《15》「横浜市版子育て世代包括支援センター」を通じた南区の取組について

執筆
戸矢﨑 悦子
南区こども家庭支援課長

１　はじめに

　核家族化や地域のつながりの希薄化等、子育て家庭の孤立や子育てへの負担感等の課題が浮き彫りにされ、その対応策として多様な子育て支援が身近な施設や機関で取り組まれている。こうした子育て支援が充実する一方、「どこに」「どのような」施設や取組があるのか一目では分かりにくく、情報を収集する煩雑さを感じる養育者がいることも忘れてはならない。特に初めて子育てを経験する養育者にとって、分かりづらさ・煩雑さから、子育てへの負担感及び孤立感が悪化する懸念がある。
　これは横浜市特有の課題ではなく、他の自治体でも同様である。その改善策として〝妊娠期から子育て期にわたる切れ目のない支援〟を念頭に、平成28年の児童福祉法等の一部改正として「子育て世代包括支援センター」の全国的な設置を進める方針が出された。この法改正を踏まえ、横浜市では平成29年度から順次「横浜市版子育て世代包括支援センター」として、区福祉保健センターこども家庭支援課に母子保健コーディネーターの配置と地域子育て支援拠点との連携による体制が構築された。今回は、先行区の一つである南区での実例を取り上げ、切れ目のない支援のあり方を考えてみたい。

２　南区の概要

(1) 人口動態等の統計データからみる特徴
　南区は、住民基本台帳人口によれば19万5,677人（令和元年10月1日）で、18区中11位である。区の面積は西区に次いで18区中２番目に小さく、人口密度は１位である。出生数は1,236人（令和元年中）で18区中12位、年少人口割合は10.0％で18位、老年人口割合は26.9％で８位である。また、人口の高齢化を敏感に示す指標と言われる老齢化指数は267.5で18区中１位、区民の3.7人中に１人は65歳以上という状況である（いずれも人口の割合は令和元年９月末時点）。
　さらに、外国人住民登録人口は１万860人（令和元年12月末時点）で18区中３位。核家族世帯に占める一人親世帯の割合は17.48％（平成27年国勢調査）で18区中１位となっている。
　区の特徴として、高齢者の暮らしや課題は実感しやすく、多くの区民も気づき、認知されやすい状況と考えられる。しかしながら、子ども及び子育て家庭の暮らしは、身近な存在ととらえにくく、潜在化するおそれがあるとも言えよう。また、区役所の窓口業務や相談の対応では、外国籍の方への配慮と多文化共生の視点を持つこと、さらに、経済的な困窮など潜在化しやすい課題を抱える子育て家庭の存在にも留意する必要があると言える。

(2) アンケートからの分析
　母子健康手帳は、まず医療機関で妊娠の有無を診断後、住民票がある市町村に申請し、交付となる。横浜市では、各区福祉保健センターこども家庭支援課が申請窓口であり、この申請時には、妊娠届といわれる書類とアンケートへの記入を来所者に依頼している。アンケートには、必要なサービスや個別の支援につなげるため、体調に関することから里帰り出産の予定、出産費用や保育園などの相談の希望等、17項目が記載されている。母子保健コーディネーター等の看護職が全ての妊婦を対象に面談する際にこのアンケートを活用し、一人ひとりに「妊娠・出産・子育てマイカレンダー」（図１）を作成している。
　今回は、母子保健コーディネーター２名が南区に配置された平成29年10月から平成30年７月までに面談した妊婦１２４９名の状況を分析し、その実態把握を試みた（表１）。そのうち明らかになった留意点について述べたいと思う。
　婚姻状況では、約５人に1人の割合で入籍予定又は未婚とパートナーからの支援が未確定な状況にあった。また、10人に１人が外国籍であった。特に母子健康手帳交付時での出産予定病院の有無については、外国籍の妊婦151人のうち39人（25.8％）が未定であった。この未定には、出産病院が決まっていないケースも含まれるが、出産する国が未定である妊婦も多くみられた。「心配なこと及び相談事の有無」は、「なし」533人（42.7％）、「あり」716人（57.3％）であった。相談事の上位（重複回答あり）としては、「妊娠中の身体のこと」が426人（ありと回答した人の59.5％）、「保育園など子どもの預け方」が258人（36.0％）、「家事や仕事のこと」が265人（37.0％）、「出産・育児にかかる費用」が253人（35.3％）、「経済的なこと」が147人（20.5％）、「相談者や協力者が見つけられない」が17人、「パートナーとの関係（身体的・精神的暴力など）」が11人であった。この分析結果は、課内の看護職以外の職種とも共有し、保育・教育コンシェルジュ、社会福祉職等への円滑なつなぎ方について再確認することができた。

(3) 母子健康手帳交付後の支援状況
　アンケート分析を行った妊婦1,249人のうち転出者等を除いた1,245人の〝母子健康手帳交付後から４か月健診までの支援の状況〟を確認し、その傾向を分析した（図２）。
　母子保健コーディネーター等の看護職による面談後、全ての妊婦の面談時の状況を見直し、支援を要する背景がある場合には「妊娠期アセスメントシート」を用いて、支援の要否を再確認している。このシートは、保護者の被虐待歴などの「生活歴」、若年での妊娠や望まない妊娠など「妊娠に関する要因」、精神疾患等の「心身の健康等の要因」、経済的な困窮等の「社会・経済的要因」、住所が不定等の「家庭的・環境的要因等」の視点で改めて面談内容を再確認するものである。
　再確認の結果、妊娠期から出産後に養育での負担が生じるおそれや支援が必要な状態と考えられた妊婦は173人（13.9％）（図２(1)）であった。さらに、状況確認のみならず医療機関等との調整や親族との連絡が必要と考えられた妊婦（ハイリスク妊婦）は60人（4.8％）（図２(2)）。母子保健コーディネーターが体調や出産する病院、入籍の有無等の状況を電話で確認した妊婦は245人（19.7％）（図２(3)）であり、ハイリスク妊婦及び状況確認を行った妊婦は全体のうち４人に1人という状況であった。また、ハイリスク妊婦60人のうち、繰り返しアプローチを行ったことから生育歴や家族の状況など養育環境の詳細な状況を把握し、出産後の児童虐待のリスクが想定される妊婦（「特定妊婦」）として25人（２％）（図２(4)）が判断され、妊娠から出産、そして出産後も継続して関わっていることが分かった。

３　母子保健コーディネーターによる妊娠期からの支援について

(1) 「妊娠・出産・子育てマイカレンダー」について
　母子保健コーディネーターの配置前から、母子健康手帳の交付時には全ての妊婦に面談することは取り組んでいたが、「横浜市版子育て世代包括支援センター」の開始とともに、一人ひとりに「妊娠・出産・子育てマイカレンダー」（以下「マイカレンダー」という。）の作成が新たに始まった（図１）。
　母子健康手帳の交付時には、母子健康手帳のほか、妊婦健診の補助券や地域の子育て支援の情報など10種類余りの資料及びチラシをお渡ししている。面談では、手帳の使用方法から妊娠から出産後の行政の手続などを10～15分で説明している。しかしながら、初めて耳にする行政の制度など大量な情報に正直、困惑している妊婦は少なくないと思われる。初めて聞いた情報を帰宅後に家族へ説明し、共有することも至難の業である。そこでマイカレンダーを用いることで、より妊娠の時期をイメージ化し、手続を忘れずに行えるよう相互に確認するツールとして活用している。また、家庭状況等を聴取し、その状況に合わせ加筆するなど、相談や問合せ時に活かせるよう個別のマイカレンダーを作成している。マイカレンダーの裏面には「横浜市版子育て世代包括支援センター」の連携先である南区地域子育て支援拠点「はぐはぐの樹」で行っている妊娠中から利用可能な事業や相談先をコンパクトにまとめている。

(2) 外国籍の妊婦への支援について
　外国籍の妊婦で日本語による説明が困難な場合は、公益財団法人かながわ国際交流財団が作成した「外国人住民のための子育てチャート（出産から就学までの流れをイラストと母国語で表記）」（http://www.kifjp.org/child/）を活用しつつ、通訳ボランティア（現在は、通訳タブレット端末による対応）又は音声翻訳機による対応を実施している。なお、通訳ボランティアは、個性ある区づくり推進事業による南区独自の取組であり、区役所窓口での様々な手続に英語及び中国語の通訳ボランティアがサポートする事業である（令和２年12月時点では、コロナウイルス感染症の対策のため休止中）。その他、後述する妊娠後期の手紙については、区独自に英語及び中国語版を作成している。

(3) 面談後の継続的な支援について
　面談後のアプローチとして、母子保健コーディネーターが、積極的に電話を入れ、体調や世帯状況の変化（転居、入籍状況）などの状況確認に取り組んでいる。人によっては「お節介」と感じることがあるかもしれないが、変化の兆しと支援のタイミングを逃さない切れ目のない支援に取り組んでいる。
　また、妊娠中の心身及び環境の変化（産前休業の取得等）が生じる妊娠後期にあたる28週過ぎには手紙によるアプローチがある。この手紙は、妊娠後期の体調の変化やヘルパー派遣制度の事前登録が可能なタイミングで送付するため、電話相談やヘルパーの事前申請手続の依頼の増加につながっている。
　このような母子保健コーディネーターによる積極的かつ断続的なアプローチを通し、母子保健コーディネーターへの相談や支援の依頼として、こども家庭支援課以外の区役所窓口での手続への同行や申請手続のサポート、家庭訪問による出産準備品の確認から沐浴指導など、家族に近い関わりを担う事案も見られている。「困ったときの相談相手」、「頼りになる存在」として認知されつつあると感じている。

４　南区地域子育て支援拠点「はぐはぐの樹」との連携について

　「横浜市版子育て世代包括支援センター」は、区が母子保健コーディネーターをはじめとする専門性を活かした相談支援を、地域子育て支援拠点が横浜子育てパートナーを中心とした当事者目線での相談支援を担い、双方が連携・協働することで切れ目なく妊娠期から子育て期を支えることとされている（52ページを参照）。区と南区地域子育て支援拠点「はぐはぐの樹」（以下「拠点」という。）がその機能や当事者の視点を活かすため、どのような連携を図ったのか紹介したい。

(1) プレママ会
　拠点では、妊婦を対象に「プレママ会」を月１回土曜日又は水曜日に開催している。横浜子育てパートナー（拠点にいる相談対応の専任スタッフ。必要時、地域や関係機関等と連携して支援につなげる。）のもと、沐浴の体験、施設利用者である先輩ママからの体験談を伺う機会となっており、とても好評である。平成30年度からは、水曜日開催（年４回）のみであるが、母子保健コーディネーターが拠点に出張し、横浜子育てパートナーとともに沐浴指導等を担当し、妊婦からの相談に対応する取組を始めた。
　また、妊婦の拠点への利用促進として、区役所主催の両親教室に横浜子育てパートナーが、自らの説明と写真を交えながら拠点を紹介するプログラムを新たに設けた。その結果、「プレママ会」へ参加するきっかけとなっている。そして、母子保健コーディネーターからは「マイカレンダー」を用い、妊娠期から利用できる施設として具体的な説明と紹介に取り組んでいる。
　拠点が「プレママ会」を実施する効果として、まず赤ちゃんをはじめ子どもと直接出会い、間近に感じられることが挙げられる。さらに、子育て中の先輩ママからの生の声を聞くことができるという強みがある。この経験は、妊婦にとって赤ちゃんを迎える生活のイメージ化につながる。「平成30年横浜市子ども・子育て支援事業計画の策定に向けた利用ニーズ把握のための調査」では、養育者の７割が育児体験がないまま親になる現状が明らかにされており、拠点での経験は、リアルな子育てを肌で感じる貴重な機会である。そして、「プレママ会」の参加者が、出産後に先輩ママとして登場するなど、子育ての支え合いの良い循環が生まれてきており、正に当事者性を活かした効果的な取組と言えよう。
　さらに年１回、区と拠点で振り返る機会を設け、それぞれの立場から妊娠期から産後・子育ての状況を共有し、次年度の計画につなげることを意識している。このような担当者間の顔合わせや次年度の方向性を直接確認することは、相互理解をより深める機会となっており、今後も引き続き取り組んでいきたい。

(2) わかママ会
　平成29年に10代で出産された産婦は、南区で10人であった。若い年代の妊娠に関する相談では「妊娠の継続が不確定」、「妊婦自身の保護者に妊娠した事実を告げていない」等、時に家族間の調整も含めた迅速な対応と配慮が求められることがある。また、社会経験を積み重ねている発達途上での妊娠・出産は、子育てだけではなく、親としての育ち（養育力）を含めた家庭全体への継続的な支援が必要となる。
　そのような状況から若年妊産婦への支援を区として模索し、平成29年から「わかママ会」（当初は「M─cafe」の名称）という交流会を始めた。当初は、10代の妊産婦に限定し、参加者の希望に沿ったレクレーション的なプログラムとフリートークを中心に取り組んだ。また、妊婦から「区役所は、敷居が高いから行きたくない」との意見があり、区内の助産所の理解と協力を得て、会場は助産所での開催となった。助産所利用者への配慮もあり、南区在住者に限定せず他区からの参加も可能としたが、初回の参加はあるものの再利用には至らず、継続利用者は僅かという状況であった。当初は参加者同士の交流や、最終的には当事者間のつながり、継続したグループ活動を目指していたが、困難な現状を目の当たりにし、平成30年からは、交流会の参加を契機に地域の施設利用につなげることが先決であると発想を転換し、助産所から、親と子のつどいの広場「M─HOUSE」と拠点の２会場に移転し、現在も継続して実施している。
　なお、会場の変更に伴い、対象者を20代前半まで拡大するとともに、各施設が持つノウハウを活用した季節ごとの手作りおもちゃづくりとフリートークへとプログラム内容も変更した。また、「M─HOUSE」が持つLINEグループによる情報発信に取り組むなど、当事者の目線を意識した展開となっている。なお、区は初回参加時には母子保健コーディネーター又は地区担当の保健師が同行し、施設や他の参加者につなげ、緊張をほぐし安心して参加できるよう個別のアプローチを担っている。
　この取組を通じて、参加者の人数にとらわれず、「わかママ会」を契機に若年妊産婦が拠点やつどいの広場につながること。さらに、親しむきっかけをつくり、親子を見守る人と出会う場となるよう、区も含めた３者間で実施状況を共有し、次年度の企画につなげることを意識的に行っている。親と子のつどいの広場が持つ交流・相談の機能、そして拠点が持つ利用者支援事業等の機能を活かし、必要な場合には区の個別支援につなげるなど、それぞれの強みを発揮し、相互間の連携をより強化していきたい。

５　おわりに

　「横浜市版子育て世代包括支援センター」を契機に、妊娠初期からの関わりの効果として、①妊娠中からのタイムリーな対応を行うことにより、区役所の関わりに好印象を持ち、受入れが円滑となったこと、②妊娠中の関わりを通じて、妊婦が区に信頼を寄せ、スムーズな出産後の支援が可能なったと実感している。さらに、確実にタイムリーな支援を実施するには、地域住民の生活実態の把握が基本であり、ニーズに沿った関わりは信頼関係の構築につながると考える。
　また「包括」という意味は、１か所に集約することを意味するものではなく、「全てを覆い、ひっくるめる」状態を表している。横浜市の行政区は、その人口規模において一つの市に匹敵する状況であり、行政のみで様々な課題を解決する困難さを日々感じる。他自治体以上に社会福祉施設、市民活動団体、ＮＰＯ法人等の関係者・関係機関との協力・連携は必要不可欠であり、「横浜市版子育て世代包括支援センター」においても同様である。
　子どもの健やかな育ちを支え、地域ぐるみで子育てを温かく見守る環境づくりをより推進するためにも、区と拠点がそれぞれの立場での強み・弱みを理解し、補完できる関係をより強固にすること。その関係を起点に、子育て家庭を取り巻く関係者間のネットワークの網の目をより細かくし、子育て家庭の存在が地域においてより認知され、理解されるよう積極的に取り組んでいきたいと思う。