《9》インタビュー/市民の力を活用した地域での子育て支援 〜横浜子育てサポートシステムを通した取組 木村 真佐子 緑区地域子育て支援拠点いっぽ 横浜子育てサポートシステム緑区支部事務局コーディネーター 長島 真美 都筑区地域子育て支援拠点Popola(ポポラ) 横浜子育てサポートシステム都筑区支部事務局コーディネーター 聞き手 こども青少年局子育て支援課 ─ 「横浜子育てサポートシステム」は、子どもを預かってほしい人と子どもを預かる人に会員登録(利用会員・提供会員)していただき、条件の合う近隣の方との出会いをサポートする事業で、人と人とのつながりを広げ、地域ぐるみでの子育て支援を目指すものですが、本日はこの事業のコーディネーターをされているお二人にお話を伺いたいと思います。初めに自己紹介をお願いします。 【木村】緑区支部の木村です。平成14年からこの事業を担当し、平成19年からはコーディネーターとして関わらせていただいています。今では市内で1万人以上の方が会員になっていて、制度として発展してきていると感じていますし、地域の中で必要とされる事業であることを日々感じて仕事をしています。 【長島】都筑区支部の長島です。平成23年から子育てサポートシステムの拠点移管を機会に事業担当になりました。当時は、子育て支援拠点のことも子育てサポートシステムのことも真っ新な状態でしたが、事業に関わり、コーディネートをしていく中で、地域の中で市民と市民をつなげるという大切な役割や、地域ぐるみで子育てを温かく見守っていけるというこの事業の意義というものを強く感じています。 ■地域子育て支援拠点の一つの機能として ─ 特に、この子育てサポートシステムの事業は、地域子育て支援拠点(以下「拠点」という。)の七つの機能のうちの一つということで、拠点の機能が連動する中で、この子育てサポートシステムの役割をより果たせているということもあると思います。少し事例などを教えていただけますか。 【長島】一つの事例ですが、利用会員の方から電話で「体調が思わしくないときに子どもを預かってほしい」という依頼がありました。利用会員の方の声のトーンや話し方の様子が気になりつつ、依頼を受け、利用者支援事業(※)の担当者とその様子を共有し、区役所にも報告をしました。区役所でも見守りの親子であることが分かり、区役所と共に親子を見守る体制を整えることになりました。利用会員に寄り添っていただけそうな提供会員にお願いしてサポートにつながりましたし、子育てサポートシステムの利用をきっかけに地域の子育てサロンなどにもつながり、地域で見守る体制ができました。 ─ 拠点の他の事業とのつながりということでは、利用者支援事業が一番多いのでしょうか。 【長島】そうですね。まずは、利用者支援事業と連携をとって、その上で区役所に相談させていただくということが多いです。また、拠点のひろばでも、子育てに疲れている様子だったり、リフレッシュが必要だなと感じるときは、「子サポ(子育てサポートシステム)を、使ってみたら?」と声をかけることもあり、ひろばとの連携も大切にしています。  この事業が拠点にあるからこそ、ひろば利用の親子をつなげることができますし、相談や利用がしやすいように感じます。ひろばのような場でつながっていくということは、お母さんたちにとってもハードルが低いのではないかと思います。 【木村】以前のことですが、子育てをしながら働いていて他に頼れる方がいないお母さんから、お子さんの保育園のお迎えと預かりのサポートをしてほしいという依頼がありました。しかし、その方のお住まいの地域で提供会員さんを見つけられなくて、緑区社協に、地域の方(地区社協のボランティア)のお力を借りることができないか相談をさせていただきました。そして、民生委員の方たちがお話を聞いていただけるとのことで直接お会いしてご相談をしました。そのときはちょっと難しいのかなという印象だったのですが、その後、いろいろ考えていただいたようで、後日お返事をいただき、民生委員の方が準備を進めていた「子ども食堂」の場を使って手助けをしてくれることになりました。拠点の中だけの限られた環境の中だけでは、なかなかその方を支えることができなかったと思いますし、地域でその親子を見守っていただける場所ができてよかったと思いました。そのお母さんが一生懸命に子育ても仕事もしているということを理解してくださり、お母さんもすごく安心して馴染んでいます。地域で支えてもらえる、親子を応援してもらえるということは本当に大切なことなんだと、改めて目の当たりにできたという気がしました。 ─ 地域への入り口、出口になり得るというのは、この事業の強みですよね。拠点のネットワーク機能によって、関係機関とのつながりの素地があったということも大きいと思います。 ■心がけていること ─ さて、コーディネートに当たっては、単に曜日や時間、移動時間などの活動の条件が合っているというだけではなく、やはり丁寧なコーディネートが求められると思います。心がけていることなどをお聞かせいただけますか。 【木村】やはり利用会員の方が何を望んでいるのかをよく聞き取ることを大切にしています。その方のお子さんに対する思いや子育てに対する考え方を言葉の端々に感じ取ることができますので、そういったことも含めて、なるべく合うような形でできればと考えています。また、提供会員の方が気持ちよく無理なく活動できそうかということも考えます。 【長島】私もやはりそれぞれのお話を丁寧に聞き取って、それぞれの立場を尊重しながらつなげていくというのが、コーディネーターの大切な役割だと思っています。それから、公正な立場でということも心がけています。一つお話をさせていただくと、利用会員の方で、「福利厚生で費用を負担してもらえるので利用したい」という依頼がありました。受けていただいた提供会員の方から後日「自分は本当に困っている親子のために役立ちたいと思って提供会員になりました。福利厚生でタダだから使いたいというのでは…」というご相談がありました。受け止めはそれぞれあると思いますが、その利用会員の方も、もしかすると、自分もちょっと子どもと離れてリフレッシュしたいとか、ホッとした時間を持ちたいという思いがあるかもしれない。表面的なことだけではなく、そういう視点を持ち会員双方の立場を尊重しつつコーディネートを進めていくことを心がけています。 ─ コーディネートに関して難しさを感じるのはどのようなことでしょうか。 【木村】この制度は地域での支え合いですが、入会説明会等で同じようにその趣旨を説明しても、聞いている方の求めることや価値観によってその理解はまちまちだったりします。子育てサポートは条件に合った人をただ紹介して利用するというのではなく、利用会員と提供会員の関係と言いますか、お気持ちの両輪がそろってこそこの制度の良さ、地域での支え合いやつながりを感じ、息の長いおつき合いになっていく。その良さを伝えることの難しさを日々感じています。 ■地域の中で ─ 今は少子化で、子どもが親以外で接する地域の大人は保育園の先生とか学校の先生とか、本当に限られているように思います。子どもの育ちにとって、親や先生以外にも、自分を温かく見守っている大人たちがいることを実感しながらまちで暮らしていくというのも大事なことだと思いますが、日頃どのように感じられているでしょうか。 【木村】近所の公園でよく子どもがたくさん遊んでいるのですが、その中に私が知ってるお子さんがいないと、私の中ではその他大勢のお子さん≠ニいう意識です。でも、例えばお隣のお子さんがそこで遊んでたりすると、○○ちゃん遊んでるな≠ニいう意識になります。その他大勢のお子さん≠ナはなくて、自分の子に意識を向けてくれる、そういう大人がたくさんいればいるほど、そのお子さんは地域で見守られていることになります。この事業はそういうところにつながっていくんだという話をいつもしています。  お母さん方は、すごく素直で真面目な方が多いです。自分の子どものことだから自分で一生懸命頑張ろうと思って皆さん子育てをしていると思うのですが、「もっと周りに頼っていいんだよ」ということを知ってもらいたい。周りに頼ってもそれは決して悪いことではない。自分にもお子さんにとっても、そういうことは大切なことなんだということをもっと知ってもらいたいなというふうにも思っています。 【長島】子育てサポートシステムでの話ではありませんが、地域の方から「小さい頃からその子のことを知っていれば、大きくなってからも気軽に声をかけられるのよ。」と伺ったことがあります。地域の子どもたちの育ちを地域で見守る、子どもが成長しても声をかけ合える、そんな温かいまち≠ノなればいいなと思っています。親以外の地域の大人と関わることのできる子育てサポートシステムは、その一環を担う事業ではないかと思います。 ■子育てサポートの関係から人と人とのつながりへ ─ この事業を通した関係から、活動をしていないとき、あるいは活動が終了した後もつながりが続いていくというのが、この子育てサポートシステムの目指すところでもありますが、何かエピソードをお聞かせいただければと思います。 【長島】5、6年前の話ですが、利用会員の方のご実家は遠くて第二子を妊娠中。上のお子さんの保育園のサポート、送迎をお願いしたいという依頼があり、近隣の提供会員の方に引き受けていただきました。その方には親子を温かく見守っていただいて、利用会員の方から第二子出産後も下のお子さんも預かってほしいと依頼があり、長くサポートをしてもらっていました。ご家族も含めて親しくなられて、利用会員の方も本当に横浜のお母さんのように思い、サポートが終わった後も母の日にはカーネーションを贈ったり、一緒にお昼を食べたりと、本当にいい関係が続いていました。その後、提供会員の方が体調を崩されて、お亡くなりになりました。事務局へもご家族からご連絡をいただき、「『子サポの活動は本当に生きがいで、すごく楽しかった』といつも話していました」と伺い、私たちも本当にうれしく思いました。利用会員の方もお別れに来られたと伺いました。  その後、その提供会員の方の妹さんがお見えになり「以前から姉に子サポの活動はすごいいいよ。あなたもやればいいのよ」って声をかけてもらっていたとのことで「やってみようと思います」と話してくれました。提供会員に登録してくださり、今、都筑区で活躍してくださっています。  提供会員であったお姉さんは、予定者研修会で実際の活動についてお話をしていただいたことを思い出しました。「普通に生活していたら出会えない親子に出会えて、小さなお子さんを預からせていただいて、本当に素敵な活動です。迷っているのなら、やってみたらいいですよ!」と力強くお話をしてくださいました。提供会員さんと利用会員さんがいい関係を築かれ、心温まるお話を伺うと私たちもうれしいです。「子育てサポートシステム」という市民活動を通して、地域で子育てを見守るやさしいまちづくり≠ェできたらと思います。 【木村】提供会員の方からは、あるとき、「おばちゃーん」って遠くから小学校5年生か6年生ぐらいの男の子に声をかけられて誰かと思ったら、小さかった頃に預かったことのあるお子さんだったそうで、そのときのことを覚えてくれているんだなとすごくうれしかったとか、サポートでご紹介した利用会員のご家族とすごく仲良くなって、一緒に野球をテレビで見たり、家族ぐるみのつき合いになって、「遠くの親戚より近くの他人だわ」って思いますというお話を伺ったりします。  また、自分が体調が悪くなったときにお子さんをどうしたらいいのか不安な利用会員の方に提供会員を紹介したことがありました。その方から後日、「幸いあれからは元気に過ごしていて利用することはなかったけれども、何かのときにはその人にお願いできるって思ったので、それを支えに子育てすることができました」という連絡をいただいたこともあります。  サポートで巡り合う会員同士のそのご縁を、出会った後、会員同士で育んでつながっていくことがこの制度の目指すところで、その一つひとつのきっかけづくりのお手伝いができてうれしく思っています。 ─ コーディネーターの方がいろいろ考えてご案内しているというところが、やっぱり横浜の子育てサポートシステムの強みなんだなと改めて感じました。私たちも一緒にやっていきたいと思います。本日はありがとうございました。 ※利用者支援事業  地域子育て支援拠点の7つの機能のうちの一つ。拠点に配置された専任スタッフが親自身、家族関係、貧困等の多岐にわたる相談に対応し、関係機関への紹介・仲介、連携支援等も行う。