《10》座談会/区における子育て支援の取組の今 〜子育て家庭の多様化が進む中で 山岡 佐江子 港南区こども家庭支援課こども家庭係長 渡辺 悠司 港北区こども家庭支援課こども家庭支援担当係長 三橋 静香 戸塚区こども家庭支援課こども家庭支援担当係長 内山 みのり 瀬谷区こども家庭支援課担当係長 進行 こども青少年局子育て支援課 こども青少年局こども家庭課 1 日々の業務の中で感じている課題 ─ 本日は区福祉保健センターのこども家庭支援課で、母子保健及び子育て支援を担当している4名の係長にお集まりいただきました。子育て家庭の多様化が進み、様々なニーズに応えることが求められていると思いますが、今日は、今年度から本格実施となった子育て世代包括支援センター(※1)のことや、日頃感じている課題、今後のことなど、いろいろと話ができればと思っています。よろしくお願いします。  それでは、まず日々の業務の中で感じている課題についてお聞かせいただけますでしょうか。三橋係長からお願いします。 【三橋】戸塚区の三橋です。保健師です。現状の課題については、私自身が感じていることのほか、毎年、係会議や保健師の会議で事業のまとめや来年度に向けた課題出しをしていますので、そこで出た意見なども交えながらお伝えしたいと思います。  戸塚区は面積が18区で一番広く、人口は28万、出生件数が年間2,200人ということで、お子さんが多い区になります。転入者が多く、生まれ育った市町村でないところで子育てをしていて、実家や知り合いが近隣にいなくて孤立しがちであったり、育児不安を抱えている方が多いと感じています。第一子出産前に赤ちゃんに触れたことがない方が非常に多いという状況の中で、子育てはなかなか思いどおりにはいきませんので、想定外のことに対応しきれず、強い育児不安を感じる方も多くいらっしゃいます。また、4か月健診の場では、夫婦間のコミュニケーションの仕方に悩み、ストレスを感じている方の訴えも増えたように思います。さらに、今は非常に情報があふれており、どれが正しい情報なのか判断が困難で、お子さんに対する声かけや遊び方が分からないと悩む方が増えているように感じています。特に1、2歳児の親御さんが多いと思いますが、子どもとの具体的な関わり方についての助言を望む声が多くあります。また、居場所が整備されていく反面、同世代の子どもたちが群れ育ち、母同士のつながりが持てる貴重な場である親子サークルが毎年減少していることも課題と感じています。 【内山】瀬谷区の内山です。職種は保健師です。瀬谷区では要保護児童対策協議会(※2)で継続支援している家庭の割合が横浜市全体より高いなど、支援が必要な家庭が比較的多い状況にあります。また、19歳以下の母の出生数の人口比が18区で最も多く、若年の母親を対象にした交流会や教室を実施するなどの取組も行っています。瀬谷区には「子育て支援」と言われる以前から子育て世帯を応援してくれている団体がいくつもあります。新たに活動を始めている方もいます。母子保健事業や子育て支援事業を通して、地域の子育てに関わる支援者や関係機関が子どもたちの健やかな育ちのためにそれぞれの思いを持って活動していることを日々実感しています。  多様化ということでは、瀬谷区には外国籍の子どもや外国にルーツのある子どもが多く住んでいます。ここ5年くらいで外国人人口が増加し、国籍にも変化があります。元々は中国・韓国や朝鮮の方が多かったのですが、最近はベトナムやフィリピン、カンボジア国籍の人口が著しく増加しています。瀬谷区の地域子育て支援拠点(以下「拠点」という。※3)には、ベトナム語と中国語を話せるスタッフがいて、「何曜日にベトナム語が喋れる人がいるよ」、「何曜日には中国語が喋れる人がいるよ」と外国人のお母さん方がその日をめがけて来たりしています。また、拠点が立ち上げを支援した団体で、地域に暮らす外国にルーツのある方がスタッフをしている「カムオンシェシェ」が、外国籍の子育て家庭に対し、通院や行政の申請手続、入園入学の説明会などでの通訳や翻訳の活動をしています。 ─ 生活全般という感じなのですね。次は渡辺係長、お願いします。 【渡辺】港北区の渡辺です。事務職です。区の特徴についてキーワードを二つ挙げるとしたら、一つは先ほど戸塚区からもありましたが慣れない土地で初めての子育て=Aもう一つは働きながら妊娠・子育て≠ナすね。港北区は第一子の出生率が20年ぐらい前からすごく高いです。おおむね全国平均5割のところが、港北区は常に6割を超えています。そのため、第一子、初めて出産する方を対象とした取組を一体的に展開しているという特徴があります。両親教室も地域展開をしていて、区役所で行うものも合わせると土曜日だけで年間48回くらい、ほぼ毎週土曜日に開催しています。そして、それはもう一つの働きながら妊娠・子育て≠ノつながるのですが、子どもと向き合う時間がやはり年々減少しているということがあって、妊娠期から早め早めにアプローチし、妊娠期をスタート地点にして事業展開していくということが、現時点でたどり着いた答えなのかなと思っています。一方、第一子出産への取組が中心になっていることから、どうしても二人目、三人目の課題を拾いきれていない部分があるかもしれないと感じていますが、その辺りは地域から「では、うちでやるよ」と声を上げてくれたりしています。ですので、役割分担をしっかりやっていけたらいいなと思っています。 ─ 港北区の土曜日の両親教室を見学させていただいたことがありますが、区役所で行っている両親教室とは全然違いますし、妊娠期から地域とつながるというところにすごくフォーカスしているように感じました。 【渡辺】初めて妊娠して、大体の人は未来に向けて期待と不安が入り混じった状態であると思いますが、地域でどのような子育て支援が行われているのか知らない人がほとんどだと思います。地域のNPO法人が開催する両親教室で、地域の情報も知って、つながっていき、それで、「こんなに温かいまちだと思わなかった」と感じていただけると思います。普段は仕事の行き帰りだけの地域かもしれませんが、子育てという人生における節目において、前向きになれるようなことを地域の力を使ってやっていくというのは、とても大事なことだと日々思っています。  私も、最初にこども家庭支援課に来たときは、「子育て世帯が幸せに」というだけの視点しか持ち合わせていませんでしたが、温かいまちであるとか、地域づくりとか、「もうちょっと広く取り組むことができるんだ。それぐらいの可能性があるものなんだな、こども家庭支援課の仕事は」というのが、ようやく分かってきたところです。まだまだ道半ばですが港北区の子育て支援をやらせていただいて、とてもやりがいを感じています。 ─ ありがとうございます。もう今日のまとめみたいですね。(笑)山岡係長、お願いします。 【山岡】港南区の山岡です。職種は保健師です。私はまだ異動してきて半年経ったところですが、港南区は割と穏やかな区という印象が皆さんの中にもあるのではないかと思います。実際にそういうふうに感じることは多いのですが、高齢出産が増えていたり、複雑な家族背景やご家族の病気や障害、近くに実家があってもサポートが受けられないという方も非常に多いように感じています。そのため地域の様々な関係機関や団体が連携しながら、子育て支援の充実を進めていくことが大切だと考えています。  港南区には子育て支援に熱い思いをもって活動されている区民の方が多く、区全体の子育て連絡会は10年以上前に発足し、毎年、子育て支援講演会や子ども向けのイベントなども実施しています。ただ、港南区もエリアによって子育て環境やニーズや課題も異なりますので、今後は他の区で行っているように、より身近な単位で連絡会を開催し、お互いの活動や日頃感じていることなどを共有する場が必要だと思います。港南区子育て連絡会で行った子育て世帯向けアンケートの調査結果を話し合う中でも、「身近なエリア単位での話合いが必要」との意見があり、1年前から話合いを重ねながら進めているところです。  また、区内には市立のセンター保育園が3園あるため、保育資源ネットワークも含めて子育て支援に関連する様々な団体のネットワークの充実を進めていく仕掛けづくりができればと思っています。 ─ 課題というところでは、他にはどうですか。 【三橋】区の福祉保健センター内の連携についてですが、福祉保健センターは、妊娠期から高齢、生活支援、障害など各課、各担当で分担が分かれていますが、例えば8050問題(※4)は、こども家庭支援課として先を見据えてとらえていなければいけない課題だと感じています。解決できる課題は母子保健のところでくい止めるという気持ちで、8050問題を意識した上で予防をどうするか、妊娠期、思春期までどう支援するのかということを考えていかなくてはいけません。課を超えて、みんなで手をつないで支援していかなければと日々思っています。それぞれの現状や業務を共有し、どう連携できそうか、共に検討していくことがすごく大事だと思ってます。 ─ すごいですね。「母子保健でくい止める」って、いいスローガンですね。 【内山】これまでの話と観点が異なりますが、保健師、社会福祉職をはじめ、現場のスタッフが疲弊していることが一番気になっています。児童虐待通告件数の増加により、日々の業務の中で緊急度が高いものが優先される傾向にあります。すると、重要であるが緊急度の低い予防に関する取組が後回しになってしまいます。「もっと早い段階で介入できたら」、「もっと丁寧に関わりたい」と感じても次々に発生する事案に追われて、そこまで十分できないのが現状です。また、区づくり推進費(※5)で「こういうことを新しくやりたいな」と思っても、なかなか手が伸びていかないということもあるように感じています。 【山岡】そうですね。職員もいろいろとジレンマを抱えていると思います。子どもたちが安心して健やかに成長していけるようなポピュレーションアプローチや地域づくり、学齢期・思春期に起こる様々な問題行動の予防等、いろいろなことが気になりつつも目の前の虐待ケースに追われています。 ─ でも、その状態がずっと続くと、その大事な思いも現場から消えてしまう。やらなければいけない大事なことが分かっているうちに話をし、体制を整えていく必要がありますね。 2 職種間の連携で ─ それでは、次のテーマに進みたいと思います。いろいろと課題についてお話をいただきましたが、今年度から第2期の横浜市子ども・子育て支援事業計画がスタートし、特に「妊娠期からの支援」というところをこれまで以上に大事にする。多様なご家庭に対応する事業、取組ということをこれまで以上に考えていかなければならないですし、地域づくりということにも改めてしっかり向き合わなければといけないと思います。そして、その実現のためには、保健師、助産師、社会福祉士、保育士、栄養士など、専門職同士の連携というのが欠かせないと思います。また、専門職と事務職が一緒になって事業をつくっていくということも重要ではないかと思っています。なかなか思いだけでは形にならないと思いますが、職種間の連携について、日頃感じていることや具体的な事例、目指したいイメージなどについてはいかがでしょうか。 【渡辺】私の場合はすごくシンプルで、お互い平等な立場、立ち位置の中で、苦手な部分を助けてあげればいいのかなと考えています。例えば、保健師にはやらなくてはならない職種の役割があります。市の職員ですから、スタンダードな事務の能力は身につけていかなければならないということを十分理解した上でですが、苦手な部分を助けてあげる。ただ分担するということではなくて、相手のことを理解した上で役割分担をきちんとするということが一番大事ではないかと思っています。私は区のこども家庭支援担当係長の中で唯一の事務職ですが、同じ職種ではないから言いやすいこともあると思っています。他の職種の苦手なところをやってきた部分もありますので、もしかしたら横浜市の職員として持つべきスタンダードなスキルとか物事の考え方というのは、私の下では育ちにくい部分も若干あるのかなという気はしてますが、やはり専門職としての役割にまずは力を注いでほしいと考えています。 ─ 職員の人材育成にも関係すると思いますが、こういう職員に育ってほしいとかイメージはありますか。 【渡辺】思うところはありますが、今、こども家庭支援課はやることが多過ぎるように感じています。セクション別に機能を分けていますが、担当部分だけでなく、それが全体でどのようになっているのか、もうちょっと俯瞰的な視点もあると、「保育と障害って、こんな関わりがあるんだ」など、全体が見えてくると思います。どうしても割り当てられた業務だけでしか見ないようになってしまいがちですが、「こんなに醍醐味があるんだよ」と職員に伝えていくことが大事だと思っています。 ─ 本当にそうですよね。他にはどうでしょうか。 【三橋】本当にこども家庭支援課は忙しいので、目の前にある仕事をこなすというふうになりがちです。事務職も保健師などから業務を受け取って、起案や支払いの事務に追われているという感じになってしまうのではもったいないと思いますので、私はなるべく事務職のスタッフにもその事業に入ってもらうようにしています。事業に入ってもらって「あっ、こういう事業なんだ。こういう課題があって、この事業をやることで、こういうことを目指しているんだ」ということを共有し、同じ視線で一緒に同じゴールに向かっていくことができるよう心掛けています。事務職も本当に忙しいのですが、その中で時間を割いてくれて事業を見てもらうとやっぱり全然違います。その後のやりとりがすごくスムーズですし、事業への共通理解ができるとより良い方向性が見えてきます。全ての事業ができているわけではありませんが、なるべくそうしたいと考えています。  こども家庭支援課の仕事は、忙しいですが、楽しいし、貴い仕事だと思っています。 ─ 内山係長はいかがですか。 【内山】連携の話がありましたが、こども家庭支援課の仕事は、「これは保健師の仕事だから」、「社会福祉職の仕事だから」、「事務の仕事だから」では回りません。保育の窓口でお話を伺っていても、「これは専門職につないだほうがいいかもしれない」、「もっと専門的な支援が必要ではないか」と思わないといけないですし、「これは○○の担当にも下話をしておいたほうがいいな」とか、いろんなことを考えながら進めていく必要があると思います。決して「誰々だけの仕事」というものはありません。そこは厳しく伝えています。  また、保健師は、横浜市の中で数が限られていますが、ゼロにしてはいけない職種だと思っています。ですので、事務職にも保健師の職務と役割、専門職としての考えを理解してもらい、「通訳」を増やすことは必要だと考えています。予算獲得や事業のスクラップ&ビルドを行う際、保健・福祉分野の業務の必要性を言語化してくれる人は絶対に必要です。そういう意味でも、事務職とはしっかり連携し、分かり合っていかなければならないといつも思っています。 ─ 保健師と事務職との連携の話がありましたが、例えば助産師などについてはどうでしょうか。特に妊娠期の支援を考えたときに助産師は大切な役割を担っていると思います。全国的に見ても横浜くらいですよね、全区に助産師が配置されているのは。 【内山】他の自治体では、事務職が社会福祉職の業務を担っていたり、正規職員としての助産師の配置がないこともあります。妊娠期から学齢期まで専門的に対応できる職種が配置されている横浜市は保健・福祉の体制が充実していると思います。  保健師にしても助産師にしても医療職ですが、妊娠から産後の大きな変化のある時期には、自分自身のからだのことや母乳の悩みを抱えているお母さんもたくさんいらっしゃいます。助産師が支援に加わることで、サービスの質が高くなると思います。 【山岡】港南区では、保育士と保健師が連携をして、育児支援情報を発信するホームページを準備しています。ちょっとした育児の困りごとに答えようとするものですが、テーマごとに、保育士の視点で、すごく具体的に「こんなふうにすればいいよ」とか、「保育園でこんなアドバイスをもらえるよ」といったことを整理してもらい、保健師のほうは、「なぜそれが大事なのか」ということを整理するなど、パートを分けてつくっています。保育士の専門性の高さに改めて感心するとともに、違う職種が連携していくことでより質の高い仕事ができることを実感しました。保育園が行っている地域支援はたくさんありますが、園庭開放なども、親子の居場所としてだけでなく、身近に育児相談できる場であるということも、もっと伝えていかなければいけないと感じています。 【三橋】戸塚区では、子育て連絡会に横浜市立大学の三輪律江先生に昨年からご参加いただいて、先生の「まち保育」(70ページ参照)の視点を取り入れて展開をしています。「おさんぽビンゴ」など、様々なツールや活用のヒントをいただいたり、保育園の先生たちが子どもの目線で作られた「おさんぽマップ」を活用させていただくことでまちの見方がとても広がることなど、たくさんの学びがあります。公立保育園とは、「地域支援」として子育て連絡会での連携のほかに、子どもとの関わり方に悩む方に向けた支援を一緒にやろうと動き出しています。保育園の先生方に一緒に活動していただいて、すごく助けられていると感じています。 ─ 子育て支援の環境を整える上で、保育園は非常に重要と言われるところですが、一方で、園長先生たちも、指針に「地域の子育て支援」と書いてあるけれども、実際に何からどうやって進めていったらよいのか、巻き込んでもらえるのかみたいなところを悩んでいらっしゃるというお話を聞いたりします。今は開花の一歩手前という感じもしますので、周りから保育園に「お願いします。一緒にやりましょう」って声をかけてもいいのかもしれません。つき合い始めれば「保育園ってやっぱりすごい」ってなるように思います。  それから、多様な子育て家庭に対応していくためには、やっぱりワーカー(社会福祉職)のサービスをオーダーメイドしていく力がすごく重要になってくると思います。その点、いかがでしょうか。 【内山】目の前の一人の人に責任を持って関われる職がいることはとてもよいことですが、保健師と社会福祉職の違いが何なのかというところを私たちが分かっていないと、結局、立ち位置が分からなくなってしまいます。先ほどもお互いを理解してという話がありましたが、何をする職種なのかというところをきちんと理解しておく必要があります。保健師は健康促進やエンパワメントをする職であるのに対して、社会福祉職は福祉制度や社会資源と対象をつなぐに当たって、「こういう視点で考えると、この人はこういうサービスが利用でき、生活が向上するのではないか」と考えることができる強みがあると思います。そういう役割や特徴の違いを理解した上で支援を進めていけるとよいと思います。 【渡辺】そうですね。やっぱり専門の社会福祉職がいるというところで、より包括的なケアができていく。私も別の市町村から来たのですが、横浜市のすごいところはそこ、個別支援であるというふうに思っています。 3 子育て世代包括支援センターの本格実施に当たって ─ モデル実施を経て、今年度から横浜市版子育て世代包括支援センター(以下「包括支援センター」という。)が本格実施となりました。包括支援センターの取組を進めていくためには、今までの話にもあったように、やはりいろんな人たちがお互いの強みを知り、役割を知り、時には補い合って連携していくことや、行政と担い手の人たちがつながっていくことがより大事になってくると思います。  本格実施になっての所感について教えていただければと思います。おそらくモデル実施の時期によって見え方も違ってくるかと思いますが、いかがでしょうか。 【山岡】今年から、包括支援センターの体制の一つとして、母子保健コーディネーター(※6)が配置されて本格実施となりましたが、まだ手探り状態という感じです。他区の事例なども参考にしていきたいと考えていますが、一番大事なのは、包括支援センターの理念をどう課内、係内で共有していくのかということだと思っていますし、包括=母子保健コーディネーターというような意識にならないように注意しなければと考えているところです。母子保健コーディネーターの配置はあくまでも方法であって、そのことを基に、例えば区に特有の妊娠期のニーズを検討したり、両親教室のプログラムの工夫やどのように産後までつなげていくのかといったことを考え、それぞれの取組が有機的につながる仕掛けを何か考えていきたいと思っています。そうでないと、ただ人が増えただけ、母子保健コーディネーターが配置されただけになってしまいます。包括支援センターが物理的な建物ではなく、理念的なもの、機能に関するものであるということもあり、自分自身も気をつけておきたいと考えています。 【内山】瀬谷区は今年度からの配置です。母子保健コーディネーターの配置がない中でも、妊娠期からの支援、支援が必要な人を見逃さないように頑張ってきました。母子保健コーディネーターの配置がされたことで、ガラッと変わったという印象ではありません。  しかし、「切れ目のない支援とは何か」と改めて考える機会となっています。母子健康手帳の交付から妊婦健診、妊娠中の連絡、産後訪問、乳幼児健診など様々な支援が保障されているということも大切なことだと思います。段階ごとに全数の確認をしていくことで、切れ目のない支援に近づいていくとよいと考えています。 ─ 確かに、包括支援センターについては、取組をもっと充実していく部分はあるかもしれませんが、国が想定している方向性は、新たなものというより、既に横浜市が取り組んできたことであるとの印象を受けます。今までやってきたことをしっかり仕組みとしてやっていきましょうということで、人が替わっても組織としてやっていくという理解でよいのではないかと思います。 【三橋】戸塚区では母子保健コーディネーターが3名配置されて本当に助かっています。ハイリスクで支援が必要な方は1割ぐらいいらっしゃいますが、妊娠中に連絡して支援したいと思っても、なかなか手が届いていなかったのですが、3名が配置されたことで、妊娠期において、母子健康手帳の交付、全数チェック、後期のお便りと、ポピュレーションアプローチができるようになり、妊娠期に確実に支援できているように感じています。  また、もう一つ、包括支援センターについては、拠点と区の連携、拠点の当事者性と区の専門性をどう生かすのかというところがカギです。地域子育て支援拠点で行っている両親教室では、妊婦体験とか沐浴のデモンストレーションなどを実施しますが、やはりメインは当事者性を生かした交流だと思います。実際に育児中のパパが参加してくれて、プレパパさんの「寝かしつけって、実際はどうやっているんですか?」とか、「奥さんとの役割分担はどうしていますか?」のような質問に、「最初の2、3か月は奥さんも疲れてるので険悪なときもあります」など、本音トークで答えてくれています。パパとママに分かれて行うのですが、参加者にとって生の声が直接聞ける貴重な時間となっており、参加したプレパパたちから「本当にいい時間でした」などの感想が聞けると「当事者性ってこういうことだな」と思います。 ─ そういうことを通して、つながっていくんですね。 【三橋】それから、戸塚区役所の「子育て応援ルームとことこ」のことを少し紹介してもいいですか? ─ どうぞ、お願いします。 【三橋】戸塚区役所の新庁舎の移転に伴い、平成25年4月から、区役所の3階に、子育て応援ルーム「とことこ」を設置しています。ここでは、区役所利用者の一時託児を行っていますが、未就学のお子さんを対象に、情報提供、子育て相談、そしてベビーカーのレンタルをしています。他区でも一時託児や情報提供等をしていますが、ここまできめ細かな対応ができているのはおそらく戸塚区だけではないかと思っています。今は新型コロナウイルス感染症の影響で少ないのですが、年間利用者数は約1万5千人で、拠点に来る親御さんと同じぐらいの数が訪れています。「情報コンシェルジュ」と呼んでいるスタッフが、情報提供だけでなく相談にも乗っています。必要な情報を確実に伝えたり、泣きながら来てくれたお母さんのお話を傾聴し、受け止めて、区役所の窓口など、適切かつ確実なところにつなぐということもできています。拠点やつどいの広場には行けないけれども、ちょっと話をしたいといった人が実は「とことこ」に来ていて、「とことこを通って子育て支援が始まる」という「玄関口」の役割を果たしています。  コロナ禍で、区役所の子ども・家庭支援相談への電話があまり増えなくて、「みんなどうしてるんだろう?」と心配していましたが、「とことこ」に来てくれていて、「区や病院の両親教室が中止で不安」、「体重が心配で測りに来たら増えていて安心!話せて気が楽になった」など、思いを伝えてくださいました。区ではない、拠点でもない、その前の段階で受け止めるということを「とことこ」ができている。包括支援センターの理想形だなと思っていて、戸塚区が横浜のモデルみたいになったらいいなと思っています。 【内山】何がきっかけで始まったのですか? 【三橋】新区庁舎ができる際に「子育て支援スペース」を設置することになり、区民意識調査での子育て支援スペースに対するニーズや、子育て支援団体等の意見を踏まえ、今の事業を実施することになりました。公募で選定し法人に委託し、区づくり推進費の予算で運営しています。 ─ 拠点やつどいの広場ですら敷居が高いと感じる人がたくさんいるということですね。  それでは、包括支援センターの話に戻りましょう。渡辺係長、お願いします。 【渡辺】港北区は3年目ですが、包括支援センターの仕組みができて、最初はみんなやらされ感がすごくあったのですが、母子保健コーディネーターが配置されて、「これだけ早く情報を把握して見立てを立てられるというのはすごくプラスだよね」という意識に変わっていきました。生まれる前から情報をキャッチできているので、産後慌てることなく、ハイリスクな方々を早めに適切な支援につなげることができているように思います。また、全体の把握ができて、それが区の独自性とか施策反映にもつながっていくというのが実感できています。先ほども、元々切れ目のない支援はあったという話がありましたが、よりその糸が綱の目のようになった。そんなイメージを私は感じています。  それから、港北区では、拠点と話し合って、「妊娠あんしんセレクト」というペーパーを作成しています。拠点の事業とか妊娠期の支援とか、そういうものを全部網羅して、分かりやすくワンペーパーにまとめたものです。産後用のものもできていますが、それぞれの支援機関、支援者が一体でこの事業を展開しているんだという見せ方にもなっていると思っています。全ての妊婦さんに渡せていますので、かなり効果のあるものではないかと思っています。 【山岡】(実物を見て)すごく分かりやすいですね。 【内山】いつお渡しするんですか? 【渡辺】母子健康手帳の交付のときですね。母子保健コーディネーターが丁寧に区役所と拠点でやっていることなどを伝えています。 【三橋】産後用はいつ配るんですか? 【渡辺】産後は、児童手当申請のときとか、出生の届け出のときですね。 【三橋】それ、分けてください。 【山岡】私もほしいです。 【内山】瀬谷区でも区づくり推進費を活用して区の支援に特化したものを作成したいと考えています。 ─ 予算もほしいですね、本当に。(笑) 4 今後に向けて ─ 包括支援センターではこれまで以上に分野を超えて母子保健分野と子育て支援分野の一体的な支援ということを国も言っています。さらに今後は国の示すこども家庭総合支援拠点(以下「総合支援拠点」という。※7)の設置というところも控えています。  ここまでの話の中でも、いろいろな人とつながっていくということが重要で、そのようにして多様な子育て家庭を包括的に支援していくということかと思います。こども家庭支援課は、母子保健、子育て支援、虐待、保育、学齢期支援など、子育てに関する施策を全般的に所管している部署になるわけですが、今後に向けて感じていらっしゃることを最後にお一人ずつお聞きしたいと思います。 【山岡】総合支援拠点については再来年ですので、まだそこまで切迫感はないのですが、やはり業務を分化していくことでより専門性は高くなっていくのだろうと思っています。局でもいろいろと考えてくれていると思いますが、どう専門化していくのか、それをどうつないでいくのかという、より具体的なところは現場で考えていかなければと思っています。  また、障害児支援分野など、気になりつつも今はなかなか十分に時間を割けていない部分についてもより充実していけるとよいと考えています。前提として仕組みと人の配置が必要になりますが、そうすることで、もっといろんなつながりができていって、支援が多様化していくのではないかと期待しています。 【渡辺】課として余裕がない中、新しい業務も入ってきますが、ちょっとどこかで立ち止まる必要もあるように感じています。職員にも話をしていますが、「18区で一番休暇取得率が高くて超勤時間が少ない係を目指そう」ということでやっています。余裕がないといい発想も出ないですし、ワークライフバランスが良好であれば、大体のことはうまくいくのではないかとも思います。…すみません、最後にかっこいいことが言えませんでした。(笑) ─ 仕事に追われるのではなく、仕事を追っていくようになると、「もっとこうだったらいいな」ってアイデアが出てくるように思いますね。 【渡辺】本当にそう思います。みんな音を上げないで一生懸命よくやってくれています。 【内山】私は、今後ということでは、新型コロナウイルス感染症流行後の生活にも目を向けていく必要があると考えています。オンラインに頼り過ぎるのは怖いです。訪問や健診などの直接支援とオンラインによる支援をどう組み合わせていくのかも課題だと思います。  緊急事態宣言終了後に再開した、母親教室や赤ちゃん教室では、参加者から「つながりたい」「グループワークをしたい」「赤ちゃんと触れ合いたい」といった話が出ています。集団の支援と個別支援という表裏一体の事業をどのように展開していくのか。新しい生活様式などの情報も踏まえ、拠点などの地域の子育てに関わる支援者や関係機関とも意見交換しながら検討していきたいと考えています。 ─ 最後に、三橋係長、お願いします。 【三橋】総合支援拠点は、令和4年度末までに全市町村で設置という動きになっていますが、それは全ての子どもとその家庭及び妊婦を対象に、福祉に関する必要な支援の業務全般を行うということですので、今までやっていることと基本的に変わりはないのですが、それでも整理が必要な部分もあると思います。総合支援拠点が整備されてくると、今まで以上に、最初にお会いしたときの受け止め方の重要性が高まってくると思います。子どもと家庭に関する様々な相談を総合的に受け止めてつなぐというスキルが、保健師だけではなくて、あらゆる職種に求められてくると思いますし、それに対応できるような体制、そしてスキルアップなどが問われてくるように思います。  また、連携の話もしましたが、行政だけでは切れ目のない支援には限界があります。これまで以上に、大学や民間など、他機関との連携が必要です。民間や他市町村、海外のよい取組を取り入れながら、皆が住みやすいまちを、様々な団体と手を組んでつくっていくという姿勢が重要だと思います。  そして、「地域に責任を持つ」ということです。保健師の大先輩である藤原課長(元健康福祉局健康安全部健康推進担当部長)が保健師責任職研修でおっしゃった、ずしりと心に響いた言葉です。私たちが行っている事業が地域の皆さんにとってどんな利益につながるのか。健康に関わる専門職として、責任を持って地域支援や事業を行うという意識が大事だと思っています。  今行っている大きな事業や区づくり事業も、目の前のお客様の支援から始まっています。心砕いて寄り添って、お役に立ちたいという気持ちを忘れないこと。その姿勢が地域づくりにつながっていきます。これまで関わった親子や地域の方に育てていただいたことへの感謝を忘れず、目の前の市民の方と関わらせていただくことが、ゆくゆくは横浜市の事業の施策化につながっていくんだという意識を持って、日々の業務に取り組んでいきたいと思っています。 ─ あっという間に時間になってしまいました。今日伺えたようなことを職員とあるいは係長同士で言葉にし、確認し合うこともよい仕事をする上で大切ですね。本日はありがとうございました。 ※1 子育て世代包括支援センター  母子保健施策と子育て支援施策との一体的な提供を通じて、地域の特性に応じた妊産婦から子育て期にわたる切れ目のない支援を提供する体制を構築することを目的とする。母子保健法の改正により市町村は設置に努めることとされており、横浜市では、区福祉保健センターと地域子育て支援拠点の連携・協働と妊娠期からの相談支援体制の強化を図り、令和2年度から本格実施している。52ページ参照 ※2 要保護児童対策地域協議会  要保護児童等に関し、関係者間で情報交換と支援の協議を行う機関で、児童福祉法に位置づけられている。 ※3 地域子育て支援拠点  就学前の子どもとその保護者が遊び、交流するスペースの提供、子育て相談、子育て情報の提供などを行う子育て支援の拠点で、平成23年度に全区への設置を完了。親子の居場所事業、子育て相談事業、情報収集・提供事業、ネットワーク事業、人材育成・活動支援、横浜子育てサポートシステム区支部事務局、利用者支援事業の7つの機能を有する。運営法人と区との協働事業の位置づけ。 ※4 8050問題  80代の親が50代の子どもを支えるという問題。背景には親の高齢化と子どものひきこもりの長期化があり、介護、生活困窮、社会からの孤立等の問題が生じるとされる。 ※5 区づくり推進費  個性ある区づくり推進費。区役所の自主性を高めることや、地域のニーズに的確に対応し、個性ある区づくりを推進することなどを趣旨として平成6年度に創設。区自らの裁量・創意工夫に基づき事業を実施することができるようになった。 ※6 母子保健コーディネーター  妊娠期から子育て期にわたる切れ目のない支援≠フ充実を目指し、各区福祉保健センターに配置。母子健康手帳交付時の面接・相談や、個々の状況に適した情報提供等を行い、妊娠初期から産後にかけての様々な相談に継続的に対応する。 ※7 こども家庭総合支援拠点  子どもとその家庭及び妊産婦等を対象に、実情の把握、子ども等に関する相談全般や、要保護児童等への支援業務などを担当する拠点。児童福祉法の改正により市町村は設置に努めることとされる。