普段散歩していると声をかけてくれるおじさんなど、そういったものをビンゴカードの中に入れて、まちをゲーム感覚で歩きながら見つけていくというものをまだお試しの段階ですが作っています。 ─ 使い方を説明して、皆さん、大体そのとおりに使ってみてくれますか? 【大西】最初から「そのままいきましょう」とはならないですね。ビンゴというゲーム形式ですので、「子どもが喜んでくれそうだ」といった反応は結構多いのですが、実際に使ってくれる人と話し合いをすることが大切だと思っています。今はビンゴカードのマスを全部埋めないでわざと空欄をつくり、その空欄には地域のちょっと面白いものを想像して中に入れてみてくださいというふうにしようかと考えています。 【佐藤】青葉区の「おさんぽビンゴ」の作成に関わっていますが、確かに私たちだけでやろうというよりは、実際に使う方たちに「委ねる」ということも大切だと感じています。私たち学生が全てやってしまうと、今後学生が関われなくなったときに、自走していくことが大変になると思います。実際に使う人たちの意見を取り入れながら、その人たちが主体的に実施してみるほうが、今後長く続いていくように思います。 【井上】私も「おさんぽビンゴ」に関わっていますが、園の方からご意見やアイデアをいただき、マスに入れるものはそれを反映するなど、双方のやりとり、協力がし合える関係がないとなかなか実施は難しいということも感じています。それから、メールよりも、顔を合わせて話すことがやっぱり大事なんだというのを感じているところです。 ■子育てがしやすいまちとは? ─ 横浜市は安心して子どもを産んで、育てられる環境づくりということをすごく大事にしていますが、最後に、皆さんが考える「子育てしやすいまち」とはどういうものか、お伺いしたいと思います。 【里方】私は田舎から出てきていますが、近くに両親がいなくても、地域の人たちと一緒に子育てができる、頼れる人がいる環境であると子育てがしやすいと思います。地域子育て支援拠点に行って思ったのですが、例えばちょっと用事ができてしまって、子どもを連れて行けないときに、別のお母さんが「じゃあ、見ておくよ」という感じの、そういうコミュニティがあったらすごく安心ですし、拠点でなくても、近所にそういう方がいたら、気軽に協力がし合えると思います。 ─ 孤立しないということですね。ご実家のほうと横浜とでは全然違いますか? 【里方】全然違います。地域のおじいちゃんやおばあちゃんは、子どもに会うと「あら、大きくなったね」、「えっ、こんなに大きくなった」というような感じです。あそこのうちに子どもが産まれたというと、「じゃあ、見に行こう」ってみんなで行って、「かわいかったよ」みたいなことを話します。私はやっぱりそういうまちであったら住みやすいなという感じです。 【遊佐】最近、産後うつとか子育て不安からネグレクトや虐待につながって最悪な結果になったというニュースや、SNSで子育て不安とか育児に参画しない夫に対する不満の投稿などが目に入ってきたりしますが、SNSではなくて、やはり人に打ち明けられる場所や人があると、子育てに対しての不安が軽減されるように思います。核家族化が進んでいたり、両親が田舎にいたりして相談もしづらい。家庭環境によっては、親と関わりたくない人もいるかもしれませんし、社会的にも、特に都会だと近所の人と顔を合わせるのを避けたいという人も結構いると思います。ですので、これからは、毎日顔を会わせなくていいけれども、必要なとき、思いついたときに簡単に会いに行けるような「第三者」が必要だと思います。その「第三者」の一つが、横浜市の場合は地域子育て支援拠点やつどいの広場、地域ケアプラザ等であると思いますし、いつも会わなくて、見ていてくれるという安心感があると、子育て世代にとっていいまちになるのではないかと思います。 ─ 「何かあったら、あそこにあの人がいる」と思って生活するのと、「何かあっても誰もいない」と思って生活するのでは全然違いますよね。ご実家の地域で感じていた安心感をこの横浜でどう実現するかは大事なことだと思います。 【井上】私は、まちづくりの勉強をしていて、子育てがしやすいまちとは、制度がしっかりしているとか、補助がしっかりしているというイメージでしたが、それはそれで大事ですが、やはり自分の話、悩みなどを同世代のお子さんのいる方とお互いに話ができるということが一番大事だと今は考えています。話せる場所、自分の居場所と思える場が、家、職場以外に一層必要になってくると思います。 【大西】私は、子育てに今関わっていなくても、多くの地域の人たちが子育てに寛容であると一番いいのかなと感じています。子どもの施設の建設反対などのニュースを目にすることもありますが、地域子育て支援拠点で行っていることなどをもっと発信することも、地域の寛容さにつながっていくように思います。 【佐藤】私も、まちに子どもが住んで生活していること、そして子どものことを地域の人が知って、理解してくれているといいのかなと思います。少子化で子どもと関わるのが難しかったりもしますが、子どものことを知ることで、もう少し寛容になれるのではないかと思います。地域の中で、みんなで見守ってくれたら安心ですし、子育てがしやすいように思います。 ─ 寛容ということでは、例えば子ども連れで電車に乗っているときに「子どもの泣き声がうるさい」と言われ、ちょっとつらい思いをしたというような話も聞きます。 【須田】地域子育て支援拠点に行ったときに、お母さん方に「今日は何で来られたんですか?」と尋ねたら、「車で来ました。電車だとやっぱり目が気になったり、大変だったりするので」という方もいらっしゃいました。「なんで白い目で見られてしまうのか?」と思ったのですが、市や公的機関だけでなく、各企業などでも、例えばパパやママでなくても赤ちゃんを抱っこしてみる体験イベントがあっても面白いかもしれないですし、参加を通して視野が広がったり生活や気持ちに余裕が生まれることにもつながるように思います。ベビーカーを頑張って持ち上げているお母さんがいたら助けてあげようと思うとか、そういう人たちが増えていくと、子育てしやすいまち、子どもや親子に寛容なまちになっていって、それが持続していくように思います。私もベビーカーを押して電車に乗ることになるかもしれませんが、そういうときに助けてくれる人が多いまちだといいなと思います。 ─ 一昨年に実施した横浜市のアンケートでは、「自分の子どもを持つ前に、子どもの世話をしたことがありますか」の質問に、75%の方が「ない」と回答しています。そうしたことも考えながら、子育てがしやすいまちを考え、目指していく必要がありますね。  本日はありがとうございました。