《1》はじめに 〜特集のねらい〜 執筆 編集部  令和2年度より、妊娠期から子育て期にわたる切れ目のない支援を更に充実したものとするため「横浜市版子育て世代包括支援センター」(※1)が本格実施となり、また、地域における子育て支援だけでなく、生まれる前から青少年期までの切れ目のない総合的な支援を推進するための法定計画である「第2期横浜市子ども・子育て支援事業計画」(※2)がスタートした。  これを機会に、地域における子育て支援に関する本市の考え方と取組を紹介するとともに、どのような支援が求められるのか、現状の課題と今後の展望について考えていくこととしたい。 ■「子育て」を取り巻く環境の変化  「子育て支援」は、今では当たり前の言葉として使われているが、そのことは「子育て支援」が求められる、それだけのニーズ、社会的要請があることを意味している。出生数や合計特殊出生率の低下については、第二次ベビーブームが終わった昭和50年頃からその傾向がみられるが、大家族や近所づき合いの中で意識せずに助け合いをしていた時代から、子育てを取り巻く環境が様々に変化する中で、意識的に、意図的に「子育て」を支える仕組みを整えることが必要な時代に移行してきたと言えるだろう。  子育てを取り巻く環境の変化としては、少子化や世帯の就労状況、核家族化や地域のつながりの希薄化などが挙げられるであろう。  少子化については、その進行が人口減少と高齢化を通じて、社会経済に多大な影響を及ぼすものとされており、令和2年5月に公表された「少子化社会対策大綱」では、その主な原因は「未婚化・晩婚化と有配偶出生率の低下であり、特に未婚化・晩婚化(若い世代での未婚率の上昇や、初婚年齢の上昇)の影響が大きいと言われている。」としている。そして、その背景として、「経済的な不安定さ、出会いの機会の減少、男女の仕事と子育ての両立の難しさ、家事・育児の負担が依然として女性に偏っている状況、子育て中の孤立感や不安感、子育てや教育にかかる費用負担の重さ、年齢や健康上の理由など、個々人の結婚や出産、子育ての希望の実現を阻む様々な要因が複雑に絡み合っている。」として、未婚化・晩婚化や少子化の考えられる要因を列挙している。  また、子育て世帯の就労状況については、共働き家庭の増加が続いており、親と子が接する時間にも変化が見られる。さらに、これも以前からの傾向であるが、3世代同居家庭の割合は減少し、核家族化は今もなお進んでいる。加えて、地域のつながりの希薄化もよく言われるところである。横浜市民意識調査における「隣近所とのつき合い」や「地域との関わり」の設問の回答結果においても、濃密なつき合いは望まず、会えば挨拶をする程度のさばさばした近所づき合いを望み、地域との関係も今以上の関わりを望んでいない人が大半を占めている。 ■子育て支援の必要性  こうした環境の変化の中で、乳幼児と接する機会や子どもの世話をする機会が、家の中でもまちの中でも減少し、妊娠期から子育て期までの様々な不安や悩みごとを一人で抱える母親が特に増加していることは容易に想像できよう。そのため、昔ながらの大家族や近所づき合いに代わる、親子の交流の場や気軽に相談や支援を求めることができる場など、子育ての不安を解消し、負担を軽減するための取組がますます重要となっている。外国人の親・子の増加やひとり親家庭の増加など、家庭状況も多様化する中で、それぞれの親・子、家庭に寄り添った、必ずしも一つの支援のみにとどまらない、きめ細やかな、正に包括的な支援が求められている。  前述の「少子化社会対策大綱」では、「結婚・子育て世代が将来にわたる展望を描ける環境をつくる」をはじめとして、少子化に歯止めをかけるための5つの基本的な考え方を掲げているが、その中でも、子育て家庭を「社会全体でバックアップしていくことにより、かつて家族や地域が担っていた子育てを支える機能を、時代にふさわしい形で再構築していくことの必要性が、これまでになく高まっている。」と述べている。  本号は決して少子化の改善を意図するものではないが、子育てはその親だけが全てを担うものではなく周囲の力も借りながら行うものであること、横浜市では本号で取り上げるものをはじめとして子育てをサポートする様々な取組があり、そのために活動している人たちがたくさんいること、そして、子育ては大変なこともあるが喜びのほうが大きいと感じている人や、子育てを通して生活が充実したものになっていると感じている人が多くいることは是非お伝えをしたいと思う。  このような時代に、私たちは「子育て」やその支援というものにどう向き合っていくのか。電車の中で泣いている子どもを連れたその親子に、私たちは温かなまなざしを向けることができているのか。また、今後の子どもの成長にも関わる、人と人とのつながりをどう考え、どのような社会、まちを創造し、子どもたちに提供していくことができるのか。子育て家庭や子育て支援に従事している人たちだけでなく、一人ひとりに突きつけられた挑戦課題であるように思う。 ■特集の構成  以上のようなことを考えながら、今回の特集テーマを「横浜の地域における子育て支援」とした。  この調査季報では、7年前、平成25年3月の172号で「横浜の子育て支援」を特集し、その際は保育所の待機児童解消の過程を克明に記録し、悪戦苦闘の中で得られたノウハウを共有するとともに、在宅での子育てを含めた就学前の子育て支援のあり方について多面的に論じることを試みたが、今回は「地域における子育て支援」に焦点を当てることとした。子育てを取り巻く環境が変化する中で、市民団体等との「協働」を特徴としながら、きめ細やかに、かつ、先駆的に積み重ねてきた本市の子育て支援の取組を振り返りつつ、現状の課題や今後の方向性を考えていきたい。  前半では、日本福祉大学の渡辺顕一郎先生に国の子育て支援の動向についてご紹介いただくとともに、「第2期横浜市子ども・子育て支援事業計画」の概要、子育て家庭の現状等をお伝えし、その上で本市の取組へと話題を進めていきたい。  本市の地域における子育て支援施策の全体像では、親と子のつどいの広場事業、地域子育て支援拠点事業等の主に5つの取組を展開していること、そしてそれらの内容と特徴をお伝えする。  続いて、その取組の一つ、地域子育て支援拠点事業を取り上げる。地域子育て支援拠点の立ち上げ当時から活躍されている方にお集まりいただき座談会を開催した。その様子をお伝えしたい。拠点の運営は、運営法人と区役所との協働事業の位置づけであるが、「協働」の力強さを感じていただけたらと思う。  さらに、認定NPO法人びーのびーのの奥山千鶴子理事長による市民活動団体の視点からの寄稿をお届けした後、地域子育て支援拠点の一機能である、横浜子育てサポートシステムのコーディネーターの方へのインタビューをお送りする。子どもの預かりや送迎に関する住民相互の助け合いのシステムであるが、その意義や可能性を感じていただけたらと思う。  続いて、区役所のこども家庭支援課係長による座談会をお届けする。区の役割とともに、日頃感じている課題や現状の取組などをお伝えしたい。  そして、「こんにちは赤ちゃん訪問事業」のこれまでをお届けした後、荒木田百合元副市長へのインタビューをお伝えしたい。子育て支援が当たり前でなかった、子育て支援事業の立ち上げ当時を振り返る。さらに、コラム等により、児童虐待や子どもの貧困、新型コロナウイルス感染症をきっかけとするオンライン活用の話題にも触れつつ、後半では、現状の取組について掘り下げ、今後の方向性等を考察していきたい。まず「横浜市版子育て世代包括支援センターとは」をお届けする。センターの趣旨やこれまでの経過、今後に向けた考察を紹介したい。また、区における具体的な取組についてもお届けする。  続けて、地域における子育て支援のこれからについての一考察を紹介した後、横浜市立大学の三輪律江先生の「まち保育」からの視点での寄稿と、ゼミ生の皆さんへのインタビューの様子をお届けする。インタビューでは、子育て支援に関するフィールドワークを通して感じたことや、子育てがしやすいまちについて思うところをお話しいただいた。  そして最後に、恵泉女学園大学学長、横浜市子ども・子育て会議委員長を務め、NPO法人の代表者として子育て支援の実践者でもある大日向雅美先生へのインタビューをお届けする。新型コロナウイルス感染症の影響を含め、子育て支援に関する現状の課題や今後に向けてのご意見、ご示唆をいただいた。  是非最後までお読みいただきたい。本市の取組やそれぞれの思いを知っていただくとともに、今の時代の子育てやその支援、更には人と人とのつながりや、まちづくりといったことについて考えていただければ幸いである。 ※1 横浜市版子育て世代包括支援センター  子育て世代包括支援センターは、母子保健施策と子育て支援施策との一体的な提供を通じて、地域の特性に応じた妊産婦から子育て期にわたる切れ目のない支援を提供する体制を構築することを目的とする。母子保健法の改正により市町村は設置に努めることとされており、横浜市では、区福祉保健センターと地域子育て支援拠点の連携・協働と妊娠期からの相談支援体制の強化を図り、令和2年度から本格実施している。52ページ参照 ※2 第2期横浜市子ども・子育て支援事業計画  子ども・子育て支援法及び次世代育成支援対策推進法に基づく法定計画。本市の子ども・青少年施策に関する基本理念や各施策の目標・方向性などを定めている。第2期は令和2年度から6年度まで。8ページ参照