《7》排出支援の取組から 執筆 齊藤 信久 資源循環局業務課計画係長 高橋 究幸 資源循環局業務課 矢嶋 陽一郎 資源循環局鶴見事務所 鈴木 尋史 資源循環局神奈川事務所 大谷地 真徳 資源循環局金沢事務所  「横浜市建築物等における不良な生活環境の解消及び発生の防止を図るための支援及び措置に関する条例」(以下「条例」という。)の共管局である資源循環局が、いわゆるごみ屋敷の解消のために主体的に果たす役割は、条例第6条第3項に基づく排出支援です。  ここでは、排出支援について、その概要やいくつかの事例を通して、具体的に説明します。 1 排出支援の概要  排出支援とは、堆積者自ら解消することが困難であり、親族等の協力を得られないなどの理由がある場合に、本人の同意に基づいて、区職員と資源循環局職員が堆積者宅に入って堆積物を排出する制度です。資源循環局には各区に収集事務所がありますが、区からの依頼に基づき、区と当該区の資源循環局事務所が、互いに情報を共有したうえで協力し、堆積物の袋詰めと運び出しを行います。排出した堆積物は、資源循環局事務所が収集・運搬を行います。  排出支援の対象の基準は、@建築物等における不良な生活環境(近隣住民の生活環境が損なわれている状態にあり、又はその恐れがあるもの)であること、A堆積者本人の同意があること、B堆積者自ら解消することが困難であることです。@としては、区対策連絡会議における判定が「A」又は「Ba」であるものとなります(※1)。Aとしては、申請(同意)書を提出していただきます。Bとしては、堆積物の量が自ら解消できる限度を超えているか、家族や身近な人の協力が困難な状態か、清掃事業者等に片付けを依頼できる能力に乏しい状態かなどを総合的に判断して決定します。なお、@〜Bの決定、確認は区が行います。  排出支援に係る費用は、13円/sの一般廃棄物処理手数料を堆積者から徴収しますが、堆積者に経済的事情や福祉的事情がある場合には減免制度を適用します。 2 排出支援までの流れ  区が行ってきた福祉的な支援のなかで、堆積者の排出支援の意向を確認できた場合は、排出支援実施の手続に入ります(表1)。いわゆるごみ屋敷となってしまう要因には、堆積者の生い立ち、家族構成、地域特性等、様々な経緯があります。こうした堆積者の特性も踏まえながら、堆積者、近隣住民、排出支援に携わる職員等の安全を最優先して、作業計画を組み立てていきます。ここでは、排出支援を実施するまでの基本的な流れについて詳しく説明していきます。 (1)事前調整及び現地確認等  区がこれまでの支援で把握してきた堆積者の生活状況、堆積物の状況等について、資源循環局事務所が区から情報提供を受けたうえで、撤去対象の堆積物を確認するための現地確認を区と一緒に行います。現地確認では、堆積物の量はもとより、危険箇所・危険物の有無、排出支援の対象物・範囲、堆積者宅の周囲状況等を確認します。この現地確認により、資源循環局事務所は、排出対象物の量、必要となる収集車の種類や台数を試算するとともに、排出支援に係る費用を区に伝えます。 (2)区からの依頼と事前準備  区対策連絡会議で排出支援の実施が決定され、資源循環局事務所が区から排出支援の依頼を受けると、具体的準備に入ります。  区と資源循環局事務所で、排出支援に従事する職員の人数と作業の役割分担を調整します。また、収集車の駐車位置やそれに伴う手続、敷地内から収集車までの動線確認とその距離に応じた必要機材及び作業に必要となる物品の検討も行います。堆積者宅が狭あい道路に面しているなど駐車スペースがない場合には、公園や町内会館を利用できないか、関係機関や自治会町内会との調整も必要となります。  区による訪問や様々な支援提案など堆積者との関係構築があって排出支援に至りますが、関係構築には長い時間を要しているケースがほとんどです。堆積者が排出支援に同意した場合は、機を逃さず、迅速に対応することが求められるため、事前の準備はとても重要になります。 (3)排出支援当日  マスク、手袋や防護服など作業に従事する職員の安全に必要となる物品を装着のうえ、堆積者宅の敷地内や屋内に入り、堆積物の排出を行います(表2、写真)。排出するのは、事前調整で確認・了解を得た範囲のものとなります。なお、排出支援の対象となる堆積物は、一般廃棄物に限るため、家電4品目や処理困難物など、市が収集しない物は、原則として対象外となります。  排出支援を進めていくと、財産価値のありそうな物や思い出の品が見つかる場合もあります。堆積者自身も堆積物の中に何があるのかを把握していないことが想定されるため、そのような物が見つかった場合は、堆積者に一つひとつ確認するなど、慎重に対応します。  なお、排出支援の同意があっても、途中で堆積者の気が変わってしまう場合もあるため、その際は堆積者の意思を尊重し、途中で作業を終了することもあります。  最後に、排出経路や道路付近に廃棄物が散乱していないかを確認し、排出支援は終了となります。 3 排出支援の事例  資源循環局事務所では、平成30年度末までに73回の排出支援を行っており、様々な排出支援事例を積み上げてきました。ここまで排出支援の基本的な流れについて説明してきましたが、より具体的に排 出支援を理解していただくため、事例を2つ紹介します。 (1)1つ目の事例 @概要  堆積物が集合住宅の室内から共用部分である外廊下にも溢れ出ている状態で、堆積者は精神疾患のある方でした。また、室内で動物を多数飼育するとともに、過去に起こったトラブルにより、水道が使用できなくなっていました。トイレも使えないため、小便等で汚れた服はごみ袋に入れ、そのまま放置していました。 A排出支援の準備  堆積者に排出支援の意向を確認後、区と資源循環局事務所で日程の最終確認・現地確認を行い、堆積物の量に見合う必要人員数や車両数、防護服やマスク等の必要物品数を算出しました。  また、現地付近の道路が狭く、堆積者宅まで車両を近づけることができないため、当日の車両停車位置や、運び出しの動線の確認も併せて行いました。 B排出支援当日の作業  堆積者の心境に変化もなく、定刻どおりに作業を開始することができました。  思い入れの強い品物については、堆積者に一つひとつ確認が必要となりましたが、それ以外の消費期限の切れた食品など、明らかに不要であると判断できる品物については速やかに排出することができました。  排出支援の途中から堆積者の物に対するこだわりが強くなり、捨てることに拒否反応を示し始めたため、区職員による説得を重ねながら作業を進めました。しかし、排出予定量の7割程度の段階で堆積者本人の精神状態が不安定となり、区の判断で排出支援を途中で終了するに至りました。 C排出支援を終えて  事前の現地確認で把握した堆積物に見合う車両台数を算出しましたが、実際に作業を進めていくと収集車の積載量が満載となり、急遽処理施設に搬入することになりました。堆積量予測の難しさが分かるとともに、あらかじめ複数車両を待機させることができない今回のような現場において、どう効率的に作業を進めていくかという課題があることも分かりました。また、マスクをしていても部屋に充満する悪臭により数分で気分が悪くなってしまう作業環境にも苦労しました。当初予定量の7割程度の排出支援となりましたが、その後の区の支援により通常の生活空間を確保することができました。 (2)2つ目の事例 @概要  戸建て住宅で、家屋周囲の堆積物だけでなく、庭の草木が管理不全の状態であったため、道路通行障害やハチの巣などが発生しており、堆積者は複数人いましたが、近所付き合いもなく孤立化していました。 A地域の協力  地域からの相談を受け、区職員が何度も訪問しましたが、なかなか会うことができませんでした。しかし、近隣に居住する堆積者の旧友の協力により、接触が可能となりました。この間、管理できていなかった植栽や庭の手入れを地域が実施するなど、地域の協力もありました。区と資源循環局事務所が堆積者宅前で待機していても会えずに終わってしまうこともありましたが、こうした協力もある中で粘り強く話を続けた結果、家の中の状況把握を行うことができ、排出支援の同意に至りました。 B排出支援の準備  区と資源循環局事務所での現地確認や人員・物品の準備とともに、近隣への説明や休憩場所、トイレ及び駐車場確保の調整も行いました。家屋外にも堆積物があったため、排出経路を家屋内外それぞれで設定するとともに、ハチの巣の駆除を区に要請しました。 C排出支援当日の作業  堆積者立会いのもと、排出支援に着手し、30名程の職員で丸1日かけて作業を行いました。家屋内外に人員を分散させ、複数箇所から排出できる工夫も行いました。堆積者が複数人おり、それぞれの方 に排出の確認が必要となったため、作業が思うように進まず時間を要しました。 D排出支援を終えて  夏の暑い時期で熱中症防止に気を配る必要があったことや、ハチに細心の注意を払う必要があったことなど、職員の安全を確保しながらの作業の難しさを改めて感じさせられるとともに、地域の協力の重要性を実感した案件でした。 4 円滑な排出支援を行うために  これまで排出支援の概要、流れ及び事例を通して、排出支援とは何かについて説明してきましたが、排出支援を円滑に行うためには、事前準備、従事職員の安全確保、堆積者の機微に応じた臨機応変な対応や近隣への配慮などが必要となります。排出支援は、資源循環局事務所を中心に作業計画を立てますが、適切な計画を作成するためには区が行ってきた粘り強い訪問や福祉的支援により把握した情報が重要になります。その意味では、区と資源循環局事務所の連携が大事なポイントになります。平成30年度からは、排出支援の概要、事例紹介及び自区のごみ屋敷の現状などを共有するための区ごとのグループワークなどを内容とする、区と資源循環局事務所合同の排出支援研修を実施しています。条例施行から3年を経過するなかで、多くの排出支援の経験の積み上げや研修により、区と資源循環局事務所の関係は、条例施行前よりも確実に強固なものとなっています。 5 最後に  「様々な事情を抱えた堆積者が、排出支援により新たな一歩を踏み出すことができる。そう感じることができるのが何よりの喜びです」。これは、排出支援に従事した職員の声です。  困難な作業を伴う排出支援ですが、実施することにより少しでも状況が良くなればとの思いで、資源循環局事務所では取り組んでいます。しかし、作業の安全確保という点では、現在準備している物品で十分かなどを含め、より適切な対応を都度考えていく必要があります。  また、排出支援を行っても再発してしまうケースも残念ながらあります。排出支援だけでなく、資源循環局として貢献できる再発防止策についても、例えば、排出支援が終了し、解消した方をふれあい収集の対象とするなど、今後進めていく必要があります。  排出支援を行うことで見えてきた、こうした課題などにも対応しながら、区と緊密に連携した円滑な排出支援を今後も実施していきたいと考えています。 ※1 不良な生活環境の判定基準 19 ページ参照