《13》子どもの貧困対策と子ども食堂 執筆 田邊 保 こども青少年局企画調整課担当係長 1 はじめに〜子どもの貧困を取り巻く状況?  いかなる場合であっても、子どもの健やかな成長を保障することは社会の責務である。しかし、現在の日本では、約7人に1人の子どもが相対的貧困(※1)の状態にあるとされる。将来を担う子どもたちが、心身ともに健やかに育ち、自立していく環境が十分とは言えない状況である。 (1) 子どもの貧困に係る法律の成立  こうした子どもの貧困問題については、平成25年6月に子どもの貧困対策の推進に関する法律が成立し、翌年8月には子供の貧困対策に関する大綱が閣議決定された。全ての子どもたちが夢と希望を持って成長していける社会の実現を目指し、子どもの貧困対策を総合的に推進することが重要であるとの方針のもと、様々な取組が進められた。これに伴い、子どもの貧困率を始めとする多くの指標(※2)で改善が見られ、子どもの貧困に対する社会の認知も進んできている。 (2) 一層の支援強化を目指して  一方で、依然として今なお支援を必要とする子どもや家庭が多く存在し、令和元年6月には改正子どもの貧困対策に関する法律が成立した。貧困の連鎖を食い止めるため、現在から将来にわたって、全ての子どもたちが前向きな気持ちで夢や希望を持つことのできる社会の構築を目指し、引き続き、子どもの貧困対策を推進していくこととされた。  さらに、令和元年11月には新たな大綱が作成され、子どもの貧困対策の推進のため、国、地方公共団体、民間企業、そして地域住民等がそれぞれの立場から主体的に支援に参加していく必要性、中でも地方公共団体が果たす役割の重要性が示された。 2 子どもの貧困対策に係る本市の取組  本市では、先に述べた法律や大綱等を踏まえ、平成27年度に「横浜市子どもの貧困対策に関する計画(平成28〜令和2年度)」を策定した。実効性の高い施策を展開していくこと、また、支援が確実に届く仕組みづくりを目的とした本計画の策定に当たっては、実態を把握するべく、市民を対象としたアンケートや、支援機関・支援者へのヒアリングを実施した。 (1) 実態調査から見えてきたもの  本調査によって、横浜市では7.7%(約4万4千人)の子どもが国の貧困線を下回る世帯で暮らしていることが明らかになった。  また、子どもの貧困は、経済的な困窮だけにとどまらず、ネグレクト・基本的な生活習慣の乱れ・障害や健康問題・不登校といった様々な困難と結びついていることが多い。保護者の抱える困難が、子どもの育ちに影響を与え、困難な状況が親から子に引き継がれる「世代間連鎖」を断ち切る必要性も示唆された。 (2) 総合的な取組の推進  こういった状況を踏まえ、本市では、教育・福祉・子育て支援等、総合的な取組を進めている。具体的には、養育環境に課題がある小・中学生等を対象とした基本的な生活習慣の習得等のための生活支援事業、生活困窮世帯等の中学生を対象とした高校進学のための学習支援事業、ひとり親世帯を対象とした総合的な自立支援事業、児童養護施設等を退所した児童への相談支援等を行うアフターケア事業などである。  前述したものは事業の一部であり、着実に進めているところではあるが、いずれも中長期的な視点で継続的に実施していく必要がある。  こうした行政主導の支援の一方で、近年では、子ども食堂(※3)といった地域の方々の活動も広がりを見せている。 3 地域における子ども食堂の取組  子ども食堂は、食事を提供するという取組を通じ、孤食の予防や困窮世帯・留守家庭への支援を行っている。また、困難を抱える子どもの小さなサインに気づき、寄り添っていくことで、子どもの貧困の未然防止にも貢献している。  一方で、子どもたちの目線で考えてみると、子ども食堂は、安心して過ごすことのできる「居場所」という役割も担っているのだ。 (1) 「居場所」としての子ども食堂  核家族化が進み、地域とのつながりも希薄になっている現在、保護者や学校の先生以外の大人と関わりを持つことなく成長していく子どもも多い。子ども食堂という「居場所」においては、親と子、先生と生徒といった関係性は存在しない。大人と子ども、スタッフとお客さんという関係性が前提になっているわけでもない。一人ひとりが尊重され、誰もが温かく受け入れられるのだ。子どもたちは、そこで出会う他者との関わりを通し多様な価値観や生き方に触れ、ときに褒められ、ときに叱られながら、自己肯定感や将来を切り開いていく力を身につけていく。そこに関わる地域の担い手も子どもたちを温かく見守りながら、子どもたちから力をもらい、ともに成長していく。 (2) 新型コロナウイルス感染症の影響  現在、新型コロナウイルス感染症の影響を受け、多くの子ども食堂が活動を休止している。しかし、団体によっては、お弁当や食材等の配布に切り替えて実施しているところや感染症対策を徹底しながら再開しているところもある。  令和2年9月のとある平日、緊急事態宣言明けに活動を再開した子ども食堂を訪れた。消毒や距離の確保といった感染症対策がなされてはいるが、そこにはいつもと変わらない子どもたちの笑顔があった。どんなに対策をしても、感染リスクをゼロにすることはできない。見えない感染症を前に担い手の苦悩は続くが、「こんな時だからこそ、居場所を提供するという自分たちの活動をやめてはいけないと思っている」と力強く話してくれた。  新型コロナウイルス感染症との戦いがいつまで続くかは分からない。地域に根づき始めた子ども食堂が衰退しないよう、行政としても、新しい生活様式におけるあり方を一緒に考え、支えていきたい。 4 第2期計画策定に向けて  「横浜市子どもの貧困対策に関する計画」が令和2年度に終了することに伴い、次期計画の策定に向けて動き出している。新型コロナウイルス感染症の影響を受け、世帯年収が低下するなど、例年以上に苦しい生活を余儀なくされている子育て世帯も多いことだろう。感染症の影響が今後も長引くこととなれば、子どもの貧困を取り巻く状況はますます厳しくなることが懸念される。計画の策定に当たっては、しっかりと実態を把握し、引き続き実効性の高い施策を総合的に展開していかなければならない。  行政・民間企業・NPO法人・地域等、様々な主体がそれぞれの役割を担い、全ての子どもたちが、希望を胸にのびのびと育つことのできる社会を目指していきたい。 ※1 相対的貧困  等価可処分所得(世帯の可処分所得を世帯人員の平方根で割って調整した所得)が貧困線を下回っていること。貧困線とは、等価可処分所得の中央値の半分の額をいう。国民生活基礎調査によると、平成30年において相対的貧困の状態にある子ども、いわゆる子どもの貧困率は13.5% ※2 子どもの貧困に関する指標  「子どもの貧困対策に関する大綱」では、関係施策の実施状況や対策の効果等を検証・評価するため、子供の貧困に関する39の指標が設定されている。改善した指標の例/生活保護世帯に属する子供の大学等進学率、ひとり親家庭の子供の進学率、子供の貧困率、ひとり親世帯の貧困率 ※3 子ども食堂  明確な定義はないが、子どもが一人でも行くことのできる無料又は低額の食堂。開催頻度、場所、担い手等も様々。横浜市社会福祉協議会及び区社会福祉協議会の調査によると、令和2年8月現在で、市内で約150か所が活動。