《9》3年間の対応状況 執筆 河野 友子 健康福祉局福祉保健課 堀内 大貴 健康福祉局福祉保健課 高橋 究幸 資源循環局業務課  ごみ屋敷条例の施行から3年間の取組について報告する。  全体のごみ屋敷の把握や解消、排出支援の状況を紹介するとともに、健康福祉局が実施した事例に関する調査結果を通して、事例の傾向や対応の詳細についてお伝えしていきたい。 1 「ごみ屋敷」の年度別把握・解消状況  平成28年度から平成30年度までの3年間の把握件数、解消件数についてまとめてみると、今までに176件の「ごみ屋敷」を把握し、その約6割に当たる113件を解消している(表1)。解消の理由は、区役所と資源循環局事務所が協力して行う排出支援によるもののほか、本人による自主的な撤去などである。  また、条例第7条第1項に基づく「指導」は、3回行っているが、行政代執行に至ったものはない。 2 排出支援の状況  排出支援による解消実績は表1のとおりである。平成28年度は12月の条例施行ということもあり8件となっているが、29年度は20件、30年度は27件と件数は増えている。また、表にはないが、条例に基づく排出支援を実施したものの解消に至らなかった件数を含めると、3か年合計で計60件の排出支援を行っている。  排出支援によるごみの回収量については、3か年の総回収量は135,990s、1件当たりの平均回収量は約2,240sとなっている(表2)。案件によって回収量は大きく変わっており、3か年で最小回収量は90s、最大回収量は16,190sとなっている(表3)。  排出支援については、条例の施行当初は、区役所との連携や、現地の下見、事前準備、実際の排出支援現場での突発的な対応など、様々な場面で戸惑うことも多くあったが、経験の積み重ねと区との更なる情報共有により課題の解消に努め、現在は各区で、資源循環局事務所と区役所が一丸となり、排出支援に取り組んでいる。  なお、排出支援後の状況としては、多くは、排出支援後もその状態をキープできるよう支援体制を整え、福祉保健サービスの利用等に円滑につなげることで再発の防止ができている。再発傾向があるものは「利用できるサービスはあるが支援を拒否している状態」という関わりへの拒否と、「既存の福祉保健サービスでは対象要件に該当せず、利用できるサービスがない」といった状態である。 3 平成29年度解消事例ヒアリングの実施  健康福祉局では、各区の取組を支援するため、事例の概要や解消のポイントなどを調査し、ノウハウの蓄積に取り組んでいる。  まず、平成29年度下半期に解消に至った20事例を対象に、各事例のポイントや支援の内容について区へのヒアリング調査を実施した。 (1) 第三者からの相談等の状況や解消に至ったポイント  第三者からの相談等があったものは20事例のうち14件あった。相談等の内容は、家賃滞納等に関する不動産会社からの苦情、退院に併せ室内の清掃をしたいといったケアマネジャーや医療機関からの相談、不衛生な住環境で介護や子の養育がされているといった虐待に関する相談などであった。  解消のポイントについては、支援者がポイントだと認識している内容を聞き取り、その中からキーワードを抽出し、5つに分類した。「堆積者本人又は区役所に対する第三者からの要請」と分類したものが9件、「アセスメントに基づく支援」が7件、「条例が出来たことによる排出支援・進捗管理」が6件、「堆積者の状態悪化」が3件であった。  調査では、相談等が把握のきっかけになっているかまでは関連付けて聞き取りをしていないが、区役所に対する地域住民や関係機関からのアクションが介入の糸口となっている傾向が見受けられた。 (2) 関係機関等との連携状況  「区役所以外の機関が支援に関わっていた」は20事例のうち9件(45%)で、延べ18の関係機関と連携していた。連携先は、地域ケアプラザ、社会福祉協議会、基幹相談支援センター、自治会町内会、精神障害者生活支援センター、民生委員・児童委員、ケアマネジャー、成年後見人、障害者自立生活アシスタントなど多岐にわたっている。ただし、地域のボランティア団体の関わりはなかった。 (3) 働きかけの内容  どのような働きかけが多かったのか、10項目の援助機能(表4)について調査した。20事例に対し延べ62の支援が行われ、1事例に対して平均3つ、最も多いケースでは7つの支援が行われていた。  多く行われている働きかけは、本人の考えや思いを引き出す(側面的援助機能)が17事例、次いで、情報提供(情報提供機能)が14事例であった。これらは、対象者の問題解決能力や環境への対処能力を強化するための働きかけである。具体的には、自らの困りごとや課題に気付くような働きかけ、問題解決に向けて対象者の主体的な取組を促進させるような支援を通して対象者の考えや思いを引き出したり、対象者に必要な情報を分かりやすく提供し、対象者が情報にアクセスし必要な情報を入手・活用できるような支援である。  次いで、社会資源に結びつけるような支援(仲介機能)が12事例、複数の社会資源を利用するための支援(ケアマネジメント機能)が5事例であった。これらは、必要な社会資源との関係構築・調整ための働きかけである。具体的には、多様な問題やニーズを抱えている対象者や家族に対して、関係機関に結びつけ、各種のサービスやインフォーマルなサポート等の複数の必要な社会資源を包括的に利用することを可能にするような支援である。  ごみ屋敷は、地域住民や関係機関からのアクションが介入の契機になっている場合があるが、働きかけの内容は決して特殊なものではない。対象者に寄り添い、思いを引き出しながら課題解決を図るプロセスは、支援する上で最も基本的なアプローチであると考える。 4 平成 30 年度事例基礎調査 結果について  平成29年度の解消事例ヒアリングを踏まえ、ごみ屋敷状態と判定されている事例すべてを対象に、堆積者の傾向、発生の原因などの実態及び生活上の諸課題を把握、分析することを目的とした調査を各区を対象に実施した。調査対象は、平成30年4月1日時点でごみ屋敷状態と判定された70事例で、有効回答は68事例であった。 (1) 堆積者の状況  性別では男性が65%、女性が35%で男性が多く、年齢では、30─49歳が12%、50─64歳が41%、65歳以上が47%であった。また、世帯状況では単身世帯が63%、複数世帯が37%で、家屋の状況では戸建住宅が58%、集合住宅は42%であった。 (2) 堆積者のタイプ  堆積者の特徴を次の3つのタイプに分類、定義付けして聞いたところ、集めるタイプが13%、片付けられないタイプが43%、混合タイプが31%であった。片付けられないタイプが最も多いものの、集めるタイプ、混合タイプの割合も相当数存在することが明らかになった。 ◆堆積者のタイプの分類と定義 1 集めるタイプ  ごみの集積場所からの収集や過剰な量の購入等によって得た物品を堆積又は放置する人 2 片付けられないタイプ  日常生活を営むなかで、物品を整理できない又は排出できない人 3 混合タイプ  集めるタイプ・片付けられないタイプどちらの傾向も併せ持っている人 (3) 第三者からの相談等の受理 状況  把握のきっかけとなったかどうかにかかわらず、個々の案件に対する第三者からの相談等の受理状況を聞いたところ、全体の78%が本人以外からの相談等があったことが分かった。相談者の内訳は、地域住民が72%と最も多く、以下、地域ケアプラザや警察、病院、学校や家族、親族、知人など、様々な機関から寄せられていることが分かった。  また、第三者からの相談等を受理していない案件では、本人からの相談やごみ屋敷とは別の事情で区役所が支援している方に対し、ごみ等の撤去を支援方針の一環として対応している状況が確認できた。 (4) 考えられる発生要因と併発している課題  ごみが溜まるようになった要因、きっかけとして考えられることの調査結果では、「統合失調症やうつ病などの精神障害、精神疾患、アルコール関連問題」が26%で最も多く、次いで「身体能力の低下、身体障害、身体に関する健康問題」が25%であり、精神的症状、身体的症状の悪化をきっかけにごみ屋敷になる場合が多かった(表5)。  また、現段階では発生要因が「分からない」は21%、能力があるにもかかわらず、片付けや課題解決のための手段を取ることへの「優先順位が付けられない」は18%、家族との死別や離婚、転居などの「ライフイベント」が16%であり、個人の志向や生活スタイル、ライフイベントによってもごみ屋敷になりうることが分かった。  当該ごみ屋敷をより複雑かつ困難にしていると思われる問題、併発している課題の調査では、「経済的困窮」と「地域からの孤立」がそれぞれ16%と最も多く、次いで併発課題が「ない」が15%、「ひきこもり」が13%、「家族関係の不和」が12%であり、ごみ屋敷の発生要因とは別の課題が生じている(表5)。 (5) 支援の切り口としている課題  区役所のみならず、関係機関、地域住民等が連携して、当該世帯に対する支援の切り口としている課題を調査したところ、「身体能力の低下、身体障害、身体に関する健康問題」が28%、「統合失調症やうつ病などの精神障害、精神疾患、アルコール関連問題」が18%、「経済的困窮」が16%の順であった(表5)。しかし、併発している課題で上位だった「地域からの孤立」は4%と少なく、支援の切り口として孤立を扱っているものは少ない状況であった。 (6) 支援の困難さ  今回の調査では、担当者の約8割が支援の困難さを感じている状況であることが分かった。困難さを感じている対象者の特徴として、「対象者自身が困っている様子がない」が47%、「家族に調整役となる人がいない」が41%、「対象者が支援やサービスを拒否している」が34%で上位に挙げられ、本人と継続した支援の糸口をつかめないことが支援の困難さにつながっていることがうかがえた(表5)。  また、担当者側の課題認識としては、時間の確保と援助関係を築くこと、アプローチのための知識・技術の乏しさが上位に挙げられていた。  さらに、対象者と信頼関係が樹立でき、担当者と対象者をつなぐキーパーソンの有無と困難さを感じている割合をクロス集計したところ、キーパーソンがいる方の支援を担当している職員は、キーパーソンがいない方の支援を担当している職員と比べ、困難さを感じていないことが明らかになった。この結果は、対象者自身が信頼できる人を獲得すること、支援を担当する者自身も対象者に一緒に働きかけられる存在が重要であることを示している。 (7) 事例基礎調査のまとめ  この事例基礎調査は、本市におけるごみ屋敷の実態を明らかにしようと試みた初めての調査である。内容に稚拙な部分もあるが、今後のごみ屋敷対策において、この調査結果が示唆しているポイントについて簡単にまとめる。  まず、堆積者の状況とタイプである。単身で加齢による身体機能の低下、判断力の低下が原因の高齢者の問題という、ごみ屋敷の一般的イメージからは少し異なる実態が浮かび上がった。高齢者以外にもごみ屋敷になっている人もいる。また、家族等と同居している人もごみ屋敷になっている。ごみ屋敷問題を一括りにせず、原因や堆積者のタイプと併せて傾向を分析していく必要があるだろう。  次に、本人以外の第三者からの相談等の受理状況である。事例の約8割は本人以外の第三者からの相談等があった。条例により相談窓口が明確になったこと、市民等からの相談があった場合はこの条例に基づき対応していくことが市の業務に位置付けられたことにより、把握につながった事例も少なからずある。また、第三者からの相談等がない案件であっても、排出支援という支援メニューにつなげ、対象者の生活改善を働きかけようとしている実態も分かってきた。引き続き、この 条例の下、積極的に困っていそうな人を把握することや、ごみ屋敷状態の解消の手段として、この条例を機能させていくことが求められる。  次に、ごみ屋敷の発生要因、併発している課題、切り口としている課題である。発生要因と併発課題は異なっていた。ごみ屋敷の状態が長期化することで、問題が複雑化していくことが予想される。ごみ屋敷として対象者を把握したタイミングは、対象者への支援として関わるチャンスであり、単にごみの撤去だけを行うのではなく、ごみ問題を切り口にして、今後の生活を見通し、生活上の諸課題に介入して支援をすることが重要であると考えられる。  支援の切り口としている課題の上位3つは、対象者本人の年齢や状況にもよるが、既存の制度の紹介やサービス利用を促しやすい課題である。例えば、身体的症状や精神的症状であれば医療機関に受診できるように調整したり、経済的困窮であれば区役所の生活困窮窓口での相談や社会福祉協議会の貸付事業を案内したりするなど、課題解決を具体的に提案しやすい。一方で、孤立の解消を目的とした制度やサービスは少なく、地域も巻き込んだ支援をどのように展開していくかが課題と考えられる。  また、発生要因、併発している課題等の詳細がつかめないケースが一定数あった。この中には、行政等との関わりを拒否している対象者もおり、状況把握や介入が難しいものもある。これは、この取組そのものが、従来の高齢者、障害者、児童といった対象者別・機能別の把握方法とは異なり、ごみ問題を入口として把握することで、現時点では、明確なニーズを持ってないものの、将来、問題が深刻化、表面化する可能性がある人の把握をしていると前向きに捉え、継続して関わりの糸口を見い出す働きかけが重要である。  最後に、対象者の孤立と支援者の孤立の問題である。ごみ屋敷になっている人は、孤立を深めている。また、支援担当者自身が孤立してしまうと支援が行き詰り困難さにつながっている。ごみ屋敷問題の根本解決を図る上では、対象者の孤立解消と支援者自身も孤立することなく多様なア プローチが展開できるかが鍵なのかもしれない。 5 最後に  条例の施行から3年以上が経過した。事例を積み重ね区役所、資源循環局、健康福祉局の連携が円滑になり、多くの事案が解消に至っているが、取り組むべき課題も多い。ごみ屋敷状態になっている人は、「困った人」という印象を持っている人も少なくない。しかし、ごみ屋敷状態になった要因や併発した課題を考えると、誰にでも起こり得ることであり、課題が解決されない状態が続くことで、次第に課題が複雑になっていく。そのためにも、課題が複雑化する前に関わりの手を差し伸べ続けられる支援体制が必要である。  既存の制度やサービスでは補うことが難しい場合もたくさんある。だからこそ、地域福祉保健計画にもあるような住民同士の声掛けや見守り合い、昔ながらの日常の助け合いといった地域の仲間を孤立させない、又は孤立しがちな住民の生活上の変化を早期に把握し相談につなげるといった活動との連携がますます必要であると実感した。  この取組を通して、区役所等の行政機関だけでなく、地域の関係機関や住民組織からなる地域の資源、地域住民など様々な立場の支援が増え、誰もが安心して暮らし続けられる地域づくりを目指していきたい。