《5》第2期計画にみる、地域における子育て支援の目指す姿 執筆 中島 千里 こども青少年局こども家庭課担当係長 柘植 慎一郎 こども青少年局子育て支援課担当係長  ここでは、第2期横浜市子ども・子育て支援事業計画で掲げる9つの基本施策のうち、地域における子育て支援に関連する基本施策5及び6を取り上げ、母子保健、地域の子育て支援に関する取組に関して、それぞれ現状と課題、目標・方向性、主な取組についてお伝えしていきます。   T 母子保健における施策について 【基本施策5】 生まれる前から乳幼児期までの一貫した支援の充実 ◆ 全ての子育て家庭及び妊産婦が安心して子どもを産み育てられるよう、妊娠から出産・子育てまで切れ目のない支援を充実させます。 ◆ 心身ともに不安定になりやすい妊娠中から出産後、乳幼児期にわたり必要な支援を受けられるよう、相談体制の強化等により、母子の健康の保持・増進を図ります。 ※本稿では、基本施策5のうち、地域での子育て支援に関連する内容を中心に紹介します。 1 現状と課題 (1) これから妊娠・出産・子育てを迎える若い世代の状況  こども青少年局が平成30年度に実施した「横浜市子ども・子育て支援事業計画の策定に向けた利用ニーズ把握のための調査」(以下「ニーズ調査」という。)では、自分の子どもが生まれる前に赤ちゃんの世話をした経験がない人が74.4%に上り、将来子どもを産み育てることのイメージが持ちにくくなっています(図1)。  また、内閣府の「母子保健に関する世論調査」(平成26年度)によれば、20代の男女のうち16.4%が「女性の年齢による妊娠しやすさの違い」について「知らない」という実態が明らかになっています。こうした実態を踏まえて、これから妊娠・出産・子育てを迎える若い世代の男女が正しい知識を持ち、心身の健康を大切にしながら、主体的に自らのライフプランを選択することができるよう、思春期の子どもに対して知識の啓発を図るとともに、思春期特有の健康課題、性に関する不安や悩み等の相談に応じ、思春期の子どもの身体的・心理的状況を理解し、子どもの行動を受け止める地域づくりなどを進めていくことが重要です。  様々な事情により、妊娠を継続することや子どもを産み育てることを前向きにとらえることができない「予期せぬ妊娠」では、母子の健康に大きな影響を及ぼすばかりではなく、生後間もない虐待による死亡につながる場合もあります。妊娠・出産の悩みを一人で抱えることがないよう、相談支援の体制を充実させることが必要です。 (2) 妊娠・出産・子育て世代の現状と課題  結婚年齢の上昇等に伴い、本市における35歳以上の高齢出産の割合は、平成15年では17.8%でしたが、平成29年には33.4%となり、出産する女性の3人に1人となっています(図2)。これは、全国(28.6%)と比べても高い数値となっています。出産年齢が高齢化すると、妊娠糖尿病や妊娠高血圧症候群などの合併症のリスクが高まり、母体や胎児にも様々な影響があるだけでなく、産後の母体の回復が長引く傾向があり、産後の母の心身の不調や育児の負担感にも影響を与えています。  ニーズ調査では、「子育てに不安を感じたり、自信を持てなくなったりしたことがある人」の割合が、「妊娠中」で58.1%、「出産後、半年くらいまでの間」で76.1%となっており、過去10年間で増加傾向にあります。妊娠中から助産師・保健師等の専門的な相談支援を充実するとともに、特に産前産後に子育ての負担を軽減し安定した生活が送れるよう、家事や育児の支援が重要です。 2 目標・方向性 (1) 妊娠・出産・不妊に関する正しい知識の普及啓発や相談支援の充実  将来、自分らしいライフプランを選択できるよう、若い世代に分かりやすく妊娠、出産に関する正しい知識を伝える取組とともに、不妊等に関する悩みや不安を持つ人が気軽に相談できるよう、不妊・不育に関する相談体制や女性のための健康相談への対応を充実させます。  また、様々な事情から予期せぬ妊娠をした人などが一人で悩みを抱えることなく気軽に相談ができるよう、相談窓口「にんしんSOSヨコハマ」を運営し、相談者一人ひとりの置かれている状況を丁寧に受け止め、区福祉保健センター等と連携しながら切れ目のない相談支援を充実させます。 (2) 妊娠期からの切れ目のない支援の充実  横浜市版子育て世代包括支援センターとして、区福祉保健センターと地域子育て支援拠点が連携し、妊娠期から子育て期にわたる切れ目のない支援の充実に取り組みます。  特に、妊娠中から産後までの心身が不安定になりやすい時期に、必要な支援が受けられ、安心して子どもを産み育てられるよう、区福祉保健センターに母子健康手帳交付時の相談等を専任で行う母子保健コーディネーターを配置し、妊娠期の相談支援をより一層充実させます。  さらに、妊娠期から地域の産科、精神科、小児科や助産院等の医療機関同士及び区福祉保健センターが連携する仕組みづくりを進めます。  また、子育て期においては、保健師、助産師等の専門職が訪問する新生児訪問とともに、地域の訪問員による「こんにちは赤ちゃん訪問事業」を充実させ、親子が地域で孤立せずに、安心して育児ができるよう支援を行います。 (3) 乳幼児の健やかな育ちのための保健対策の充実  乳幼児の健やかな発育・発達を支援し、疾病や障害の早期発見・早期支援につながるよう、乳幼児健康診査や保健指導、訪問指導に取り組みます。また、継続的な支援が必要な場合には、関係機関と連携し適切な支援を行います。  保護者の育児不安を軽減し、見通しを持って子育てができるよう、乳幼児健康診査等の機会を通じて、子どもの発育・発達段階に応じた正しい知識の啓発や育児力の向上につながる支援の充実に取り組みます。  さらに、子育てを困難に感じる保護者が、悩みを一人で抱えることなく育児ができるよう、保健師・助産師等による個別相談や家庭訪問において、個々の状況に応じた支援に取り組みます。 3 主な取組  思春期保健指導事業、不妊相談・治療費助成事業、妊娠届出時の面接(母子保健コーディネーター)、母子訪問指導事業、こんにちは赤ちゃん訪問事業、産後母子ケア事業、産前産後ヘルパー派遣事業、産婦健康診査事業、乳幼児健康診査事業、育児支援家庭訪問事業が挙げられます。 U 地域の子育て支援における施策 【基本施策6】 地域における子育て支援の充実 ◆ 安心して出産・子育てができるよう、地域における子育て支援の場や機会の拡充を図るとともに、子育てに関する情報提供・相談対応の充実や、地域ぐるみで子育てを温かく見守る環境づくり等、子どもの健やかな育ちを支える取組を進めます。 1 現状と課題 (1) 地域での子育て支援の場と機会の必要性  ニーズ調査では、地域での子育て支援の場を利用している親子の割合は増えており、平成30年度では44.2%となっています。一方、子育てについて不安を感じたり、自信が持てなくなったりすることがよくあったと回答した人も、前回調査に比べて増えており、支援ニーズは依然高い状況にあります。  また、18.6%は祖父母や親族などの「子育てに対する周囲の支えがない」と回答していることから、孤立した子育てになりやすい環境にあることがうかがえます。このような環境の中で、子育て家庭が気軽に相談し解決できる場を身近な場所につくることが求められています。  また、親子の居場所利用者の半数以上が幼稚園・保育所等を利用している状況にあることから、自宅で育児をしている家庭だけでなく、全ての家庭に向けて、地域での子育て支援の取組を進める必要があります。 (2) 妊娠期からの支援の重要性  初めての子どもが生まれる前に赤ちゃんの世話をしたことがない保護者が7割を超えている中、日常生活の中で子どもと接する機会がなく、子育ての具体的なイメージを持てないまま親になる人が多いことが分かります。これらの人については、子育てについて不安を感じたり、自信を持てなくなったりしたことがある割合が比較的高い傾向にあります(図3)。  このことから、特に生活が大きく変化する妊娠期からの支援に重点を置き、「出産・子育てのイメージを持つこと」で安心して子育てをスタートできるように支えることが重要です。また、保育所等の利用が増える中、妊娠中・育児休業中に地域での支援を知り、利用することが、その一時の支えとなるだけでなく、「困ったことがあれば相談できる」という安心感を持った子育てへとつながります。  さらに、地域の子育て支援施設の利用については、仲間づくりの場の提供への期待が大きいことから、妊娠期からの保護者同士の仲間づくりを支援することも重要な役割と言えます。 (3) 個々の家庭状況やニーズに応じた支援の実施のための質の維持・向上  子育て家庭の置かれる状況が多様化することに呼応し、支援のニーズも複雑化しています。  子育て家庭や妊産婦が必要とする支援に効果的につなげるため、地域子育て支援拠点で利用者支援事業(基本型)を平成27年度より開始し、地域の関係機関との連携や、子育て支援資源の開発・育成への取組など、相談機能の充実を図ってきました。それにより、地域子育て支援拠点における相談件数は毎年増えており、平成26年度と平成30年度を比べると約1.6倍となっています。  これまでの取組を踏まえ、引き続き、支援の質の維持・向上に取り組むことが重要となり、支援者一人ひとりのスキルアップを図るとともに、支援者同士の連携による質の向上も求められています。 (4) 地域ぐるみで子育てを支える環境づくり  少子化や地域でのつながりの希薄化が進む中、孤立しない子育てのためには、気軽に声を掛け合い、助け・助けられる地域でのつながりが重要です。子育て家庭同士でのつながりだけでなく、様々な世代、立場の方に子育て家庭に目を向けてもらい、「子育てを温かく見守る地域づくり」を進めていくことが必要です。その中では、親になる前に子どもの世話をする機会が得られるよう、これから親になる世代に関わってもらうことも大切な視点です。また、時に「支援する側・される側」という枠を超えて互いに支え合うことを通じ、保護者が地域社会に関心を持ち、子育て支援や他の地域活動の次の担い手になるような働きかけを継続することも、地域づくりには大切です。  親子の居場所の利用者からも「居場所に来ることで親同士や地域とのつながりができていることを実感する」との声が寄せられています。「地域に子育てを助けてくれる人がいる」、「近所づき合いが楽しい」と感じ、地域のことを「我が事」として考えていける機運を醸成することが重要です。そのため、横浜市版子育て世代包括支援センターとして、区福祉保健センターと地域子育て支援拠点が連携し、地域の子育て支援に関わる人と協力しながら、「地域づくり」を念頭に置いた支援を展開する必要があります。 (5) 多様な預かりニーズへの対応  子育てに負担を感じることは誰にでもあり、子どもを一時的に預け、リフレッシュできることで、子どもと向き合う気持ちを新たにできる機会はとても重要です。近くに親や親族が住んでいないことや、近隣関係の希薄化などにより「日常的に子どもを預かってもらえる親族や知人がいる」という割合は少なくなっており、リフレッシュの機会、保護者の体調不良等の緊急時の利用など、様々な一時的な預かりのニーズに応えることで、子育てに伴う身体的・精神的な負担の軽減を図ることができる預かりの場の充実が求められています。  保育所等を利用していない親子にとっては、一時的な預かりを利用することで、単に預かりのニーズを満たすだけでなく、「親とは別の目で子どもの成長を見守ってもらえる人」や「子育ての相談をできる場」を持つことにもつながります。これは、悩みを家庭で抱え込まずに、様々な人の手を借りながら子育てをするために大切な環境と言えます。また、限られた大人の中で育つ子どもにとって、預かりを通じ、子どもを温かく見守る多くの人と触れ合うことは大切な機会となります。 2 目標・方向性 (1) 妊娠期からの支援と親子が集える場や機会の充実  子どもや子育て中の保護者にとって、身近で安心できる場で様々な人と出会い、交流することは、豊かな子育て環境を整えるために大切です。そのため、引き続き、親子にとって身近な居場所の拡充と、その認知度の向上を図ります。また、安心して出産・子育てができるよう、妊娠期からの支援及び父親や祖父母等、家族全体への支援の充実に取り組みます。  これまで地域での子育て支援を利用していなかった親子も気軽に利用できるよう、アウトリーチ型の支援など、新たな手法も取り入れ、支援の充実を図ります。 (2) 地域ぐるみで子育てを温かく見守る環境づくり  子育て支援に関わる人材の発掘・育成に係る取組を継続します。「支援する側・される側」という枠を超え、親子同士あるいは親子に関わる人が互いに「支えられる安心・支える喜び」を感じることで、子育て家庭が次の支援の担い手となるような丁寧な取組を継続します。  子育て家庭に関わる人だけでなく、多くの人が子育て家庭に心を寄せ、温かく見守る機運を醸成する取組を推進します。子育ての現状や支援の必要性を地域の住民が理解できるよう、機会をとらえて働きかけを行うとともに、様々な施設・機関・地縁組織・人が持つそれぞれの多様な強みを生かして、子育て家庭を支えるつながりづくりに取り組みます。 (3) 地域における子育て支援の質の向上  支援を充実させることと併せて、「保護者が自分に合った支援を選ぶ」ことも大切です。それぞれの家庭に寄り添い、ニーズに応じた施設や制度を円滑に利用できるよう、相談支援や情報提供の充実、関係機関同士の連携及び地域のネットワーク強化を図り、必要な支援を紹介するなど、きめ細かな対応を行います。  多様な支援ニーズに適切に対応するため、支援者を対象に体系的な研修を実施するなど、地域における子育て支援の質の維持・向上に取り組みます。 (4) 一時的に子どもを預けることができる機会の充実  子育て中の保護者の身体的・精神的な負担を軽減するため、リフレッシュの機会や一時的な保育ニーズに応える預かりの場を拡充するとともに、預かりを通じた相談対応により、子育て家庭と子どもの育ちを支えます。  市民同士の預かりによる支え合い活動である横浜子育てサポートシステムでは、会員との丁寧な関わりによるコーディネートにより、地域でのつながりの輪を広げます。 3 主な取組  地域子育て支援拠点事業(利用者支援事業を含む)、親と子のつどいの広場事業、保育所子育てひろば、幼稚園はまっ子広場、子育て支援者事業、地域子育て支援スタッフの育成が挙げられます。  以上、母子保健と地域の子育て支援に関する取組について、それぞれ紹介してきました。  これらの取組は、第2期横浜市子ども・子育て支援事業計画(令和2〜6年度)の一部となっていますが、様々な施策を推進し、子どもや子育て家庭への支援を充実することで、子どもの健やかな成長を守り、安心して産み育てられる環境づくりにつなげていきます。