《12》地域における取組から〜民生委員の活動を振り返って 執筆 横塚 靖子 元横浜市民生委員児童委員協議会理事 元横浜市建築物等における不良な生活環境の解消及び発生の防止に関する審議会委員  今から31年前よりごみ問題に関わりを持った私の人生。そして、平成6年から務めてきた民生委員を卒業する最後の3年間、昨年の11月末まで、私は民生委員の立場から、横浜市建築物等における不良な生活環境の解消及び発生の防止に関する審議会(以下「審議会」という。)の委員を務めさせていただきました。あらためて「ごみ屋敷」の実態を知り、勉強させていただくとともに、地域において、もっともっと適切な活動を繰り広げなくてはならないと痛感しました。  ここでは、私が経験してきたごみ問題との関わりについて触れた上で、民生委員として直接担当又は見聞きしたごみの堆積事例を紹介し、このような問題に地域はどのように関わることができるのか、感じたことや考えたことなどをお伝えしたいと思います。 1 「ごみ問題」との関わり  私とごみ問題との関わりについて少し振り返ってみたいと思います。  私は、平成元年、環境事業推進委員(当時は環境事業協力員)(※1)になりましたが、当時はリサイクルに対する市民の意識はまだ低く、スーパーマーケットには、コストの高い再生トイレットペーパーが売れ残っているといった時代でした。そのため、環境事業推進委員は、空きビンポストの設置やリサイクルの啓発活動に取り組みました。一人の力ではごみの減量化など、いくら叫んでも何もできませんが、自治会、社会福祉協議会、民生委員児童委員協議会、環境事業推進委員連絡協議会、小中学校などの様々な団体が横の連携をとり、一体となって行動することで大きなパワーが生まれるということを経験しました。  また、ごみの収集車に一緒に乗って作業のお手伝いをさせていただいたり、環境事業局(現在の資源循環局)緑事務所の応援を得て、生ごみの収集場所約30か所を対象に、事業系ごみの調査を実施したりもしました。この調査は、事業主が家庭ごみの収集場所に出しているという不満が地域から数多く寄せられたことから実施したものでしたが、その結果、多くの商店等が黒い袋に入れて、一般ごみとして出していることが分かりました。  そのような時代を経験してきましたので、平成15年にカン・ビン等の分別収集が行われるようになり、また現在では、どこの町へ行っても企業ごみと一般ごみがきちんと分別されている情景を見ますと、当時の苦労が実ったように感じ、大変うれしく思っています。 2 ごみの堆積事例から  私が民生委員として直接関わったり、他の民生委員が担当した事例を紹介します。 ◆事例1  20年程前、一軒家で一人暮らしの高齢の方が足腰を痛め、収集場所までごみ袋を持って行けないと民生委員に相談がありました。担当民生委員が玄関までごみ袋を取りに行き、収集場所へ出していましたが、自宅が遠く無理が生じたため、環境事業局に相談したところ、玄関まで収集員が取りに来てくれ、ご本人が病院へ入院するまで続けてくれました。当時は、「ふれあい収集」(※2)が制度化されていなかったと思いますが、緑事務所の英断に感謝したことを覚えています。民生委員が環境事業局へつなぐことにより解決した事例でした。 ◆事例2  「ごみ屋敷」とは言えませんが、ごみや物が堆積し、生活に支障をきたし、近隣からも苦情が寄せられた事例です。  私の担当する地域に、アルコール依存症の一人暮らしの高齢の方がいらっしゃいました。犬と共に生活し、室内には荷物などがうず高く積まれ、朝からお酒を飲み、犬と共に近隣を歩き回り、路上でゴロッと寝てしまいます。はじめのうちは、具合が悪くて倒れている病人と通行人が勘違いをして消防署に通報し、救急車が出動することもありましたが、数回繰り返すうちに、通報があると消防署員2人が出向き、両方から抱えて自宅まで送るという対応に変わっていきました。  また、毎日、顔を出すスーパーマーケットでは、食べ物を買って長時間居座り、酔っぱらって大きな声で叫ぶため、「他のお客様の迷惑になるので何とかしてほしい」と私のところへ相談がありました。私が自宅にいるときは、すぐに出向き、ご本人を家へ送ります。しかし、またすぐに外に出てしまい、地域ケアプラザには1日に2〜3回くらいは出かけ、玄関前で寝てしまいます。地域ケアプラザの職員の皆さんは、いつもやさしく対応し、話を聞き、家へ送り届け、ご本人との関係をつくっていきました。  室内の堆積のみでなく、その方の住んでいるアパートの入口ドアまでの庭は草が生い茂り、使わなくなった自転車や空ビン、空カンなどが数多く捨てられていました。そこで私が訪問したときに「室内の荷物と共に片付けを手伝いましょう」と申し出ましたが、拒否されました。しかし、他人に危害を加えることもなく憎めない性格で、近隣の人も常に声をかけ、徐々に関係ができていく中で、私のことも「お母さん!お母さん!」と慕ってくれるようになりました。  その後、ご本人の体調が悪くなってきたので、地域ケアプラザ(※3)の提案で地域ケア会議を開き、区社会福祉協議会、地域ケアプラザ、生活支援センター、自治会長、民生委員の私が出席し、その方について話し合い、区社会福祉協議会のあんしんセンターの方が定期的に訪問し、生活保護費の金銭管理などの支援をしてくれることになりました。また、医療にもつながることができました。  そして、ご本人の了解が得られ、夏のある日、地域ケアプラザの主導で、区役所、区社会福祉協議会、地域ケアプラザ、自治会長の計10名ほどの協力により、室内の片付けと庭の草刈りが行われました。搬出した大きなポリ袋10袋余りは、自治会長が収集日に集積場所に出してくれました。  ご本人は、仕事を辞め、家族がいなくなり、その寂しさからこのような状態になったように思われました。民生委員として日常の対応を行うとともに、区役所の高齢者支援担当、地域ケアプラザ、区社会福祉協議会等がそれぞれご本人との関係を構築し、生活の立て直しを支援した事例でした。 ◆その他の事例  そのほか、ごみの堆積により近隣から苦情が寄せられ、訪問しても一切話に応じない、比較的若い40代の方の事例や、高齢の母親と無職の息子さんのご家庭で、その息子さんがやはり一切の話し合いや母親への面会を拒否するといった事例の報告を他の民生委員からは受けたことがあります。いずれもご本人との関係は築けなかった事例ですが、条例の施行後であれば、もう少し何らかの手立てがあったようにも思います。 3 地域でできること  審議会の委員を平成28年12月から3年間務め、ごみ屋敷への対応について、それぞれの専門分野の委員の方々のお話を伺うことができました。さらに、現地での視察を含め、市内の多くの事例を知る機会をいただきました。プライバシーへの配慮はもちろん必要ですが、このような事例があることを知らない方もまだまだいらっしゃると思います。私も様々な機会にお伝えをしていますが、より多くの皆さんに知っていただき、考えていただくことも大事であるように思います。  また、様々な事例を通して、それぞれの事情によりごみを溜め込んでしまう人への支援は、行政だけにお願いするのではなく、まず地域の人が寄り添い、話を聞き、解決できないときには、区役所に相談し、区社会福祉協議会、地域ケアプラザ等の力を借り、自治会役員、民生委員などが協力して解決することが重要であると、そのように確信しています。  難しい事例の対応は、知識やスキルを持った専門職でないと無理かもしれませんが、地域でできることもあるように思います。私がこれまで務めてきた民生委員も、専門職ではありませんが、地域の情報は入ってきますので、それらを活かして専門職や必要な支援の窓口につないだり、一緒に協力していくことはできます。『何気なく、さりげなく、そっと寄り添うように』ご本人の話を聞いてあげる。そして近隣と共有して周りの人に理解してもらう。そうしたことが民生委員の役割の一つであると考えていました。民生委員も大勢いるわけではなく、250世帯から450世帯に1人ですので、いろいろな相談が来る中で、すぐに対応することが難しいこともあると思いますが、どうしたら、ご本人と近隣を助けることができるのか、地域のみんなで考える必要があります。  地域や近隣との関係が希薄になっていると言われる今の時代ですが、結局は人間同士の結びつき、何かを人と分かち合ったり、助け合う心、向こう三軒両隣といったことに解決の糸口は戻ってくるように思います。そのような地域での結びつきがあれば、その人の変化に気づき、ごみが溜まることを未然に防ぐお手伝いができるのではないかと感じています。 4 最後に  今後、一人暮らしの高齢者がどんどん増えてくると思いますし、心の病でごみが出せない人も増えることでしょう。近隣住民と行政をはじめとする各機関が協力し合って、ごみ屋敷になる前に防止する取組が大切と考えます。民生委員の職務は昨年11月末をもって終了しましたが、引き続き地域の一員として、『小さな気づき、寄り添う心、頼れる地域のつなぎ役』になれるよう日々、研鑽を重ねたいと思います。 ※1 環境事業推進委員  自治会・町内会から推薦された方で構成され、分別・リサイクルや3R(リデュース・リユース・リサイクル)活動に地域で取り組んでいる。 ※2 ふれあい収集  ご家族や身近な人の協力が困難で自ら家庭ごみを集積場所まで持ち出すことができない一人暮らしの高齢者や障害のある方などを対象に、自宅の敷地内や玄関先から直接ごみの収集を行う資源循環局の取組 ※3 地域ケアプラザ  高齢者、子ども、障害のある人、外国人など誰もが地域で安心して暮らせるよう、身近な福祉・保健の拠点として様々な取組を行っている横浜市独自の施設。令和元年12月現在、市内に139か所