《6》地域における子育て支援〜本市の施策の全体像 執筆 川瀬 早貴 こども青少年局子育て支援課 成田 萌子 こども青少年局子育て支援課 江原 紗帆 こども青少年局子育て支援課  横浜市では、地域における子育て支援を大きく5つの事業分類で展開している。各事業は、事業開始年度や形態、規模も様々であるが、それぞれが地域に根づいた子育て支援を目指し、取組を続けている。  地域における子育て支援は、子育て支援分野(親子の居場所事業)と母子保健分野を両輪に、地域の支援の担い手の当事者目線と区の専門職による専門性により支援を展開しており、必ずしも本稿で紹介する5つの事業に限定されるものではないが、ここでは、これまでの本市の子育て支援施策の経過と現在実施している子育て支援分野の5事業の内容について述べることとする。  本号では、地域の訪問員により展開している「こんにちは赤ちゃん訪問事業」や、地域子育て支援拠点がその一翼を担う「横浜市版子育て世代包括支援センター」についても取り上げているが、詳細は各記事をご覧いただければと思う。 1 横浜市の子育て支援施策の経過 (1) 地域における子育て支援のはじまり  本市の地域における子育て支援施策についての計画は、「ゆめはま2010プラン5か年計画(平成9(1997)年度?平成13(2001)年度)」に始まる。この計画では、当時の社会・経済情勢や市民ニーズの変化などを踏まえ、市民生活に直結する分野を中心に施策の優先順位を明確化し、計画事業の重点化がなされた。そして、この計画事業の重点化の考え方の一つに「福祉・保健施策の推進」が掲げられた。また、計画の中では「リーディングプラン11」が示され、その中の「生き生きはまっ子プラン」において、子育て支援に関する事業が計画された。  その計画の中では、「子育て支援の拡充」として、子育てに悩む養育者の不安を解消し、子育てへの多様な支援を行うとし、子どもの心身の健康づくりや子どもを育む多様な場づくりを進めるための一つとして、区役所を中心に地域における子育て支援を充実させていくこととした。子育て中の人たちの日頃の地域活動や仲間づくりの支援を行うため、子育てサロンの開設や市立保育園の園庭開放、子どもに関する相談や情報提供を行う子ども・家庭支援センター(後の子ども・家庭支援相談)の設置を進めることとなった。  各区では、区役所の保健師が中心となって、地域の連合町内会、民生委員・児童委員、主任児童委員らとともに、身近な親子の集える場として子育てサロンの開設を展開。また、地域の子育ての先輩ママが市民利用施設などの身近な場で子育て相談や仲間づくりの支援を行う「子育て支援者事業(平成8(1996)年度)」、市立保育所において園庭開放や子育て相談を行う「地域育児支援事業(平成9(1997)年度)」を他市に先駆けて開始するなど、市民の力を借り、地域と一緒になって子育て支援への取組を進めていった。 (2) 市民の力による子育て支援の広がり  市民の力による更なる子育て支援の広がりの発端となったのが、区役所の事業で出会った子育て当事者らが、子育てグループを結成し、商店街の空き店舗を借りて常設の居場所を開設した活動、「おやこの広場びーのびーの」(港北区)(平成12(2000)年度)である。この活動は、親子の居場所の全国的な広がりのきっかけともなり、この活動をモデルとして、平成14(2002)年度に国の国庫補助事業として「つどいの広場事業」が制度化され、NPO法人などの民間団体へも委託が可能な事業として、全国での展開へとつながった。  また、平成14(2002)年度に本市の子育て環境について提言を行った「一万人子育て提言実行委員会」が母体となり、「一万人子育てフォーラム」が発足し、親子の居場所や地域子育て支援のネットワーク化などをテーマとしたシンポジウムを平成15(2003)年度より3年間、横浜市との共催により開催した。他にも市民と協働で「子育て白書」を編集するなど、市民団体との協働関係も発展させていった。 (3) これまでの事業展開  平成15(2003)年度、児童福祉法の改正により「子育て支援事業」が規定され、全ての家庭に対する子育て支援を市町村の責務として明確に位置づけ、全ての家庭に対する子育て支援を積極的に行う仕組みを整備することとされた。これをもとに、横浜市では、「子育て事業本部」を3年間の時限付きで設置し、市民主体の子育て支援活動を推進し、地域で子育てしやすい環境をつくることを重点目標の一つに掲げた。この子育て事業本部の立ち上げを契機に、地域における子育て支援の充実に向け、重点的に取り組むこととなった。  子育て事業本部の設置後、取組を進めるため、「地域における子育て支援施策検討会(平成15(2003)年度)」を開催した。当時、本市で実施していた子育て支援関連事業の現状と今後の方向性、論点を整理し、@親子の居場所の充実、A子育て支援に関する情報提供の仕組みの構築、B子育て支援の人材育成の充実、C子育て支援のネットワークの強化、それを進めていくための子育て支援の拠点整備の必要性について議論し、保育所併設型ではなく、単独型の子育て支援センターを整備することについて話し合われた。  また、この検討会では、市民が主体的に子育て支援に取り組むことを原則として、行政は必要な支援を行い、地域全体で「子育て力」を高めるため、行政と市民が協働で行う子育て支援の仕組みづくりを進めるとの方向性が示された。  この議論を受け、既に事業を開始していた「親と子のつどいの広場事業」の拡充や、幼稚園の施設を活用した「私立幼稚園等はまっ子広場事業(平成15(2003)年度)」の開始、そして議論の中で示された4点の方向性に対応する「地域子育て支援拠点事業(平成17(2005)年度)」を開始した。週1回の子育て相談や居場所を提供する場、既存施設を活用した専門性を活かした支援、多機能をかけ合せた支援と、それぞれの事業の特色を生かし、現在は主に5事業で子育て支援事業を実施している。  地域子育て支援拠点事業を開始するに当たっては、居場所の増加とともに、地域における子育て支援のネットワークの強化や、支援の担い手の人材の創出及び育成の必要性についても議論された。その結果、それらの機能を有する単独型の子育て支援の施設である、地域子育て支援拠点事業の立ち上げへとつながった。  平成16(2004)年度に4区でモデル事業(泉・緑・旭・都筑)を実施し、平成17(2005)年度より事業を開始。平成23(2011)年度に全区に設置が完了した。その後、平成27(2015)年度からは、乳幼児人口の多い区へのサテライト施設の設置(拠点と同じ法人が運営)を進めている。 2 横浜市の子育て支援の特徴  本市の子育て支援の特徴は、前述のとおり、市民(市民団体)の発意による熱心な活動によって展開されてきたという点である。本市が実施する子育て支援事業の多くは、必ずといってよいほど市民や市民団体の活躍が光り、当事者に近い目線であるからこそ見える視点で、日々きめ細やかな支援が行われている。  また、区内の各地域では、地域のつながり・理解のもとで、現在も多数の「子育てサロン」が運営されている(令和元年度末現在447か所)。町内会館や地域ケアプラザ(※)など親子に最も身近な場所で、同じ地域に住む民生委員・児童委員、主任児童委員、保健活動推進員などが運営に携わり、多世代交流や「他孫育て」など様々な取組が行われている。「子育て家庭への理解や地域での支え合い」の場として、親子が地域へつながる重要な機会となっている。  一方で、保育所や幼稚園等の既存の施設を活用した子育て支援では、養育者の困りごとや相談ニーズに応じて育児講座の実施や交流保育の機会を設けるなど、保育士や幼稚園教諭の専門性を活かした支援を行っている。  それぞれの支援をつなぎ合わせ、更に充実を図るため、各区にある地域子育て支援拠点が中心となり、区役所とともに子育て支援のネットワークづくりに取り組み、他事業同士が連携できる関係性がつくられてきている。それぞれの得意分野を生かし、役割分担や時にはそれらをかけ合わせることで、更に充実した支援を行うことができる。 3 子育て支援の各事業の概要  本市では、現在次の事業を展開している。以下、事業実施経過と事業概要、施設数の推移について表した図1、図2、図3も併せて参照いただきたい。(図3は主にハード面の内容) (1) 子育て支援者事業 @事業内容 ・地区センター、地域ケアプラザなどの市民利用施設等での子育て相談(週1回2時間) ・養育者同士の交流・仲間づくり支援 ・養育者による子育てグループ活動(子育てサークル)への支援 A事業の特徴 ・市内180会場あり、小さな子どもを持つ親にとって家から近く、気軽に足を運べる居場所 ・会場の規模が小さく、アットホームな雰囲気で実施されている。 ・週1回2時間の実施で、会場ごとに1人の子育て支援者が担当しているため、いつも同じ子育て支援者が親子を受け入れ、子育てに関する相談を受けたり、地域の様々な居場所や支援先につなぐこともできる。 ・子育てサークルへの支援も役割とし、サークルに出向き、運営や遊びに関する相談に対応している。地域子育て支援拠点と協力して子育てサークル支援に取り組むこともある。 (2) 認定こども園及び保育所地域子育て支援事業 @事業内容 ・施設の園庭・園舎の地域開放 ・保育士による育児相談、育児講座、園児との交流保育などを実施 A事業の特徴 ・保育士の専門的な知識・技術を活かした育児相談や育児講座を実施することができる。 ・在園児との交流を通じ、認定こども園及び保育所での遊びや集団活動が経験できる場を提供することができる。 ・園庭やプール、遊戯室などの園の施設を活用できるため、安心安全に遊ぶことができる。 (3) 親と子のつどいの広場事業 @事業内容 ・主にNPO法人などが、マンションの一室や商店街の一角、民家などで実施している(週3日以上、1日5時間以上)。 ・子育て中の親子の交流、集いの場の提供、子育てアドバイザー等による子育てに関する相談、地域の子育てに関する情報提供などを実施 ・同じような不安や悩みを持つ仲間との交流・団らんの場を提供する市民活動を支援 A事業の特徴 ・地域子育て支援拠点より身近にある常設の居場所で、施設の規模が小さくアットホームな雰囲気で話ができる。 ・一部の施設では、子どもの一時預かりを実施しており、居場所の利用者は他の子どもの預かりの様子を見ることで、預かりのイメージができたり、利用の敷居を下げることができる。 ・施設により週3〜6日開所しており、土曜日に開所する施設もある。 (4) 私立幼稚園等はまっこ広場事業 @事業内容 ・施設の園庭・園舎の地域開放 ・幼稚園教諭による育児相談、育児講座、園児との交流保育などを実施 A事業の特徴 ・幼稚園教諭等の専門的な知識・技術を活かした、子育て相談や育児講座を実施することができる。 ・在園児との交流を通じ、幼稚園での遊びや集団活動が経験できる場を提供している。保護者は幼稚園での生活のイメージを持つことができる。 ・園庭やプール、遊戯室などの園の施設を活用できるため、安心安全に遊ぶことができる。 (5) 地域子育て支援拠点事業 @事業内容 ・乳幼児の遊びと育ちの場及びその養育者の交流の場の提供(親子の居場所事業) ・気軽な子育て相談から、必要時専門機関を紹介するまでの相談対応(子育て相談事業) ・行政サービスから地域情報まで幅広い情報を一元化し、様々な媒体を活用し提供(情報収集・提供事業) ・相談ニーズに応じた情報提供と利用支援。支援の充実のための連携及びリソースの創出(横浜子育てパートナー(利用者支援事業基本型)) ・取組の活性化による支援の質的向上、及び課題解決を図るための関係者間のネットワーク構築(ネットワーク事業) ・区域の子育て支援を充実させるため、支援の担い手を創出・養成し、その後の地域活動を支援(人材育成、活動支援事業) ・地域ぐるみでの子育て支援を目指し、会員同士の預かり合いの調整(横浜子育てサポートシステム(ファミリー・サポート・センター事業)) A事業の特徴 ・多機能を有するため多様な支援が可能であり、直接親子を支えることに加え、必要に応じて親子に合った支援につなげることができる。 ・区域及びエリアごとの子育て支援の状況を把握しているため、新たな担い手の創出と人材の育成、施設間の連携・協力関係の構築を担っている。 ・区との協働事業として、機能ごとの役割分担確認表の作成や定例会等の実施により、エリアごとの特徴や地域の実情をとらえた支援ニーズを反映させる形で事業を展開している。 ・「横浜市版子育て世代包括支援センター」としての役割も担う。本市では、区福祉保健センターと地域子育て支援拠点が長年にわたり、「専門的な知見」と「当事者目線」の両方の視点を生かした子育て支援を行ってきており、既に図られている一体的・効果的な展開を更に充実させるために取り組んでいる。 4 おわりに  今回、本市の地域における子育て支援について、事業開始からの経緯を改めて確認する機会となった。  各事業はそれぞれの特徴を生かし子育て支援を展開しているが、それらが点や縦の拡がりだけでなく、面として各事業が連携していくと、より立体的な支援の拡がりを見せる可能性があるのではないかと考える。  そのためには、まず時代ごとに求められるニーズと各区の状況を把握し、今、子育て支援として、何を行うことが必要なのかを明確にする必要がある。  また、併せて事業開始当初の「全ての家庭に対する子育て支援」、「市民主体の子育て支援活動を推進し、地域で子育てしやすい環境をつくる」という目標を忘れてはならない。  常に事業を担う人々とともに、その時々に沿った目標・目的を共有しながら、協力して子育て支援に取り組んでいきたい。 ※ 地域ケアプラザ  高齢者、子ども、障害のある人など誰もが地域で安心して暮らせるよう、身近な福祉・保健の拠点として様々な取組を行っている横浜市独自の施設。令和2年4月現在、市内に140か所