《14》横浜市版子育て世代包括支援センターとは 執筆 矢原 亜紀こども 青少年局子育て支援課担当係長 谷川 みちる 政策局課長補佐(芸術創造課担当係長)(元こども青少年局こども家庭課親子保健係長) 1 はじめに  核家族化や少子化、地域のつながりの希薄化が一層進み、妊産婦や子育て中の母親の孤立感、負担感の増加が全国的に大きな課題となっていた。そうした中、「妊娠期から子育て期にわたる切れ目のない支援」の重要性が高まり、平成28年の児童福祉法等改正において、母子保健法第22条が改正され、市町村は「子育て世代包括支援センター(法律上の名称は母子健康包括支援センター)」の設置に努めることとされ、さらに、「ニッポン一億総活躍プラン(平成28年6月2日閣議決定)」において、令和2年度末までに全国展開を目指して取り組むことが掲げられた。  この命題が示されたとき、全国の多くの自治体が困惑したことを覚えている。これまでの母子保健、子育て支援とどう違うのか。何をすることが「包括」なのか。その問いは本市においても同様であった。  本市の母子保健、子育て支援の取組は、長い歴史の中で一歩一歩充実されてきており、その連携も「区福祉保健センターと地域子育て支援拠点の協働」という形で既に実施され、全国の中では先進的な取組と評価されてきた。その上で、「横浜市版」の「子育て世代包括支援センター」をどうとらえるのか。  一方で、少子化の中で、子育てに具体的なイメージを持てないまま妊娠、出産、育児に向かわざるを得ない、いわゆる「子育てに不慣れな親」の増加や、不適切な養育の問題などから、現場は、「より早い段階(妊娠期)からの支援の必要性」を感じていた。  横浜の強みを活かし、かつ、これから進むべき方向をどう描いていくべきか。こうして平成30年6月、現場の保健師、地域子育て支援者、有識者とともに、「横浜市版子育て世代包括支援センターの基本的な考え方」を模索する取組(あり方検討委員会、母子保健コーディネータ―モデル事業の検証ワーキング、地域子育て支援拠点事業の振返りワーキング)が開始された。  本稿では、本市の強みを活かした「横浜市版子育て世代包括支援センターの基本的な考え方」(平成31年3月)のポイントを紹介しつつ、この包括支援センターが目指す切れ目のない支援について考察を試みたい。 2 国が目指す「子育て世代包括支援センター」の概要  子育て世代包括支援センターは、主に妊産婦及び乳幼児の実情を把握し、妊娠・出産・子育てに関する各種の相談に応じ、必要に応じて支援プランの策定や、地域の保健医療又は福祉に関する機関との連絡調整を行い、母子保健施策と子育て支援施策との一体的な提供を通じて、妊産婦及び乳幼児の健康の保持及び増進に関する包括的な支援を行うことにより、もって地域の特性に応じた妊娠期から子育て期にわたる切れ目のない支援を提供する体制を構築することを目的としている(平成29年3月31日付厚生労働省雇用均等・児童家庭局長通知「子育て世代包括支援センターの設置運営について」)。  そして、以下の4項目が必須項目とされた。 @ 妊娠・出産・産後・子育ての期間を通じて、妊産婦及び乳幼児等の母子保健や子育てに関する支援に必要となる実情の把握を継続的に実施すること A 妊娠・出産・子育てに関する各種の相談に応じ、必要な情報提供・助言・保健指導を行うこと B 保健師等が、妊娠・出産・産後・子育ての期間を通じて、必要に応じ、個別の妊産婦等を対象とした支援プランを策定すること C 妊娠・出産・産後・子育ての期間を通じて保健医療または福祉の関係機関との連携調整を行うこと  また、子育て世代包括支援センターにおける支援は、リスクの有無に関わらず、予防的な視点を中心とし、全ての妊産婦、乳幼児とその養育者を対象とするアプローチ(ポピュレーションアプローチ)を基本とすること。ある時点では支援を必要としない妊産婦や養育者についても、不安を抱え、地域から孤立することがある、支援が顕在化していない人についても、十分な関心を継続的に向けていくことが必要とされた(厚労省「子育て世代包括支援センター業務ガイドライン」)。  これらの取組に通底している本質は、新しい命を迎え、まさにこれから初めて「地域」の中で一生懸命生きようという親子に対し、産まれる前から、母子保健、子育て支援の両面から「温かい寄り添う支援」を実現するというものであった。このことは、大都市横浜においてそう簡単に実現できることではない。私たちがこれまで築いてきた強みをどのように活かしていけるのだろうか。その点を考えながら検討を進めていくこととした。 3 横浜市のこれまでの取組 の経緯と特徴  「横浜市版」の子育て世代包括支援センターについて説明する前に、その素地となる、母子保健分野、子育て支援分野、それぞれのこれまでの取組について述べたい。 (1) 母子保健分野  本市では、昭和40年の母子保健法制定以前より、妊産婦・乳幼児への保健指導を開始し、乳幼児健診(4か月児、1歳6か月児、3歳児)の直営実施を堅持するとともに、横浜市総合リハビリテーションセンターや地域療育センターと連携した早期療育システムの整備等、いち早く発達支援の充実にも取り組んできた。  政令市でも珍しく、正規職員の助産師が18区に配置されていることにより、女性の生涯にわたる健康づくりに取り組むとともに、妊婦健康診査(平成29年度からは産婦健康診査も開始)、新生児訪問、こんにちは赤ちゃん訪問事業など、妊産婦の健康や、乳幼児の健やかな成長発達を支える一貫した事業を実施し、母子保健システムを通じて、各支援情報の一元管理にも取り組んできた。  また、平成28年の母子保健法の改正にその重要性が明記されたとおり、妊産婦、乳幼児とその養育者に広く接点を持つ機能として、不適切養育や児童虐待の発生予防、早期発見の役割を果たしてきた。  このように、本市における母子保健の強みとは、妊娠の届け出や健診等を通じて、ほぼ全数の妊婦や子育て家庭と接点を持つことであり、それを福祉・保健の一体的サービスを提供する区福祉保健センターが所管することで、様々な専門職種が組織的に関わることが可能となり、疾病や障害、養育の問題、更に貧困や家族の問題など、困難な状況にある子育て家庭を総合的、継続的に支援をしてきたことにある。  さらに、子育てサークルや障害児の地域の訓練会の育成など、保健師たちが地域に足を運び、市民とともに地域づくりにも取り組み、その自発的な活動の支援を行ってきたのである。 (2) 子育て支援分野  本市の子育て支援は、区福祉保健センターの保健師が中心となって、地域の方と一緒に親子の集える場づくりとして、子育てサロンを開設したり、先輩ママが市民利用施設など身近な場所で親子の居場所をつくってきたことが始まりである。保健師は、その居場所一つひとつが、地域の方の力で自主的に運営されるよう丁寧に支援を重ねていった。そこから、本市の独自事業である子育て支援者事業、既存施設を活用した居場所である保育所、幼稚園での子育て支援事業、そして、国に先駆けて事業化した親と子のつどいの広場事業へとつながっている。さらに、それらの事業をそれぞれに充実させていくだけでなく、連携させて区域全体の支援を進めていくことをねらい、地域の子育て支援のハブとなる施設として、地域子育て支援拠点(以下「拠点」という。)を設置した。本市の拠点事業に、事業開始当初から、子育て支援の担い手同士をつなぐ「ネットワーク機能」と、担い手の創出や人材育成を行う「人材育成機能」を持たせているのはそのためである。  本市の拠点事業について述べる上で、この事業が平成26年度から拠点の運営法人と各区役所との「協働事業」として位置づけられていることは、特記すべき事項である。平成18年の事業開始当初は委託事業として開始したが、平成23年度から委託契約書に加え協働協定書をもって契約締結することとした。さらに、平成25年度の市民協働条例の施行を受け、平成26年度からは協働契約書を締結する形へと進化させてきた。  この、「委託により役務を担う事業者」であることを超え、子育て家庭の悩み、ひいては地域における課題を、より市民に近い立場で「我が事」としてとらえ、市民の代弁者として、時に行政の想定の一歩先を行く取組を自立した対等の立場から発案する。そして、それを行政と役割分担し、自らも担い手となり果敢に実現していく。このような「協働」という形態をとっていることが拠点事業、そしてこの間の地域における子育て支援の充実を支えてきた一つの力と言える。  以上に述べた「市民の主体的な取組から始まっていること」と「協働事業として位置づけていること」の2点により、本市の地域における子育て支援は、市民目線に沿う、言うなれば、「高い当事者性を持ち、多様性に対応できうる手法をとっている」と言えるのである。   4 横浜市版子育て世代包括支援センターの基本的な考え方  本市の「子育て世代包括支援センター」の検討に当たっては、これまで、母子保健分野、子育て支援分野のそれぞれが、本市独自の手法を積極的に取り入れ培ってきた、特徴・強みを活かすものであることが重要であった。  現場の保健師、地域子育て支援拠点のスタッフ、有識者とともに、検討委員会やワーキングを重ね、「横浜市版子育て世代包括支援センターの基本的な考え方」を平成31年3月にまとめた(以下、横浜市版子育て世代包括支援センターの基本的な考え方の概要版から抜粋)(図参照)。 (1) 実施体制 ア 区福祉保健センターと地域子育て支援拠点の連携・協働  本市においては、区福祉保健センターと地域子育て支援拠点の協働契約を基本に、両者の目的や情報の共有、事業の連携をすでに一体的・効果的に展開しています。「横浜市版子育て世代包括支援センター」では、この両者の連携・協働関係を基盤として、両者が強みを活かして、個々の妊産婦や子育て家庭を支援するとともに、各々のもつネットワークを強化することにより、地域全体で子育て家庭を支える環境づくりを目指します。 イ 妊娠期からの相談体制の強化(母子保健コーディネーターのモデル配置)  平成29年度より、区福祉保健センターに保健師・助産師等の看護職による母子保健コーディネーター(利用者支援事業母子保健型)をモデル配置し、これまで以上にきめ細かく妊婦と家族の実情を確認し、一人ひとりに寄り添った支援を行っています。  妊娠期から産後早期の時期を中心とした支援を拡充するとともに、妊産婦の実情やニーズを区と地域子育て支援拠点が共有し、横浜市版子育て世代包括支援センターとして、妊娠期から出産、子育て期にかけて切れ目のない支援を充実させていきます。 (2) 対象者  子育て世代包括支援センターは、妊娠・出産・子育てに関するリスクの有無に関わらず、予防的な視点を中心とし、すべての妊産婦、乳幼児とその養育者を対象とするポピュレーションアプローチ(※)を基本とします。  妊娠期から3歳児までの子育て期は、親子の愛着関係の形成や子どもの成長発達の基礎となる時期であると同時に、地域での繋がりの中で出産・子育てができる環境を整えることが重要です。また、乳幼児健診等の母子保健事業の中で全数を把握する機会があることから重点を置いて支援します。 (3) 横浜市版子育て世代包括支援センターの目指す支援の姿(充実させていく支援) ア 生まれる前の出会いの場と機会の充実 ○ 子どものいる世帯の減少や地域のつながりが希薄化する中、妊娠から産後の時期に不安を感じる人が多くなっています。赤ちゃんを迎えて生活を始めるこの時期は、子育て世代包括支援センターとして支援すべき重要な時期です。 ○ 母子健康手帳交付時面接やプレパパ・プレママ教室等の出会いの機会を充分に活用しながら、個々の子育て家庭の不安や悩み事に寄り添い、区と地域子育て支援拠点が強みを活かし、予防的な支援を充実させていきます。 イ 安心感につながる妊娠期からの関係づくり ○ 地域にいつでも気軽に相談でき、解決方法や対応方法を一緒に考えてくれる人がいることが、妊産婦や子育て家庭にとって大きな安心感につながります。 ○ 妊娠期からの関係づくりが、その後の支援において重要な意味をもち、健やかなこどもの成長発達を支えることにつながります。区福祉保健センターと地域子育て支援拠点がそれぞれの場や機会を充実し、妊娠期から出産、子育て期にかけて、切れ目なくあたたかい関わりや関係づくりを大切にしていきます。 ウ 養育者自身が意思決定をする力の支援 ○ 子どもの世話をしたことがないまま親になる人も増えています。 ○ 区が専門的な知見からの相談支援を充実し、地域子育て支援拠点が養育者どうしの支え合いの機会を充実するなど、子どもの健やかな成長発達に向けて、養育者自身が見通しと安心感をもって、自ら意思決定をしていくことの支援を行っていきます。 エ 切れ目のない包括的な支援とネットワークづくり ○ 区福祉保健センターと地域子育て支援拠点が連携しながら、関係機関と顔が見える日頃からのネットワークづくりを進めることで、より多面的・包括的な支援を行うことができます。 ○ 個々の支援がスムーズな連携により充実し、子育て家庭に切れ目のない支援として提供されるよう、区福祉保健センターは支援のために収集した情報を一元管理し、妊産婦や乳幼児の状況を包括的、継続的に把握するとともに、より効果的な支援プランの策定に役立てます。 オ 親子が温かく見守られる地域づくり ○ 地域全体で子育て家庭を温かく見守り支えていくための市民の主体的な取組や、地域の中の多様な主体による協働の取組は、横浜の強みであり、今後ますます重要になっていきます。 ○ 区福祉保健センターと地域子育て支援拠点は、子育て世代包括支援センターの取組を地域づくりの視点をもって進めていきます。 ○ 地域子育て支援拠点のネットワークを活かして、妊産婦や子育て家庭と“地域とのつながり”をつくるほか、子育て世代包括支援センターの取組の中で把握した、子育て家庭の課題やニーズを、地域の様々な人や機関と共有し、地域全体を巻き込んで、解決に向けての協働の取組につなげていきます。 5 母子保健コーディネーターの配置による効果  平成29年度より各区に配置している母子保健コーディネーターは、母子健康手帳交付時の面接を専任で行う助産師、保健師等で、平成29年度に3区(南、都筑、泉)、30年度に3区(旭、金沢、港北)、令和元年度に5区(青葉、磯子、中、戸塚、神奈川)のモデル配置を経て、令和2年度から全区配置が実現した。  母子保健法に基づき、「妊娠した者」は速やかに「妊娠の届出」をしなければならず、市町村は妊娠の届出をした者に対し「母子健康手帳の交付」をしなければならない。すなわち、母子健康手帳の交付は、母子と出会う最初の入り口であり、生まれる前からの支援にとって重要な機会である。全国的にみると交付を事務職のみが行っている自治体もある中、本市は平成22年度より看護職アルバイトを配置し、母子健康手帳交付時の全数面接を目指してきたが、専任の母子保健コーディネーターを配置し、子育て世代包括支援センターの要素の一つとして機能させたことにより、専門職による面接を確実に行う体制が整い、より大きな効果が生まれてきている(面接実施率:令和元年度96.8%/平成28年度比4.2ポイントアップ)。  母子保健コーディネーターが配置されるようになって、母子健康手帳交付時の面接では、一人ひとりに対して、家族構成や産前産後の周囲からの支援の有無、心配ごとなどを丁寧に聞き取ることができるようになった。妊婦自身の健康面の不安やパートナーとの関係、家族との関係などの相談対応もきめ細かくできるようになり、潜在的な支援ニーズも引き出すことにつながっている。  面接時の状況は、区福祉保健センターの複数のスタッフで共有され、組織的な支援につなげ、面接後も、心配ごとがあった妊婦には、電話をしたり、両親教室等の他の母子保健事業等でフォローするなど、継続的にきめ細かく関わることが可能になった。さらに、妊娠後期には、出産が近くなり新たに生じた不安や、家族関係など状況の変化にも対応できるよう、原則全員に、面接後の再度のアプローチとして「お手紙」を送付している。この手紙を握りしめて、相談に来てくれた妊婦もいる。  母子保健コーディネーターの面接は笑顔≠ェ印象的と言われる。「おめでとう」という言葉とともに、「母子保健コーディネーター」という相談窓口をしっかりと覚えてもらえるよう取り組んでいる。「あなたのことを心配している」というメッセージを伝える。「いつでも相談に来てもいいところ」と思っていただく。このように、妊娠中から温かい関わり、信頼関係が築かれていることが、一人ひとりの妊婦、親子のこれから始まる先々までの切れ目のない支援にとってとても重要であり、孤独になりがちなコロナ禍においては、より一層その重要性が増している。  そして、このことは地域子育て支援拠点と共に取り組んできた、「妊娠中からいかに地域とのつながり≠もってもらうか。居場所と感じてもらえるか」ということについて、改めてその重要性を確認する機会となっている。これまでも取り組んでいた「妊娠期から地域の子育て支援につなぐ」ことも、リソースの紹介にとどまらず、そこから一歩進め「確実につなぎ、つないだ後も親子の様子を継続して見守る」など、より妊婦・親子一人ひとりへの丁寧な早期支援が行える体制が整ったと言えるのである。  このように、母子保健コーディネーターの配置により、母子保健も地域子育て支援も、子育ての最初の入り口・出会いの場や機会を充実し、更なる支援の充実に取り組んでいる。   6 横浜市版子育て世代包括支援センターの充実に向けて  ここからは、今後、本市の強みをより活かすために重要なことについて考えたい。  包括支援センターの目指す支援の実現には「子育ての関係機関、施設、地域に親子を支える豊かなネットワークをつくる」ことと「行政の専門性と地域子育て支援拠点の当事者性による一体的支援」、この2点が重要であることは、これまでに述べたとおりである。これを横浜市版子育て世代包括支援センターで考えたとき、それは「区役所の持つ関係機関・医療機関等とのネットワークと、地域子育て支援拠点が持つ支援の担い手同士や地域で活動している方とのネットワークを掛け合わせること」と「区役所の専門職により発揮される専門性と、地域子育て支援拠点の当事者への寄り添う支援による当事者性を掛け合わせること」。これが、その方向性であると言える。そしてこの2点をかなえるために最も重要なのは、「これまで築いてきた両者の協働関係を、今後も適切に機能させ続けること」ではないかと考えるのである。  地域子育て支援拠点への期待と行政の責任についても触れておきたい。  拠点には、まず、行政とは異なる、より親子に近い目線での子育て家庭の見守りから生み出される、具体的な支援手法を行政に提案する力を期待したい。また、親子の日常を継続的に見守る支援者として、妊婦・親子のありようから支援ニーズをキャッチし、手法を生み出し、行政に提案してほしい。さらに、子育て家庭の悩みや課題を我が事ととらえ、率先して多くの市民に働きかけ、取組に必要な担い手を創出・育成し、地域の中で子育て支援の輪を広げてほしい。行政とは異なる視点から親子に温かな目を向け支える。行政の枠組みを超えた新たな取組を支援の実践者として形にしていく。そのような地域子育て支援拠点が、多様な親子に対応するきめ細やかな支援の実現を目指す本市の施策には不可欠と考えるのである。  一方、行政にも、多くのことが求められる。まず、最も重要なのは、行政が「拠点と共に、何を実現するのか」を責任を持って明確に示すということである。その上で、地域子育て支援拠点と行政、双方の目指す方向性を掛け合わせ、目標を共に定めるというプロセスを踏んでいきたい。また、拠点の提案に対しても、ただ提案を受け入れるのでは、協働の強みは活かせない。行政の持つ専門性と多岐にわたる情報をもとに総合的に区域を分析し、区域の支援展開のイメージを描いた上で拠点の提案の有効性、手法の適否、費用対効果、継続性等を検討し、提案を事業や施策に昇華させることが求められている。  さらに、互いの考えが時に相反したとしても、目標を共有する者同士として、互いを理解し、尊重し合う姿勢が必要であろう。相反することを「物事の多面的なとらえの担保につながる大切なプロセス」と前向きにとらえ、相違点を共に整理する。そのような成熟した信頼関係が求められるのではないだろうか。  協働で事業を実施すること、それも、ある一定の期間、限定的なプロジェクトのみにおいて協働するのではなく、継続して一つの事業を展開していくことは、一般的な委託事業として実施することよりも難しい。しかし本市は地域子育て支援拠点とともに、その難しい手法に挑戦している。難しいからこそ、社会変化に伴ってその時々で変わるであろう多様な親子像に常にマッチしたサポートを提供し続け、一人ひとりの育ちに届く支援が実現するのではないだろうか。 7 おわりに  本市は、これまで行政だけで子育て支援に取り組むのではなく、子育ての関係機関、子育て当事者、地域で子育て支援を担う方、市民など、多くの人の能動的取組を得て、支援の網の目を巡らせてきた。今、横浜市版子育て世代包括支援センターの考え方の整理を振り返って感じることは、国の示す子育て世代包括支援センターの理念は正に本市の取組姿勢そのものであり、これまでの取組を更に充実していくものであるとの結論を得たということである。これは、本市のこれまでの施策に対する一定の評価ととらえてよいのではないか。  ただ、横浜市版子育て世代包括支援センターの肝が「つながり」であるとしたとき、今日あるこのつながりは、これまで携わった多くの職員一人ひとりが、悩み、考え、各所に足を運び、時間をかけて丁寧に紡いできたものであることを忘れてはならないのではないだろうか。今あるこの支援の網の目をこの先も維持する。そして横浜市版子育て世代包括支援センターの仕組みを活用し、これを更に充実させるためには、先輩方から受け継いだこの貴重なつながりを持つフィールドを、自分も、そして今後も、大切に育て続けなくてはならない。  横浜は、今年度から、横浜市版包括支援センターを本格実施している。これまでの本市の取組に誇りを持ち、包括という仕組みによる次の一歩を踏み出したい。 ※ポピュレーションアプローチ  「集団全体への働きかけ」を指し、母子健康手帳交付時の看護職による全数面接や妊産婦健診、母子訪問員による新生児訪問、乳幼児健診などが該当する。妊娠後期に全数の妊婦へのお便りの送付もこれに該当する。一方、ハイリスクアプローチは、「リスクの高い方を対象とした働きかけ」を指し、妊娠経過の中で安全な妊娠の継続や出産が危ぶまれる妊婦への関わり、未熟児訪問、不適切な養育環境にある子育て家庭への関わり、乳幼児健診後の経過健診等が該当する。