コラム 「寄り添い支援」の取組について〜京都市のごみ屋敷対策 京都市保健福祉局保健福祉部保健福祉総務課 不良な生活環境担当係長 木本 悟 ●基本方針〜「人への支援」「寄り添い支援」  京都市におけるごみ屋敷対策の取組では、いわゆる「ごみ屋敷条例(平成26年11月施行)」に基づき、ごみ屋敷状態を生じさせている「人」に着目し、その方に寄り添った支援を行っていくという考え方を基本として推進することとしている。つまり、ごみ屋敷状態を生じさせた「人」を単なる「原因者」ではなく、支援を必要としているかも知れない「要支援者」であると捉えた上で、どのような支援を必要としているかを見極めて、適切な支援を行っていくことを主眼としている。  「人」に対する寄り添い支援の継続的な実施というのは、単に物を片付けただけでは再びごみ屋敷状態になってしまう恐れがあることから、要支援者の抱える問題も含めて解決することを目指す、という考え方の実践である。  以下、具体例を紹介したい。 ●具体例1  消防署による訪問で「室内に大量の堆積物がある」ことが把握されたケース(90歳代女性単身世帯)  堆積物について「私にとっては宝物」「生活上の困り事はない」と本人。認知症があり、成年後見制度の利用検討段階。関係構築のため職員が訪問を重ねるうち、本人から昔話等が聞かれるようになり、やがて職員の支援で堆積物を分別して少しずつごみを排出できるようになる。  「エアコン修理や手すり設置のための清掃」を勧めると、必要な箇所の清掃に同意。少しずつ物の処分への抵抗感が減り、清掃の手伝いに感謝の弁も。 ⇒ 訪問介護による日々のごみ出し支援で生活環境が維持できるようになり、以後、行政や介護保険事業者、成年後見補助人等による在宅生活における複層的な見守り体制が構築できた。  この事例では、ごみの堆積について本人の問題認識がないことが、ごみ屋敷状態が継続する一因であったと言える。  まず目指すべきは、本人の問題認識の喚起のため、堆積が生活スペースを狭小化し不衛生を招いていることを本人に理解してもらうこと、と支援方針を定め、そのために粘り強く訪問を重ねることを通じて本人との信頼関係を醸成することを支援の端緒とした。時間を掛けて清掃支援にこぎつけ、各種の福祉施策等の利用に繋ぎ、ごみを溜めない生活形態とその見守りを継続できる体制を構築することで、この事案については解決できた。  ごみ屋敷状態の解消と、本人にとって必要な支援の両面を総合的に勘案し、具体的なアプローチを行ったわけだが、ごみ屋敷状態はその背後にある生活上の課題、不衛生に対する認識不足や、訪問介護等を必要とする身体状況にありながらそれが届けられずにいた状況に、ごみ屋敷状態であったことをきっかけとして光を当てることができたと言える。 ●具体例2  近隣から「玄関前にごみが積み上げられている」との通報があったケース(60歳代男性単身世帯)  玄関口が物に塞がれ、家屋内に入ることができない状況。訪問した担当職員に大声を出すこともあったが、訪問を重ねるうちに、生活状況について本人から少しずつ話を聞くことができるようになった。しかし、片付けの手伝いは「他人には自分の物に触れてほしくない」と拒否。  訪問活動を続ける中、「自宅で寝られるようにしたい」との言葉を聞き出す。横になるスペースの確保を提案したところ、自分で少しずつ清掃を行うようになり、職員が片付けの成果を認めると、嬉しそうな表情を見せた。しかし、座るスペースを確保できた時点で体調を崩す。困窮により医療費を支払えない状態だったため、生活保護受給に繋ぎ、医療機関で受診が可能となる。 ⇒ 受診をきっかけに、以後の支援として、介護保険サービス等を利用し生活環境を整えていくことになった。  先の事例と同様に、本人には、堆積物について問題認識がなかった。ごみ屋敷状態が本人の心身に対して健康上の悪影響を及ぼしていることが心配されたが、福祉施策の適用はなく、医療機関での受診もなかった。  まず目指したのは、やはり粘り強い訪問活動を通じた本人との信頼関係構築であった。本人の話に受容的な会話を続けることで、徐々に本人の生活・健康を親身になり心配してくれる「味方」であると捉えてもらえる関係構築ができた上で、「本当は状況を改善したい」という思いを聞き出したことを取っ掛かりに、片付けの手伝いに至った。  片付けの過程で本人が体調を崩すというアクシデントがきっかけではあったが、保健福祉施策の適用と医療機関の受診につなぐことができ、行政機関と医療機関・介護保険事業所等が継続的に本人の生活を見守る体制を構築するに至った。  性急な片付け指導では、「本人のために支援している」ことが本人には伝わりにくい。回り道には感じられても、粘り強い訪問・会話を通じて、行政と本人が同じ方向を向いて本人の生活改善を目指していることを本人に理解してもらうことが、目の前にある堆積物の解消のみならず、そのさらに向こうにある生活課題へのアプローチにつながる可能性があることを示す事案と言える。 ●結びに  以上、2つの事例を紹介した。京都市の取組は、「ごみ屋敷」状態であることを切り口として、必要な支援を本人に届けるきっかけにすることを目指しているが、紹介した事例は、いずれもその狙いが結実した事例であると考えている。当初、社会から孤立していた要支援者に、行政に止まらず様々な支援者が関わり始めると、要支援者を取り巻く支援の輪が広がり、社会的孤立状態の解消、ひいては孤立死をも防ぐことに発展していく可能性がある。