《14》金沢区富岡第一地区「お元気お助け隊」などの活動を通して 執筆 沓澤 和子  金沢区民生委員児童委員協議会会長 富岡第一地区社会福祉協議会事務局長 「お元気お助け隊」リーダー 井上 聖貴 金沢区社会福祉協議会(生活支援コーディネーター)  本稿では、地域の課題は地域で解決してみようという思いから始めた、金沢区富岡第一地区の「お元気お助け隊」の活動などについて紹介したい。 ■活動の趣旨とはじまり  「お元気お助け隊」は、平成26年に地区内の民生委員・児童委員を中心として誕生した。地域の人の困りごとに対して、地域の仲間と何かお手伝いできることはないか、自分たちの地域の困りごとを自分たちで解決できないものかというのが発足の趣旨であり、当時、深田恭子さんがソーシャルワーカーを演じていたドラマ「サイレント・プア」を見て、地域のことは地域で≠ニ改めて考えたことも影響したように思う。  「お元気お助け隊」の活動は、地域の自主的な活動であるが、いろいろな人たちに関わっていただきたいと考えたため、富岡第一地区の地区社協(地区社会福祉協議会)の活動として位置付けている。現在は、民生委員・児童委員12名のほか、地域の困りごとに対してその都度活動できる方を募っている。  なお、地区社協は、地域住民に最も身近な社協として、地域の方々が「自分たちの地域は自分たちで良くしていこう」という気持ちで組織された任意の団体であるが、「お元気お助け隊」の活動もまさしくこの趣旨に沿った活動である。ちなみに、金沢区の地区社協は、連合町内会単位で14あり、それぞれ活動を展開しているが、区社協(金沢区社会福祉協議会)の職員4名が担当地区を分担し、地区社協の活動を支えるための取組を行っている。区社協は、@地域住民と協力して福祉ニーズを発見し、取り組むべき課題を地域や関係機関と共有し、解決に向けた活動を後押しすることと、A一人ひとりの困りごとを解決し、誰もが安心して暮らせる地域づくりを目指している。区全体に共通する課題への取組とともに、地区別の活動を支える取組を行っており、様々な地域の資源とのネットワークを活かして、制度の狭間の課題に柔軟に対応できることなどが区社協の強みである。 ■最初の活動〜Aさん宅の庭木の刈込み  「お元気お助け隊」の最初の活動は、一人暮らしのAさんのお宅の庭木の刈込みであり、それは庭木が生い茂り、道路のカーブミラーが見えづらくなっているという地域の困りごとであった。地域の方から担当の民生委員に相談があったが、ご近所とのつき合いがないお宅で、どのような方が住んでいるのか周辺の方も不安に感じていた部分もあり、民生委員が、地域ケアプラザ(※1)の職員の協力も得ながら訪問を重ねていった。そして、いろいろとお話をしていく中で、庭木についてはAさんも実は心配に思っていて、でもなかなかきっかけがなかったことなどが分かり、「それでは庭木の刈込みについてお手伝いをさせてください」と申し出て、ご本人の了解をいただくに至った。  そして、民生委員のみでは対応が難しいため、「お元気お助け隊」を中心に対応していくことになった。実は事前に行政機関を含めてあちこちの機関に庭木の刈込みについて相談をしたが、それぞれ親切に対応してくれたものの私有地の庭木ということで制約もあり、なかなか解決までには至らなかった。こうした地域の課題こそ「お元気お助け隊」で対応できればと思った。  当日は、「お元気お助け隊」のメンバー8名、地域ケアプラザの職員1名、そしてAさんで作業を始め、途中、作業を見ていた近くにお住いの2名の方も飛び入りで参加し、計12名で約5時間をかけ、無事に作業を終了することができた。近隣の方からは、作業の合間に冷たい麦茶を何回もいただいた。また、作業に使用する用具など、事前の準備も大変であったが、隣の町内会の方が協力してくださり、電動のこぎりや高さのある脚立、専用のごみ袋などを用意することができた。カットした庭木は12名が少しずつ持ち帰り、分散してごみの集積場所に出すこととした。  さらに、Aさんとはお茶とおにぎりを交換したり世間話をするなど、コミュニケーションを図ることもでき、地域の仲間≠ニなっていただくことができたように感じた。ご本人と共同で、一緒に作業することは大切なポイントであると思う。A さんにとってこの地域がすごく安心して生活のできる場所になったのではないか。今でも民生委員が年4回の訪問をしているが、Aさんは、ごみ出し当番についてのご近所との打合せなどにも顔を出し、また、カーブミラーが隠れることのないよう、近隣の方と伸びてきた庭木をチョキチョキ切っているそうである。 ■ごみの片付けの支援  「お元気お助け隊」の活動をもう一つ紹介したい。母親のBさんと10代のお子さんの2人世帯での事例であるが、生活福祉資金(※2)の面談があり、担当の民生委員がご自宅を訪問したところ、玄関までごみが山積みになっているのが分かり、「お元気お助け隊」で何とか片付けの支援ができないかとその民生委員から相談があった。どうもBさんの仕事は朝が早く、ごみ出しを早朝にしていたところ、ご近所から注意され、それでごみ出しが怖くてできなくなってしまったらしい。しかし、ごみが山積みの室内は10代のお子さんの生育環境としても好ましくない状況であり、Bさん自身も是非片付けたいという意向であったため、早速お引き受けをし、「お元気お助け隊」が中心となって対応していくこととした。  早速関係する機関などにも協力をお願いした。横浜市のいわゆる「ごみ屋敷条例」の施行前であったが、区役所からはごみ袋やマスク、手袋、シューズカバーを提供していただき、当日の片付け作業にも加わってもらった。また、資源循環局の区事務所にも連絡をしていただき、搬出したごみの処理について協力を得ることができた。杓子定規でない柔軟な対応をしていただいた。  片付けの当日は、「お元気お助け隊」9名、区役所や区社協、地域ケアプラザ職員の計21名で約5時間作業を行い、ごみの量は大きなごみ袋250袋にもなった。Bさんとともに、途中からは10代のお子さんも一緒に作業に加わり、最後には穏やかな表情でお礼の言葉もかけてくれた。やはりBさんにとってもお子さんにとっても家の中がきれいになるというのはうれしいことであったと思う。Bさんも片付けたいのにどうしてもできないという精神的な負担を抱えていたが、外の人の介入を良い機会と捉え、地域の人たちの協力を受け入れることを考えてくれたのではないかと思う。  Bさんのお宅は良好な環境を取り戻し、また、これをきっかけに区役所の福祉的な支援につながることができた。民生委員の「つなぐ」がきっかけとなり、関係機関の連携の下、地域の力で解決ができた事例であったと感じている。 ■地区社協の他の取組から  以上のように、地域の問題を地域の力で解決することを目標に「お元気お助け隊」は活動を行っているが、同様の趣旨で行っている富岡第一地区の地区社協の活動を少し紹介したい。  一つは、昨年から新たに始めた「お元気だれでも食堂」である(富岡第一地区社協では活動に「お元気」を付けることにしている)。子ども食堂の発展版として、小さなお子さんからご高齢の方まで、どなたでも喜んでいただけるよう、異世代交流ができる食堂≠ニした。月1回の頻度で開催しているが大変盛況であり、大人は100円、子どもは50円でカレーを提供し、平均100人は来ていただいている。カレーにプラスして、ご高齢の方にも楽しんでいただけるよう、麻雀、囲碁、将棋、ダーツも用意し、そのほか和太鼓やもちつき、子ども向けのゲーム、お菓子の提供などのイベントも行っている。  富岡第一地区は、7つの町内会、自治会で組織されているが、小さい町内会、自治会もあり、単独で行事がしにくいところもある。そこで、地区全体でできる催しを大事にしている。  また、地区社協は、こうした華やかな催しだけでなく、民生委員を中心に地道に行っている活動もある。「お元気ですかコール」もそうしたものであり、心配なご高齢の方に電話で連絡をとる活動を20年以上続けている。地区社協の事務所を借りて原則として毎週月曜日と木曜日に、民生委員等12名で一人暮らしの高齢者の方などに安否確認の電話をしている。さらに、地域の小学校と連携して、普通級に通学する重度障害のあるお子さんの校内でのノートテイクなどを支援する活動も行っている。  富岡第一地区は、金沢区の中でも一番磯子区寄りに位置するが、坂の多い分譲地で、お店も少なく、買い物にお困りのご高齢の方なども多い。地区社協や区社協では、地域の方々の声を聞いて、地域がもっと住みやすくなるよう、地区の特徴やニーズに応じた活動を心掛けており、例えば移動販売の導入など、可能性のある取組は積極的に検討していきたいと考えている。 ■結びに  地域における活動を続ける中での所感であるが、今は一つの問題だけではなく、複合的な難しい問題を抱えたご家庭というのがすごく多くなっているように感じている。そのため、画一的な支援ではどうしても限界が来てしまうところであり、やはり地域の方々と行政機関、地域ケアプラザ、区社協等が一体となって、一人ひとりの困りごとを解決していけるよう区社協、地区社協としても取り組んでいきたい。  また、少子・高齢化など、時代の変化はあるが、シニアクラブの方や子ども会のお母様の方々など、様々な世代の人と共に、その変化を前向きに楽しみながら、マイナスではなくプラスに捉えて引き続き活動していきたいと考えている。 ※1 地域ケアプラザ  高齢者、子ども、障害のある人、外国人など誰もが地域で安心して暮らせるよう、身近な福祉・保健の拠点として様々な取組を行っている横浜市独自の施設。令和元年12月現在、市内に139か所 ※2 生活福祉資金  低所得者や高齢者、障害者の生活を経済的に支えるとともに、その在宅福祉及び社会参加の促進を図ることを目的として社会福祉協議会が行っている貸付制度。貸付の際には、民生委員の調査・訪問等がある。